起きました……“彼女”が……
前話のすぐ後から始まっています
誰もいなくなった図書館でホッっと一息をつく。
「あっ、あの、ヨツバ……さん?」
前言撤回、誰かいる。
振り返れば、髪を後ろで纏めた少女が立っていた。忘れたくても忘れられない分厚い本を抱えた少女が……。
「あっ……、アニーさんじゃないですか……」
何を隠そう“闘技会”2回戦、盗賊王を倒し、意気揚々としていた俺を完敗させた挙句、醜態を晒させたのが“魔女”に変身した彼女なのである。
そんな相手とフレンドリーに接しられるはずもなく、闘技会以降できるだけ彼女を避けていたわけだ。
しかし、ここに来て二人の距離は1メートル未満。ここで逃げては不自然だ。どう対応すれば……。
「……こ、図書館で何をなさっていたんですか?」
「あっ……、ああ。ちょっと二人で勉強してたわけだ」
「二人……?ですか」
互いに警戒したような口調で妙なかんじだ。
アニーは首を捻り何か考えた後、納得したように「あぁ……」と頷いた。
そこから会話が消えてしまった。互いに口を開こうとするもはぐらかしてしまい、沈黙の状態が続く。
「じっ、実はですね……」
俺から目をそらしながら、アニーが呟く。
「ずっと、“闘技会”の事を謝りたかったわけ……でして……」
「それはそれは……」
「でも全然お会い出来なかったわけで……」
……そりゃあ避けてたからね。
「よよ、良ければ今からでも……場所を変えてお話、しませんか?」
「したいのは山々なんだけど……」
彼女の持つ本に視線を向ける。魔術が封じられたあの本に……。
アニーも俺が見ていることに気づいたのか、すぐさま本を自分の背中に隠した。
「だっ、大丈夫です! 今、“彼女”は寝てますから」
俺が恐れているのは魔女であって、アニーではないのだ。そう自分に言い聞かせ、席を立った。
向かったのは旧校舎。
“教会”との激闘により、半分が崩れ去っている。その半分の中に、アニー及びウィリー、ロザが所属している“異世界文化研究会”の部室も入っていたようだ。もちろん、部室内のコレクションは瓦礫の下へと沈んでしまったため、ロザとウィリーは躍起になってすぐさま救出に向かったらしいのだが、アニーのモノは未だ埋まっているらしいのだ。
「ごめんなさい……。おっ、お話する予定だったのを手伝わせてしまって」
「別に構わないよ。宝探しみたいで楽しいし」
なんて言ってみたものの、俺達が面と向かって話し合うは無理だと思ったからだ。
瓦礫を一つずつどかしていき、埋もれたコレクション(コスプレ衣装)を掘りあげていく。
「……それより、魔女について教えてくれよ」
「メイザースについて……ですか?」
アニーは掘り出した衣装をカバンに詰めながら、首を傾げた。
「と、“闘技会”でも少し触れましたが……、“彼女”とっ、とは10年前の次元祭で出会いました」
「そこで契約したんだっけ?」
「その、その通りです。私が“あの本”を開いてる間だけ“彼女”に人格が変わります。……………たまに“彼女”が勝手に開きますが」
勝手に開くのは、恐ろしすぎやしませんかね……?
「元々、本に封印されてたような方ですからね……、性格もまぁ……、お世辞にも良いとは言えない訳でして。最初の頃なんて、私の村をせっ、征服しかけましたから……」
「……それは恐ろしすぎやしないか?」
「あ、安心してください。“大抵”は、私の意思で押し込められるので……」
完全じゃない辺り、安心しろと言われても……。
そう思いながら瓦礫を持ち上げたところ、青色のチャイナドレスが見つかった。
アニーに渡そうと立ち上がった時、彼女が何かを察したように飛び上がった。
「どうした?!」
アニーは恐る恐る俺の方を向く。
「起きました……“彼女”が……」
「彼女……?」
アニーが“彼女”と呼ぶ相手は一人しかいない。その瞬間、アニーの抱えていた本が独りでに開かれ、黒紫の影が彼女を覆い始めた。
既視感のある光景。逃げようにも、足がすくんでしまう。
「ふぁぁ……。私が寝てるからって好き勝手言ってくれるじゃないの。私の行動は“あの子”の深層心理にも影響されてるっていうのに……」
影が晴れ、そこに居たのはアニーの“見た目”をした少女。しかし、明らかに中身が違う。間違いなく、“魔女”の方である。
「えーっと、たしかヨツバ、だったわよね?」
「あ……、え……」
まともに返事の出来ない俺に、“魔女”はため息をついた。
「そんなに怯えなくても“糸”は使わないわよ?」
「“糸”……?」
魔女は微笑むと、右手を小さく上げた。見れば、人差し指から出た細い透明な糸が揺らめいているのだ。
「そう、私の魔術よ。この“糸”に刺されたものは人でも、物質でも思いのまま。私の“人形”になるわけよ。ほら、貴方も“闘技会”で体験したでしょ? 記憶はないでしょうけど……」
間違いなく闘技会で俺の首に刺さったものである。彼女の言う通り、刺されてからの記憶はなかった。果たして俺は何をさせられていたのか……。
「それにしても―――」
魔女は舐めるような視線を俺に向ける。
「“あの子”が、男に“衣装”を触らせるなんて珍しいわね……。普通なら見せるだけでも恥ずかしがるのに」
魔女はゆっくりと俺に歩み寄ってくると、互いの息が触れるくらい顔を近づけて来た。
「知ってる? 恥ずかしがり屋の“あの子”の代わりに、私が“衣装”を着ているのよ?」
「……だっ、だからなんだよ」
言葉では冷静を装っているつもりでも、異性にこんなに接近された事の無い俺は、既に思考を放棄していた。
「見てみたくない? 可愛らしいものから、生地のほとんどないキワドイものまで……。“彼女の体”が着ているのを、“二人っきり”で―――」
生唾を飲んだ。
ゆっとりとした表情で見つめる魔女。そっと俺の胸に触れると、そのまま下部へと手を這わせていく。
「ちょ! ちょっま―――」
魔女の頬に平手打ちがとんだのはその時だ。破裂音がしたと同時、魔女は後方へとよろめいた。
第三者の介入では無い。魔女が自身の頬に、自分の手を打ち付けたのだ。
「ひっ、人の体で何してくれてんですか!」
「うるさいわね……。“あなた”が行動しないから、私が積極的に動いてるんじゃないの」
アニーの人格が戻ってきたのだろう。まるで落語でも見ているようだ。
アニーとメイザース。一つの体で二つの人格が会話をしている。
「よよ、余計なお世話ですっ。せっ、積極的に動く必要なんてありま、ません!」
「何言ってんのよ。貰ったヘアゴム、毎日付けてる癖に……」
「余計なこと言わないでください!」
アニーは開かれた本を無理やり閉じる。
荒くなった呼吸を整え、彼女はその場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
ホッと一息をついたアニーに寄っていく。
「ひやっ?!」と大声をあげて飛び上がった。
「おっお、お見苦しいモノをお見せしてしまいました! 今のはアレでふ……。“彼女”が急に主導権を取ってきてでして、決して私が“そういった”行為をしたい……わけでわわわ……」
所々噛みながら話すアニー。爆発するんじゃないかというくらい顔を真っ赤にして、酔っ払ったようにフラフラと揺れ始めた。
「ごめんなさい……!」
俺からチャイナドレスを奪い取ると、鞄に押し込めてそのまま走り去ってしまった。
残された俺はその場に立ちすくしたが、しばらくして帰路についた。
4章ずっと放置だったアニー(メイザース)の補足でしたね。
本来なら4章でやるべきだったんですけど…、彼女がいると“教会”も倒せそうだったので、仕方なく居ないことにしてました。
次回は日曜だと思います




