好き勝手にされると虫唾が走るわ
ヨツバ達がゼキノの元に向かって数時間後、学園は大騒ぎになっていた。
編入生が暴れてるらしい……。生徒を食って回ってる悪魔のような魔物とか。いやいや、見た目は可愛い女の子だとか……。可愛い女のコになら食べられたい!
などなど、どれが真実なのか分からない“噂”や“願望”で、授業どころではない。
噂に惑わされ混乱する生徒達や、我こそは! と編入生討伐に名乗りをあげる不良達で溢れかえっていた。
そんな中、レイビアは廊下を走る。しかし逃げている訳では無い。
噂を聞きつけ、ヨツバやビオラ達の安否が不安になったのだ。
ヨツバのことである、“妙な事”をしでかすのは誰よりも速い。
てんやわんやで右往左往する生徒達を避けながら、レイビアはヨツバ達の教室を目指していた。
「―――痛て……!」
急いでたため誰かにぶつかり、レイビアは尻もちをついてしまった。
「ごめんなさい……。急いでたもので」
謝りながら顔を上げると、そこには“紫髪”の少女。非対称なツインテールにオッドアイの瞳が特徴的であり、その外見にレイビアも急いでいた事を忘れてしまう程だ。
少女は嬉しそうに微笑むと、何故か舌なめずりをした。
「大丈夫? 気づけなくてゴメンね、レイビア“お姉ちゃん”」
何故自分の名前を知ってるのか、という疑問以前に、自分のことを“お姉ちゃん”呼びした事に、レイビアはムッとする。
「僕は“お姉ちゃん”じゃなくて―――」
否定しようとした瞬間、少女はレイビアの顎に手を添え、口の動きを静止させる。
「ンン?!」
「―――動かないで」
そう囁き、紫髪の少女はゆっくりとレイビアに顔を寄せていく。
こんな事今まで誰からもされたことがない。しかし、不思議と抵抗しようという気も起きないのだ。
レイビアはなされるがまま、ゆっくりと近づいてくる唇を見つめるしか出来なかった。
その瞬間、激しい衝突音が響いた。
目の前にあったのは、競り合い、拮抗する刃と刃。突然の出来事にレイビアは何が起きたか理解出来ない。
「……大丈夫か? れ、レイビア」
少し裏返った声を出したのは、剣を下に構え、少女のタガーと競り合わせるアーサーであった。
レイビアの顔に、紫髪の少女が密着する直前彼が現れ、少女の顔めがけ抜刀したのだ。
「どうしてここに?」
「どうしても何も……、ずっと着けてたからな」
当然のように放たれたストーカー宣言であったが、当のレイビアはよく理解出来てないようで首を傾げている。
「急に現れて誰かな?」
アーサーの剣に驚異的な反射能力で対応し、剣をタガーで受け止めた少女が、平然と問いかける。
少女は仕切り直すようにバックステップをし、剣を構える少年の全体図を視覚で捕える。
「なぁんだ、アーサー“お兄ちゃん”か……。でもおかしいね? 普通の人間なら私に“魅了”されて攻撃できないようになってるはずなんだけど……」
「“魅了”だと……? ふざけた事をぬかす女郎だ。“惚れた女”がいる横で貴様なんぞに見惚れるはずがないだろう」
「ふむむ……? 好きな人がいると“魅了魔術”は効かないのかな? 後でママに聞いてみよ……」
少女はそう解釈すると、タガーを両手に構える。
「何でもいいけど、回路開拓の邪魔はしないで欲しいな……」
少女は唇を尖らせ、タガーの剣先を這わせる。
「回路開拓だと? 知ったことではないな……。レイビアに手を出そうとした罪、償ってもらう」
アーサーも剣を構え直し、今にも戦闘が始まろうとしている中、レイビアはアーサーの言う“惚れた女”が誰なのか真剣に考えていた。
―――――――――――――――――――――
「よっ、と……」
ゼキノが降り立ったのは、学園の校庭。
耳をすまえば校舎から、ちらほらと阿鼻叫喚のさまが聞き取れ、ゼキノは頬を緩ませる。
こうしている間にも、魔力が蓄積されていく感覚。少しずつ強くなっていく喜びに、彼女は天を仰ぐように手を挙げ、大声で笑った。
「……!」
ゼキノの笑いが止まった。
背後から迫り来る、“何か”を感じ取り身を翻す。
避ける過程でその瞳が写したのは、自身を貫こうとしていた“白い糸”。
その糸の元を辿ると、“一人”の少女が立っていた。何故かチャイナドレスを纏い、分厚い本を片手に抱え、指には何本もの“白い糸”を巻き付けている。
「ちょ、ちょっと! いきなり走り出したかと思えば、何いきなり攻撃してるんですか?!」
「うるさいわね……。貴方も私の宿主ならアイツの“異常さ”を感じ取りなさい?」
「な、何が感じ取りなさいですか! 新しい部室で“一人試着会”をして楽しんでいたのに……、こ、これじゃあ晒し者ですよ」
まるで誰かと会話をするように、少女は一人で喋り続ける。
その様子を見て、ゼキノも彼女の正体に察しがついた。
「その“本”と“糸”から察するに貴方が噂の“魔女”、メイザースかしら?」
「―――ご名答。そういう貴方は、あの下品な笑いから察するにこの一件の主犯かしら?―――ま、まだ言いたいことはあるんですよ!勝手に話を進めないでください!」
会話に割り込んでくる“主人格”に、メイザースはため息をつき、自身の頭におもいっきりゲンコツを振るった。
一瞬、少女の首がガクッと落ちたかと思えばすぐに顔を上げ、軽く息を吐いた。
「ごめんなさいね、“もう一人”の方がうるさくて……。―――それで貴方、妙な存在を使って学園を荒らしてるみたいじゃない」
「それが何か問題でも? 迷惑でもかけたかしら?」
体から溢れる余裕と高揚感を持ってゼキノは魔女へ問いかける。
「それが大ありなのよ……」
メイザースは目を見開いて高らかに宣言する。
「この学園は私のモノ。 貴方みたいな部外者に好き勝手されると虫唾が走るのわ……!」
「いいぞ! メイザース殿! もっと言ってやれ」
「いつも我々にするように強く罵ってやれ!」
「ロザ、ウィリー! あんた達下僕は黙ってなさい」
いつからそこに居たのか、遠くの影で野次を飛ばす二人の少年に、メイザースは声を張り上げる。
「はぁ……。なんでアイツらがいるのよ……」
メイザースは頭を抱え、ゼキノの方へ向き直す。
「と言うわけで、貴方には退場してもらう。……もしくは私の“人形”になってもらうわ」
メイザースが腕を横に振ると、彼女の背後に蜘蛛の巣の如く、亀裂の入ったガラスの如く、無数の“糸”が張り巡らされる。
「物騒ね……、でも調度いい。今の私がどれだけ強いか、魔女で試させてもらう……」
睨み合う、メイザースとゼキノ。その光景を遠く離れた場所で観戦するウィリーとロザ。
今回短くて申し訳ないです。時間が無かったんす……。さて、アーサーvsミライ。メイザースvsゼキノが始まります。メイザースは何だかんだ戦闘描写もありませんでしたからね、今回は活躍させたいですね。
次回は水曜と言いたいところですが、所持用により休みます。
次回は一週間後、日曜日です




