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俺……、“人間”か……?


 再開の場を傍からみるのも野暮というものだ。

 シャルロットさんとウルカの邪魔にならぬよう、俺は静かに本堂を後にする。


 「ヨツバ!」


 と、ドアノブに手をかけたところで、ウルカの声が響いた。

 振り返れば、ウルカがシャルロットさんに抱きかかえられ、こちらへ駆けて来ていた。


 「ありがとう、貴方にもお礼が言いたくて……」

 「私からも感謝する。お前がいなかったら結末も変わっていただろう」

 「いやぁ……。そんな……」


 二人からお礼を言われるも、俺は適当にはぐらかす。

 「そうだ、俺のおかげだぞ!」と威張り散らすと思っていたのか、消極的な俺の反応に、二人は顔を見合わせている。


 「その“黒いの”、広がってるみたいね」


 ウルカは俺の腕を顎で指す。

 間違いなく、腕に着いた“黒い文字”の事だ。彼女が最後に見た時は、背中で留まっていたから驚いているのだろう。

 ウルカは気を取り直すように胸を張った。


 「私がいない間に特訓サボってないでしょうね? これからゴタゴタするでしょうけど、すぐに特訓の続きを―――」

 「悪い……。もう行かないと―――」


 そう無理やり切りをつけると、俺は本堂を出て、一目散にひとけの無い所まで走り出した。今にも溢れそうになる“モノ”を必死で堪えながら……。

 

 やっとの思いで人のいない中庭に辿り着くと、俺は膝をつき、“吐気”に任せて口を開いた。

 吐瀉物の飛び散る音と、嗚咽音。何も考えず、感情のままに“得体の知れない何か”を吐き出し続ける。


 「はぁ……はぁ……」


 出来ることなら、威張り散らしたかった。ウルカ達とちゃんと話したかった。

 しかし、身体を突き破りそうな程の吐気が、マトモに話すことを許さなかったのだ。あそこで吐いていれば、間違いなく心配されるだろう。


 「なんだよ……これ……」


 呼吸を整え、自分が吐き出したモノを見て背筋が凍った。

 そこに広がっていたのは、“真っ黒い”嘔吐物。ただ黒いだけならまだしも、無数の“黒い文字”で形成されていて、バクテリアのように蠢いていた。…………誰がどう見ても、人間の出すものでは無い。

 魔力切れで、吐気を感じたことはあったが実際吐くのは初めてのことだし、謎の黒い物質が出てきたのも初めてだ。


 「俺……、“人間”か……?」


 呟かれた、自問。

 答えを知っているのは、俺に住み着く“文字達”だろう。



―――――――――――――――――――――

 


 「ちょっと待ってよ! この店、“冷やし料理”がないじゃん!」


 料亭の一室で、“アイスストーカー”ことスカリィはメニュー表を叩きつけた。


 「そんなもんあるわけないだろ……。黙って固形物頼んどけって」


 向かいに座るタチバナが肩肘を張る。

 スカリィは不貞腐れながらメニュー表を拾い上げた。


 「せっかく、“ゼムストの鍵”を届けたんだよ? もっと高級な所が良かったな」

 「仕方ないだろ……。無駄遣いするとリッティがうるさいんだよ」


 そう、二人は、ムーカティで行われた取引と同じように、“黒い球体”を謎の少女に届けてきた帰りなのだ。

 今回の分も入れ、“疎楽園”が届けた“球体”は二つ。少女が持っていた分も含めるとこれで計四つになる。これで、ゼムストの復活まであと一つになったわけだ。


 「でも、なんで今回は私だけ? この前はアンピちゃんとリッティ連れてったよね」


 そう言いながら、スカリィは店員を呼び出すと、渋々決めた料理を注文する。


 「今回はたまたま、“教会”に勘づかれなかったんだよ。……でも奴らの事だ。ゼムストの復活が近いのは分かってるだろうな」


 タチバナも適当に注文すると、店員は厨房へと引いて行った。


 「あと、アンピは研究で忙しそうだったし、リッティは“今回の件”自体苦手そうだったからな」

 「そりゃあ、女の子にモテたいが為に、悪の親玉復活に加担してるんだからね。元お嬢様のリッティ“ちゃん”には荷が重すぎる」   

  

 リッティは愛用のナイフをお冷に突き刺し凍らせると、アイスキャンデーのようにペロペロと舐める。


 「でも、後一つで復活しちゃうんでしょ? 何時になるか分からないけど怖いねぇ。空が怪しい雲に覆われたりするのかな?」


 その情景を想像してか、リッティはクスクス笑う。彼女が能天気なだけだが、ゼムストの復活を喜んでいるようにさえ見えた。


 「最後の一つは、“教会”だって何としても阻止しようとするだろうな。そうなりゃ、“疎楽園”全員で動かなきゃならない」

 「アンピちゃん曰く、最後の一つは何処にあるか分かってるんでしょ?」

 「ああ、近々取りにいくだろうな―――」


 タチバナの口から出た、“最後の鍵”の在処。

 聞き覚えのあるその名前に、リッティのナイフから氷が滑り落ちた。そして、ニヤリと口を開く。


 「へー、なら、“あの子”がいるかもね」



―――――――――――――――――――――


 “教会”の本拠地にある大聖堂。

 静寂で神聖な祭壇の前で、“熾従者(セラフ)”の一人、両目に包帯を巻いた少女、ブリールは祈りを捧げていた。いつも穏やかな彼女の表情も、今日ばかりは少し険しい。


 「ひや〜。ちゃんと礼拝するなんて流石ブリールさんですねー」


 長椅子で横になっていたアズラが、読んでいる雑誌から目を逸らさずに声をかけた。


 「ここは神聖なる大聖堂ですよ。横になるのはやめなさい、アズラ」


 ブリールが顔を逸らさずに言うと、アズラは不味い、とすぐに起き上がった。

   

 「いやいや、この“オシャレ包帯通信”最新号、中々面白いですね。続きはいつ出るんですか?」

 「……その本、何処で手に入れました?」

 「ブリールさんの自室で」


 ブリールは大きくため息をつく。また新しい鍵を用意しなくてはならなくなった。


 「“ゼムストの箱”が盗まれて数ヶ月、いつ奴が復活してもおかしく無いのですよ?」

 「いきなり真面目な話をしますね」

 「貴方がふざけているだけです。……“疎楽園”が関わっている以上、近いうちに彼らと直接対決することになるでしょう」


 ブリールは礼拝を終え、床に置いていた帽子を被ると立ち上がった。


 「“疎楽園”は転生者 タチバナをリーダーとした五人で構成されています」

 「私達、“熾従者(セラフ)”は一人抜けて三人。数的不利ですね」

 「貴方がいれば数など関係の無いことです」


 杖をついて大聖堂から出ていくブリールの後を、アズラはのそのそと着いていく。


 「聞くところによれば、五つの内、四つは既に揃っているそうです」

 「はへー、リーチじゃないですか。最後の一つは何処にあるかご存知で?」

 「先程、天命を受けました―――」


 ブリールは立ち止まり、アズラの方に振り返る。


 「―――最後の一つは、“ヴァルーチェ魔術学園”にあると」


 ヴァルーチェ魔術学園?

 アズラは首を傾げた。何の変哲もない魔術学園のはずだ。何故そんな所に最後の一つが?


 「何処にあるかまでは不明ですが、ある事は確かです」


 ブリールは再び歩き出す。

 決戦の日は近い。



―――――――――――――――――――――



 霧の濃い、深い森の中。立ち並ぶ樹木の中に、一際大きな古城が建っていた。

 皆の記憶から忘れられた場所。昔そこで、世界の未来を決する戦いがあったことは、僅かな人間しか知らない。

 その古城の最上階で、少女は棺桶の傍らに立っていた。手には“黒い球体”を持って……。


 「あぁ……、ゼムスト様。貴方様の欠片をまた一つ手に入れてきました。どうぞお受け取りください」


 そう言って少女は、棺桶の二つある窪み(既に3つには球体が嵌められている)の一つに球体を嵌め込んだ。

 

 「これで、また一歩復活に近づいたのですね…… 」


 思いを馳せるように指を組み、少女は微笑む。しかし、それはまだ先のこと。復活には最後の一つが必要なのだ。再び、“疎楽園”の連中を頼らなくてはならない。

 主人の復活がいつ頃になるかを計算しながら、階段の方へと向かう。

 ―――棺桶が独りでに開いている事など気づくはずもなく……。


 「―――やぁおはよう、シルエラ」


 聞き覚えのある、何年も待ち望んだその声に、少女の、シルエラの足が止まった。

 驚きと歓喜を噛み締めながら、咄嗟に振り返ると、棺桶から上半身を出した主人の姿があった。


 「ゼムスト様?!」


 大きく欠伸をするゼムストに、シルエラは急いで駆け寄る。

 数年ぶりに見た主人の顔にシルエラは息を荒くする。話したいことが沢山ある。しかし、それより先に聞かなければならない。


 「まだ四つしか揃えていません。何故復活が?」

 「“起きる”くらいなら、四つもあれば充分だよ。でも、完全ではない。一番大切な部分、“五大凶爛魔術”が抜け落ちてる……」


 ゼムストは慣らすように、手の間接を動かす。


 「確か……、君の相方に埋め込んでたはずだ。……そうだ、“ゼキシア”。彼女は今居ないようだね」

 「はい、未だ行方不明です。“黒の魔力”を発動していないのでしょう」


 “黒の魔力”。それは、ゼムストに仕えていた二人の人型魔導書に一つずつ内包されたものだ。

 一つは“シルエラ”に、そして、最後の一つである、もう一つは“ゼキシア”が持っているのだ。


 「俺が直々に探すのも悪くないが……、今“教会”に勘づかれるのは少し不味いね」


 ゼムストは顎に手を当て考える。

 そして、何か思いついたように棺桶から起き上がった。


 「シルエラ、服を持ってきてくれ」

 「はい! ……その後は如何しましょう?」

 「とりあえず、何もしないさ。ゼキシアが尻尾を出すまで、俺が寝てた間に何が起きたか勉強でもする」


 ゼムストは棺桶から出ると、間に合わせとして、落ちていた黒いマントを身に被った。


 「世界征服は、その後からでも遅くないだろうし」       

これにて、7章はお終いです。

あんまり、ヨツバが活躍しませんでしたが、個人的にやりたかった話なんです。

今回は次回に向けての種まきと言ったところでしょうか。ついにゼムストも復活して、戦いの舞台は学園になるわけです。そこで、教会やら疎楽園が乱闘状態。想像するだけで楽しみです。


言ってしまいますと、次が最終章になります。打ち切るという訳ではなく、単純にやりたい話は全部やったんです。でも、最後はやりたいことをトコトン詰め込みます。


次回、及び最終章の始動は2週間後になります。

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