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アンタが“自称”歯の妖精って訳か……


 ―――時間は少し遡る。

 

 宿屋の裏で待機しているミルカ。その両手には、先程の雑貨屋で買った模擬刀が握られていた。

 

 「ふん、なんで俺がヨツバを救出する役回りなんだよ……」

   

 現在実行されている作戦、ビオラとレイビアが囮となり、その隙にミルカがヨツバを救出するというものだった。

 即興で提案されたお粗末な作戦だと、ミルカは思ったが、興奮気味のビオラにNOとは言えなかったのだ。

  そろそろ頃合かと、ヨツバのいる2階部屋を見上げた時、自身に近づいてくる気配をミルカは感じ取った。

 ゆらりゆらりと体勢を左右に揺らしながら、近づいてくる“普通の”女。―――全身傷だらけなのと両腕が剣なのを除いては。

 

 「まさか義足に救われるとはな……」

 

 女の放つ、殺気と憤りがごちゃ混ぜになったような威圧に、ミルカの額から冷汗がドッと溢れる。

 

 「なっ、何者だ!」

 

 ミルカは叫ぶと同時に剣を女へ向ける。

 しかし、女が止まることは無い。

 

 「これ以上近づくな!?」

 

 何度叫ぼうと、女はミルカの存在に気づいてないかのように歩み続ける。

 女はどんどん歩み寄ってくるが、不思議と 距離が縮まらない。

 ミルカが無意識のうちに後退しているのだ。

 何かされた訳でもないのに、ミルカの呼吸と震えはどんどん激しくなっていく。

 もはや、ミルカの思考はマトモでは無く、何故自分が剣を持っているのかすら分からなくなっていた。

 やがて女は、最初にミルカが立っていた位置で立ち止まり、二階の窓を仰ぎ見る。

 

 「なっ、何をす……」

 

 ミルカの声がしぼんでいった。

 発言の途中で、女が自分を睨んでいることに気づいてしまったのだ。

 

 「―――失せろ」

 

 女が静かく告げたと同時、刃で貫かれる程の衝撃がミルカを襲った。

 一歩でも踏み出せば、間違いなく命が無い。

 一言でも発すれば、首が飛ぶ。

 一瞬、彼女の“殺気”に触れただけであらゆる可能性を察してしまったのだ。

 それは、同じ“剣士”として完全敗北を喫した瞬間でもあった。

 

  ―――コイツには、何をしても勝てない。

 

  模擬刀が地面に落ちた音で、ミルカの意識は戻った。どうやら、立ったまま気を失っていたらしい。

 息が荒いまま辺りを見回すが、もうそこに女の姿は無く、二階の窓が開かれているだけだった。

 脅威は去ったというのに、体の震えはまだ収まらない。ミルカは地面に膝をつくと、縋るように模擬刀を抱え込んだ。

 

 「ミルカ! どうしたの?!」


  しばらくして“姉”の声が聞こえても、震えは止まらない。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 タチバナとリッティが部屋を出た後、アンピは俺の前に椅子を立て直し、腰を下ろした。

 

 「出来れば俺も直してくれると嬉しいんだけど……」

 

 床に這いつくばりながら、アンピを見上げる。しかし彼女は腕を組みながら挑発的な目線を向けてくる。

 

 「そのくらい自分で出来るでしょ? ―――“蛇”を使えば」

 「―――?!」

 

 その言葉に、心臓が引き絞られるのを感じた。

 

 「なぜ“蛇”のことを知ってる!?」

 

 考えるより先に口が動いた。

 何処から考えればいいんだ? “蛇”の存在を知っているのは学園でも一部の人間だけだ。そもそもそれを知っていたとしても、俺が“ヨツバ”である事を何故把握している?

  アンピは困惑する俺を見て、口の端をあげる。


 「何でも知ってるわよ? 使うとアザができることから、貴方の知らないことまで……。 “自称”歯の妖精(トゥースフェアリー)と契約した事も」

 

 そこまで言われて、やっと理解する事が出来た。

 

 「―――アンタが“自称”歯の妖精って訳か……」

 「ごめいとーう」

 

 アンピは嬉しそうに指を鳴らした。

  

 「こんな所で再開できて嬉しいわよ。あれから“蛇”の調子はどう?」

 「俺もアンタと会えて嬉しいよ……。“蛇”(アレ)について聞きたいことが山ほどあるからな」

 

 皮肉では無く、本気で嬉しいと思っていた。“蛇”についは確かな情報が何一つ無い。それを契約主に聞けるとなれば絶好の機会だろう。…………教えてくれるかはともかくとして。

 

 「聞きたいこと? ふふ……、いいわよ。貴方には実験データを提供してもらってるわけだし、その位は当然の権利でしょうね」

 

 ……案外すんなり教えてくれそうである。

 

 「アンタと契約した、ってのは分かった。問題なのはその内容だ。あの“蛇”は一体なんなんだ?」

 「“蛇”(アレ)はタチバナの独占魔術を模倣したものよ。…………結果として似ても似つかなかったけど」

 

 タチバナ……? たしか、さっきの男だっただろうか。そこまで強そうな印象は受けなかったが、独占魔術を所持していたとは……。

 

 「まだ実験の段階だし、分からないことも多いけど…………、致命的な“欠点”なら見つかったわ」

 「なんだよ。“欠点”って……」

 

 アンピは焦らすように、ニッと笑みを見せた。

 

 「あの魔術、使えば使うほど―――」

 

 その瞬間、アンピの声を遮るように破られる窓ガラス。

 突然のことに、ほんの一瞬静寂が訪れる。

 何だ? 誰が来た?

 伏せているが為に、侵入者の顔は見えなかったが、アンビの表情が驚愕に染っているのは理解できる。

 

 「なっ! なんで―――」

 

 叫び終わるより前に、侵入者の一撃によってアンピは気を失い、彼女の眠ったような顔が目の前に落ちてきた。

 あまりにも迅速な動きに状況把握が追いつかない。 …………とりあえず、誰かが助けに来たということか?

 

 「また幻術をかけられては面倒だからな……、不意打ちをさせてもらった」

 

 吐き捨てるように侵入者は呟くと、俺を縛っていた縄をほどいた。

  やっと助けが来たのだ!俺は解放された体を慈しみながら、凝り固まった筋肉をほぐすために飛び上がっていただろう。

 ―――助けに来たのが“教会”(イール)出なければ。


 「大丈夫か……ヨツバ? 何かされなかったか?」

 「えっ、ええ……。なんとか無事です」

 

 最悪だ。コイツに助けられるなら一生縛られていた方がマシである。

 

 「再開を喜びたいところだが、追っ手が来ると面倒だからな……」

 

 イールは俺を起こすと、そのまま“お姫様抱っこ”のように担ぎあげた。

 

 「えっ? ちょっ……」

 「しっかり捕まってろよ」

 

 そう言って、イールは2階から飛び降りると、俺を抱き上げたまま街道を走って行った。

 

 


 「ここなら安心だろう」

 

 辿り着いたのは、人通りのない空き地。

 煉瓦や木材の山があり、俺達はそこに腰を下ろしていた。

 

 「で、でも良かったんですか? 賊に盗まれた“モノ”を回収する任務だったのでは?」

 「そんなものはどうだっていいんだ。……ヨツバを取り戻しさえすれば」

 

 イールは照れくさそうにしながら、遠回しに仕事放棄を宣言した。

 二人の間は実に数センチ。イールは接触しそうな程顔を接近させて囁いてくるのだ。

 

 「さ、さぁ! 早く友達と合流しなきゃいけません。引き続き案内してもらえますか?」

 

 耐え切れなくなった俺は腰を上げ、気を取り直すように無理やり笑顔をつくった。

 しかし……、イールは立ち上がらない。煉瓦の山に座ったまま俯いている。

 

 「ヨツバ、私は行きたくない……」

 「え?」

  

 イールは飛び上がるようにして俺を押し倒し、動けぬよう両腕を押さえつけてくる。

 

 「私はお前と別れたくないんだ!」

 

 そんなこと言われましても……。

 しかし、イールの腕を掴む力―――俺をこの場に留めようという意思はかなりのものだった。

 

 「初めて見た時から感じていた……。お前は死んだ妹に、ウェンディに瓜二つなんだ。その髪に、顔、肉付きまでなにもかも……」

 

 冗談で言っているようには見えない。

 彼女は本気で、妹と俺を重ねて見ているのだ。


 「一生面倒は見るし、何一つとして不自由はさせない。“今度は”ちゃんと私が守る。だから……、だから、私……“お姉ちゃん”をもう一人にしないでくれ!」

 

 彼女の瞳に俺はちゃんと映っているのだろうか。

 顔を歪めながら必死に懇願するイール。その姿は俺の知っている“教会”では無く、身体中と心に傷を抱えた一人の少女だった。

 小雨が降る中、暖かい雫が数滴俺の顔に落ちてくる。

 

 「助けに来てみれば……、一体何をしているんだ?」

 

 コツコツと足音をたてながら近づいてくるのは、顎には髭を携え、右目には黒色の眼帯を付けた男。それだけでも十分特徴的であったが、何よりも目を引いたのは、肩にかけた大きな傘。

 ハロルド・アートレイ。レイビアの叔父である彼が悠然と俺達のに歩み寄ってきていたのだ。

 イールは顔を拭って立ち上がると、鋭い視線をハロルドに向ける。

 

 「なんだ貴様は?」

 「その少ね……、“少女”の保護者役とでも言っておこうか」

 

 助かった……。イールと言えど、俺の知り合いが出てこれば『別れたくない』とは言えないだろう。

 

 「保護者役だと? 私はヨツバの“姉”だぞ」

 「ふむ、よく分からないが面倒なことに巻き込まれているようだな」

  「邪魔をするなら斬るまでだ―――」

 

 イールは右腕を剣に変容させ、ハロルドに剣先を向ける。

 

 「“剣を向ける”。これがどういうことか、分かっているんだな?」

 「ヨツバ……、下がっていろよ」

 

 ハロルドも傘を閉じると、イールと同じように構えた。

 俺は慌てて後ずさり、二人の剣士が激突するのに備えて身をこわばらせる。

 しかし、二人の剣士と言っても、片や一振で校舎を倒壊させた“怪物”。それに対峙するのハロルドが持っているのは長モノですらない、ただの“傘”である。どちらが有利か、なんて誰にだってわかる事だ。

 

 最初に違和感を覚えたのは、先程まで降っていた雨が突然止んでいたことだ。それに気づいてみれば、至る所に出来ていた水溜まりも消えている……。

 その雨や水溜まりが、ハロルドの傘に吸い寄せられているのに気づくまで、さほど時間は用いなかった。


  「―――のう?“教会”。 ワシは魔力を雨として分散させ、この街に振らせておったわけだ。それを一気に集中させたらどうなると思う?」

 

 街中に散らばっていた“雨”が、どんどん傘へ吸い寄せられて、巨大な“水の槍”を形成していく。

 しかし、その程度で留まるわけがない。“水の槍”は更に巨大化していき、ついには近辺の建築物を凌ぐほどの、超巨大な“水の塔”と化していた。

 

 「龍の一撃、受けてみよ!!」

 

 そう宣言したと同時に、貫かれた“水の塔”。

 渦巻き、辺りにある物全てを巻き込みながら暴れ狂う“それ”は、イールに直撃しただけでは留まらない。

 何枚もの壁を貫き、地面を抉り、やっとこさ収まったかと思えば、“水の塔”が通過した区間は一直線状の荒地とかしていた。

 もちろんイールは元の場所にいない。

 恐らく……“水の塔”に巻き込まれ、荒地の先で壁にでもめり込んでいるのだろう。

 もはや災害レベルの光景に唖然としてしまう。これは夢なんじゃないかと何度も目を擦ってしまう。

 

 「ほら、立てるか?」

 

 思考の停止した俺に、ハロルドは手を差し伸べる。

 

 「アンタ……、滅茶苦茶強いじゃないかよ」

 

 捻りもなく、ただ単純に思ったことを口に出したが、ハロルドは満足げに髭を撫でた。

 

 「なに、遠くに“飛ばした”だけだ。奴は生きてるだろうよ……。戻ってくる前にずらかるぞ」

 

 あの一撃でも倒せないのかよ……。

 “教会”の底知れなさに恐怖を感じながら、ハロルドの後を追って駆けていく。

 ふと振り返り、一直線に伸びる荒地の先に視線を向ける。……この先にイールがいるのだろう。

 

 『私……“お姉ちゃん”をもう一人にしないでくれ!』

 

 イールの声が蘇る。

 今まで恐怖と憎悪の対象だった彼女。その姿が音を立てて壊れていくのを感じた。

 次対峙した時、今まで同様に憎む事ができるだろうか。

 

 「なにしてる。皆が待ってるぞ」

 

 ハロルドに急かされ、俺はビオラ達の元へ戻っていく。

というわけで、前話後半の裏側でした。

読んでる皆様はとうの昔に分かっていたかと思いますが、ヨツバと契約したのがアンピだと明かされたわけです。でも、致命的な“欠点”までは分からない。

今後ヨツバはどうなっていくのでしょうか。

そして、イールの過去もちらほら垣間見えましたね。当初はここまで重いキャラにする予定はなかったんですが…


次回からは各キャラのまとめみたいなもんです。疎楽園の連中やら、最近ご無沙汰なミヤビ、アーサー辺りの夏休みも書く予定です。

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