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ざっと、100人程で


 ―――学園祭開始 3時間前


 「失礼します」


 白装束を纏った3人が、副校長室の扉を開ける。学園祭中、殆どの教室が使われている為、副校長室が彼女達、“教会”の本拠地に選ばれたのだ。

 元々置かれていた備品は撤去され、会議で使うような机と、来客用のソファだけが残されていた。


 「うっはは! このソファふかふかっすね!」

 「はしゃぐのは止めてください」


 ソファで跳びはねるアズラを注意し、ブリールは机に街の地図を広げた。


 「これがこの学園を囲う街、“グレア”の地図です」


 アズラはぴょんっと跳び、机の横に着地する。そして街の地図を見ると、「ふぅむ」と顎を撫でた。


 「可笑しな街っすね。学校に病院……、必要な施設は完備されてるのに、異世界人が建てたっていう“ビル”なんてものまである」

 「既に“疎楽園”は何処かに潜入しているでしょう。アズラ、特に貴方は頭に叩き込んでください。“連携”に関わります」

 「了解っす……。それで、作戦はどうします?」

 「詳しくは私がその都度指示を出します。貴方は偵察し、“疎楽園”を見つけ次第“排除”してください」

 「指示通りに動くだけなら楽なもんっすね」


 「あ、あの……」


 2人が地図を見ながら話す中、少し離れた所から1人の少女が気まづそうに手を挙げた。


 「私はどうしたら良いでしょうか……?」


 熾従者(セラフ)最後の一人、エルはフードを脱ぎ、その神秘的な白い瞳を露にする。

 その瞳を認識した時、ブリールは誰にも聞かれぬ程小さな舌打ちをした。


 「貴方も、ひとまずはここに残ってください。追って指示は出します」

 「は、はい! 頑張りましょうね!私達 熾従者(セラフ)が力を合わせればきっと“疎楽園”さん達にも勝てるはずです」

 「そうっすねぇ。イールさんは抜けちゃいましたけど……」


 アズラが力無く肩をすくめ、ブリールは返事もせず、帽子を目深に被った。


 「居ない人の話は止めましょう。それよりアズラ、そろそろ準備をお願いします」

 「何人位にします?」

 「多すぎても五月蝿いだけですから……、ざっと100人程で」

 「了解っす。では、お仕事始めますかね~」


 アズラが詠唱を唱え始めると、彼女の身体が青白く発光し始めた。


―――――――――――――――――――――


 ―――学園祭開始 1時間前 


 「はいこれ、全員ちゃんと着けるのよ」


 宿の一室で、リッティは机に4つの丸いステッカーを広げた。

 その1つを、アイスストーカーことスカリィが拾いあげ、首を傾げる。


 「何これ?」

 「“イゼーカの通信魔術”が刻まれたステッカーよ。貼った者同士なら離れてても会話が出来る。……ていっても、1対1でしか通信は出来ないから私が仲介するんだけど」

 「へ~」


 スカリィは腕に貼り付けると、更にもう1枚を掴み、椅子に座るディテールまで駆けていく。


 「ディテール試してみようよ!」

 「いいよ、スカちゃん」


 ディテールは軽く了承すると、詠唱文の刻まれたステッカーを額に貼り付けた。

 しばらく2人は無言で見つめ合い、吹き出すように「わぁ!」と歓声を上げた。


 「凄い、聞こえる!」

 「何だか不思議だね」


 楽しそうにはしゃぐ2人に、リッティはため息をついた。

 今までに無いほどの任務だと言うのに……、まるでこれから遊びに行くみたいだ。


 「マジ? 聞こえんの?! 俺も混ぜて混ぜて!」


 タチバナが慌てて机に駆け寄ると、ステッカーをうなじに貼り付ける。

 ……リーダーがこんな調子なら仕方の無いことだろう。


 「でもよぉ、こういうのって普通、イヤホンみたく、耳に着けるんじゃないか?」


 貼ったステッカーを指で掻きながらタチバナが尋ねる。


 「本来はそっちが主流ね。でも、“疎楽園”(ここ)には獣人が2人もいるでしょ?」

 「あぁ……、なるほどね」


 タチバナは低い声で返事をすると、はしゃぐスカリィと、窓から外を見下ろすアンピに視線を向けた。

 ―――獣人。

 単純に獣の耳を生やした人種を指すものだが、“差別的な”ニュアンスも孕んでいる言葉だ。彼らは歴史上、お世辞にも良い扱いを受けていない。その特徴的な耳のせいで、現代でも“観賞用”など凡そ人間が受けるべきではない名称で闇市に出回る程だ。

 リッティやアンピも、そのコンプレックスの塊とも言える、“耳”をアジト以外では隠すのもその為だ。

 そういった背景も考慮して、リッティはステッカー式の術具を購入したのだろう。そのせいで幾分か性能が落ちた事は言えないが……。


 「ほら、アンピも付けなさい。通信確認するわよ」


 窓辺に肘をつくアンピに、リッティがステッカーを放り投げる。

 アンピはキャッチすると、空に透かすようにステッカーを掲げた。


 「かなり旧式ね……。今ならもっと高性能なのがあるんじゃない?」

 「悪かったわね。ステッカー式だとそれが最新なの」


 アンピは鼻で笑うと、帽子の鍔の裏側に貼り付けた。


 「一応、感謝してあげるわ。―――といっても、私ならもっと高性能なものが作れたでしょうけど」

 「ほんっと、素直じゃないわね! 探すの苦労したのよ?」


 アンピはまた鼻で笑うと、視線を窓の外に戻した。2階のため、たいした景色も見えないはずなのだが、彼女は何故か微笑んでいる。


 「やぁやぁ、魔力が見えるその瞳には何か面白いもんでも映ってるのかい?」


 茶化すようにタチバナが尋ねると、アンピは視線を逸らさず呟いた。


 「―――いい感じに混ざってるのよ」

 「何が?」


 聞き返されたタイミングで、アンピはタチバナに視線を向けると、無言で彼のことを見つめた。

 しばらくして、タチバナは苦笑する。


 「なるほど、それは傑作だ」


 ステッカーを通した会話。

 あの二人が何を話したのか、リッティには検討もつかなかった。


 「でもね、そのお陰で私の魔術が侵食するのを抑えてるの」

 「“私の魔術”、ね……」

 「ええ。嫌でも関わることになるでしょうね」


 アンピは再び視線を窓へ戻す。


 「なんたって、今回の“鍵”はあの子なんだから」


 彼女が向けた視線の先には、ヴァルーチェ魔術学園、旧校舎の3階があった。


―――――――――――――――――――――



 ―――学園祭開始 30分前  


 「ほら、皆の者頑張るのだ。もう時間が無いぞ」


 ウィリーが威張るように手を叩く。

 皆の者と言ったって、部屋には彼の他に俺とロザしかいないというのに……。

 学園祭開始直前、異世界文化研究会は準備に追われていた。前日から設置しておけばいいものを、夜のうちに盗まれるのが怖いという、杞憂にも程がある考えのせいで今になって焦っているのだ。

 部室はカーテンで2つに分けられ、1つはコレクションの展示。もう1つは彼らが造った懇親のロボット“mal Ver.2”が設置されているらしい。客が集まり次第お披露目するようだ。


 「ヨツバ氏! たむろするなら少しは手伝ってくれぬか?!」

 「悪いが、そんな気分じゃない……。そんな気分になることもないがな」

 「なんだなんだ! 悩むとはヨツバ氏らしくないではないか」


 そう言ってウィリーは俺の横に腰を下ろす。……適当な事言ってサボるつもりじゃないだろうな。


 「どうしたのだ? ここに来て悩み事か……」


 今から始まる決戦に向けての緊張や、ビオラの事など、様々な事への緊張がパン生地のようにこねられてよく分からない状態になっている。


 「さては、ミヤビ氏の事か?」


 それも悩み事のひとつだ。

 第三勢力を創ろうと持ちかけた夜以降、ミヤビは新聞部の部室から出てこない。明らかにおかしい事態となっている。


 「彼女にも何か思いがあっての行動なのだろう。……きっと過去にまつわる何かのな……」

 「過去……?」

 「うむ、ミヤビ氏は1年程前突然やって来てな。“転生者”が転校してきたと聞いた我は彼女の元へ駆けつけ質問攻めしたわけだが……、何も答えてくれないし、屋上から落とされそうになったからな」


 ミヤビの過去……。

 言われてみれば、彼女が自分のことを話していた記憶は無い。

 何事もヘラヘラと軽く流すが、いざと言う時は頼りになる、そんな印象しかないのだ。

 しかし、彼女自身は語らずとも、他人から知ることのできたミヤビもいる。

 いつぞや俺が誘拐、監禁された時、犯人が妙にミヤビの事を恐れていたし、今回の相手でもある“疎楽園”と通じているのも妙だ。何かあると見て間違いないだろう。


 「ま、そのうち彼女の中で折り合いも着くだろうさ。―――さぁ、悩みは解消した。お主も準備を手伝うのだ」

 「ええー。それが目的かよー」


 ウィリーは俺を無理やり立たせると、背中をグイグイ押して否応でも準備をさせようとしてくる。

 そんな中、部室へと走ってくる足音が廊下から響いた。


 「マスター!」


 駆け込んでくるビオラ。

 その姿はいつもの制服ではなく、彼女の髪と同じクリーム色のドレスを纏っており、その姿はさながらウエディングドレスを纏った花嫁のようだ。

 圧倒的前代未聞の投票率で今年の“クイーン”になったビオラは、本来後夜祭で行うはずのパレードを特例で学園祭中に行うことになったのだ。その為こんな衣装を着ているわけだ。


 「マスター、いつもの事ですが、無理だけはしないようお願いします。そして誘拐されぬよう十分気をつけてください!」


 心配そうに俺の手を取るビオラ。前科が2つもあると流石に口調も強くなる。

 俺の視線がドレスに注がれていることに気づくと、彼女は恥ずかしそうにスカートを摘んだ。


 「ど、どうでしょうか? 私には少し贅沢な気もするのですが……」

 「そんな事ない、何処に見せても恥ずかしくない程“可愛い”」


 口をついて出た言葉に、俺は急いで手で口を覆った。

 ビオラも、俺から“そんな言葉”が出ると思っていなかったのか、梅干しのように顔を萎ませると、大きく目を見開いた。


 「そう言って頂けるだけで、今日1日頑張れます!」


 ビオラはそう言い残すと、部室を後にした。“クイーン”にもなるとやる事も多い。

 少し前まで、俺の傍を片時も離れなかったというのに、良くも悪くも変わったものだ。

 入れ替わるように、アーサーが部室のドアをノックした。


 「―――オオバ、そろそろ時間だ」

 「分かってるよ」

 「あ、タイミング良い奴め! 少しは手伝っていけ!」


 ウィリーを無視して、部室を出る。

 アーサーの横には、魔導書を抱えたアニーの姿もあった。勝負服なのか理由は不明だが、SM嬢が着る女王様のようなコスプレ衣装を着ていた。


 「最後の1人、用意出来たのか?」


 旧校舎の階段を降りる中、アーサーが聞いてきた。


 「一応は……。しかしなぁ……」


 複雑な悩みを抱え、学園祭の開始は刻一刻と迫っていた。       

さぁ、各々準備が整って来ました。

次回からついに始まります!

捕捉として、

最初、街の地図を広げた時『“ビル”もある』、とセリフにありましたが、これは超序盤でビオラを購入した魔導書屋の向かいにあるビルのことです。


次回は水曜日です、

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