決めゼリフの前に装いを整えようか……
一夜明け、俺は再びルーゼの背中に乗っていた。冷たい向かい風が寝ぼけた顔に触れる。昨日と違うのは、髪の毛が風になびくことだろうか。
生活必需品の買い出しを手伝うことになったらしく、昨日村に来たメンバーに、どうしても行きたいとせがむミルカを加えて、街へと向かっているのだ。
「大丈夫? すごい眠そうだけど」
「そんな奴ほっとけばいいんだよレイ姉。どうせ母さんと“着せ替えパーティ”してたんだから」
ミルカの言う通り、昨晩の“着せ替えパーティ”は明け方まで続いたのだ。お陰でねてないのだが、新たな“(性的)嗜好”には目覚めてしまいそうだった。
いつもなら俺のすぐ横にいるビオラも、今日ばかりは少し離れて座っており、顔も合わせぬようそっぽを向いている。
「おいおい……、そんなあからさまに不機嫌になるなよ。昨日は初めての女体化に興奮しちまったんだって」
「……いいではありませんか、興奮していれば。その“長い髪”でトートバッグでも縫って買い物にでも出かければ良いのでは?」
…………返事をしてくれるだけありがたいと思おう。少なくとも女のままでは、ビオラの機嫌も直りそうにない。
「レイ姉、レイ姉! デートしようよ、デート! 俺がエスコートするからさ」
「もう……、遊びに行くんじゃないんだよ?」
この“姉妹”の会話にも入れそうにない。まさかこの場においてボッチになってしまうとは……。仕方がない、到着するまで女体化のお陰で無駄毛の消えた、ツルツルの脛でも撫でていよう……。
東西南北、あらゆる物が揃うことから“商人の街”とも呼ばれる都市―――ムーカティ。
ヨツバが向かっている街であり、ちょうど上空をルーゼが通過した頃、街のとある宿屋で―――
「…………雨か」
2階の窓から外を眺める少女がいた。
窓ガラスに映る憂鬱そうな表情は、この天気のせいばかりでは無い。黄緑色の髪に、カナブンでも埋め込んだような緑色の瞳。
名前をリッティ・アーカイム。皆からはリッティと呼ばれている。
「そう……。スカリィを連れてこなくて正解ね」
空模様を全く気にすることなく、ソファに腰掛け悠然と紅茶を啜るのは、アンピ・メリーズ。巷で“電撃狐”と呼ばれている少女である。
「ふと思ったけど、雨の中で“魔術”をつかって感電しないの?」
リッティの問いかけに、アンピは嘲笑した。
「これだから世間知らずの元お嬢様は困るわ。自分の毒で死ぬ蛇がいる? 蜘蛛がいる? いるとしても貴方みたいな、魔術の使えないおバカさんだけでしょうけど」
「なっ! なによそこまで言わなくてもいいじゃない」
リッティは憤りをあらわに、腰につけたステッキを手に取り、先端をアンピに向ける。
「ちょーっと魔術が上手いからっていつも私を馬鹿にしてぇ! 私だってね、魔力量は多い方なのよ? この術具さえあれば少しは戦えるんだからね!」
「その術具も私が作ったものじゃない?」
「うっ……」
痛いところを突かれたようで、リッティは渋々ステッキを腰に付け直す。
アンピはその光景を見てくすくす笑う。
「それしても、いつもながらタチバナは遅いわね」
「昨日もナンパに出かけたんでしょ……。どうせフラレまくったヤケで酒飲んで、不良に絡まれ、ボコボコにされた後、道の隅っこで寝てるわよ」
「いくらタチバナでもそこまでは―――」
ちょうどその時、階段を物凄い勢いで登ってくる足音が響き始め、その地響きはリッティ達の部屋に向かってきていた。
一人の少年が駆け込んでくる。ビジュアル系バントでも着ないようなボロボロのシャツに、右側部分だけ太ももまでしか丈のないズボンを履き、髪は野良猫でも乗せてるのかと問いたくなるくらいボサボサで小汚い。
「悪い遅くなった……。この街の娘綺麗なんだけどさ、皆お高くとまっててまともに相手してくれねえの。だからヤケ酒してたら変な輩に捕まってさ……。有り金全部取られた後、気づいたら道で寝てた……」
リッティが「ほらね?」 という視線でアンピを見る。
「……一応言っておくけど、今回の仕事はかなり重要なのよ? まだ酔ってる、なんてことはないわよね?」
「俺はいつでも自分に酔ってるぞ!」
タチバナの発言を無視して、リッティは確認するように視線を向ける。
「…………分かってるって、でもやる事は単純だ。あとは“コイツ”を依頼人に渡せばいいだけだろ?」
タチバナは机に置かれた、手のひらサイズの“箱”を手に取る。
「ただ、問題だったのは“教会”の管理下にある洞窟に保管されてたってことか……。盗み出すの相当苦労したぜ」
そう、タチバナ達に来た依頼は、“教会”が保管していた箱を依頼人に届けること。箱はなんとか盗み出し、後は依頼人と待ち合わせるだけなのだが……。
「でも、“教会”の追手も来ているでしょう。まだ油断は出来ない」
タチバナと言えど、“教会”とタイマンするのは好手では無い。出来れば対峙せずにことを済ませたいのだ。
「結局その箱、アンピの“眼”でも中身は見えなかったか?」
箱は魔術で開かないように細工されているようで、中身が何なのかはタチバナ達も把握していない。
しかしアンピの眼は、物体が纏った“魔力の色”を見ることができる。これをもってすれば、おおよその中身は想像出来るはずである。
アンピは首を横に振る。
「ダメね……。色々試したけど、色も見えなかった。中身は完全に謎ね」
「依頼品は謎……、依頼人も謎……。でも“教会”が狙ってる……」
リッティが再度確認するように呟き、頭を抱える。
「でも……、それでもやるのが俺達だ。善行から悪行まで。来る依頼は拒まず全て遂行する。―――それが俺達“疎楽園”」
タチバナの箱を握る手に力が入る。
その光景を見て、アンピはため息をついた。
「決めゼリフの前に装いを整えようか……」
一応新章ってことになるんですかね。
舞台は街になりました。後半に出てきた組織“疎楽園”、スカリィことアイスストーカーも所属しています。
次回は水曜日です。よろしくお願いします!




