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貴方の名前は?


 まだ名前が無く、“ツギハギ”だらけだった頃の私は―――。

 小屋の中で鎖に縛られていた。まともに動かせたのは瞼くらいだ。

 暗くて寒くて臭くて……。誰もいない。何故ここに居るのかも思い出せない。

 そんな中、掠れるような音をたてながら扉が開き、部屋に光が刺した。

 入ってきたのは小太りな男と、金色の髪をした女性だった。

 顔はよく見えない……。

 

 「この子が噂の?」

 「ええ……。“人喰い”でございます。昨晩やっと捕らえました」


 ―――捕えた!

 その言葉で思い出した。昨晩、何人もの人間に抑え込まれた事を……。酷く痛い目にあった事を……。

 鎖を軋ませる。男に飛びかかろうとするも、身体は全く動かなかった。


 「元気みたいね。―――鎖を外してちょうだい。話がしたいわ」

 「く、鎖を外す?! お客様何を言っ―――」

 「大丈夫よ。これから親しくなるというのに、縛られていてはマトモな関係が築けないでしょ?」


 慌てる男を遮るように、女性は圧のある声で言った。

 男は少し黙った後、仕方なく私の拘束をとき始める。

 哀れな女だ。開放された瞬間、喉元を噛みちぎってやろう。そう決意した時、女性は私の前に屈むと、彼女の顔が私の目に飛び込んできた。

 ―――綺麗。

 それ以外の感情は消えてしまった。

 鮮やかな金髪に、凛としながらも力強い双眸。

 鎖から解放された事にも気づかず、私は彼女に見とれてしまった。


 「綺麗な髪ね……」


 女性は私の顔を包み込むように手を伸ばす。彼女に見つめられ、私は瞬き1つさえ出来なかった。


 「決めた」


 女性は振り返り、男に告げる。


 「彼女を貰うわ」

 「しかし奥様! あの“人喰い”ですよ?!」


 私は“貰う”という言葉の意味を必死に考えいて、男の声は一切入ってこない。


 「そんな肩書き関係ないわ。彼女になら任せられる。そう感じたのよ」


 彼女は再び私の顔を見ると、肩に優しく手を添えた。


 「貴方の名前は?」


 名前……? そんなものは知らない……。

 それがとても恥ずかしい事に思えて、私は目を逸らした。

 私の仕草が可笑しかったのか彼女は微笑む。

 

 「まだ無いのね。なら私が名ずけ親になってあげるわ。―――そうね……。シャルロットなんてどうかしら? 女の子らしくて素敵じゃない?」

 「シャルロット……?」


 味わうように、確かめるように何度も声にだした。

 名前の存在意義はまだ分かっていないが、彼女が私にくれた。それだけでとても嬉しかった。


 「そうよ、シャルロット。貴方は私の従者になるの。―――私の名前はサクル。サクル・グアリーよ」



―――――――――――――――――――――  


 

 「ちくしょう……。何が楽しくて夜中に街を徘徊しなきゃいけないんだよ……」

 「いいではありませんか。ロマンチックですよ」


 説明的な口調であった為何となく状況は掴めただう。俺とビオラは夜の街を徘徊していた。

 これがデートならば悪くないシチュエーションなのだが、勿論そんなわけは無い。

 俺達は“見回り”に来ているのだ。


 「で、何が逃げ出したんだっけ?」

 「未確定(シェイプシフター)ですね」


 そう、何処ぞの貴族が飼っていた“未確定(シェイプシフター)”が逃げ出したらしいのだ。

 ―――“未確定”。姿が無く、満月の夜に食べたモノに変身するという怪物だ。

 満月の夜は数日後のため相当凶暴な状態らしく、被害者が出てもおかしくない。その為被害が出ないよう、市民や学園の有志がこうして夜道の見回りをしているわけだ。言うまでもなく俺は、副校長に無理やりやらされてるだけである。


 「でもなんで、皆躍起になってるんだが」

 「以前にも“未確定”の被害があったようですよ。その時は何十人もの被害者を出したそうです」


 なるほど……。どうりで民間のオジ様方が血眼になって、猟銃まで担いで探し回ってるわけだ。

 長期休暇中に見た“未確定”は檻の中で、黒煙のような見た目をしていた気がする。アレが被害者を出すとは到底思えないが……。


 その時、奇妙な叫び声が響く。まるで黒板を爪で掻きむしったような声だ。おおよそ人間が出せるものでは無い。


 「近いな……」

 「向かいますか?」

 「聞いちまった以上、仕方ない」


 兜の緒を締めるように目付きを鋭くし、叫び声の方角へ走り出した。  




 辿り着いたのは、魔導書屋の近く。ちょうどビオラを買った所だ。

 再び叫び声が上がった。先程より小さく、すぐ近く―――そこの路地を曲がった所から聞こえてくる。


 「あそこか……」


 音をたてぬようゆっくりと近づいていく。  

 そこには何かを踏みつけている、“誰か”がいた。

 何か見てはいけない現場を見てしまった気がして、俺は咄嗟に壁へ身を潜める。

  

 「……哀れなものだ」


 女性の声だ。小さいがハッキリと聞き取れ、どこか聞き覚えがある。

 バレないよう慎重に顔を覗かせると、暗闇で女性が踏みつけている“モノ”が微かに見えた。

 犬と猫を合わせた異形の顔に、足は馬のようなヒズメをしている小動物である。異世界とは言え、あんな生物は見たことが無かった。


 「……│未確定シェイプシフターですね」


 ビオラが囁く。  

 “未確定”は首元を押さえつけられ、もがく度に骨が軋む音を立てている。見ていて気分の良いものでは無い。


 「……私も、お前のようになっていたのかもしれない」

 「ナンデ……? ナンデ……!? オマエモ……」


 怪物の圧迫された喉から掠れた声が出される。が、その声も途中で止まってしまった。女が怪物の首を踏み潰したからだ。

 その光景に堪らず声が漏れた。

 

 「……誰かそこにいるのか?」


 女性の声がこちらに向けられ、俺は肩を震わせる。

 バレてしまっては仕方ない。まさかあの怪物と同じ目には合わないだろうし……。

 俺とビオラは恐る恐る姿を晒す。

 目の前に佇む女性を見て、俺は目を丸くした。


 「シャルロットさん……?」


 そこに居たのはウルカの従者であるシャルロットさんその人だったのだ。

 シャルロットさんは俺と同じように目を丸くすると、すぐに視線を下げた。


 「見ていたのか? ……今のを」

 「一部始終は……」

 「……そうか」


 シャルロットはそれだけ言うと、その場から立ち去ろうとする。


 「“未確定(あれ)”は君の手柄ということにしておいてくれ」


 すれ違いざまにそう言われた。

 彼女の歩調は素早く、まるで俺達から逃れるかのようだった。


 「ちょっと待ってくださいよ! ウルカの事と言い、聞きたい事があるんです」

 「残念だが、何も話せることは無いんだ……」


 シャルロットさんはそう言い残すと走り出した。

 ……おかしい。一体ウルカに何があったというのだ。そして何故シャルロットさんがいる?

 真夜中の路地裏には“未確定”の血が楕円を描いていた。

ついに始まりました、シャルロット編です。

誰やねんって思った方2章に出てます。ヨツバの初恋の相手ですね。

そしてシェイプシフターも登場しましたね。長期休暇で無理やりねじ込んだアイツです。この話に使いたいがために登場させました。


シャルロットとウルカを登場させた時からやりたかった話なので気合い入れて頑張ります!チャンスがあれば昔のキャラもねじ込んでいきたいですね!

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