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馬鹿にしないで……!


 グアリー邸は混戦状態。

 シャルロットさんの右腕は毛丸け。

 そして登場には失敗……。

 納得出来ない事は多いが、やる事は明確だ。

 ―――金髪で生意気な奴、“女神グアリー”を倒せばいい。


 「ガアアアアアッ!!」


 先程の失敗を取り消すように、雄叫びを上げながらグアリーに突っ込んだ。

 “蛇”と“獅子”でがむしゃらに攻撃を仕掛ける。しかし、どれだけ攻めようと“蛇”は宙を切り、“獅子”は虚空を突くばかりで、グアリーには一切当たっていないのだ。

 まるで舞うように、ギリギリを躱していくグアリーに苛立ちが蓄積されていく。


 「ちくしょう! どういうカラクリだよ」

 「誰を相手にしてると思ってるのですか? 私は“神”ですよ。“神眼”をもってすれば大半の攻撃は見切れます。私を倒したいならば、“異世界”からでも狙撃するのですね……」


 最小限の動きで躱すグアリーに対して、俺は策も無く乱雑に攻め立てている。体力の消費は明確だった。

 段々動きが鈍くなっていき、遂には息を切らして止まってしまった。


 「あら? もうお終いですか。私はまだ一度も攻撃していませんよ?」

 「うるせぇ……。持病の息切れだ。疲れてなんかねぇよ」

 「貴方は中々面白いものに魅入られているようですが……、貴方自身の器が小さすぎますね。何一つとして上手く活用出来てはいません」


 女神は興味深げに俺を観察する。


 「このまま遊んでいるのも悪くはありませんが、本日の主旨とズレてしまいますね。―――貴方の相手は“セナト”に任せます」


 グアリーがそう言った瞬間、俺の顔面に蹴りつけられる靴の底。

 後方に吹き飛ばされ背中を打ち付けた。


 「何だ?!」


 体を起こすと、そこには金色のローブを纏った少年が立っていた。


 「やっと俺の出番でっか?」

 「ええ、彼の相手をしておいて。貴方の“同類”みたいよ」

 「へー、そりゃあ楽しめそうですな」


 ローブの少年は格闘家のように拳を構えた。その腕は“黄金”で、月光を受けて輝いている。


 「いきなり現れやがて……何者だ!」

 「星宮 セナト。女神グアリー様に召喚された“転生者”だよ 」

 


―――――――――――――――――――――



 「ダメだ! ビクともしねえ!」


 グリフォンが嘆息をあげる。 

 シャルロットに付着した“黄金”を剥がそうとしていたのだが、全く微動だにしないのだ。

 しかし、グリフォンは諦めなかった。

 深呼吸をすると、再び“黄金”に手をかける。


 「私を構わないでください! それよりウルカ様を……」

 「喚くんじゃねえよ!」


 グリフォンは柄にも無く叫んだ。


 「俺はな、アンタがこの屋敷に来た時から知ってんだ。まだマトモに喋れない頃からな! 俺からすればウルカ様とアンタは姉妹みたいなもんなんだよ! お前を放っておけるか」


 その時、シャルロットの体が宙に浮かび、壁に背中が打ち付けられる。そして“黄金”が壁と同化した。

 見れば、グアリーが剣を片手にこちらへ近づいて来ている。


 「だから―――」


 グリフォンは両腕を捲り、筋肉の詰まった肌を露出させる。


 「俺はどっちも救うぞ。片方を見捨てるなんて絶対にしない」

 「次は貴方ですか? タダの人間如きが“神”に勝てる道理など―――」

 「ああ、タダの人間だよ。お前みたいに“神眼”も無ければ“予知能力”もねえ。だから無謀なことも出来るってもんだ」



―――――――――――――――――――――



 「はははっ。やっぱり体を動かせるってのは良いもんすね」


 戦闘の中、セナトはさも嬉しそうに笑う。まるで、スポーツでもしているかのようだ。

 彼の戦闘スタイルは至って単純。ただ殴るだけである。しかし、両腕が“黄金”でコーティングされている為一撃が重い。

 奴の右ストレートを両手で受け止めた。


 「テメェ……。グアリーの呼んだ“転生者”だと?!」

 「さいでっせ。“教会”にバレると不味いらしくて、今日の今日までずっと監禁されてたんすわ」


 その時、受け止めたはずの“黄金”が液体のように溶けた。

 スライムのような感触に怯むうちに、俺の手から零れ落ちた“黄金”がセナトの肩に集結し、腕を再形成する。


 「でもお陰で“黄金”を操る能力を貰えたんすけどね!」


 セナトが拳を振り上げる。

 が、すかさず“獅子”を彼の腹部に押し込めた。


 「撃てっ!!」


 “獅子”は砲撃を放ち、爆音と共に黒煙が立ち上った。

 “黄金”を操れるとは言え今の一撃で無事な訳はない。

 …………もちろん、こんな期待はすぐに打ち滅ぼされる。


 「くぅ~。今のは効きましたよ」


 黒煙が晴れ、そこに居たのは平然と笑うセナト。ただ、その腕は盾の形を模していた。


 「“本物の腕”が生えてたらマトモに喰らってましたね」


 単純な話だ。砲撃を放つ瞬間に腕を盾に変形させ、衝撃を最小限にまで殺したのだ。

     

 「まさか“飛び道具”まで備わってるとは……。それは俺も同じ事っすけど」


 “黄金”を腕の形に戻したセナトは、野球選手のように大きく振りかぶり、何かを俺に投擲した。 

 投げた物が俺の足元に当たる。それが何か気づいた時には既に手遅れであった。

 ―――“黄金”である。

 見れば、セナトの腕が片方だけ短くなっているではないか!


 「足は固定させた。これで逃げられませんな……」

 

 セナトが一気に距離を詰めてくる。

 しかし、“蛇”が彼の前を横切り、その進行を妨げた。


 「おっと、まだ“蛇”(そっち)がおったか」

 「動きは止めれても、戦う術は―――」


 その時、口が動かなくなった。目を下げれば“黄金”がベッタリとこべりついている。


 「口を塞げば詠唱も出来ないじゃろ?」


 この野郎……、俺が得意げに話してる隙にまた“黄金”を投げやがったのか……。

 “蛇”や“獅子”は詠唱で動く。つまり、口が動かなければ無意味だということだ。

 脳筋野郎と思いきや中々の頭脳プレイである。そう思ってる間にも、セナトは短くなった指を鳴らしながら近づいてくる。


 「無抵抗な奴を殴るのは性分じゃねえが、グアリー様の御命令なんでな」


 これは不味い状況だぞ……。



―――――――――――――――――――――


 「グアぁぁ!」


 ホールにグリフォンの叫びがこだまする。

 もう何度切られたか分からなかった。白かったシャツは出血で汚れ、肩で息をしている。

 しかしそれでも彼はグアリーに立ちはだかった。


 「どうやら人間を、いえ、貴方を見くびっていたようですね」

 「そりゃあどうも女神様……。褒美にこれで勘弁してくれないか?」

 「残念ですが受け入れられません。しかしこのままでは永遠に続きそうです……」


 グアリーは指を鳴らす。

 すると、グリフォンの足がみるみるうちに“黄金”で包まれていき、その範囲は全身にまで渡っていく。


 「ちっ……。ダメだ! 身動きが!」

 「出来るだけ“黄金”は節約したかったのですが……、貴方への花向けです。―――“黄金”に溺れなさい」


 グリフォンは固まりゆく顔を動かし、シャルロットの方をむく。その表情に諦めの色は無く、まるで激励をいれるようであった。


 「シャッ―――」


 彼の言葉が届くことは無かった。

 シャルロットは叫びたくなる気持ちを必死で抑え、水滴の零れそうな瞳も、顔を振って誤魔化した。

 グアリーがため息をつき、シャルロットの首筋に剣先を向ける。


 「これが最後です。ウルカを差し出しなさい」


 女神は冷たい瞳で告げる。

 屋敷の外では今も尚、混戦は続いているだろう。

 ヨツバとグリフォンは“黄金”で硬められている。

 ハナから期待してなかったが、助けが来る見込みはない。あったとしても女神の前では無力だ。

 シャルロットは微笑む。

 シャルロットは躊躇しなかった。

 “黄金”で硬められた右腕を、彼女は“もぎ取った”。

 そして残った左腕で女神の首筋を掴み上げる。


 「そんな……! 自分の―――」


 喉が締められ声が掻き消える。女神の腕から剣が零れ落ちた。

 その光景を、シャルロットは無表情で見上げていた。

 彼女の微かに残った心は理解した。

 ―――自分は人間をやめたのだと。

 いや、元から人間になどなれてなかったのだと。

 人間の皮を被っていたケモノだと……。  


 

 「やめなさいっ!」



 ホールに響く少女の声。

 あの小さな体から出たとは信じられない程大きな、凛としたものであった。


 「―――ウルカ、様?」


 シャルロットの力が緩まった。

 すかさず、グアリーは脱出する。

 玄関ホールの2階に現れたウルカ・グアリー。彼女の登場に、その場の誰もが静止した。

 ウルカは静かに階段を降りる。そして、女神グアリーの前に片膝を着いた。


 「ウルカ様! 何をして!?」


 シャルロットの声が聞こえないのか、ウルカは彼女に顔すら向けない。


 「女神グアリー様、―――私の者達がとんだ失礼を、申し訳ございません」


 シャルロットはウルカが何をしているのか理解しようとしなかった。


 「つきましては、私めの体を身体を捧げます。ですからどうか、私の従者共はお救い下さい……」


 シャルロットの思考を含めた全てが完全に停止した。唯一動いているのは、右腕から垂れるおびただしい量の血だけだ。

 呼吸を整えて立ち上がったグアリーはウルカを見下ろすと、考える間もなく決断した。


 「いいでしょう。貴方の従者は全て解放します」


 グアリーが指を鳴らすと、右腕に着いたものから、グリフォンを覆い尽くしたものまで、全ての“黄金”がグアリーの手に戻り、そして消えた。


 「では、参りましょうか」


 ウルカは立ち上がり、女神の後に着いていく。

 シャルロットは行動しなければと分かっていても、体は一向に動こうとはしなかった。


 「ちょっと待てよお前!」


 叫んだのはヨツバだ。

 興奮気味にウルカへ詰め寄り、彼女の肩を掴む。


 「何してんだよ! ここにいる皆お前の為に頑張ってんだぞ?! なぁ、“契約”が切れるナイフが存在するんだよ。今は無いが、頼めばきっともう一本貰える、だから―――」


 彼の言葉を遮ったのは、ウルカの平手打ちだった。

 少女は涙を溜めて声を張り上げる。


 「馬鹿にしないで……! この契約はお母様から受け継いだ大切な……、大切なグアリー家の伝統なの!」


 ヨツバは叩かれた頬を手で抑える。

 何をされたか分からない、といった様子であった。


 「おい! まだ話は―――」


 再び歩き出したウルカを止めようとした時、グアリーが指を鳴らした。

 次の瞬間、ヨツバがその場から跡形もなく消えた。


 「やかましい方ですね。彼女の意思を尊重してはいかがですか?」


 突然持主が消えた魔導書はポカンとしていたが、すぐに事の重大さを悟り、主の名を叫び始める。

 女神グアリーとウルカが去っていく。

 シャルロットは最後まで何も出来なかった。

 そして争いは終わる。

 誰もいなくなった屋敷で、シャルロットは一人哭した。 

水曜日の夜のはずが、木曜の朝になっていました……。気づいたら寝てたんです申し訳ない。


さて、今回は話が大きく動きましたね。

ウルカはいなくなり、ヨツバも消されてしまいました。ここからどうなるのでしょうか


次回は日曜日に、短めの話をやろうかと思います

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