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“お風呂券”及び、“添い寝券”と“耳かき券”は俺のモノだ!


 ネウト族の村、ネーフィに来たその日の晩。村の中心にある大広間では宴会が行われていた。

 巨大な炎を中心に村人達が踊る歌う、酒に料理にどんちゃん騒ぎ。そんな喧騒をビオラと傍から見ていると、レイビアが二人の男女を連れてきた。

 

 「ヨツバくん、こちら僕の両親……。どうしても紹介しろって言うから……」

 「どうもこんにちはね〜」

 「うちの“娘”がいつもお世話になってます〜」

 

 どちらもおっとりとした顔で、どことなくレイビアに似ている。

 アートレイ夫婦が、媚を売るように俺に密着するように腰を下ろす。

 

 「どうです料理の方は? うちの家内が作ったんですよ」

 「あっ、大変美味しいです……」

  「でしょ?! “娘”のレイビアにもちゃんと教えてますからご結婚されれば毎日楽し―――」

 

 俺とレイビアが同時に吹き出す。

 

 「ちょっとちょっと! なんで僕とヨツバくんが“そういう関係”みたいになってるのさ!……たしかによくご飯は作りに行ってるけど……。 それに僕は“男性志望”なんだから“息子”でしょ?!」

 「なんだ、もう料理を振舞ってるのか」

 「母さんも教えたかいがあったわ!」

 

 先程聞いた話だが、性別のない未成人の間は、自分の希望する性別の呼称で呼ばれ、扱われるのが暗黙の了解らしい。……しかしレイビアは場合その限りではないようだ。

 

 「僕はハロルド叔父さんみたいな男になりたいの! 本人の希望が第一でしょ!」

 「たしかにその通りだ。しかしねぇ…………」

 「隣のパールさんに、ひねくれ者のジャスミンさん、村全体が望んでるのよね……。最長寿のクーバお婆ちゃんも、『レイビアの花嫁姿を見るまでは逝けぬ!』って頑張ってるくらいなのよね」

  「そ、そこまでなの……?」

 

 さっきまで語尾に“!マーク”が着いていたはずのレイビアも、流石に困惑の色が見え始めた。

 かく言う俺はどうするべきかと、ビオラを見れば、知らぬ顔で料理を口に運び続けている。こやつ逃げおったな……。

 しかしこの手に限るだろう。俺も野菜の肉巻きを手に取る。

 

 「そろ心配はむよーですよ。おろー様、おかぁ様!」

 

 片手に酒瓶、もう片手に何故か木刀をもったミルカが、言葉すらままならないベロンベロンに酔って千鳥足で現れた。

 

 「ゲッ! 誰だうちの“次女”に酒飲ませたのは?!」

 

 酔っ払ったミルカに気づくやいなや、両親が距離をとるように立ち上がった。

 

 「わらしも“男性志望”って言ってるでろー? 安心してよー、私が“男”にらってレイ姉と結婚……、でへへ……結婚するんだからさー」

 

 何を想像してか、自分の発言に照れるミルカ。頬を赤くしてにやけながら木刀を振り回し始めた。

 しかしここで動じてはいけない。酔っぱらいが去るまで大人しく食事を続けるのだ。

 

 「結婚もなにも……、貴方達姉妹なのよ?!」

 「そんらのLOVEパワーでなんとでもなるなる……。やっべえ……鼻血垂れてきそう」

 

 ミルカは顔を上げ鼻をすする。アーサーと言い、レイビアに惚れている奴は変態しかいないのだろうか。

 

 「なのになんらお前はぁ! レイ姉が横にいるのに、すました顔でクールキャラ気取りやがって……。レイ姉可愛いよなぁ!?」

 「ちょっとミルカ―――」

 「レイ姉は黙っれれ……。どうだよぉ、死ぬほど可愛いよなぁ?!」

 

 木刀の先が俺の顔を向けられる。

 完全にオーラを消していたはずなのに……。クソ……、やはり侮れないか酔っ払いは。

  答えを催促するように、ミルカは竹刀で俺の頬をグイグイ押してくる。

 

 「おう、答えろよぉ! レイ姉可愛いよな!」

 「まぁ……。そりゃあ可愛いとは思うけどさ」

 

 ミルカは歯を見せてニヤリと笑う。期待通りの答えが返ってきたからだろう。

 

 「じゃあ、じゃあ、わらしとレイ姉をかけて決闘だぁ。勝った方には“レイ姉とお風呂券”と“添い寝券”。文句ないな?!」


 聞いてきたが返事は求めていないらしく……

 

 「レイ姉をかけて決闘らぁ!!」

 

 と村人全員に聞こえる声で、木刀を高らかに掲げたのだった。

 

  「決闘?!」「酒のつまみにピッタリじゃねえか」「おう早くやれー!」

 

 酒の回った村人達に止める者はいない。広場全体から、手拍子に合わせて“決闘コール”が響く。

 

 「ちょっとちょっと、僕の意思は?!」

 「らいじょーぶだよレイ姉……。私が勝って“お風呂券”、“添い寝券”、“膝枕券”を獲得するから……」

 「さっきより増えてるじゃん!」

 

 謎の流れで戦うことになってしまったが、俺は顎に手を当て真剣な顔で考える……。

 そんな俺を、レイビアはジト目で見つめる。

 

 「まさかヨツバくん……。受けたりしないよね?」

 「ま、まさか! 『“添い寝券”が付くなら悪くないな……』なんて事は考えてないぞ!? しかし、売られた喧嘩は買うのが俺のモットーなだけで……」


 俺は立ち上がり、ミルカに拳を突きつけた。

 

 「いいだろう。その決闘のってやる! だが“お風呂券”及び、“添い寝券”と“耳かき券”は俺のモノだ!」

 「また増えてるし……」

 

 


 小雨の中対峙する、俺とミルカ。村人は俺達を囲むように集まり、野次や適当な歓声を飛ばしている。 とんだ宴会の出し物にされてしまった……。

 

 「作戦はあるのですか?」

 

 俺の横に立つ、ビオラに問われる。

 ミルカは酒瓶さえ持っていないものの、相変わらず木刀は握っている。アレで戦うと見て間違いないだろう。そして、場は村人達に囲まれた狭い空間。逃げながら詠唱するのは無理があるだろう……。

 となれば―――

 

 「“蛇”で行くか……」

 

 そう告げると、急にビオラの顔がムッと不機嫌なものになった。

 

 「では、今回私は不要ですか……?」

 「……いや、そういうわけじゃ」

 

 釈明しようとしたが、ビオラはプンスカしながらギャラリーの方へ混じっていった。

  

 「では、これより決闘を開始する」

 

 審判役を買って出たハロルドが、俺とミルカの間で声を張り上げた。

 

 「必要以上の追撃、及びワシが危険と判断した場合は即座に中止させる。両者理解したな?」

 「大丈夫らよ叔父さん。一瞬で終わらせるからら〜」

 

 舌足らずな話し方で、酔いの抜けてないミルカがヘラヘラと笑う。

 

 「悪いけど、レイ姉はわらしのだかんねぇ〜」

 「こちとら酔っぱらいに負ける気はねえよ」

 

 両者睨み合う中、ハロルドが大声で開戦を告げる。

 

 「では、始めぇ!」

 

 その瞬間、ミルカの表情が一変した。

 火照ったような頬と、たるんだ目は消え、冷静で鋭い目付きをもって木刀を振りかざし、一気に距離を詰めてくる。

  その豹変ぶりに驚きはしたが、慌てはしない。

 ―――“│教会イール”よりかは遥かに遅い。

  俺は冷静に背中へ意識を集め、その空間に黒い“蛇”を顕現させた。

 

 「喰らえ!」

 

 上から振り下ろされた木刀を横にかわし、ミルカの足元を、出来るだけ弱い力をもって“蛇”ですくい上げた。


 「なっ!」

 

 ミルカは漏れたような声を出し、その場に肘からずっこける。地面にできた水溜まりから水滴が飛び上がった。

 

 「いっったいなぁ!」

 

 ミルカは木刀を杖にして立ち上がり、顔についた泥を拭った。その瞳に酔はない。殺意すら含んだ目で俺を睨みつけている。

 

 「悪いが、レイビアは俺が貰っていくぞ」

 「うるさい! レイ姉は私んだい!」


 木刀を握り直したミルカは雄叫びをあげて再び突っ込んでくる。

 俺は難なくそれをいなす。それを皮切りに、ミルカの攻めは続く。

 乱雑ながらも、明確に俺を狙い、ミルカは武器を振るい続けた。

 とめどなく襲いかかる木刀を、俺はかわし続ける。

 今までの俺では考えられない動き。これまでの激戦で身体能力が鍛えられていたのか……。

 

 それとも―――

 

 隙を突いて“蛇”の頭をミルカの腹部に打ち込む。

 力を加減したためダメージは少なそうだが、衝撃でミルカは尻もちをついた。

 

 「く、くっそぉ……」


 地面に刺さった木刀を抜き取り、立ち上がるミルカ。木刀が当たらない苛立ちから、歯を噛み締めている。

 

 「もういい、本気出す!」


 ミルカは騎士のする敬礼のように木刀を垂直に構える。

 

 「―――“│水芸魔術アシレイ”」 


 そう宣言したと同時、ミルカの木刀に異変が起きた。

  木刀に着いた雨粒達が肩身を寄せ合うように結合し始め、刀身を覆い尽くしたのだ。

 雨粒により、一回り巨大化した剣先を、ミルカは俺に向ける。

 

 「おいおい……、てっきり魔術は使えないものかと思ってたが」

 「驚いた? レイ姉が使ってる所くらい見たことあるでしょ。“アシレイの水芸魔術”。まだ“パートナー”はいないけど…………」


 ミルカは剣を構え直す。

 

 「それでも十分だよっ!」

 

 木刀に雨粒と、その身には自信を纏いミルカは距離を詰める。

 先程より“強力”になっているのは間違いない……。ならばこちらも試運転がてら“蛇”の本領を発揮してみるか……。

 “蛇”の口が開かれる。四本の尖った牙から垂れる“黒い水滴”。

  ミルカの木刀が迫り、“蛇”と衝突しようというその一拍前、二人の間に割って入る影が―――。

 

 「両者そこまでにしておけ!」

 

 その姿はハロルド。自身の傘で木刀を受け止め、残りの手で“蛇”の進行を押さてたのだ。


 「ミルカ、“水芸(我々の)魔術”は“戦うべきでなく、守るべき”に使うものだ。決して己の未熟さ故に使うものでは無い。……そう教えたはずだが?」

 

 ミルカは歯切れの悪そうに目を逸らし、振るいかけていた木刀を渋々下ろした。


 「……ごめんなさい」

 

 それだけポツンと呟いたミルカは振り返り、悔しそうにギャラリーの方にかけていく。

 

 「そして少年―――」

 

 まさか自分にも来るとは思っていなかった為、俺は肩を震わせる。

 

 「その“蛇”、“安全なもの”では無いな?」

 

 ミルカの時より厳しい目付きで、ハロルドは俺を睨む。

 “安全なもの”ではないって……。俺だって何の魔術か把握していないのだ。

 

 「……無自覚なようだが、それ故に尚も恐ろしい……」

 

 ハロルドは傘を剣のように、腰へ備える。

 

 「その“力”……、使い所はしっかりかんがえるべきだな。―――過ちが起きてからでは遅い」

 

 そう俺に言うと、ハロルドは広場の中心まで行き大声をあげる。

 

 「あれ以上は危険だと判断した。決闘は引き分けとする」


 ギャラリーから不満の声や野次が漏れる。 

 レイビアを掛けた決闘は、空模様のよつにスッキリとしない幕切れとなった。

数話前の事ですが、この作品の文字数が184681文字を超えまして…。このくっそ中途半端な数字、私が以前一年くらい書いてた作品の文字数なんですね。

それを半年位で超えるという…。昔の自分はどんだけやる気なかったんだと思うわけです。


なんやかんや言いましたが、次回は水曜日です

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