表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/130

多分もう大丈夫


 気付けばアーサーは昔住んでいた屋敷の庭にいた。霧の中にいるようで、周りがボヤけていて気味が悪い。

 何故自分はここにいるのか……。たしか……と、記憶を思い起こそうとした時、聞き覚えのある優しい声が響く。


 「ほれアーサー、サボっている場合ではないぞ」


 見れば、祖父である“ペスガ・ペイジ”が剣を杖にして立っていた。

 しかし、何故かいつもより若く感じる……。そう気づけば、自分の身体も何だか縮んだような、いつもより幼く感じるような……。


 「何をしておる? 早く素振りを再開せえ」


 しかし、そんな些細なこともすぐに気にならなくなった。祖父が稽古をつけてくれるなんて久しぶりの事だし、そもそも家出した時以来会ってすらいなかったのだ。

 アーサーは嬉しくなり、夢中で素振りを始める。まるで、自分がどれだけ成長したかを見せつけているようだ。

 ペスガもそれを興味深げに眺めている。

 しばらく剣を振り続け、アーサーの額に汗が浮かび始めた頃、ペスガが唐突に立ち上がった。


 「ふむ……、見事だ。しばらく見ぬうちに腕を上げたな」


 ペスガは軽く拍手をする。

 褒められ、アーサーは微笑みを隠すように頬を掻いた。


 「しかし、そのままでは誰にも勝てぬ」


 その言葉は重く、アーサーの心にズンっと響く。1番尊敬する人物から突然否定されれば、流石のアーサーも取り乱した。

  

 「では、どうやって!」

 「貸してみろ」


 ペスガはアーサーから剣を取る。


 「“崩剣 インバリダス”は元々我が家にあったものでは無い。私が剣の道を極め、ようやく契約できたものだ」


 そう言ってペスガは、蚊でも殺すかのように、軽く剣を一閃する。

 もちろん、その程度で何か起きるはずもなく、アーサーは唖然として何が起きたのか頭を悩ませる。


 ―――ザンッ


 その瞬間、周囲に広がった音。

 まるで、大根でも真っ二つにしたようによく響いた。

 そして、その音と同時、庭の木々、石像、そして霧が全て“切り倒される”。

 アーサーはさっきとは別の意味で唖然とさせられた。


 「これが音すら超越する、最強の剣。―――“残刀”だ」


 ペスガが剣を返すと、アーサーの心臓は“今起きた事”をやっと理解したかのように破裂しそうな程動き出した。            


 「今のお前なら可能だ。心を無にして振り切れ」

 「俺には……まだ……」


 返された剣を握りしめていると、ペスガが諭すように、アーサーの頭へ手を置く。


 「自信を持て若造。お前には(剣豪)の血が流れている。―――勝てぬ相手などいない」


 徐々に遠のいて行く意識。

 瞳に溜まった雫が地面に落ちた時、アーサーは目を覚ました。




 目を覚ませば地面に倒れ、顔には涙の跡がが残っていた。今見ていたのが夢だったと今更理解する。

 痛む身体にムチを打ち、嗚咽しながらアーサーは無理やり立ち上がる。

 “ハバースの掌中魔術”が施されたグローブを広げると、放り投げれた模擬刀が手中にまで飛んでくる。


 「おや? まだ生きてたんすか?」


 その場から立ち去ろうとしていたアズラが踵を返す。手に持っていた球体が槍の形を為した。


 「ペイジ家と聞いて結構本気出したんすけどね? 拍子抜けしましたよ。よくそんな模擬刀で喧嘩売れましたね」

 「貴様の同僚に雪辱をはらさないといけないからな……貴様如きには負けてられん」

 「同僚……? ああ、もしかしてイールさんっすか? あの人なら辞めましたよ」


 顔には出さなかったが、アズラの発言に、アーサーの内情は少なからず揺らいだ。  


 「あの人も、ブリールさんに並ぶ位闇が深いっすからねー。“教会”の皆さん変なモノ抱えすぎなんっすよ。私なんか三食と寝床が理由で入っただけなんすけど……」


 イールが居ないと知り、剣を持つ力が抜ける。が、今対峙している敵から逃げる理由にはならない。アーサーは再び剣を構えた。

 当分諦めそうもないアーサーに、アズラは大きくため息をつく。


 「面倒くさいっすね……。わざと負けてあげましょうか?」


 ―――“残刀”。

 本当に自分が為せる技なのか分からない。しかし、アズラを降すにはその片鱗だけでも見せなければならないだろう。



―――――――――――――――――――――



 生徒や一般の人々で賑わう学園祭。

 模擬店などが立ち並ぶ本校舎はもちろんのことだが、変人の巣窟である“旧校舎”も例外ではない。

 普段はゴミで埋め尽くされた廊下も、今日ばかりはゴキブリがギリギリ生息できる程に片付けられ、なんとか人も歩けるようになっていた。

 ドタバタと校舎中から響く足音を、ミヤビは新聞部の部室で、目を閉じて聞いていた。机に足をかけ、ロッキングチェアのように揺れている。

 電気も付けず、カーテンを締め切り、鍵も閉めている。それこそミヤビのような“レポーター”でもない限り部屋には入れないだろう。


 「おう、ミヤビ氏。邪魔するぞ」

 「おわっ?!」


 急に入ってきたウィリー・ウィリアムに、ミヤビはバランスを崩し、尻もちをつく。


 「大丈夫か? 机に足をかけるな、と教わらなかったのか?」

 「いや……、なんで入ってこれるの?」

 「旧校舎の鍵はどの部屋も同じなのだぞ?」


 そう言ってウィリーは鍵を見せる。

 旧校舎のずさんなセキュリティがまさかこんな所で仇になるとはミヤビも思っていなかった。


 「…………どう? そっちは繁盛してる?」


 お尻を払いながら、気を取り直すように尋ねる。


 「うむ、中々人が来るぞ? ロザ氏は人見知りするからな。ハヤト氏が必死に接客している」

 「あんたは何しにきたの?」

 「少しばかり羽休めにな。もうすぐ“mal Ver.2”の公開だ。今のうちに休んでおこうかと……」

 「そう……」


 ミヤビが再び椅子に座るとお互い無言になり、ウィリーも気まずそうに適当な椅子に座る。


 「そ、そう言えば、今頃ヨツバ氏達は戦っているのだろうなぁー」


 話の振り方下手かよ……。ミヤビは内心そう思いながら、黙って視線を下げる。


 「何が言いたいの?」

 「ミヤビ氏は本当に参加しないのかと思ってな……」


 どうせその事だろうと、タカをくくっていたため、ミヤビは小さく息を吐いた。

 聞くにしてももう少しさり気ない方法があるだろうに……。


 「ヨツバ氏が心配しておったぞ。明らかにミヤビ氏のの態度ではないとな」


 詰め寄るように、ウィリーは声を大きくする。

 ミヤビは歯を軋ませ、聞こえないように舌打ちをした。ここまで突き詰められれば誤魔化したってすぐバレるだろう。……“疎楽園(彼ら)”が来た時点で、詰んでいるようなものだ。

 満を持して、ミヤビは告白する。


 「私さ、元々“疎楽園”の人間なんだよ」


 ―――言ってしまった。

 ミヤビは言い終わった瞬間から後悔した。これで、“学園(ここ)”には居られなくなるだろう。

 が、ウィリーは何時になったら言うんだという顔でミヤビを見ていた。あの様子だと何も分かっていないようである。


 「ほう、それでなんなのだ?」


 やはり何も分かっていなかった。

 ミヤビは溜息をつき、分かりやすいよう説明し直す。


 「色々悪事を働いてたんだ。人を殺したり……」


 転生してすぐの彼女は、元の世界で溜まりに溜まったストレスや鬱憤を、好き放題に晴らしていた。

 “瞬間移動”の魔術さえあれば何処へだって行けたし、何でも盗めた。やりたい事をやりたいだけ、本能に従って生きていたのだ。そんな中で“疎楽園”と出会った。

 生きるのには困っていなかった彼女だが、自由になんでも出来る人生への制約、そしてより楽しむためのスパイスとして組織の一員となった。

 “疎楽園”でも結局やる事は変わらない。ただ、頼まれてやってるかどうかの違いだ。依頼の一環で人を殺めることもあったが、“移動魔術”一つで奪える簡単な命。当時の彼女に罪の意識は一切無く、ゲームのキャラクターを踏みつけるような気晴らし程度にしか考えていなかった。

 ―――しかし、自由奔放な日々は突然に終わりを告げる。


 「今でもハッキリ覚えてる。その日は、とある街の権力者を暗殺する仕事だった。―――いつも通り、“異物”を心臓にでも“瞬間移動(テレポート)”させれば終わる簡単な仕事。

 仕事自体は簡単に終わったよ。でも何でだろうね。死体が転がってるその部屋で、欲しくもない宝石を物色してたんだ。

 そしたら運の悪いことに、ターゲットの娘がたまたま部屋に駆け込んで来たんだよ。お父さんの名前を何度も何度も叫んで……。しばらくして死んでることを悟ったんだろうね。彼女は何も言わずキッと私を睨んできた。身を震わせて泣きそうなのに、ただ私を睨んできた。

 不思議なことにその時、私はその子の目線で、“自分”を見たんだ。その子の瞳に映る私は傲慢で“真っ黒”で……、私の知ってる“私”とはどうしても一致しなかった……。

 バラバラだった回路が全部繋がったみたいに、罪悪感や今まで背負うべきだった業が全部一気に押し寄せてきたよ。発狂しそうになって、その場から逃げ出した―――」


 それからの彼女は、三日三晩叫びながら泣きながら、闇雲に世界中を“飛んだ”。

 それ以降“疎楽園”には戻らず、過去から逃れるように、そしてやり直すように“学園”へと逃げてきたのだ。


 「―――私は怖いんだ“疎楽園”の連中と会ったら、また昔の自分に戻るんじゃないかって……」

 「ふむ、なるほどな……」


 ウィリーは勢いよく立ち上がる。

 出ていくのかとミヤビは思ったが、彼は指を彼女へと向ける。


 「まず、一言言っておく。正直ドン引きしたぞ! 飼ってたペットが死んだとかその程度かと思っていた!」


 最初に言うのがそれか、とミヤビは呆気に取られる。


 「昔に戻るのが怖いと言ったな! しかし昔とは違う。今は止めてくれる友人がいるだろう。もしミヤビ氏が再度間違った道を歩み始めれば、きっとヨツバ氏は止めるぞ。ハヤト氏やメイザース殿だってきっと止める。……力不足かもしれんが、俺だって止める!……転生者の魔術で死ぬなら本望だからな!」

 「でも、私の罪は―――」


 呟くミヤビの声を、ウィリーは無理やり遮る。

  

 「ああ消えないだろうさ。一生をかけて償うべきだ。しかし、その“罪”とやらで今いる友人を見捨てるのは償いにならないだろう! きっとヨツバ氏は待っているぞ。あのメンバーには間違いなくミヤビ氏の力がいる」


 熱弁をふるい息を切らすウィリーに、ミヤビは呆然とした後、ほくそ笑んだ。

 そして、ゆっくりとメガネを外す。

 彼女の中で決心の着いた瞬間だった。

 それを見てウィリーは“銀色のお面”を渡す。


 「そっちの世界では、ヒーローが着けるものなのだろう? ヨツバ氏が言っていたぞ。身バレ防止にもなると言っていた」


 この程度のお面で隠れるはずがないだろうに……。ヨツバの考えそうなことである。

 そう思いながらも、ミヤビは面を受け取ると顔に着けた。


 「……ありがと。多分もう大丈夫」


 お面で覆われた口で言い、ミヤビは部活から駆け出す。と、廊下へ出た所で止まると踵を返した。


 「そのメガネ、もう使わないだろうから、舐るなりなんなり好きにしていいよ」


 そう言って、ミヤビは“飛んだ”。    

 ―――そうだ。私には友達がいる。たとえ昔に戻ったとしても止めてくれる友達が……。

 私の罪は一生消えない。それでも、この件が終わったら償いに行こう。その為にも今ここで“疎楽園”との因縁を解消。そして、皆を助けに―――



―――――――――――――――――――――



 アーサーは肩で息をしながら、剣を杖のようにして、やっとの思いで立っていた。

 そんな彼に、アズラは苛立ちを露わにする。


 「ほんっっと鬱陶しいっすね! もう飽きて来ましたよ」

 「俺の知ったことではないな。ムカつくならトドメでもさせばいい」

 「―――ええ。そうさせてもらいますよ」


 アズラの持つ槍が巨大化し、彼女の等身の数倍はありそうな大きさになる。

 先程までとは違う、明らかに殺意のこもった瞳でアズラは距離を詰めに来た。

 ―――“残刀”。

 先程から何度も挑戦するも、全く成功していなかった。しかし、ここでキメなければ命が危うい。

 アーサーは力を振り絞り剣を持つと、目を閉じ精神を統一させる。

 近づいてくるのが音で分かる、あとは……音を、全てを超越し―――。


 「とりあえず、一旦引こうか」


 その時響いた少女の声。

 目を開ければ、何処かの民家の屋根に立っていた。訳が分からず辺りを見回すと、背後に銀色の面を被った少女(といっても明らかにミヤビ)が立っていた。


 「何をする、貴様! そして今更何をしに来た!?」

 「やっぱり私の力が必要かな?っと思ってさ。ちょうど良かったじゃん。アーサっち、あのままじゃ死んでたでしょ?」

 「勝手に決めるな! 俺にも作戦くらいあるのだ!」

 「分かった分かったから、そんなに怒んないでよ。でも、3人じゃ結構大変でしょ? 助っ人としては私以上の人いないんじゃない?」


 ミヤビが無い胸を張り、ハハハと高らかに笑う。

 そんな彼女にアーサーは眉を顰める。


 「何を言う。三人ではない、四人だ」

 「へ? ヨツバっち、アニっち、アーサっちの三人でしょ? 他に頼れる人いないじゃん」


 アーサーは鼻で笑う。

  

 「貴様も忘れているようだな。……といっても、まさか奴に頼るとは思いもしなかったが……」



―――――――――――――――――――――



 一際人の集まる中央広場。

 そこでは多くの出店があり、その1つとして“次元外動物屋”なるものが店を開いていた。

 アンピはその前で唇に手を当て、興味深げに動物を観察している。


 『ちょっとアンピ? 貴方仕事してるの?』

 「精術師としてならね。非常に興味深い生物を見つけたわ。周りの環境に擬態する習性があるようなの」

 『サボってるじゃないの?! スカリィとタチバナとは連絡取れないし……。何かあったら―――』

 「“イゼーカの通信魔術”は壁に阻まれたりするだけで通信が途切れたりする不良魔術よ。場所的な問題でしょう。―――それより、この動物なんて名前かしらね?」


 リッティが何かしら喚いているが、アンピは全く聞き耳を持っていなかった。彼女の思考は完全に目の前の動物へ向いていたのだ。


 「―――カメレオンだよ」


 隣からする少年の声。きっと、この動物の名前なんだろう。

  

 「あら、ご親切にどうも……。もしかして転生者の方かしら?」


 お礼を言おうと、アンピは声のする方へ顔を向ける。そこで彼女は言葉を失う。少年の風貌に見覚えがあったのだ。

 黒のロングコートと、眠そうな暗い瞳、頭にカラスでも飼ってるかと聞きたくなるくらい真っ黒な髪。


 「あらあら、まさかこんな所で貴方と出会えるなんてね……。もう消えた人間かとばかり」


 アンピは嘲笑うかのように口元を手で隠す。少年も一切否定せず口元を緩めた。


 「ねぇ? “盗賊王”さん……?」 

 「生憎だけど、もうそう呼ばれてないんでね。今はジィフティで通ってる」


 “学園側”の4人目―――盗賊王もといジェフティはポケットに手を入れ、そう名乗った。    

ミヤビの件は書くのに相当苦労しました。まだまだ未熟だなと、痛いほど思います。

ついに、4人目が登場しました! なんと盗賊王という…。まさか再登場させるとは思いもしませんでしたよ。


日曜は私的な用事のため休みます。次回は水曜日ですね


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ