まずくないか?
ヨツバとゼキノが睨み合う。
そんな一触即発の場から立ち上がる事も出来ないメイザースの元に、ミヤビが現れた。
「やっほ、助けに来たよ」
そう言うとメイザースの肩に手を置き、次の瞬間には校舎の屋上に移動していた。
そこには、心配そうに主人を見つめる、人型魔導書と、不機嫌そうに佇むハヤトいた。
「ほら、ここなら特等席じゃないかな?」
ミヤビは手を広げ、校庭を一望出来ることを示す。
「……あそこの方が近くて見やすかったけど」
「ゲッ、素直じゃないし、吃ってもない。さてはアニっちじゃなくて“魔女っち”の方だな? 冷たくされると泣けちゃうなぁ……」
ミヤビは目に手を当て、メソメソと泣くような仕草をした。
―――友人がこれから戦うと言うのに呑気なもんだ。
「助けに行かなくていいのかしら?」
魔力開拓の恩恵が無いとは言え、ゼキノはかなり腕がたつはずだ。ヨツバがまともに戦って勝てる相手とは思えない。
ミヤビは泣くふりをやめ、肩をすくめる。
「助けたいのは山々だけどさ、あの二人って手出したかえって怒りそうじゃない? 俺一人でも勝てたんだ! とかさ」
そんな理由で……。とメイザースは思ったが、地団駄を踏みながら怒鳴り散らすヨツバの姿が容易に想像できた。
しかし―――
「それだけじゃないでしょ?」
「へは?」
大きく伸びをしていたミヤビが素っ頓狂な声を上げる。
「貴方は戦うのを恐れてる節がある……。誰かのサポートに回ってばかりで、自分が戦おうとはしない」
「…………」
ミヤビは決まりの悪そうに目を逸らす。
これ以上は触れるべきでないと判断したメイザースはため息をついた。
「何にしても、私はここで降りることにするわ。後は彼女に任せる」
メイザースは手に持っていた本を静かに閉じると、まるでうたた寝でもするように、カクッと首を落とした。
しばらくして、“アニー”が目を覚ます。彼女は何度かまばたきをした後、覚醒したようにハッと目を見開いた。
「おはよ、アニっち」
「あ、あぁ……ミヤビさん……。すいません、彼女が失礼な事を……」
「いいよ、ホントの事だし……。それよりアニっち、可愛い格好してるね?」
アニーは首を傾げる。
が、スグに自分がチャイナドレスを着たままだと気づいたのだろう、アザラシの鳴き声みたいな奇声をあげて縮こまってしまった。
「さて、ヨツバの調子はどうかな?」
ビオラの横に移動し、校庭で対峙する2人を見下ろす。未だ戦闘には発展していないようだ。
「大丈夫かね? ヨツバっち……」
「大丈夫ですよ」
ビオラは手すりを更に強く握る。
「マスターはちゃんと、強いですから……」
その発言は願望なのか、それとも事実なのかミヤビには分からない。しかし、一番近くで彼を見ていた存在が言うのだ。信じる価値はあるだろう。
「ところで、ハヤトっちは? さっきまでいたよね?」
ミヤビは辺りを見回し、ハヤトが何処にも居ないことに気づいた。
「先程まで私の横にいましたが……」
その時、ミヤビに悪寒が走った。
―――――――――――――――――――――
ゼキノ―――実力は不明だが、少なくともメイザースに瞬殺されない程の強さはあるはずだ。
しかし、いつまで経ってもゼキノは攻めてこない。構えることも無く、ただ悠然と立っているだけだった。
こちらから攻めるべきだろうか? いや、カウンターを狙っているのかもしれない……。あぁ! こんなに悩むならもっと実践を積んでおくんだった!
突然に、闘いの火蓋は切られた。
まばたきから目を開いた時、ゼキノが肉迫していたのだ。
「―――準備の時間を与えるなんて」
俺の首めがけて迫ってくる手刀。
その手は魔力が覆われ刃のように鋭い
しかし―――
「準備してたのはテメェだけじゃないんだよ!」
喉元に手刀が刺さる寸前、ゼキノの左腕を掴んだのは“蛇”の口。
まるで伝染するように、そして毒のように、“黒い文字”がゼキノの腕を侵食していく。
「さぁ、“蛇”で掴んぜっ!」
ここから! ここから……。ここからどうしたらいい?
その隙に、ゼキノがもう一つの手で腹部に掌底を叩き込んできた。
全身を揺らす程の衝撃。
後方に吹き飛ばされ、何度も砂利に打ち付けられる。
「ちっ……! くしょお!」
足を殴りつけて無理やり立たせ、追撃に備える。
しかしゼキノは攻めてこず、自身の腕に刻まれた“黒い文字”を訝しげに見ていた。
「貴方、“コレ”が何かわかってるの?」
逆流してくる胃液と血液を飲み込み、ゼキノの問いかけに答える。
「知るわけないだろ!」
何故か堂々と俺は答えると、ゼキノは鼻で笑った。
「この“黒い文字”。詠唱を遅延させる魔術が込められてるみたいね」
へ、へー、そうなんすか……。
腕を小さく上げ、様々な角度からゼキノは“文字”を眺めていた。
「つまり、お前の詠唱が遅くなるわけだな? はっは! ざまぁねぇな!!」
「貴方の腕にも同じ“文字”が刻まれてるの、気づいてるのかしら?」
指を向けられ俺も左腕を見ると、ゼキノと同じような“黒い文字”が刻まれていた。
「つまり、貴方の詠唱も同じように遅くなるという事。……あまり意味が無さそうね」
「…………う、うるせぇ! それでも俺の唯一の武器なんだ! 馬鹿にするんじゃねえ!」
今度はこっちから攻め上がる。
詠唱が遅くなる……。これがアンピがいつぞや言ってた欠点なのか……? 詠唱や“蛇”の動きが鈍くなってるようには感じないが……。
ゼキノの腹部めがけ、“蛇”を突進させる。
が、軽く腕で弾かれてしまう。
「―――動きが単調すぎる」
足首を蹴られ体勢を崩すも、“蛇”で首を狙う。
しかし、その“蛇”すらも難なく首元を捕まれ、俺ごと地面に叩きつけられる。
砂ぼこりが立ち、遂には口から様々なモノが混じった液体が溢れ出た。
「意外と……、格闘派じゃん……?」
気力を振り絞って、強がりでせせら笑ってみるが、ゼキノは冷酷な目で見下ろしている。
「“術具持ち”には体術を用いないと勝てないから……」
そう言うと、ゼキノは詠唱を開始し、彼女の腕に光の粒子が集結し始めた。
避けなければ……。そう頭では思えても身体が全く動かない。
集められた粒子はいつしか、巨大な槍を形成している。
「案外……、呆気ない最後みたいね」
寂しげに、ゼキノはそう告げた。
あれ……? これ不味くないか?
意識はハッキリしているのに、指の一つさえ動かすことが出来ない。
いや、大丈夫だ。いざと言う時はミヤビが……。
今更になって助けをこい始めていた。
まだ負けたわけじゃない……。“蛇”が動けば……。
無慈悲にも口すら動かすことは出来なかった。
「―――サヨナラ」
そして、ゼキノの腕が俺を貫いた。
―――眩い光。そして暗転。
轟音が鼓膜を震わせ、俺の名を叫ぶ声が最後に届いた。
血管が全てチリヂリに破れたような痛みが身体を襲う。いや……、実際にそうなってるのかもしれない。
―――死んだのだろうか?
「まだ息があるとは……。驚きね……」
ゼキノの声で、まだ生きている事が分かった。
でも、もう時間の問題だろう。
ゼキノの詠唱する声が聞こえるのだ。
呆気ない最後だ。自分から喧嘩を売って惨敗して死ぬのか……。しかし……俺らしいとも言える。
左腕に違和感を覚えたのはその時だ。
微かに開いた瞳で見れば、“蛇”が俺の左腕を噛んでいた。最後には“飼い犬”にまで反逆されたわけだ。
腕にジワジワと“黒い文字”が広がっていく。
やめてくれよ……。生まれつき綺麗な顔じゃないんだ。死体くらい綺麗じゃなままで……。
左腕を襲う、死すら超える程の激しい痛み。背中から左腕にかけて、何万本もの刃で貫かれているようだった。
堪らず叫んだ。
沈みかけていた意識が覚醒する。
「はぁ……はぁ……?」
地面に拳をついて起き上がる。
気づけばゼキノは後退しており、その顔にから冷汗が垂れていた。
左腕を見る。
そこには“文字”が集合し、型どった“獅子”の顔があった。口を大きく開き、そこから太い銃口のようなものが出ている。
「なんだよコレ、訳わかんねぇ……。けど―――」
もはや笑うしかない。
「これでまた戦えるみたいだ……」
“蛇”の尻尾に、“獅子”の腕。
左半身を真っ黒に染め上げられた俺は、既に人間の形では無かった。
なんだかんだ、“蛇”獲得以降初めての戦闘描写です。そして、新しく“獅子”君も獲得しました。
ヨツバ強化が止まりませんね! 今回ではゼキノにボロクソにやられてましたが…。
今回の戦闘は色々候補がありました。
最初は拮抗する予定だったんですが、どうしてもヨツバが勝てるイメージが持てなかったんですね。というわけで今回のようになったわけです。
次回は日曜日




