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その名で呼ぶな!


 グリフォンがいない。それはシャルロット達にとって大きな損害であった。

 元警備隊長のサンチェスが投獄され、その代わりとして抜擢されたのがグリフォンである。長年務めてきた経験と、隊員からの人望が厚いという理由から選ばれたのだ。

 そんな彼がいないとなれば士気が下がるのは間違いないだろう。

 しかし嘆いても“連中”はやってくる……。



―――――――――――――――――――――



 グアリー邸の前には“グアリー教信者”の一群ができていた。皆金色のローブを纏い、その手には松明や、打物に得物、そして術具を持っている。

 そんな緊迫した空気の中だが、誰一人として攻め込もうとはしていなかった。


 「ダメです! 屋敷全体に結界が張られています」


 屋敷の周り一体を確信してきた信者が報告をする。それを聞いたダニールは髭を撫でながら難しい顔をした。


 「破るにはどれ位かかりそうだ」

 「短くとも一時間はかかるかと思われます」

 「では、すぐにかかれ」


 命令を受けた信者達が結界に触れ、詠唱を開始する。

 ダニールは眉間のシワを寄せた。


 「小賢しい真似を……」    


 この作戦にはダニールを始めとした幹部。そして大勢の信者達の命運がかかっている。

 失敗すれば、比喩や胡蝶ではなく間違いなく自分の首が飛ぶ……。そう考えると椅子の上で報告を待つ余裕など無かった。

 それはダニールに限ったことではなく……。


 「手こずっているようですね」


 ダニールの背後に腕を組んで現れた女神グアリー。皆の信仰の対象ということもあり、周りがザワつく。   


 「グアリー様。姑息なことに結界が張られておりまして……」

 「そうなの……」


 グアリーはゆっくりと歩き始める。

 彼女の歩みに自然と群衆は道を開け、ついには結界の前にまで辿り着いた。 


 「失礼」


 詠唱をしていた信者達が離れると、結界へと手を向け、グアリーは指を鳴らす。

 すると、地震でも起きたかのように揺れ始める結界。そして音もなく空気中に溶けていった。

 場が閑散とした。

 一時間はかかると言われた結界を一瞬で、それも指を鳴らしただけで破ったのだ。

 ダニールは恐怖した。

 そして更なる信仰心を抱く。自分の孫と変わらないような齢の外見をしたグアリー(少女)はやはり“神”なのだと、我々人間では到底敵わない存在なのだと……。


 「……さぁ、これで入れる」


 静寂は一瞬にして喚声に変わった。

 信者達が勢いよく敷地内に乗り込んでいく。


 「流石でございます……。グアリー様」

 

 その光景を満足げに見ていたグアリーに、ダニールがへつらう。


 「大した事ではありません。―――行きますよ、“セナト”」


 グアリーはそう声をかけると、自身もグアリー邸の敷地内に足を踏み入れた。その後を金色のローブを纏った少年が着いていく。


 「あれが噂の……」


 一人残されたダニールは敷地内に入っていく二人を眺めるのだった。  


   

―――――――――――――――――――――



 凄まじい轟音と共に、“教団信者”達がグアリー邸の庭に侵入してきた。


 「迎え撃てっ!!」


 警備隊員が叫び、2つの勢力は正面衝突する。


 「来たか……」

 

 2階から眺望していたシャルロットが呟き、右腕に巻かれた包帯を締め直した。 

 予想よりも早い襲撃だが悪いことばかりではない……。

 シャルロットは、グアリーが入ってくるのを目撃し、助走をつけて窓から飛び出した。

 ―――女神グアリーが来ている。奴を仕留めさえすれば……。

 強靭な脚力をもってシャルロットは戦場を駆ける。“目標”はただ一つ。立ちはだかる信者達を薙ぎ倒しながら、女神グアリーに向かって突き進んだ。

 目標に接近。女神は散歩でもするかのように悠然と庭を歩いている。

 雄叫びも上げず、気配を殺して、シャルロットは死角よりグアリーに向けて手刀を繰り出す。

 グアリーは気づいていない。そして、その長く伸びた爪が、グアリーの首に刺さろうという瞬間、……シャルロットの腕が“黄金”に包まれた。


 「あら? ごきげんよう」


 グアリーが今気づいたかのように微笑みかける。


 「襲ってくるなら貴方だと思ってました。危なかった、今のは“死んでた”かもしれない」

 「……くっ!」


 完全に気配を殺していたはずである。何故気づかれたのかシャルロットは思考を巡らす。


 「神に奇襲なんて通じるはずが無いでしょ?」


 グアリーが指を鳴らすと、まるで不可視の力が働いてるかのように、シャルロットの身体が凄まじいスピードで横移動し、屋敷の壁を突き破った。




 「くっ……」


 シャルロットは足に力を込めながらゆっくりと立ち上がった。壁に打ち付けられた身体は、動かすことすら精一杯なはずである。 

 終着したのは奇しくも、女神グアリーの彫刻がある玄関ホール。

 ホール中央に堂々と飾られた彫刻を睨みながら、右腕にまとわり着いた“黄金”を剥がそうとした。

 

 「無駄ですよ」   

  

 その時、壁の穴からグアリーが姿を現した。


 「どれだけ力を加えようと、その黄金が外れることはありません」


 グアリーは瓦礫の上を歩きながら、シャルロットに近づいていく。

 シャルロットは拳を繰り出す。が、右腕の“黄金”が空間に固定されてしまったかのように、グアリーに触れる直前で止まった。

 

 「襲おうするのも無駄です。絶対神に抑制されたとはいえ私は“黄金”を操れる。それは“黄金”の着いた貴方も同じことです」  


 グアリーが再び指を鳴らすと、シャルロットの右腕が上を向き、吊るされるような状態になった。


 「私も神である以上、信仰者の血が流れるのは苦しいこと……。ウルカさえ引き渡せば負傷者が出ることもないわ」  


 獣を宥めるように、女神はシャルロットの頬に手を伸ばす。その優しい囁きは、彼女の抱く殺意を包み込むほどだ。

 ……しかし、シャルロットは応じない。

 グアリーが寄ってきたのを見計らって首を伸ばし、その顔に噛み付こうとしたのだ。

 グアリーはそれをギリギリで躱す。


 「反抗的ね……。こちらが本性でしょうか? サクルもよく調教したものです」

 「貴様如きがサクル様の名を出すなっ!」


 シャルロットの脈が速くなり、歯をむき出しにしてグアリーを睨みつける。“ソレ”は大凡“人間”と呼べるものの顔つきでは無かった。


 「反抗する気持ちも分かります。が、ウルカをかくまったとして、貴方では彼女を救えないでしょう」

 「ならば諦めて貴様に差し出せというのか!」

 「では、このまま見殺しにしますか? 貴方のくだらない感情のせいで大きな損失をだすのですか?」

 「くだらない感情などでは無い! サクル様に誓ったのだ。私がウルカ様を守ると」

 「ほう……?」


 グアリーは興味深げに顎へ手を当てた。


 「先程からサクルの名で反応すると思えば、そういうことですか……。 やはり貴方、サクルに拾われた“未確定(シェイプシフター)”の“人喰い”ですね」

 「その名で呼ぶな!」


 喉が痛くなるほどの声で叫び、シャルロットの黄色い瞳がよりいっそう開かれる。


 「ということは、先程の右腕―――」


 グアリーがそう呟くと、“黄金”が退いていき、包帯が巻かれたシャルロットの右腕が顕になる。


 「くっ……!」


 まとわりついた“黄金”が重さを増し、シャルロットは膝を着かざるおえない。そして、こうべを垂れるような体勢にさせられ、抵抗できないまま、包帯が丁寧に解かれていく。


 「ふふっ……。やはりそうでしたか」


 グアリーは嬉しそうに含み笑う。

 包帯の先にあったのは“獣の腕”。黒毛で覆われ、生を殺めるのに特化した長い爪を携えている。―――誰が見ても人間のものではなかった。


 「私を殺すために“獣”を食したようですね。かつて“人喰い”の名を世に轟かせただけはあります」


 グアリーは博物館にでもいるかのようにマジマジとシャルロットの腕を眺めると、小さくため息をついた。


 「しかし“醜い”。人の体躯にはあまりに不格好です」


 気づくと、グアリーの手に“黄金”の剣が握られていた。彼女はそれを振りかざす。


 「私が切り落として差し上げます。その溢れる威勢と反抗心も多少は衰えるでしょう」


 シャルロットは必死に体を動かそうとするも、“黄金”で固められ全く身動きがとれない。

 刃が振り下ろされようという瞬間、轟音と共に眩い閃光がグアリーを掠めた。


 「ちっ……。ここぞって所で外しやがるなこの支給品はよ」

 「グリフォン!」


 現れたのは警備隊長のグリフォン。警備隊員に支給される拳銃をグアリーに向けていた。


 「誰かと思えば、なんの用です? 今頃現れて英雄気取りですか」

 「ま、そんなところだな。―――あれ? まだ一発しか撃ってねえのに故障しやがったぞ……。これだから支給品は……」


 何事か呟きながら、グリフォンは手に持っていた銃を投げ捨てた。


 「でも少し違うぜ、グアリー様よぉ」


 グリフォンはサングラスを外し、グアリーの方を指さした。


 「英雄は俺じゃねえんだ」

 「何を言って……」


 グアリーが眉をひそめる中、シャルロットは目にした。

 ―――グアリーの背後より何者かが駆けてくるのを。

 ―――腕には“獅子”を纏い、背中には“蛇”を携えたヨツバを。


 「テンメェェェ!! シャルロットさんに何してくれとんじゃぁァ!」


 ヨツバは叫びながら殴りかかる。

 が、最小限の動きでグアリーに躱されてしまった。


 「え?! この流れで避けれるのか!?」

  

 勢いを殺せずそのまま壁に追突する。その後ろを人型魔導書が気まづそうに追って行った。


 「大丈夫ですか……、マスター」

 「まだ大丈夫だ。ここからカッコイイポーズを決めれば立て直せる」

 「もうダメです……。完全に登場を失敗しました」


 魔導書に手を貸してもらいヨツバは立ち上がる。

 いきなり乱入してきた部外者に、グアリーを含めその場の全員が困惑するのだった。  

今回の話は書くのに時間がかかりました。

シャルロットの正体が明かされるシーンがありますからね。結果としてあまり盛り上がる感じではなく淡々とした感じになってしまいました。反省します。

もうひとつ困ったのがヨツバの登場シーンですね。予定では、グアリーを殴りつけてカッコよく登場するはずだったんですけど、書いてるうちに「これヨツバじゃ絶対攻撃当たらんやろな」って思えてきたんです。そして結局かわされるというオチでした。まぁ、ヨツバですし、シリアスになりすぎてましたし、この位がちょうどいいかもしれません。


次回は水曜日

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