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私、1枚多く着てるんですね


 正対するアイスストーカー。タガーの刃が軋むような音を立てて凍る。

 俺は視覚に意識を集中させる。以前は彼女のスピードに全く追いつけなかった。


 「ヨツバくん……」


 無言の間にレイビアが呟く。

 レイビアが腰に付けたボトルに手を触れた瞬間、アイスストーカーは突っ込んできた。

 

 ―――速い……! しかし、見える!


 一瞬で距離を詰められ、首筋へ迫り来る氷の刃。

 俺は“獅子”を纏った左腕でそれを殴り止める。

 拮抗する刃と拳。手が凍るのを感じたが、それと同時に“黒文字”も刃へと侵食していく。

 

 「なっ?!」


 フードの中で目を見開くアイスストーカーに俺はニヤリと笑う。


 「言ったろ……、昔の俺じゃない!」


 “蛇”を首元に飛びつかせるも、アイスストーカーは身を翻し、バックステップで再び距離をとった。

 躱されたものの、息を荒くするアイスストーカーに、俺は自身の実力を確信した。


 「どうだ!」


 胸を張り、自信を持って声を上げた。

 アイスストーカーは“文字”で黒く染ったタガーに目を落とす。


 「なるほどね……、“術具”に刻まれた詠唱文を、塗り替えることで無効化するのか。流石アンピの魔術だね……」

 「アンピじゃねえよ、俺の実力だ! ―――何にしても武器は無力化した。諦めるんだな!」

 「諦める……?」


 アイスストーカーはタガーを投げ捨て、マントを翻す。そこにあったのは、腰の周りに幾本も供えられた刃物。

 そのうちの1つ、ノコギリのように大きなナイフを取ると、切り裂かれるような冷たい風が吹き荒れた。


 「“たった1つ”無効化しただけで、いい気にならないで? 私を本気にさせたんだ。むしろ君が諦めるべきだよ!」


 吹き荒れる暴風にアイスストーカーのフードが捲れる。興奮の為かアンテナのように立った“獣耳”と、鋭い瞳孔が獣を連想させた。

 そう思った次の瞬間、目の前にアイスストーカーの顔が迫る。

 反応も出来ぬまま、横一閃。

 一瞬鋭い痛みが走ったが気づいた時には、右腕が氷に覆われ、ただの“塊”と化していた。


 「出血死なんてさせない……。ジワジワと凍え死ぬんだよ」

 「おもしれーじゃねぇか!」


 右腕が氷漬けにされたというのに、全く恐怖は無かった。むしろ興奮さえ覚えている。戦闘狂になった訳では無く、全く歯が立たなかった相手と対等に戦えることに対して興奮しているのだ。

 俺が氷漬けになるのが速いか、彼女の武器を全て無効化するのが速いかの競走である。

 魔力を込め、俺は“獅子”を振り上げた。


 「―――待って!!」


 その瞬間、二人の間を割って入ったレイビア。これ以上戦えないよう、“レイくん”が俺達を縛り上げた。


 「何すんだよレイビア!」


 怒りに任せて叫ぶと、レイビアは見たことないような険しい顔で睨んできた。

  

 「2人の真剣勝負に口を出すつもりはないよ、でもここではやめようよ! ここは住宅街なんだ、関係ない一般の人が沢山いる。それでも本気でやりたいなら、もっと広くて誰にも迷惑のかからない場所に変えよう。もしもまだ続けて怪我人でもだしたら、僕はヨツバくんを許さないっ!」


 彼女の迫力に口ごもってしまう。

 確かに、落ち着いて辺りを見渡せば、チラホラとできているギャラリーが目に付く。あのまま戦いが激化すれば、無関係な人にまで被害がおよんでいただろう。

 しかし、俺が納得してもアイスストーカーはどうか……。 きっと今も“レイくん”の拘束から逃れようとしているはずだ。

 目を向ければ案の定、アイスストーカーはどうにか脱出しようと頑張っていた。……全身に汗をかき、この世の終わりでも見てしまったような表情で……。


 「あぁぁ!? “液体”! “液体”?! やだやだやだやだやだやだぁ! 離してぇ?離して!はなしてはなしてはなしてはなして!!にゃああああああああぁぁぁ―――」


 耳をつんざく程の悲鳴をあげると、アイスストーカーは電源が切れたように地面へ倒れ、ピクピクと痙攣する。

 全く痛みも無いはずなのに一体何が起きたのか。

 1番困惑しているのはレイビアだろう。彼女は訳も分からないまま、頬を掻くと気まづそうに視線を向けてきた。


 「あのぉ……これさ……。僕が悪いというか……、僕が倒しちゃったのかな?」


 涎を地面に広げ、白目を向いたアイスストーカー。当分目を覚ましそうにもない。

 ふとその時、以前彼女が言っていた“液体恐怖症”という言葉を思い出した。だから、血は流さず凍らせるのだと説明していた気がする。……今のはその症状だろうか。


 「どうしようヨツバくん……。この子……起きるよね?」


 レイビアは懇願するように問いかける。その瞳には少し雫が溜まり始めている。

 死ぬことはないにしても、このまま放置する訳にもいかないだろう。

 

 「一応、敵だしな……。“捕虜”として連れていくか」


 念願のリベンジ戦……だったはずなのだが、これは勝利ということでいいのだろうか。



―――――――――――――――――――――



 ―――アイスストーカーが悲鳴を上げる数分前に遡る。

 人気のない路地裏では、“糸”の攻防が繰り広げられていた。……と言っても、ディテールが逃げ回るばかりの、一方的なものだ。

 ディテールの“糸”は“粘着性”があり、敵の動きを妨害するのが目的である。それに対し、メイザースの“糸”は刺した相手を“支配”する魔術がかかっている。つまり、メイザースが絶対的に有利な勝負なのだ。

 しかしディテールは諦めること無く、敵の動きを注視しながら鮮やかに“糸”を躱していく。

 足の裏に“糸”を付け、四方の壁を駆け回っていた。


 『め、珍しく長期戦ですね……。いい、い、いつもなら数秒で終わるのに』


 頭に響くアニーの声。メイザースは頭を抑えながら返事をする。


 『遊んでるの。彼女、“糸使い”を名乗る割にはさっきから全く“糸”を使ってこない。まだ奥の手があるのよ。それを見ないと勿体ないじゃない?』


 メイザースの言う通り、防御や回避に“糸”は使うものの、ディテールは一切攻撃を仕掛けてこないのだ。

 アニーもメイザースの視覚を通して状況を見ていたため、その事は不思議に思っていた。しかし、だからと言ってトドメを刺さないのは理解できない。


 『速く決着させましょ……う。い、嫌なよ、予感がします』

 『……』


 メイザースは何も言わず考える。確かに、以前のゼキノのように逆転されては面倒だ、面目も立たない。


 『……仕方ないわね。速いとこ“操り人形”にして、仲間同士殺し合わせる方が面白いでしょう』

 『そ、そそ、そんな野蛮なこと―――』

 『私は貴方の深層心理に影響されるのよ。いい子ぶるのはやめるのね』


 アニーの思考をねじ伏せ、メイザースは合図のように大きく腕を振り上げる。

 その瞬間、上下左右、あらゆる方向からディテールへ“糸”が襲いかかる。一切の隙間も無く、蚊の一匹ですら避けきることは不可能だろう。


 「わっ……」


 ディテールが漏れるような声を吐き、彼女は無数の糸に包み込まれた。

 糸は卵のような形を為し、咀嚼するように揺れる。“ああなって”しまえば、どんな魔術師でも勝機はないだろう。

 しばらくして塊が解かれると、そこには、幾本も糸が身体に刺さり、人形のように首を落としたディテールの姿があった。


 「ゴメンなさいね……、活躍の場が無くて。でも貴方、思ったより弱かったから」


 聞こえるはずも無いのに、メイザースは囁く。糸を操り、ディテールに膝を着かせると、彼女はゆっくりと歩み寄っていく。


 「さぁ、私の“お人形さん”。よく顔を見せてちょうだい」


 魔女は怪しく微笑み、ディテールの頬に手を這わせる。

 ―――が、その瞬間、彼女の腹部に、鈍く重い衝撃が走った。思考が追いつかぬまま膝を着き、声も出せず咳き込む。

 少しして、一瞬前視界の端で見た光景が過ぎる。

 “支配”したはずのディテールの腕が動きだし、彼女のみぞおちを殴りつけたのだ。ディテールのか細い腕からは想像もつかないような威力。まるで大きなハンマーで叩かれたようだった。


 「“人間”は顔の傷を嫌がりますからね。お腹にしておきました」


 落ちてくるディテールの声。

 彼女の足が横腹にめり込み、メイザースの身体が壁に打ち付けられる。


 「ずっと待ってたんですよ……。貴方が不用意に近づいてくるのを。単純な糸の勝負では勝ち目がありませんからね」


 頭を打ったのだろう、視界と思考がぼやける。そんな中、目覚ましのようにアニーの声が響いた。


 『メイザース! 貴方、だ、大丈夫なんですか、か?!』

 「うるさい! 私より、自分の身体の心配でもしてなさい!」


 メイザースが叫ぶ。

 何故ディテールは動けたのか、先程から必死に考えるも未だ答えは出ない。しかし、安定した視覚でディテールを捉えた時、メイザースは目を見開いた。


 「私、1枚多く着てるんですね。“人間の皮”を―――」


 先程まで、細かったディテールの腕が、赤く太く、まるで昆虫のようになっていたのだ。

 彼女はその腕を寂しそうに見つめる。

 

 「醜いですよね、私もそう思います。せっかくアンピちゃんが調整してくれたのに……これでは台無しです」

 「なるほど……。“貴方本体”にまで糸は通ってなかったわけ……。―――貴方……、何者?」

 「“疎楽園”に入る前は、“蜘蛛の王”として森の主をしていました。でも安心してください。“完全な姿”を見せるつもりはありません。タチバナさんが怒りますからね」


 そう言いつつ、ディテールは“まだ”人間の方の手で口元を掴み、“皮”を破り捨てる。露わになる、左右から牙の生えた“蜘蛛の顎”。

 そこから凄まじい速さで糸が飛び出し、メイザースの腕を壁に固定する。


 「これで私自身も糸が扱えます。これまで通りと考えるのは命取りですよ……」


 人間のものとは思えない、低く冷たい声。

 メイザースの瞳から慢心が消えた。  

本当はアーサーの方も書きたかったんですけどね、文字数と時間の都合上二人分で終わってしまいました。このままいくと、とんでもなく長くなりそうです。


次回は水曜日ですね

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