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―――今は悲しい


 日は変わり、ついにやってきた補習最終日。つまりは、“確認テスト”が行われるわけだ。

 文字すら読めない俺の合格は絶望的であり、間違いなく追加の補習が待っている…………。教師陣はそう思っていただろう。

 しかしどうだろう! 返却されたテストの結果は全て合格点を超えていたのだ。

 文字を記号として暗記し、この記号の配置だと答えはこれ、という脳筋暗記法でなんとか合格したのである。

 教室の椅子にふんぞり返り、有終の美を飾ったテストを満足げに眺めていると、アニーがよそよそしく近づいてきた。

 

 「全部合格点……、凄いですねヨツバさん……」

 

 アニーの手にも、テストの結果がある。どうやら、彼女も補習だったようだ。

 

 「ま、まぁな……。これも全部ルマのお陰ってやつかな」

 

 そう、俺が合格できたのも全てルマのお陰である。彼女が毎日教えてくれたからこそ、この結果があるのだ。

 

 「ルマ…………ですか?」

 

 きょとんとした顔で尋ねるアニー。

 そう言えば、彼女はルマの事をしらないのか。

 

 「補習1日目に図書館で見たんじゃないか? 俺の向かいに座って勉強教えてた子だよ。ほら、“二人で勉強してた”って言ったろ?」

 

 アニーは首を傾げ、「二人で……?」と呟いている。たしか、あの日にも同じような行をやったはずだ。

 

 「実は……あの日、2階からヨツバさんを見ていたんですが……。ヨツバさん、“ずっと1人でしたよ?”」

 「は?」

 

 急に何を言い出すのだ、彼女は……。

 

 「私はてっきり、“ビオラさん”と一緒にいたのかと思っていましたが……」

 「違う、ビオラじゃない!」

 

 机を叩きつけ、アニーに突撃するかの如く立ち上がる。

 

 「ルマだよ。ルマ・テンペス! 真っ青な髪に、トマトの髪留め付けてたあの子だよ! 恋愛小説が好きで、魔術史にも詳しい。俺にはプローン食べさせておいて、自分にはやってくれないし、昨日なんて突然いなく―――」

 

 言葉が止まった。

 アニーが鬼気迫る俺に怯えているからではない。

 今までルマを構成していたはずの、“記憶のピース”が崩れ始め、また別の形を形成しようとしている気がしたからだ。

 時計を見れば“15時 58分”。

 俺はテスト用紙を机に放置したまま、図書館へと走り出した。

  昨日突然居なくなった事といい、アイツには聞きたいことが山ほどあるのだ。




 図書館に駆け込むと、机に腰を据えたルマと目が合った。その様子は、俺が来るのを待っていたかのようである。

 ルマは哀愁のある表情で無理やり笑顔をつくると、いつもと変わらないように声をかけてくる。

 

 「やあヨツバ。補習にはちゃんと合格した?」

 「それどころじゃないだろ!?」

 

 ルマとの距離を詰め、胸ぐらを掴んで無理やり立たせる。

 

 「……聞きたいことがある。昨日なんで突然消えた……?!」

 

 ルマは俺から目を逸らす。

 

 「他にもあるぞ。なんで俺以外の奴にお前は見えてないんだよ!」

 

 ルマは答えない。依然として床を見つめたままだ。しかし―――

 次の瞬間、掴んでいたはずのルマが消えた。気付けば俺の横に立っているのだ。

 

 「―――今の、どうやったと思う?」


 突如、俺の横に瞬間移動したルマが問いかける。

 

 「どうって……、なんかの魔術だろ?」


 ルマは首を横に振る。


 「―――“時間”を止めたんだよ」

 

 「……………………は?」

 

 理解が追いつかない以前に、ルマが何を言っているのか分からなかった。

 

 「発端は21年前……だったかな。私、自殺したんだ」

 

 彼女は泣きべそをかいたような哀しい目で、自身の過去を語り始める。

 

 「それも学園の屋上から飛び降り……。笑っちゃうよね。そのせいか昨日なんて、女の子の“飛び降り自殺”に過剰反応しちゃってさ……。ほら、噂話で聞いたことない? 数十年前自殺をはかった少女。でも死体は見つかってない。今も自分の体を求めてうんたらかんたら―――。その話、私のことなんだよね……」

 

 事実、その話を耳にしたことはあった。以前、怪談話で、ウィリーが話していたものだ。

 

 「じゃあお前……、“幽霊”とでも言うのかよ……?」

 「…………“幽霊”かもしれない。でも違うかもしれない……。そもそも私は死んですらいないのかもしれない」

 

 次の瞬間、ルマの顔が鼻のすぐ先にまで寄ってきていた。…………“時間”を止めたでもいうのだろうか。

 

 「―――私は“時間”になったんだよ」

 

 彼女の息が顔にかかる。彼女の大きく開かれた瞳に吸い寄せられそうだ……。


 「“時間”は、言うならば“24隻の船”なんだよ。1隻が1時間の役割を持ち、この世界のあらゆる生命は無意識のうちにその船を時間毎に移動している。―――今は16時05分。つまり、“16~17時の船”。16時00分から、16時59分までは、どんな生命だって“この船”にいる。でも17時になった瞬間、どの生命も無意識のうちに“17~18時の船”に移動してるんだよ」

 

 ルマの口から語られる、彼女の真実。いや、時間及び世界の真実とも言うべき内容に、俺は耳を疑っていた。

   

 「私が自殺をはかったのは“16時22分05秒”。あの瞬間、“時間”に魅入られでもしたのかな……。私はそれ以降、“16~17時の船”に取り残され続けてる……」

 「じゃあ、いつも17時になると居なくなったのは…………」

 

 ルマは目を細めて頷く。

 

 「私にとって、居なくなってたのはヨツバの方なんだけど……。ヨツバの考え方で正しいと思うよ。“16~17時の船”から出られない私は、決して17時に到達出来ない。だから、適当な理由をつけて居なくなってたんだ……。―――昨日だって屋根から消えたように見えたかもしれないけど、実際はあの場所にいたんだよ? ただ、“時間の船”が違っただけ……」

 

 口を閉じたルマは今にも泣き出しそうだった。手の甲で目を拭うと再び、俺の前から姿を消す。

 

 「“時間”になってしばらくは訳が分からなかったよ……」

 

 図書館の2階からルマの声が響く。


 「皆と一緒に居られるのは1時間だけ。残りの23時間は誰もいない“空っぽの世界”でたった一人」

 「―――でも、その1時間でさえ、私を認知できる人は全くいない」

 

 ルマの声があらゆる方向、1階、2階問わず聞こえてくる。

 

 「しばらく経ってから、“16~17時の間”なら、“時間”が止められる事に気づいた」

 「―――でも、自慢出来る相手はいない」

 

 「暇つぶしに図書館の本は全部読んだ」

 「―――でも、褒めてくれる人も、知識を披露する機会もない」

 

  「学園中の落し物を拾ったり、困ってる人に手を貸した」

 「―――誰も私には気づかない」


 「そんな中で、ヨツバと出会った」

 「私をこんなに認知してくれる人は初めてだった」

 「夢だった“デート”まで出来た」

 「楽しかった。1時間だけでも嬉しかった」

 「でも―――」

 

 「―――今は悲しい」

 

 彼女の声が止まり、後ろから抱きしめられる。

 背中が濡れているのは、汗のせいばかりではない。

 

 「なんで悲しいんだよ……」

 

 返事は無い。

 

 「お前の正体が分かったって俺は怖がったりしない! これからだって毎日会いに来る」

 「…………ダメだよ」

 「23時間は1人にさせても、この1時間は誰よりも幸せな時間にしてやる!」

 「…………ダメなんだよ」

 「ダメじゃねえよ!」


 沼に沈むような感覚に襲われたのはその時だ。

 足元を見れば図書館の床は消え、ルマを中心に黒紫の空間が広がっていく。それは、図書館をどんどん侵食していき、俺の視界一面を暗転させた。

 

 「……ダメなんだよ。私は“世界の一部”なんだ。……│世界わたしには触れすぎちゃいけない」

 「さっきからダメダメうるせえんだよっ! 俺が必ずお前を救ってやる。世界の法則をぶっ壊してでも必ず、絶対に!」

 

 意識が遠のいて行く。

 俺は全身全霊を込めてルマを睨み、彼女は涙を拭い、微笑みを俺に向けた。

 

 「ひねくれてるけど、やっぱり優しいんだね。でも無理なんだ。ヨツバじゃ私は救えないし、誰も私を救えない……。私は“世界の一部”なんだ」

 

 視界が闇に覆われる中、唇にかんじたのは、暖かな温もりだった。


 

 

 「こんな所で何をなさっているのですか?」

 

 目が覚めると、目の前には眉をひそめたビオラの顔があった。

 どうやら図書館の机で居眠りをしていたらしい。

 

 「…………なんだったろうな」

 

 たしか、テストに合格して…………。それからどうやって図書館まできたんだっけ?

 

 「ところでマスター、試験に合格したそうですね。おめでとうございます」

 「あ、ああ。ありがとな……」

 

 そもそもどうやって合格したんだ?

 ……思い出せない。…………きっと親切な妖精とかが、俺の半生を哀れんで解決してくれたのだろう、きっとそうだ。

 

 「という事は明日からお休みですね! 何処かに出かけましょうか」

 「ああ、そうだな」

 

 適当にはぐらかし、席を立つ。何故か妙に頭が回らない……。

 とりあえず寮に戻ろうと図書館を出て、ポケットに手を突っ込む。

 

 「……痛っ」

 

 指の先に何かが刺さる。

 取り出してみれば、見覚えのない“トマトの髪留め”である。

 

 「どうしたんですか、それ」

 

 後ろからのぞき込むビオラ。

 

 「さあ、なんで入ってるんだろうな……」

 

 再度ポケットにしまい、寮への帰路を歩いていく。

 妙に、唇が暖かい気がするのは気のせいだろうか。

というわけで、日常回も幕引きです。

うん、まあ、全く日常じゃないんですけどね…。

ルマは、投稿開始時からずっと出したいなと思っていたキャラで、今回やっと出すことが出来ました。初期設定には、「孤独すぎてぬいぐるみに話しかけてる」とあるんですが………、おかしいですね、そんな描写がひとつも無いという……。


ルマ及び“時間”の設定が、よう分からんと友人に言われた為補足しておきますと、ルマは17時になった瞬間次の日の16時に飛ぶ訳ではなく、“16~17時の船”で、次の16時まで23時間待つわけです。

「どうしても分からんし、ちゃんと理解したいんじゃ!」という酔狂な方がいらっしゃいましたら、“チスペレ”のTwitterにでも連絡してください。分かるまでみっちり解説します(塾講師)

ちなみに、“時間”の設定はトワイライトゾーンを参考にしました。


次回から夏休みも後半になります。

レイビアの故郷に行く話ですが……、如何せん話が完成してないんですね。

なので、2週間くらい時間をください。

では、近いうちに戻ってきますので、しばらくお待ちください。


長くなりましたが、こんなあとがきまで読んで下さりありがとうございます。ちゃんと完結させますので、今後ともお付き合い願います。


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