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―――撃て



 屋上のミヤビは目を疑った。

 左半身が“黒い文字”で覆われたヨツバ。復活したと思えば、その腕に“獅子”を模したガントレットが装備されていたのだ。

 あの“獅子”、どう考えても“アンピの魔術”の一部だろう……。ミヤビは奥歯を噛み締める。


 「流石マスターです……」


 ビオラが分かっていたように呟き、掴んでいたミヤビの腕から、そっと手を離した。

 ヨツバが“バイガーの光槍魔術”でトドメを刺されようという瞬間、助けに行こうとしたミヤビを、ビオラが掴んだのだ。

 

 『マスターを信じてください……』


 縋るような目でそう言ったビオラをミヤビは忘れなかった。


 「ビオラっち、こうなる事が分かってたの……?」


 彼女の安堵した顔に、ミヤビは恐怖心を持った。もし分かっていたとしたら彼女は一体……。


 「いえ、分かりませんでしたよ? でも、マスターなら何とか出来ると思ったんです」


 緊張していた肩がスカッと抜ける。

 知らなかったのなら余計恐ろしい。彼女は何の根拠も無しに、ヨツバへの“信頼”だけでミヤビを止めたと言うのだ。


 「 根拠の無い自信は“持ち主”譲りなのかもしれないね……」


 ミヤビは、ビオラに聞こえないように呟く。

 しかし、ヨツバが立ち上がったとは言え安心はできない。まだ決着はついていないのだ。


 「可愛子ちゃん二人に信頼されてんだ……。絶対勝てよ、ヨツバっち」


 見下ろす校庭ではちょうどヨツバが、ゼキノに向かって駆け出したところだった。       



―――――――――――――――――――――



 とりあえず突っ込む。

 左腕を覆う“獅子のガントレット”はよく分かっていないが、それはゼキノも同じはずだ。それなら、把握される前に攻めるのが得策だろう。

 ゼキノが何かを呟きながら拳を構える。

 俺も左腕を振り上げた。


 「ガァァァァァァッ!!」 


 雄叫びを、空気を割く衝撃音がかき消す。

 魔術の影響か、ゼキノの腕は恐ろしく重い。力では押し負けてしまう。

 しかし―――   

 “獅子”から溢れるように、“黒い文字”がゼキノの腕を恐るべき速さで侵食し始めたのだ。


 「―――ちっ!」


 舌打ちと共に、ゼキノはたまらず拳を引く。

 この好機を見逃さない!

 俺は身を翻し、裏拳の要領で“蛇”をゼキノに打ち付ける。

 ゼキノは苦悶の吐息を漏らし、更に俺は“獅子”を彼女の腹部へ押し込んだ。そして、脳裏で過った言葉を無意識的に呟く。


 「―――撃て……!」


 轟音と爆発、そして立ち上る“黒煙”。

 ゼキノが衝撃で吹き飛ばされ、反動に耐えきれず俺も尻もちをついてしまう。


 「ははっ……。ヤバいな“コレ”……」


 今まで経験したことの無い威力。

 冷汗を垂らしながら、左腕を見る。“獅子”の口から覗く銃口に黒い煙が立ち上っていた。その煙すら、“文字”の集合体であることに気づき、ゾッとさせられる。

 何故か震える左腕を手で握って抑え込む。

 

 「なかなか物騒な代物ね……」


 黒煙から、平然とした口調でゼキノが現れる。しかし羽織っていたコートは破れ、衣服もボロボロである。

 そして、“獅子”の直撃を受けた腹部は“黒い文字”が刻まれており、飛散したように全身にまて撒き散らされていた。


 「そっちは悲惨な状況みたいだな」

 「貴方も相当よ?」


 ゼキノが俺の左腕を指す。

 …………慣れてしまったのか、あまり驚かなかった。

 俺の腕は“文字”で真っ黒に染め上げられ、その一つ一つが虫のように這いずり回っているのだ。


 「構わねえよ……。お前を倒せるならそれでいい」


 立ち上がろうと足に力を入れる。が、グラついてまた尻もちを着いた。

 不味いな……どうやら魔力の限界が近いようだ……。倦怠感と疲労感で足に力を入れることが出来ない。

 そろそろ決着をつけなければ……。

 ゼキノの言う通り、“黒い文字”に詠唱の遅延効果があるとするならば、彼女も“詠唱省略”をしているとは言え限界が近いはずである。

 もう一度、“獅子”の一撃を決めて終わらせる……。

 ゼキノも同じ事を考えたのだろう、彼女が右手を掲げると光の粒子が集まり始めた。

 俺にトドメを刺そうとした魔術、“光の槍”を再び形成しようとしているのだ。それも、先程のより何倍も大きいものを……。


 「やるしかないか……」


 太ももを殴りつけ、無理やり立ち上がる。

 彼女は最強の魔術を持って、俺を葬ろうとしているのだ。ならば、それに応えるのが礼儀というものだろう。

 “獅子”にありったけの魔力を込めるよう、詠唱を開始する。―――詠唱の速さなら誰にも負けない。


 「頑張るのだヨツバ氏!」

 「メイザース殿の仇をとるのだ!」


 何故か聞こえたロザとウィリーの声は無視して、詠唱に集中する。

 思えば、“特典”やら“術具”持ちの相手ばかりで、こうして敵を前に詠唱するのは初めてかもしれない。

 ―――ゼキノ。

 今となっては、彼女に妙な親近感と尊敬の念まで抱いていしまっている。

 “術具”を使わず、詠唱だけで自分の力だけでここまで登り詰めたのだ。

 きっとゼキノと俺は同じ、何も与えられず“転生”してきた存在。“特典”も“術具”も無しで、自分の詠唱だけで戦ってきた。俺とは違って立派な努力を詰んだのだろう……。

 敵でなければ手を組んで、“特典”持ちの転生者をボッコボコにして周りたいものだ。

 しかし、ゼキノのは“魔力開拓”という愚行によって俺の琴線に触れてた。相容れるわけがないのだ。


 「出来るもんなら、師匠として仰ぎたいもんだが……」


 “獅子”に渾身の魔力が溜まったと同時、ゼキノの掲げた“光の槍”も完成したようだった。

 身の丈程ある槍を、ゼキノは片手で俺に向けた。

 お互い準備は出来た。

 次の一撃で勝負が決する。

 それからは静かだった。

 叫ぶことも、互いに名を呼ぶことも無い。

 “槍”が光跡を残し、“獅子”は“文字”を地面に洩らす。対比した色が距離を詰めていく。

 

 そして―――


 刃の刺さる、嫌な音。しかし、全く出血は無い。

 ゼキノは目を見開き、眉を顰める。


 「クソガキ……!」

 「よう……、“ママ”」


 ミライを真似るように、嫌味っぽく言ったのはハヤト。彼の胸には光の刃が貫通していた。

 “光の槍”が俺に刺さろうという直前、突如現れたハヤトが身を呈して俺を突き飛ばしたのだ。


 「オオバ! 決めろ!」

 「いきなり現れて何様だよ!」


 再び拳を掲げ、ゼキノの顔面に強烈な一撃をぶち込む。―――そして撃つ!

 轟く爆発と、校庭に上がる黒煙。しかし、ゼキノの身体は吹き飛ばない。“蛇”が彼女の身体に巻きついていたのだ。


 「駄目押しだ!」


 ―――撃つ! 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ!

 最後の一撃と共に、地面へ殴りつける。黒煙に混じって砂煙が上がり、ゼキノが起き上がることは無かった。

 大きく肩で息をしながら、ボヤけた視界と、不明瞭な思考で、俺は勝利宣言のように、“獅子”を天高く掲げた……。

 遠くからロザとウィリーの歓声が聞こえるような気もするが、今はそれどころではない。まだやる事があるのだ……。

 俺は踵を返すと、ハヤトの元へゆっくりと歩み寄る。


 「テンメェ! 何邪魔してくれてんだよ!」


 ヘロヘロになった足でハヤトを蹴り飛ばす。


 「 何しやがる!身代わりになってやったんだぞ!?」

 「余計なお世話なんだよ! 俺一人でも勝てたんだい!」

 「元々これは俺の問題なんだ、ただ見てるだけでお前が全部持ってくのは癪に触ったんだよ!」

 「なにを貴様……。美味しいとこだけもっ―――」


 その時、ハヤトの胸に空いた穴が目に入った。拳ほどの大きさで、人間ならば確実に死んでいただろう傷を―――。


 「…………まぁいい勘弁してやる!」


 実際問題ハヤトがいなければ、あの槍をマトモに喰らっていただろう。そうなれば、今地面に伏せていたのはゼキノではなく…………。


 「うぐ……」


 ついに“魔力切れ”になったのだろう、胸を刺すような痛みと嘔吐感が込み上げ、代わりに“蛇”と“獅子”が消えていく。―――しかし、俺の身体に刻まれた“文字”は残ったままだった。


 「まだやる事は残ってるぞ」


 ハヤトは気絶しているゼキノを、足で小突いた。


 「コイツの始末だ……」


 俺を庇っただけなのに何故そこまで堂々とできるのか……。

 これでは、お前が倒したみたいではないか?!

大分遅れてしまいました、申し訳ないです。

書いてる最中。2000字くらいでデータが消えたせいで、文章がいつもより簡潔かも知れません。

そして、ついにゼキノとの決着がつきましたね!ヨツバ1人(?)で勝った初めての相手です。


色々話したいですが、ネタバレする前にやめときます。

次回は水曜日

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