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“箱”失くしちゃったっぽい!

 

 男二人がかりで腕を捕まれ、連れ去られた先は大通りから外れた裏路地。

 俺は乱暴に壁へ叩きつけられる。

 

 「よぉよぉ嬢ちゃん……。なかなか可愛いじゃんよー」

 「へっへへ……。ちょっと俺達と遊ばねぇ?」


 満月の夜で無性にムラムラしている時の俺みたいな息遣いで、男二人の顔が迫ってくる。

 急に連れ去られ何事かと思えば“ナンパ”である。迷惑なもんだ……。……と思いつつ、内心喜んでいる自分がいるのも事実である。

 男二人にこんな強引なナンパを決行させてしまう、俺の美貌!やはり“美しい”というのは罪なのか……。

 

 「……もう、堪らないぞ俺よ……。自分で自分に手を出してしまいそうだぞ……。あとで分身魔術とかないか聞いてみるか……」

 

 頬に手を当て、自身の美貌に照れている俺は、無自覚のうちに奇妙なことを口走っていた。

 

 「大丈夫か……?この子」

 「ちょっとヤバい子だったんじゃねえの……?」

 

 その様子に、ナンパしてきたはずの男達すら引いていた。

 しかしまあ、自分に照れるのはこの位にして、冷静に男達を観察してみる。

 年齢は俺より少し上くらい、体は大きいものの、これと言った武器を持っているわけでは無さそうだ。これなら“蛇”で蹴散らす事ができるだろう。

 奴らの虚を突き、“蛇”で華麗に倒す。つまりは、“強い女キャラ”を演出できる絶好の機会である。

 俺は背中に魔力を集中させていく。男達が油断している今が絶好の機会だ。

 

 「おい、そこのお前達、何をしている」

 

 凛とした声が路地裏に響く。

 その場の誰もが、声の先を見た。

 そこに佇んでいたのは、白いローブの女。

 

 「あぁ?! なんだよテメェはよ!」

 「こちとら取り込み中だ。“揉め事は見ないふり”、それがこの街のルールだろうが!」

 

 急に強気になった男達が女の方に迫っていく。しかし、彼女は一切の反応も見せない。


 「おい聞いてんのか?!」

 「でも、近くで見ればなかなかの上ものじゃねえか……。代わりにアンタで遊んでやろうか?」

 「―――喚くな」

 

 そう女が呟いた瞬間、鋭い音と共に男達がその場に倒れる。

 ローブの縁から突き出た、剣先を見て、何が起きたのかやっと把握することが出来た。

 ―――今の一瞬で女が男二人を“切った”のだと。

 

 「―――大丈夫だったか?」

 

 女は俺の元に駆け寄ると、その顔を覆ったフードを脱ぐ。

 その外見に、俺は息を飲んだ。

 見覚えのありすぎる顔立ち。

 そして、 右目に刻まれた三日月の紋章。

 ―――“教会(イール)”!


 旧校舎を倒壊させ、ビオラを狙い、俺と死闘を繰り広げた張本人が、今目の前にいるのだ。

 

 「あっ、危ないところでした……。 ありがとうございます」

 

 憎しみの念がよぎるが、それを悟られぬよう顔には笑みと安堵を貼り付ける。

 

 「たまたま見かけただけだ。礼には及ばない」

 

 まるで怯えた動物をなだめるように、優しく笑うイール。学園で対峙した時とは別人のような朗らかな表情だ。

 どうする……。

 奴は俺が、“学園で戦った転生者”だと気づいていない。今、“蛇”の一撃をぶち込めば致命傷を負わせる事も可能だ。

 “卑怯”かどうかなんて今に始まった事ではない。

 それより重要なのは次対峙した時、真剣勝負でビオラと俺自身を守れるかどうか。

 そう考えれば―――


 「……大丈夫か?」


 気づけばイールの不安そうな顔が目の前にまで迫っており、俺はビクッと肩を震わせる。

 

 「えっ……ええ。大丈夫です」

 「じゃあ何故ずっと突っ立ってる?」

 

 攻撃するか考えてました。なんて口が裂けても言えない……。

 

 「まさか、道に迷ったのか?」

 「へ?」

 

 予想外の言葉に、素っ頓狂な声が出てしまった。

 

 「見たところ、この街の人間では無さそうだしな。さっきの男達に連れ去られ、帰りたくても帰れない状況……等ではないか?」

 

 どうやら、変な方向に勘違いしてくれたらしい。(ここからビオラの元に戻れる気がしないのも確かだが……)

 ここは奴の発言に乗っかっておこう。

 

 「そうなんですよ〜。友達と二人でいたところを連れ去られちゃって……。戻ろうにも道が分からないし、困ってたところなんです」

 「やっぱりそうか。なら私が案内してやろう。1人で歩かせたら、また拐われるかもしれない」

 「へ?」

 

 返事を待たず、イールは俺に手を差し伸べる。

 何故そうなるのか……。いや、そうなるのが自然なのか? どちらにせよ、ここで断ると怪しまれるのは確かだ。


 「では……、よろしくお願いします」

 

 イールの手をとると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 「私はイール。イール・ロフロスだ」

 「ヨ、ヨツバです」

 

 両性的な名前を付けてくださった両親に感謝します……。


 

 

 宿屋を後にした“疎楽園” の三人は、朝食を食べていないタチバナのため、カフェに足を踏み入れていた。

 

 「ったく……、なんでカフェなんかに……」

 「いいじゃないか、どうせ取引まで時間があるんだ。外は小雨が降ってるし、雨宿りがてら時間を潰そう」


 ボロボロだった洋服を着替え、茶色のロングコートを羽織ったタチバナが、リッティを宥める。

 育ち“だけ”はいいリッティ。幼い頃から毎日分刻みの予定が詰められていた為、“何もしない”という時間が苦痛に感じるのだ。

 

 「タチバナの言う通り、取引までの時間やることなんて無いんだし、適当に過ごしてましょうよ」

 

  白色の小包をもったアンピが席に座る。

 

 「ちょっと……、アンタまで何買ってんのよ」

 「ケーキ。スカリィとディテールへのお土産」

 「今買ったら腐っちゃうでしょ」

 「そしたらまた買えばいいじゃない」

 「そんな資金、“疎楽園(うち)”には無いわよ……」

 

 当然のように言うアンピに、リッティは頭を抱える。

 リッティを除く疎楽園の連中は揃って金銭感覚が鈍い。

 タチバナは、美人に言われればどんなガラクタだって買ってくるし、アンピも研究用だと、謎の資料や道具を山ほど購入してくる。おかげで疎楽園の資金とスペースは減る一方だし、事実リッティがやりくりしていなければとうの昔に倒産していただろう。

 

 「そう、カリカリすんなって。ほら、お前もなんか頼めよ」

 「いい……。宿で汲んできた水でも飲むわよ」

  「へいへい。みすぼらしいお嬢様だねぇ」

 

 タチバナは、ふとコートのポケットに手を入れる。しばらく静止した後、慌てて身体中を探り始めた。

 

 「なに? 急にどうしたのよ」

 

 水を啜るリッティが問いかける。

 タチバナは大きく息を吐き、ゆっくりとリッティを見る。

 

 「“箱”失くしちゃったっぽい!」

 

 てへっと舌を出して笑うタチバナ。同時にリッティが水を吹き出す。


 「何してんのよ、この大馬鹿マヌケ転生者っ!」

 「あ! そうやって転生者を馬鹿にするのはよくないんだぞ。まだ失くした分かんないだろ。宿に忘れただけかもしれないだろ」

 「私が最後に出たけど、何も残ってなかったわよ」

 

 唯一落ち着いているアンピが横槍を指す。

 

 「じゃあアレだ! ここまでの道のりで……。えっとまず、こんな四角いならサイコロとかに出来そうだなって手に持って……、そしたら女の子とぶつかったんだ! 黒髪ロングで、世の男子の夢や希望を結集させたらああいう子が生まれるんじゃないかって美人で……」

 「その女の特徴はいいのよ!」

 「で、荷物を拾って上げるために、1回地面に置いて……、ちょっと口説いてたらリッティに呼ばれて……」

 

 タチバナはカフェまでの道のりを思い返し、腕を組んで唸った。

 

 「多分、拾ってる流れで、女の子の荷物に紛れ込んでるな!」


 リッティは、タチバナのアホさ加減に口を開けたまま放心してしまう。

 

 「それが事実なら取り返すしかなさそうね」

 「そっ、そうね……」

 

 アンピが息を吐きながら立ち上がると、それに同意するようにリッティも席を立った。

 

 「お、ちょっと待ってくれ。もうちょいで食べ終わる」

 

 タチバナは急いで、朝食を口に詰め込め始めた。


 「いいわよ……。アンタがいると余計事が面倒になりそうだから、そこで待ってなさい!」


 リッティはそう言い残すと、カフェを駆け足で出ていく。

 残されたタチバナはタメ息を吐いた。

 

 「申し訳ないねぇ……」

 

 フォークでウィンナーを刺し、口に放り込む。

 

誘拐されるのがヨツバですね。しかし、今回はイールと行動することになりました。

正体がバレるのか、それより早く攻撃するのか。ヨツバはどう動くのでしょうか。


次回は水曜日です。

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