こっちこそ“玩具”だ
幾度となく交差する刃。
ミライは両手に持ったタガーで攻め立て、アーサーはそれを稽古用の剣で弾き返した。
「あれ? 防戦一方ってやつかな?」
「黙れ……!」
アーサーは剣を大きく横に振る。
が、華麗に身を反らして躱し、ミライは後方に飛び退いた。
「ふむん……。なんか期待外れかな」
アーサーの顎から汗が落ちる。余計な追撃はせず、ただミライを睨みつけていた。
「そんな玩具の剣じゃなくて、もう1つの方使った方がいいんじゃないかな?」
アーサーの腰に携えた“赤黒い大剣”を、ミライは指さす。先日父親から渡された“崩剣”の術具だ。
彼は、その鈍い光を放つ剣に目を落とすと鼻で笑った。
「何を言うか……。こっちこそ“玩具”だ」
「うーん、そうは見えないけどな。本気で相手してくれないと退屈だな……」
ミライは欠伸をしながら、タガーの柄で頬を掻いた。
「ま、さっさと終わらせちゃえばいいか……」
その瞬間、ミライはアーサーの懐に侵入していた。
一瞬のうちに距離を詰められたのだ。ミライは腹部を抉るように刃を立てる。
「―――クッ!」
咄嗟に反応したが避けられない。
―――やられた!
アーサー自身、死すら覚悟した。が、刀身が彼に触れることは無い。
理由は単純。突如、形成された“液体の壁”がタガーの進行を防いだのだ。
アーサーとミライの間に形成されたソレは、液体というより流動体に近く、ゆっくりと蠢いている。―――まるで意志を持っているかのように……。
「│gratia Ashley《アシレイ様に幸あれ》--------------------」
囁いたのは、アーサーの背後で手をかざすレイビア。彼を中心に、パートナーであり意思を持った液体、“レイくん”がとぐろを巻いていた。
「ぼ、僕と“レイくん”を……忘れてもらっちゃ困るな」
少し怯えながらも、ハッキリとした声でレイビアは宣言する。
「何? これ―――」
予想外の出来事でバグでも起こったかのように、ミライの行動が一瞬止まる。
アーサーはそれを見逃さない。グリップを握り直し、ミライの華奢な体躯に懇親の力を込めて刀身を殴り付ける。
ミライは吹き飛ばされ、その身体は激しい衝突音と煙をたてて壁にめり込んだ。
何かが歪む鈍い音と、嫌な感触がアーサーの感覚にへばりついた。
「大丈夫だった?!」
「あ……、ああ。助かった」
レイビアは心配そうにアーサーへ寄り添う。そのせいで、彼の息が更に激しくなったが、レイビアは気づいていないようだ。
―――あの一撃だ……。流石の奴もタダでは……。
しかし、アーサーの願望にも似た考えは一瞬にして砕けることになる。
「いったーい! “普通の女の子”なら多分死んでるよ?!」
煙の中から聞こえるミライの声。
アーサーが目を向ければそこには、ヘラヘラと笑いながら、煙から現れるミライの姿があった。しかし、左腕は関節から“く”の字に曲がり、おおよそ人間がなれる姿はしていない。
「私としたことか油断してたよ……。まさか“レイビアお姉ちゃん”が参戦してくるなんてさ……」
ミライは淡々と語りながら、捻じ曲がった腕を引っこ抜く。そして右手で、“新しい左腕”を創造すると、空いた肩にはめ込んだ。
その光景を見ていたレイビアは息を呑む。
「あ、驚いた? 私“魔道生命体”だからさ、幾らでも交換が出来るんだよ。便利でしょ?」
自慢するように笑うミライ。
アーサーは理解した。奴は存在はもちろん、内面的にも人間ではないのだと……。そのことに本能的な恐怖を感じたが、彼は怯まない。むしろ興奮さえ覚えたのだ。
「人間でないなら好都合だ。……人は殺めたくないからな」
「口だけは立派だよね“アーサーお兄ちゃん”。将来はペテン師にでもなるのかな?」
“腕を取替える”。この行為に、アーサーは先日のイールとの戦闘を重ねる。
―――奴も俺の顔にドロを塗った1人だ……。“最強”になるには、いつか再戦をせねばなるまい……。その為に―――
「貴様で練習させてもらうとしよう」
アーサーは上段に剣を構える。その姿に慢心も、不意を突かれるような披露もなかった。
今回も短いんですね…これが…。
そして、あんまり話も進んでないという。次回からは元のペースにもどりますから! 許してください。
というわけで、次回は水曜日です




