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ここでケリをつける


 屋上のポカポカ陽気で、大の字に寝ていたアズラは、湧き上がった歓声で起き上がった。


 「あー、もう始まったんすかー?」


 地上を見下ろせば、老若男女がぞろぞろと学園内に入ってきており、校舎内からは活気ある若者の声が響いていた。


 「うんじゃま、私もそろそろ行きますか」


 そう言って大きく伸びをすると、アズラは魔術で強化された脚力で屋上から跳び、隣の民家の屋根に降り立つと、再び跳んだ。

 屋根の上を移動しながら、アズラは“疎楽園”の顔を思いうかべる。


 「しかし、こんなただっ広い街で本当に見つかるんすかね~」


 あくび混じりにそう呟く。

 その為だろう、地上から自分を狙う者がいるなんて欠片も思っていなかった。

 アズラが跳んだ瞬間、横腹部に直撃する剣。空中のため避けることも、掴むものも無く、アズラは地面へと落ちる。


 「かァ……! 痛いっすね……なんすかなんすか……?」


 血と痰の絡んだ口を動かしながら、アズラは顔を上げる。

 そこには、角張った青色の“お面”を被った青年が立っていた。顔は見えないものの、背格好が“疎楽園”の人間とは合わない。


 「“教会”のようだが……、“奴”ではないようだな」


 青年はグローブを嵌めた手を広げると、投げたはずの剣がそこに吸い込まれるようにして握られる。


 「失礼なもんっすね……。攻撃しといて人違いですか?」


 アズラは立ち上がると口を拭い、懐から 鼠色の球体を取り出す。


 「見た感じ、“疎楽園”じゃないっすよね? 何者っすか?」

 「本来なら、顔を隠しておくべきなのだろうが……、俺のポリシーに反するのでな」


 少年は被っていた面を投げ捨て、その鋭い目付きと赤い髪を晒す。


 「アーサー・ペイジ。見ての通り剣士だ。―――手合わせ願おう」


 剣を上段に構えるアーサーに、アズラは大きく溜息をつき、頭を搔く。


 「本当はお仕事中なんすけど……、一撃貰っておいて癪ですし……」


 彼女が球体を握り潰すと、粘土のように形を変え、槍を形成した。


 「いいっすよ。相手になってあげましょう」


 対峙する槍と剣。ただし、剣は稽古用の模擬刀であるが……。



―――――――――――――――――――――


 

 “疎楽園”、ディテールは人気のない道をとぼとぼと歩いていた。久しぶりに、メンバー全員での仕事だというのに、単独行動だとは予想していなかったのだ。

 ディテールを含めた4人が、別々のルートで学園への潜入を目指すらしく、残りのリッティと言えば……。


 『こちら、リッティよ。そっちは大丈夫?』


 全員と連絡するため何処かで身を隠しているらしい。元々戦闘員では無いのだ、仕方の無いことだろう。

 ステッカーを通して、脳裏に響くリッティの声に、ディテールも念じ返す。


 『ディテールです。現状問題はありません』

 『分かったわ。まだ誰も交戦してないみたい。また何かあれば連絡する』


 ディテールは不意に辺りを見回してみる。もちろん、リッティの姿が見えるはずもない。

 傍に居ないのに声が聞こえるのも不思議だ、なんて思っていると、頭に載せた“蜘蛛”が「キキッ」と小さく鳴き声を上げた。


 「どうしたの? “クネちゃん”……」


 故障か、と優しく撫でた時、ディテール自身もその異様な気配に気づき、足を止めた。

 道の先から感じる、禍々しく冷たい空気。明らかに何者か、しかもかなりの猛者がこの道の先にいることを伺わせた。


 「1枚多く着てると感覚も“鈍く”なりますね……」


 ディテールは再び歩み始める。

 後退しようという気は無かった。

 それは彼女の野性的な本性のせいなのか、それとも他に理由があるのか、ディテール自身にも分かっていない。

 気配はどんどん強くなり、少し開けた場所に出ると、ディテールは息を飲んだ。

 

 そこには、壁中に張り巡らされ、蜘蛛の巣のようになった無数の糸。その中心で木箱に腰掛ける、“白いお面”を頭にかけた少女。


 「なるほど……“同種”ですか……」


 興奮を持ってそう呟き、ディテールは口の端を上げる。

 少女もディテールに気づいたのか、体を向け足を組みなおした。やけに露出度の高い黒いドレスを纏い、手に持たれた書物からは黒色の煙が湧き上がっている。


 「あら、早速かかったみたいね」


 少女が微笑みかける。

 ディテールはその顔に見覚えがあった。


 「貴方が……、噂に聞く“魔女”さんですか?」

 「あら? 私って意外と有名人なのね」

 「新聞で見ました。“闘技会”優勝者らしいですね」

 「そうなのよ……。でも、“闘技会”も私に敵う方が中々いなくて詰まらないのよね……。それで、貴方はどうなの?」


 急に飛んできた話の矛先に、ディテールは肩を震わせる。


 「“教会”では無さそうね。それなら“疎楽園”かしら? ここまで来るのだもの。戦う意思はあってのことでしょ?」


 彼女を取り巻いていた無数の“糸”がいっせいにディテールへ向く。その光景はまるで、何万もの軍勢が槍を向けているようである。


 「もちろんです。いつか戦ってみたいと思っていましたから―――」


 ディテールは頭の“蜘蛛”を撫で、“魔女”と同じように、無数の糸を空間に顕現させた。


 「―――同じ糸使いとして」

 

 その光景に、“魔女”も少しばかり眉を上げる。


 「私の“糸”と貴方の“糸”。どちらが強いかしら―――」



―――――――――――――――――――――



 「誰も来ないじゃないか?!」


 学園からほど近い住宅街で俺は叫んだ。

 “疎楽園”もしくは“教会”が通りそうな場所で仁王立ちしていたのだが、一向に誰も来ない。

 統一感とカッコイイという理由で、戦隊モノのお面をウィリーから借りてきたのに、これでは無意味だ。そもそも他の奴らはちゃんと付けているのだろうか?

 せっかく“赤色”のリーダー格のお面を付けていても、それを認知する敵がいなければ意味が無い。


 「ちぇっ! 本当に“疎楽園”いんのか? ガセネタなんじゃねえの?」


 小石を蹴飛ばし、不貞腐れていると、遠くから足音が聞こえてきる。見れば、レイビアが駆け足でこちらへ向かってきていた。


 「どうした? もう学園祭始まってるだろ?」

 「うん、ミルカがもうすぐ来るから待ち合わせしてて……。そしたら、ヨツバくんが見えたから。―――見たところ、何も起きてないみたいだね」

 「ああ。見ての通りだーれも来ない。場所変えた方がいいかもなぁ」


 いっその事、レイビア達と学園祭で遊んだ方が有意義かもしれない。

 来るかも分からない敵を待つより、目先の欲を追うのが俺の性分に合っている。


 「なぁレイビ―――」


 その瞬間、背後から迫るタガー。

 もちろん俺は気づいていない。が、身体に刻まれた“蛇”は“殺意”を感じ取ったのだろう。勝手に顕現すると、タガーをその口で受け止めた。


 「なっ?!」


 ワンテンポ遅れて俺も気づき、慌てて間合いを取る。

 そこには、フードを被り、両手にタガーを構えた少女が舌を巻いていた。


 「これが、アンピの言ってた“蛇”ちゃんか……。―――強くなったみたいだね、君」


 聞き覚えのある声と、記憶に焼き付いた2つのタガー。忘れるはずもない、俺に初めて黒星を付けた少女―――。


 「まさか、“疎楽園”だったとはな―――アイスストーカー」


 俺が睨みつけると、彼女はフードを軽く捲り、その青い瞳で俺に笑いかける。


 「まさかこんなに速く会えるなんておもわなかったよ。以前は為す術も無かったけど……、少しは強くなってるよね?」

 「今から試してみるか?」


 左腕に意識を集中させ、“黒文字”で“獅子”を形成させる。


 「レイビア、下がっててくれ」

 「大丈夫なの……?」

 「いつかは果たさなきゃいけない勝負だ。ここでケリをつける」


 好戦的な俺の態度に、アイスストーカーも興奮気味にタガーを構え直す。


 「―――血の一滴だって氷漬けにしてあげるよ」   


 思いがけないリベンジ。自分がどれだけ成長したかを知らしめる絶好の機会が巡ってきた。        

アーサーVSアズラ

メイザースVSディテール

そして、ヨツバVSスカリィ!

実のことを言うと、ディテールはメイザースと戦わせたいが為につくったキャラなんですよね。同じ系統の能力同士が戦う展開好きなんです。

ヨツバもここに来てついにリベンジ戦です。


次回は日曜日です。

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