表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/130

“蛇”はどうなの?


 「ただいまー」


 自室である303号室の扉を開けると、何かを炒める香ばしい香りが鼻に触れた。


 「あっ、お帰りなさいませマスター」


 何故かエプロン姿のビオラが台所から顔を出す。


 「こんばんはヨツバくん、お邪魔してます」


 ビオラの横で、レイビアが手を振る。

 彼もビオラとお揃いのエプロンを着ているようだ。

 ビオラは手に持ったフライパンを、俺に中身が見えるように向けた。


 「見てください。レイビアさんに料理を教わっているんです。今晩は新鮮な野菜の炒め物ですよ」


 新鮮なら生とかの方がいいのでは? なんて思ったが、作ってもらえるだけ有難い。

 俺は制服を脱ぎ捨てると、部屋着へと着替える。


 「急におしかけてごめんね……。迷惑じゃなかった?」

 「全然構わねえよ。それより昼間はビオラの事ありがとな」

 「そんなの大丈夫だよ。むしろ、人手不足だから助かっちゃった」


 そう言いながらレイビアは、俺の脱いだ制服を当然のように畳んでいく。…………なんだこのできた子は。

 

 「レイビアさん! 野菜が焦げ始めてますっ!」

 「あー、大丈夫大丈夫。今行くから」


 ビオラの叫び声に呼ばれ、レイビアは再び台所へと戻っていった。

 ビオラが料理をするなんて珍しい。いつもは適当に出来物を買ってくるか、レイビアに恵んで貰っているのだ。……しかし、さっきの台詞を聞くに、あまり期待出来るモノは食べれそうにない。

 



 机の上にドンと載った大皿。その皿いっぱいに盛り付けられた野菜炒め。所々焦げていて、未知の植物が多々見られるが、……食べられないことはないだろう。


 「…………お口に合いますか?」


 ビオラが不安そうに見つめてくる。

 女の子にそんな視線を向けられて食べないわけにはいかない。根性一発、フォークで野菜を刺すと、口に入るだけ詰め込んだ。


 「……どうでしょう?」

 「…………苦手なはずのトマトも、味が一緒だから食べれる…………」

 「それは良かったです! どうぞ好きなだけ食べてください」


 嬉しそうに、どんどん俺の皿によそっていくビオラ。今までに無いほどの笑顔なのに、本音なんて言えるはずもない。しかし、レイビアの美味しそうに頬張っているし、俺の味覚がおかしいのかもしれない。

 

 「そう言えば、他の奴らは誘わなかったのか?」

 「一応誘おうとしたんだけど、ハヤト君達は帰省しちゃたみたいだし、ミヤビさんは何処にもいなかったんだよね」


 ……なるほど。大半の生徒はもう学園に居ないわけだ。残ってるのなんて補習がある俺くらいなものか。


 「レイビアは故郷に帰らないのか?」

 「僕はもうちょい先かな。叔父さんが迎えに来るから」


 レイビアの叔父さんか……。叔父さんというからには男なんだろうが、レイビアの一族、ネウト族には性別がないはずである。というか、ネウト族の人達は皆性別が無いのだろうか。……じゃあどっちがお父さんでお母さんで―――。……これ以上は考えるのはやめておこう。


 「叔父さんは世界中を旅しててね。それでカッコよくてたくましくて、僕の憧れなんだぁ」

 

 叔父さんに会うのが相当楽しみなのか、レイビアは鼻歌を歌いながら、マグカップに入った“レイくん”を撫で始める始末だ。

 その時、レイビアの付けた野菜の髪留めに目が止まった。


 「なぁレイビア。その野菜の髪留めって何処で売ってるんだ?」

 「ん……? これのこと?」


 レイビアは付けていた“人参の髪留め”を外した。


 「売り物じゃないよ。僕のお母さんの手作りだもん」

 「え……?」


 売り物ではない…………。では、ルマが付けていた“トマト”の髪留めは何だったのか。


 「ヨツバ君も欲しいの? 沢山あるからビオラちゃんと一つずつ上げようか? 大抵の野菜のならあると思うよ。あっ、でも“トマトの髪留め”は昔失くしちゃって、今は無いかな」

 「 ……失くした?トマト 」


 急に大声を出したから、レイビアがビクッと肩を震わせた。


 「う、うん。一年生の頃だったかな……?でも、ヨツバ君トマト嫌いじゃなかったっけ?」

 「…………ま、まぁそうだけど」


 じゃあ、ルマが付けていた髪留めは何なのか。……まさかレイビアから盗んだとか……? いや、彼女がそんなことはしないだろう。たった一時間話しただけだが、悪い事をするような子には思えない。

 焦げた野菜を口に押し込む。やはり、少し苦い。

 

  


 「ああこれ? 落ちてたの拾ったんだよ」


 さも当然のようにルマは言い放った。

 補習二日目、再びルマと図書館に来た俺は、“トマトの髪留め”について訊ねたのだ。レイビアの髪留めをルマが持っている。この事に何か裏があるのではと思ったが……、“拾っただけ”という何ともあっさりしたオチに気が抜けてしまった。


 「もしかしてこれ、ヨツバのだった?」

 「いや、そういう訳じゃないけど友達のみたいでな……」

 「そっかぁ……」


 ルマは名残惜しそうに髪留めを外すと、それを俺に差し出した。


 「それじゃあ返すよ。結構気に入ってたけど、持ち主が見つかったなら仕方ないね」

 「でもいいのか? 持ち主もあんまり気にしてなさそうだぞ?」


 ルマは少し悲しそうな顔で肩をすくめる。

 

 「学園の落し物は沢山拾ってきたけど、持ち主が現れたらちゃんと返すって決めてるんだ。…………まあ、現れたのは今回が初めてなんだけど」

 「……そう言うなら」


 ルマから髪留めを受け取り、ポケットにしまう。

 彼女は名残惜しそうな顔をしたが、髪留めを私終えると、すぐさまその顔には笑が戻ってきた。


 「今日はフィボロスについてだよね? ヨツバに会えるまでの23時間、これでもかって位纏めてきたから期待しててよ」

 

 内容は全部暗記しているのか、フィボロスについて語り続けるルマ。

 しかし、先日同様。17時になると、「用事があるんだ……」 と、帰ってしまうのだった。


 


 その日の夜、2日連続でビオラの野菜炒めを胃に入れた俺は、ウルカの稽古に来ていた。

 公園の中央に立つ、俺とウルカ。ビオラとシャルロットさんは、外に止められた場所の横に立っている。


 「3……、2……、1……はい、10分経ったわ」

 「ダァァァァ! もう限界だ!」


 いつも通りの、“コンテナ”の特訓。ついに10分間の詠唱に成功した俺は、その場に尻もちをついた。


 「どうだよ! 俺も結構やるようになっただろ?」


 当初は6分程でバテていたと考えれば大躍進である。…………と思ってるのは俺だけのようで、ウルカは首を横に振った。


 「まだまだってところね……。あと5分は欲しいところだわ」

  「あと5分って……。もう既に限界を感じてるんだが」

 「そう思ってるうちはまだまだ行けるから大丈夫よ」


 本当にそうだろうか……。しかし、俺がまだ弱いのは事実である。


 「…………それより、“蛇”はどうなの?」


 ウルカの声が急に暗くなった。

 “蛇”。先日俺が、何者かと契約した魔術の呼称である。ありとあらゆる文献にも、類似した魔術は記載されておらず、もちろん歯の妖精のものでも、ただの契約魔術でもない、謎の多い魔術だ。

 分かってる事と言えば、“蛇”は俺が念じれば顕現すること。詠唱通りに動くこと。そして―――

 俺は背中に刻まれた詠唱文に魔力が注がれるのを感じ、次の瞬間には“蛇”が出現していた。


 「やっぱり消えてないのね……」

 「ああ……。普段は見えないし、痛みもないんだがな」

 

 ウルカは“蛇”の事を言っているのではない。俺の右腕、そこに浮かび上がった“文字のアザ”。先日のイールとの戦闘で付いて以来、“蛇”を顕現させる度に浮かび上がってくるのだ。

 

 「でも、“蛇”を動かそうとする度にズキズキ痛む。まるで毒が回ってるみたいだ」

 

 “蛇”は自身のことを言われているのに、知らん顔で月に向かって舌をチロチロ出している。


 「でも、コイツのお陰でやっとまともに戦える。俺がもっと魔力を付ければきっと強くなるぞ!」


 今まで詠唱するしか能のなかった俺がやっと手に入れた戦う術なのだ。俺の詠唱の速さをもってすれば、“蛇”を自在に操れる。あとは魔力さえあれば、“教会”にだって―――。

 意気込んでいる俺の反面、ウルカは寂しそうに呟く。


 「―――私と“同じ”になってまで、強くなって欲しくなかった……」


 俺にやっと聞こえるような小さな声。

 言葉の真意は分からない。でも、詳しく訊ねてはいけない気がしたのだ。

 

 「ほら、まだ詠唱できるでしょ? “蛇”はしまって“コンテナ”に戻りなさい」


 気を取り直すようにウルカは手を叩く。

 俺は仕方ないと“蛇”を消し、“コンテナ”を拾い上げた。

 

 「さっきより一秒でも長く詠唱しなさい。じゃあ行くわよ。3、2―――」

 

 1、という声が聞こえることは無かった。

 気づいた時には、ウルカが地面に倒れていたのだ。

 

 「お嬢様っ!」

 

 シャルロットさんの声が響く。

 すぐさまシャルロットさんがウルカの元に駆け寄り、その小さな身体を抱きあげた。

 突然の事に俺は呆然と見ていることしかできない。

 

 「だい……じょうぶよ……。ちょっと目眩が……」


 先程より明らかに顔色が悪いウルカ。息は荒くなっており、一人で立とうと足もマリオネットのように震えている。

  シャルロットさんはそんな彼女の姿を見かねてか、何も言わずに立ち上がると、彼女を馬車へと連れていく。

 

 「ちょっと……! まだ稽古が……」

 「申し訳ございません。こればかりは従えません……」

 

 夏の夜にも関わらず、体を震わせるウルカに、俺は何も言えない。

 ウルカを馬車に乗せ終えたシャルロットさんが俺の方を向いた。

 

 「すまないが、お嬢様の体調が良くないのだ。しばらく稽古は中断させてもらえぬか?」


 嫌だ、なんて言えるはずが無い。俺は首を縦に振った。

 シャルロットさんは安堵したように「ありがとう……」と呟く。

 

 「……ヨツバっ!」

 

 馬車の窓から、ウルカが顔を出す。

 

 「しばらくの間、休暇をあげるわ。ちゃんとその間も特訓しておくのよ……。次会った時に、私を驚かせて見なさい……!」

 

 今さっき倒れたのが嘘のように、ウルカはいつもの態度で俺を挑発する。


 「あったり前だろ? その時はお前が俺に弟子入りを申し込むほど強くなってやるよ!」

 

 俺もいつもの調子で彼女に返す。

 ウルカは窓から笑顔を見せ、シャルロットさんが乗り込むと場所は動き始めた。


 馬車に乗った彼女の姿が、虚勢では無いことを祈りたい。

少し早いですが投稿しました。

あと2、3話で5章は終わる予定です。

今回は久しぶりにウルカが登場しましたが、少々不穏な空気でした。ヨツバの“蛇”も全貌は分かりません。

ウルカ及びシャルロットの話もそのうちやりたいですね


次回は水曜日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ