表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/130

起きました……“彼女”が……

前話のすぐ後から始まっています

 誰もいなくなった図書館でホッっと一息をつく。


 「あっ、あの、ヨツバ……さん?」


 前言撤回、誰かいる。

 振り返れば、髪を後ろで纏めた少女が立っていた。忘れたくても忘れられない分厚い本を抱えた少女が……。


 「あっ……、アニーさんじゃないですか……」


 何を隠そう“闘技会”2回戦、盗賊王を倒し、意気揚々としていた俺を完敗させた挙句、醜態を晒させたのが“魔女”(メイザース)に変身した彼女なのである。

 そんな相手とフレンドリーに接しられるはずもなく、闘技会以降できるだけ彼女を避けていたわけだ。

 しかし、ここに来て二人の距離は1メートル未満。ここで逃げては不自然だ。どう対応すれば……。


 「……こ、図書館で何をなさっていたんですか?」

 「あっ……、ああ。ちょっと二人で勉強してたわけだ」

 「二人……?ですか」

 

 互いに警戒したような口調で妙なかんじだ。

 アニーは首を捻り何か考えた後、納得したように「あぁ……」と頷いた。

 そこから会話が消えてしまった。互いに口を開こうとするもはぐらかしてしまい、沈黙の状態が続く。


 「じっ、実はですね……」


 俺から目をそらしながら、アニーが呟く。


 「ずっと、“闘技会”の事を謝りたかったわけ……でして……」

 「それはそれは……」

 「でも全然お会い出来なかったわけで……」


 ……そりゃあ避けてたからね。


 「よよ、良ければ今からでも……場所を変えてお話、しませんか?」

 「したいのは山々なんだけど……」


 彼女の持つ本に視線を向ける。魔術が封じられたあの本に……。

 アニーも俺が見ていることに気づいたのか、すぐさま本を自分の背中に隠した。


 「だっ、大丈夫です! 今、“彼女”(メイザース)は寝てますから」


 俺が恐れているのは魔女であって、アニーではないのだ。そう自分に言い聞かせ、席を立った。




 向かったのは旧校舎。

 “教会”との激闘により、半分が崩れ去っている。その半分の中に、アニー及びウィリー、ロザが所属している“異世界文化研究会”の部室も入っていたようだ。もちろん、部室内のコレクションは瓦礫の下へと沈んでしまったため、ロザとウィリーは躍起になってすぐさま救出に向かったらしいのだが、アニーのモノは未だ埋まっているらしいのだ。


 「ごめんなさい……。おっ、お話する予定だったのを手伝わせてしまって」

 「別に構わないよ。宝探しみたいで楽しいし」


 なんて言ってみたものの、俺達が面と向かって話し合うは無理だと思ったからだ。

 瓦礫を一つずつどかしていき、埋もれたコレクション(コスプレ衣装)を掘りあげていく。


 「……それより、魔女(メイザース)について教えてくれよ」

 「メイザースについて……ですか?」


 アニーは掘り出した衣装をカバンに詰めながら、首を傾げた。


 「と、“闘技会”でも少し触れましたが……、“彼女”とっ、とは10年前の次元祭で出会いました」

 「そこで契約したんだっけ?」

 「その、その通りです。私が“あの本”を開いてる間だけ“彼女”に人格が変わります。……………たまに“彼女”が勝手に開きますが」


 勝手に開くのは、恐ろしすぎやしませんかね……?


 「元々、本に封印されてたような方ですからね……、性格もまぁ……、お世辞にも良いとは言えない訳でして。最初の頃なんて、私の村をせっ、征服しかけましたから……」

 「……それは恐ろしすぎやしないか?」

 「あ、安心してください。“大抵”は、私の意思で押し込められるので……」


 完全じゃない辺り、安心しろと言われても……。

 そう思いながら瓦礫を持ち上げたところ、青色のチャイナドレスが見つかった。

 アニーに渡そうと立ち上がった時、彼女が何かを察したように飛び上がった。


 「どうした?!」


 アニーは恐る恐る俺の方を向く。


 「起きました……“彼女”が……」

 「彼女……?」


 アニーが“彼女”と呼ぶ相手は一人しかいない。その瞬間、アニーの抱えていた本が独りでに開かれ、黒紫の影が彼女を覆い始めた。

 既視感のある光景。逃げようにも、足がすくんでしまう。


 「ふぁぁ……。私が寝てるからって好き勝手言ってくれるじゃないの。私の行動は“あの子”の深層心理にも影響されてるっていうのに……」


 影が晴れ、そこに居たのはアニーの“見た目”をした少女。しかし、明らかに中身が違う。間違いなく、“魔女”の方である。


 「えーっと、たしかヨツバ、だったわよね?」

 「あ……、え……」


 まともに返事の出来ない俺に、“魔女”はため息をついた。


 「そんなに怯えなくても“糸”は使わないわよ?」

 「“糸”……?」


 魔女は微笑むと、右手を小さく上げた。見れば、人差し指から出た細い透明な糸が揺らめいているのだ。

 

 「そう、私の魔術よ。この“糸”に刺されたものは人でも、物質でも思いのまま。私の“人形”になるわけよ。ほら、貴方も“闘技会”で体験したでしょ? 記憶はないでしょうけど……」


 間違いなく闘技会で俺の首に刺さったものである。彼女の言う通り、刺されてからの記憶はなかった。果たして俺は何をさせられていたのか……。


 「それにしても―――」


 魔女は舐めるような視線を俺に向ける。


 「“あの子”が、男に“衣装”を触らせるなんて珍しいわね……。普通なら見せるだけでも恥ずかしがるのに」


 魔女はゆっくりと俺に歩み寄ってくると、互いの息が触れるくらい顔を近づけて来た。


 「知ってる? 恥ずかしがり屋の“あの子”の代わりに、私が“衣装”を着ているのよ?」

 「……だっ、だからなんだよ」


 言葉では冷静を装っているつもりでも、異性にこんなに接近された事の無い俺は、既に思考を放棄していた。

 

 「見てみたくない? 可愛らしいものから、生地のほとんどないキワドイものまで……。“彼女の体”が着ているのを、“二人っきり”で―――」


 生唾を飲んだ。

 ゆっとりとした表情で見つめる魔女。そっと俺の胸に触れると、そのまま下部へと手を這わせていく。


 「ちょ! ちょっま―――」


 魔女の頬に平手打ちがとんだのはその時だ。破裂音がしたと同時、魔女は後方へとよろめいた。

 第三者の介入では無い。魔女が自身の頬に、自分の手を打ち付けたのだ。


 「ひっ、人の体で何してくれてんですか!」

 「うるさいわね……。“あなた”が行動しないから、私が積極的に動いてるんじゃないの」


 アニーの人格が戻ってきたのだろう。まるで落語でも見ているようだ。

 アニーとメイザース。一つの体で二つの人格が会話をしている。

 

 「よよ、余計なお世話ですっ。せっ、積極的に動く必要なんてありま、ません!」

 「何言ってんのよ。貰ったヘアゴム、毎日付けてる癖に……」

 「余計なこと言わないでください!」


 アニーは開かれた本を無理やり閉じる。

 荒くなった呼吸を整え、彼女はその場に座り込んでしまった。


 「大丈夫か?」


 ホッと一息をついたアニーに寄っていく。

 「ひやっ?!」と大声をあげて飛び上がった。


 「おっお、お見苦しいモノをお見せしてしまいました! 今のはアレでふ……。“彼女”が急に主導権を取ってきてでして、決して私が“そういった”行為をしたい……わけでわわわ……」


 所々噛みながら話すアニー。爆発するんじゃないかというくらい顔を真っ赤にして、酔っ払ったようにフラフラと揺れ始めた。


 「ごめんなさい……!」


 俺からチャイナドレスを奪い取ると、鞄に押し込めてそのまま走り去ってしまった。

 残された俺はその場に立ちすくしたが、しばらくして帰路についた。 

4章ずっと放置だったアニー(メイザース)の補足でしたね。

本来なら4章でやるべきだったんですけど…、彼女がいると“教会”も倒せそうだったので、仕方なく居ないことにしてました。


次回は日曜だと思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ