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攻め方を変えるべきかな


 正面から突っ込んでくるセナト。

 彼がグルグルと腕を回す度、黄金で形成されたソレは、まるでランスのように鋭くなっていった。


 「せりゃあ!」


 鋭く伸びた腕が床を貫く。

 すんでのところで、グリフォンとサンチェスは左右に避け、ディテールに至っては跳躍により、セナトを飛び越えた。


 「“クネちゃん”……。大量放出でお願いします」


 空中でディテールがそう呟き、頭に乗った“蜘蛛”を軽くなぞる。

 すると、“蜘蛛”の口からおびただしい量の“糸”が噴射され、セナトの身体を巻き付けた。そしてそのまま、壁に糸を張り留まる。


 「ナイスだ、ディテ嬢!」


 糸により束縛されたセナトに、グリフォンが殴り掛かる。

 しかし―――

 響いたのはガンッという金属音。グリフォンの拳が当たる直前、セナトの腕が変形し、黄金の盾を形成したのだ。


 「なにっ?!」

 「そんな驚かんでくださいよ。次はこっちのターン……」


 絡まった糸を、刃状に変形した腕で切り払い、グリフォンへと斬り掛かる。


 「―――いや、俺のターンだ」

 

 グリフォンの目の前を電撃の塊が、軌跡と、肉を抉るような音を残して、セナトを吹き飛ばし、壁に衝突させる。

 すかさずグリフォンは顔を向けると、アルゲーザーを構えたサンチェスが立っていた。


 「助かった。危ないところだったぜ」

 「さっきの借りだ、感謝しろ」


 サンチェスがアルゲーザーを構えたまま、視線だけグリフォンへ落とす。


 「あの一撃で倒せる奴にも思えん……。早く立て直せ」

 

 サンチェスの読みは正しいようで、立ち上る煙幕の中から押し殺したような笑い声が響く。 

 煙が晴れると、そこには右半身を黄金で覆い、膝を着いたセナト。


 「今のが直撃してたら、相当危なかった」


 展開させていた黄金を腕の形へ戻し、セナトは立ち上がる。彼の背中には、電撃によってつけられたであろう、火傷の痕が残っていた。


 「俺が攻めようと、防御を解けばその隙に他の誰かが攻撃してくる。単純だけど、数的有利を活かしたいい戦法。……いや、俺が無闇に攻めすぎたかな」


 顧みるように呟き、セナトは首を回す。ボキボキと骨の鳴る音が、一番離れたサンチェスにまで聞こえてくる。


 「となれば俺も、攻め方を変えるべきだな―――」


 セナトが壁に手を着く。するとその手を中心に壁が歪み、彼の黄金の腕がミルミル膨らんでいくのだ。


 「なにしてやがる!」

 「黄金の吸収だ。この建物の壁は黄金で造られているからな」


 ダムが崩壊するように、腕に溜まった黄金が一気に全身を覆っていく。


 「させるかよ!」

 「やめろ! 無闇に近づくな」


 サンチェスの忠告を無視し、グリフォンが突っ込み拳を上げるも、難なくセナトの手に受け止められてしまう。


 「もう遅い――― 。十分な量は得た」


 全身にまで行き届いた黄金が変形し、まるで西洋の鎧のような形、装飾を成して行く。

 龍のような甲冑に、動きやすいよう細く設計された胴体。腕は樽でも入れたかのように太くなり、指先には鋭い爪が伸びた。


 「―――さぁ、反撃開始だ」


 篭った声が甲冑から響く。

 巨漢であるグリフォンをセナトは片手で軽々持ち上げると、まるで木の棒でも振るうように床へ叩きつける。

 グリフォンから掠れた声が漏れ、口から鮮血が溢れる。そして一瞬の猶予も与えられぬまま小石の如く投げ飛ばされた。


 「くっ!」


 その軌道上にいたサンチェスは、“神眼魔術”により予期していたが、避けられるかは別の問題だ。

 直撃は避けたものの、サンチェスもグリフォンと共に吹き飛ばされ、壁へ直撃した。


 「す、すまねぇ……」

 「謝罪は後でもっと誠意を込めろ! それより奴だ!追撃が来る」


 グリフォンが目を見開く。

 その瞳に映ったのは、凄まじい速さで距離を詰めてくるセナト。

 サンチェスは雄叫びを上げ、アルゲーザーを乱射させるも、セナトはスピードを落とすことなく突っ込んでくる。


 「無駄だ! そんな電気ではこの“黄金”は止められない」


 発情期のオス牛の如く突き進んでくるセナト。もう誰にも彼を止められないように思えた。

 が、セナトの動きは突然に静止したのだ。


 「残念ですが、私もいるんです」


 黄金の鎧に巻き付けられた白い糸。

 セナトは甲冑だけを回し、背後を見る。

 壁に張り付いていたディテールがゆっくりと地面に降りてきた。


 「面白い魔術ですね。女の子だったら間違いなく“タチバナさん”がスカウトしてますよ」

 「残念だが仲間になんざなるつもりはねえぜ。グアリー様にも恩があるからな。―――こんな糸ごとき……」


 セナトが力むと、糸は簡単に解けてしまう。しかし、糸は付着したままであり、金一色であった鎧に白い模様を付けた。


 「こう何度も邪魔されては面倒だ。まずはアンタから……」


 セナトは踵を返し、黄金で強化された跳躍力をもって、ディテールに急接近する。

 豪腕を振りかぶり、ディテールの華奢な体躯を殴りつける。しかし、拳が彼女に当たろうという瞬間、セナトの体が再び静止した。


 「―――糸というのは便利なものです。こうして罠をはることもできます」


 ディテールの前に張り巡らされた幾本もの糸。目を凝らし、存在すると疑わなければ見えないほど細い、その糸が絡みつき、セナトの動きを止めたのだ。


 「小賢しい真似を! こんな糸スグに……!」

 「捕らえるためのモノではありませんよ。時間を稼ぐためのものです」

 「ドリャアアァッ!」


 その瞬間、セナトの背中に、グリフォンのガンドレットが突き刺さった。


 「その程度の攻撃、通るとおもうな!」


 鎧の一部が鋭く伸び、サンチェスのサングラスを掠める。そしてセナトは絡みついた糸を振り払うと興奮を顕に叫ぶ。


 「俺に物理攻撃は効かない!その程度の攻撃じゃ、鎧に傷を付けることすら不可能なんだよ!」

 「その通りだと思います。その硬さと柔軟性。殆どの攻撃を無効化することが出来るでしょう」


 何故お前が言うのだ! とセナトがディテールを見ると、彼女は目を細めて微笑み掛けてきた。


 「しかし、貴方の発言には語弊があります。物理攻撃が効かないはあくまでも“鎧”であり、貴方“自身”ではない」

 「何が違うと言うんだ!」


 今度こそと殴り掛かるセナトに、ディテールは再び糸を巻き付ける。


 「何度も何度も同じ手を―――」

 「今回の糸は別格。データを元に強度を上げるよう練り上げたものです。最強の鎧とて、破るのに数秒はかかります」

  「その数秒で何が出来る?!」


 セナトが叫んだ次の瞬間、彼の体が宙に浮かんだ。

 一瞬、何が起きたかセナトは分からなかったが、床を見下ろした瞬間に理解した。ディテールに持ち上げられたのだと―――。


 「人を見た目で判断するのは危険ですよ。―――まぁ、私は“人”ではありませんけどね」


 少女の華奢な体からは到底出すことが出来ないであろう力をもって床に叩きつけられるセナト。甲冑の隙間から夥しい量の血が漏れる。


 「いくら(外側)が硬くとも、その中にいる貴方は生身の人間。衝撃を与えれば人間(内側)だけ破壊できます」


 ディテールの言う通り、セナトは全身がぬるま湯に浸かっているような感覚を得ており、意識も明確ではなかった。だが、彼はまだ終わらない。

 着地の瞬間、黄金を背中に集中。そして軟化させることで衝撃を和らげたのだ。

 しかし―――裏を返せば背中“以外”の黄金は薄くなっているということになる。そんな場所をピンポイントに狙われれば―――。

 

 自分の傍らには“二人”の男が立っている。

 その事にもう少し速く気づけていれば結末は変わっていたかもしれない。

 ―――不味い!

 そう思った時には手遅れだ。


 撃ち込まれる拳と、アルゲーザーの一撃。

 それは黄金の鎧を破り、セナトの腹部に直接めり込んだ。


 「やったか……?」

 「体が“く”の字に曲がったからな。流石に起きないだろう」


 二人は動かないセナトを見下ろす。

 少し不安になったグリフォンが膝をつき、脈を調べる。


 「一応、生きてはいるみたいだな」


 安心したように胸を撫で下ろすと、ディテールがこちらへと駆けてくる。


 「何とか倒せましたね」

 「ああ……。それよりなんだお前! あのバカ力は?!」

 「本当はもう“人肌”脱ぐことも出来たんですけどね?」

 「返事になってないわ!」


 サンチェスが喚く中、グリフォンは窓越しに本堂の方へ目を向ける。


 「大丈夫か? ―――シャルロット」

最初に謝ります。本当はシャルロットVSグアリーを書く予定でした。

しかし体調不良により、書ける状態では無かったため、急遽こっちの話にしました。

本当に申し訳ないのですが、水曜も投稿できそうにないので、次回は来週の日曜日にします。


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