貴方が思っているより弱っちいのです
商売人の街・ムーカティの一角。レイビアとミルカの“姉妹”は買い出しを終え、時間潰しに散策をしていた。
「レイ姉! レイ姉! これ買おうよ、“剣一本でもう一本無料!”だって。すごいお得だよ」
「そんなに持ってても仕方ないでしょ?」
雑貨屋の前で、嬉しそうに剣を抱き上げるミルカ。無論、模造刀である。レイビアはそんな“妹”に呆れながらも、微笑んでいた。
レイビア自身、学業に使う書物や園芸用品を見に行きたかったが、可愛い“妹”にせがまれては抗えない。
―――デートだ、デートだ。って騒いでたけど、やっぱり中身は“男の子”なのかな……。
両腕に剣を持ち、笑いながら華麗に舞っているミルカの姿を見て、レイビアはそんな事を思った。
「二刀流なら憎きヨツバにも勝てるね!」
「コラコラ、そんなに暴れると迷惑になるでしょ?」
「大丈夫だって、剣の扱いには慣れてるから」
ミルカの言う通り、“彼女”の剣さばきは見事なものだ。通行人には足を止める者までおり、下手したら小銭くらい稼げるかもしれない。
そんな通行人の中から、レイビア達の元に飛び出してくる影があった。
「―――レイビアさんっ!」
突然名前を呼ばれ、レイビアは驚いて声の方を向く。
そこには、ビオラが立っていた。 ただ、抱えている品物袋は雨に濡れて破れそうになっているし、彼女自身は息を荒らげ、表情は疲労で染まっていた。
「だ、大丈夫か?!」
ミルカも舞うのを止め、ビオラの元に駆け寄る。
「どうしたの? ヨツバくんは?」
「拐われました……」
ビオラは消え入りそうな声で呟く。
「マスターが“また”拐われてしまいました!」
今度は泣きだしそうな大きな叫んだ。
レイビアは『また』という言葉に首を傾げながらビオラの話に耳を貸す。
どうやら、少し離れている間に居なくなっていたらしく、ヨツバが持っていたはずの紙袋が地面に落ちていたそうだ。
話してる最中から涙ぐんでいたビオラだが、話終えるとついには声を出して泣き始めてしまった。
「私がいけないんです……。私が拗ねて離れてたから拐われてしまったんです。今頃R18タグを付けないと描写できないような行為が行われているのです。うわぁぁぁん」
レイビアにはよく分からなかったが、何故か喜んでいるヨツバの姿は想像出来た。
「それでヨツバくんはどこに?! 助けに行かなきゃ」
「分かりません……。気づいたらいなくなってました」
泣きべそをかきながら俯くビオラ。
すると手がかりは無いわけだ。……となればキレるカードは一枚だけになる。
「なにぃ?! 少年が拐われただと!?」
街の飲み屋台。ジョッキを持ったハロルドが大声を上げた。
レイビアも出来れば自分達で何とかしたかったが、手がかりが無い現状、一刻を争うヨツバの保身を考えると叔父に頼るのが一番だと結論したのだ。
「そう、だからルーゼで探せないかな?」
「まさか本当に拐わるとはの……、それも少年の方が……。―――“ルーゼ”」
ハロルドは屋台から手を出し、指を鳴らした。すると近辺の降る雨から水溜りの水までもが、ハロルドの手の平に集まり始め、海坊主のような形を形成した。
「“ルーゼ”はドラゴンのはずでは?」
「普段はな……。今は街中の雨に溶け込ませている。―――あの少年を探してきてくれ。いや、正確には少女だが……。とりあえず、昨日今日と背中に乗せた子だ」
ルーゼは、手のような小さな突起で敬礼をすると、水溜りの中へ溶け落ちていった。
「この街の雨は全て私の魔力で降らせた“ルーゼ”の一部だ……。人を見つけるなど容易い」
当たり前のように言っているが、膨大な魔力量を必要とする、とんでもない行為だ。
レイビアのハロルドに対する尊敬の念が一層強いものになる。
「そう時間も掛からず、すぐ見つかるだろう」
「では、見つかり次第すぐに助けに行くんですね?」
暗かったビオラの顔に、希望の光が見え始める。
「まぁ待て、今傘を修理に出しとる。万全の状態には傘が必要だ。修理が済むまで待ってくれないか」
「そんな猶予はありませんよ! こうしてる間にもマスターの身に何が起きているか……」
「あの少年なら大丈夫な気がするがな……」
ビオラは屋台の机を叩きつける。
「いいですか? 私のくだらない意地と、一時の感情のせいで、マスターが危険な目に合っているのです。居場所が分かっているのに助けに行けないなんて耐えられません。一人でも私は行きます! マスターは貴方が思っているより弱っちいのです。泣き虫でプライドは高いのに怠惰で、暇さえ有れば指の第一関節だけが曲がることを自慢してくるし、トイレに“ウォシュレット”が付いていないことを毎回嘆いてるような方なんですよ!?」
「弱っちいのは知ってたけどそこまでとは……」
ヨツバの“生態”を聞いて、ミルカが苦笑する。
ハロルドは、ビオラの真剣な眼差しを見て、ため息をついた。
「言って止めるようにも思えんし……。好きにすると良いさ」
「……感謝します」
ちょうどその時、ヨツバを見つけたのだろう、ルーゼが戻ってきた。ハロルドの手に再度雨水が集まり形を形成する。
ルーゼは短い両手で、ヨツバの居場所を懸命に伝えようとする。
「ふむ……、なるほどな」
ハロルドが髭を撫でながら呟く。
「少年の居場所は―――」
――――――――――――――――――――
気が付いたら何処かの部屋で、何故か椅子に縛られていた。たしかイールに、でっち上げた身の上話をしていたはずなんだが……。
部屋を見回すと、扉が二つに、 ベッドや机。何処かの宿屋だろうか……。
「起きたみたいね」
腕を組んでいる女性が、不機嫌な顔で見下ろしてきた。
「誰だよお前……。ここは何処だ?」
「覚えてないの? 気絶した貴方を運ぶのかなり大変だったんだけど……」
女性は俺の向かいの椅子に腰を下ろした。
「さあ、もう逃げられないわ。さっさと“箱”を返しなさい」
「一向に話が見えないんだが……」
「……とぼけるつもり?」
女性が眉をひそめる。
そう言われても、本当にわからないんだから仕方ない。そもそもこれはどういう状況なのか……。椅子に括りつけられているだけだし、この縛り方ならSMプレイは望めそうにない。
「“教会”と一緒にいたんだもの、言い逃れは出来ないわよ」
「“教会”……!」
そうだ。確か、イールに身の上話をしていたら、コイツが現れたのだ。そしたら電流が走ったような刺激が身体を襲って……。
「その通り、仲良く手を繋いでたわよね。“教会”の仲間ってことはバレてるの。ほら、さっさと“箱”を―――」
「捕まえたってマジ?!」
突然、一人の青年が興奮気味に部屋へ入ってきた。
「あっ、あの時の……」
その青年には見覚えがあった。たしか、道端でぶつかった奴だ。
「なんで来るのよ……」
先程まで強気だった女性が、面倒くさそうに青年から目を逸らす。
「いいじゃないかよ。本当に俺とぶつかった子か確認しなきゃダメだし」
「アンタが来ると間違いなく話が拗れる……」
「そう言うなって……。―――突然ゴメンな君、怖かったろう。俺はタチバナ ユメト、コッチはリッティ。君は?」
まるでナンパのように軽い調子でタチバナは話す。
威圧的だった空気が、急に緩み始めた。
「……ヨツバだ」
「そうかヨツバちゃん、さっきぶつかった時、俺の荷物が君の袋に混じったと思うんだけど、こういう四角い“箱”しらない?」
タチバナは指で箱の形を空中に描く。
なるほど、だんだん話が読めてきた。タチバナの持ち物である“箱”が無くなったため、彼と接触した俺が疑われているわけだ。わざわざ誘拐まがいの事までして、縛り付けるのは理解し難いが……。
「悪いが知らないな……。何処かで落としたんじゃないのか?」
「とぼけるのもいい加減にしなさい!」
リッティは地面に足を叩きつける。
「分かってるのよ! 貴方は“教会”の仲間。タチバナに近づいて“箱”を奪ったんでしょ?!」
勘違いにも程がある……。何一つ当たってない事をここまで堂々と言われると、こっちが恥ずかしくなってくるものだ。
しかし否定しても、「とぼけるな!」と怒鳴られるだけの堂々巡りだろう。あーあ、適当に黙り続けてたら諦めてくれるだろうか。
返事もせず、思考を停止させてボーッとしていると、リッティは大きなため息をはいた。
「……なかなか口が固いわね。いいわよ、そっちがその気なら、こっちだって手荒に行かせてもらうわ」
拐っておいて、何を今更……。
「えぇ?! 手荒にやるのか? こんな可愛い女の子に暴力は奮わないからな!」
「アンタが騒いでどうするのよ」
「俺は、敵でどうしようも無い時を除いて女の子に暴力は奮わないの! そういうポリシーなの!」
「やっぱりめんどくさい事になった……」
何故か仲間内で口論を始めた二人。
男二人に拐われ、イールと街を歩くことになり、今は縛られ口論を見せられる。
女の子って大変なんですね……。
出来れば、ヨツバを救出するところまで書きたかったんですけどね、時間的な問題と文字数的に断念する結果となりました。
“疎楽園”は勘違いしっぱなしですが、ビオラ達はヨツバを救出出来るのでしょうか。何やかんや話は進んでいきます。
次回は水曜日です




