へー、よく避けたね
「おぉ! おぉ!! こんな戦いそうそう見れたものではないぞ」
メイザースとゼキノの力闘を、遠く離れた物陰から見ているロザとウィリーが喚声をあげた。
「しかし、ウィリー氏、我々は助太刀せんでいいのだろうか……? 」
「馬鹿者っ! 我々のような無粋な連中が乱入していい領域ではなかろうが!」
ウィリーの言う通り、メイザースに助太刀したとしても、足でまといになるだけだろう。そもそも彼らから見れば、どちらが有利なのかすら分からないのだ。
「大丈夫だろうか? まさかメイザース殿が負けるなんてことは……」
「そんなことがあれば、それこそ“教会”が動くことになるだろうな。また部室が破壊されてしまう……」
「それは避けたいな……」
―――――――――――――――――――――
ロザとウィリーが危惧する中、闘いは一方的なものだった。
メイザースが支配し、常にゼキノを貫こうとする“糸”。ゼキノはそれを黙々も避けるだけで、自ら攻撃することは無い。
『な、なかなか手こずってるみたいですね』
「五月蝿い。集中させて」
頭の中に響くアニーの声へ、メイザースはぶっきらぼうに返した。
メイザースが支配する“糸”は触れたモノを自由に操る能力がある。つまり、一本。たった一本の“糸”がゼキノに触れさえすればメイザースの勝利が確定するのだ。
しかしゼキノはソレらを巧みに回避する。
そして何より―――
「今度こそ……」
前方、後方、上空、直下。全方向から、ゼキノを捕らえようと直進する“糸”。完全に逃げ場のない攻撃が繰り出される。
メイザースが勝利を期し、“糸”がゼキノに触れようという瞬間―――、ゼキノがその場から消えた。
そして、次の瞬間にはメイザースの背後に出現したのだ。
「│龍倒波魔術」
ゼキノから放たれる、龍のカタチを模した波動。
「チッ……!」
メイザースは咄嗟に“糸”を幾重に束ね、威力を殺す。
攻撃を防ぐと同時、ゼキノへ“糸”を貫いたが、既に姿は無かった。
『厄介ですね……。ど、ど、どういう訳か“ミヤビさんの独占魔術”が使えるみたいです』
「見れば分かるわよ。“模倣魔術”の類い……? でもそれ以前に、アイツ自身が“手慣れ”。適切な場所から、完全なタイミングで仕掛けてくる。そして、詠唱省略をしても威力が高い……。相当な魔力量なのは間違いないわね」
メイザースは自分が震えているのに気づき、両肩に手で抱いて目を血走らせる。
『も、もしかして怖いんですか?』
「そんなわけ……。そんな子が私の人形になると思ったら高ぶってきたの」
「なんでこんな奴と契約しちゃったんだろう」とアニーが後悔した時、“彼女達”の目の前に再びゼキノが現れる。
「やはり、魔女と呼ばれるだけはあるわね」
疲れた様子もなく、悠然と立つゼキノ。
「光栄ね。ここまで苦戦してるのも久しぶりよ」
メイザースは一本の“糸”をゼキノへ突貫させる。
それを難なく躱したゼキノはため息を着いた。
「貴方の攻撃は単調すぎる……」
「そうね。だから“工夫”してみたの」
「何を言っ―――」
その瞬間、側面から“何か”に薙ぎ払われ、ゼキノは言葉を詰まらせる。
見れば、巨大な樹木、根元から“糸”で通されている。
折れ曲がる胴体。横に動く視界で微かに捉えたのは、不敵に笑うメイザースの顔だった。
そして、薙ぎ払われる先には無数の“糸”が待ち構えている。
―――不味い!
ゼキノは反射的に、“移動魔術”で回避する。瞬間移動した一拍後、ゼキノがいた場所に何本もの“糸”が突き刺さった。
「へー、よく避けたわね」
口から垂れる血を拭いながらゼキノは、楽しそうに微笑むメイザースへ視線を向ける。
メイザースの手から伸びる何本もの“糸”。その一本一本の先が、大木や瓦礫等の障碍物を貫いていた。
その姿は、ゼキノの思考に“千手観音”を過ぎらせる。
「私の“糸”は刺したモノを操れる。もちろん、人以外も例外ではないのよ?」
「なるほど……。さっきの木はそういうカラクリ」
声では平然を装うものの、ゼキノは大木が直撃した右腕を抑える。
大木や瓦礫が振り回されれば、攻撃範囲は格段に広くなる。そう考えると、腕の痛みと相まって冷汗が垂れてきた。
そして何よりも問題なのが、どういう訳か、先程から新たに魔力が共有されていない事だった。
「……│あの子は何してるのよ」
小さな声でゼキノは苛立ちを吐き出し、対峙した、仏にも似た“魔女”へ詠唱を開始した。
「さぁ、第2ラウンドの開始よ」
―――――――――――――――――――――
「いい! いいね! “アーサーお兄ちゃん”もやっと本気になってくれたんだね!」
レイビアの補助もあり、白兵戦はアーサーが有利に進めていた。
……とは言っても相手は魔道生命体。アーサーがどれだけダメージを与えようと、“新しいパーツ”と瞬時に交換されてしまう。そういった面では、スタミナに限りがあるアーサーの方が不利である。
「まるでアンデッドだな……。狙うなら頭部か……?」
アーサーが軽く問いかけるも、ミライは気にせず攻め続ける。
「ねえ! もっと激しく斬り合おうよ!」
防御を無視した捨て身の攻撃を、ミライは笑いながら繰り出してくる。
アーサーも負けじと応戦するが、ダメージを与えてもすぐに取り替えられてしまい、終わりは一向に見えない。
と、その時、ミライの動きが止まった。
アーサーは後退し、急に静止したミライに視線を向ける。
「ど、どうしたのかな?」
「……分からん。新手の作戦かもしれない」
手をだらんと下げ、燃料が切れてしまったかのように立ち尽くすミライ。
その顔は校庭の方を向いていた。
「―――ママ」
そう呟いたかと思えば、ミライの手からタガーが消える。
「“レイビアお姉ちゃん”と“アーサーお兄ちゃん”の相手は後でしてあげるね?―――それじゃあ」
ミライはそう言うと、アーサーとレイビアの反応を待たずして、廊下を疾走していく。
まるで嵐のように現れて、消えていったミライ。とりあえず去ったらしい危機に、レイビアは胸をなでおろした。
「よく分からないけど良かったー。―――あ、アーサー君さっきは助けてくれて……」
レイビアは声をかけようとするも、アーサーが放つ雰囲気に気圧され言葉を詰まらせる。
「どういうつもりだアイツ……!? 俺を差し置いて何処へ行きやがった!」
アーサーは剣を振り上げ、雄叫びを上げながらミライの後を追っていく。
「ふざけるな貴様! 俺と決着をつけてからにしろ!」
残され、困ってしまったレイビア。
どうしていいか分からず、“レイくん”と共に首を傾げるしかなかった。
―――――――――――――――――――――
ゼキノのアジトから“移動魔術”で脱出した俺達は、寮の303号室―――俺とビオラの部屋に来ていた。
「違う……、ここにも無い。あれー? 何処にしまったんだ。 ―――ビオラ、そっちにはあったか?」
「ダメみたいです。マスターこそ、何故ちゃんと自分で整理整頓しないんですか」
「それは……まぁ……。とりあえず探すぞ!」
部屋に散らかったガラクタを掻き分けながら、俺とビオラは“あるモノ”を探していた。
それを横目にミヤビはため息をつき、ハヤトは貧乏揺すりをしている。
「学園で妹ちゃんが暴れてるってのに……、こんな事してて良いのかな?」
「知るか……」
もちろん俺だって、今すぐにでもゼキノをぶん殴りに行きたい。しかし、今行っても勝てる可能性は0に等しいだろう。
「―――痛っ」
ガラクタとゴミの山を探っていると、鋭い痛みが指を刺激した。
あった……これだ!
俺は“それ”を掴むと、興奮気味にミヤビの前へかざした。
ミヤビはきょとんっとした顔で、“それ”を見つめている。
「ミヤビ……、“これ”の使い方分かるか?!」
ゼキノの戦闘スタイルは、術具を使わない、昔ながらの“詠唱式”です。
膨大な魔力によって“詠唱省略”をし、なんとかメイザースと渡り合っていたわけですが、今後どうなっていくのでしょうか。ヨツバの活躍無しで終わるのでしょうか!?
次回は日曜日です




