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化かされぬようご注意ください


 「マスター、ここは二人で入るような場所では無いかと……」

 「……んなこと百も承知だ」

 

 夕暮れの教室、俺とビオラは掃除用具入れの中に身を潜めていた。

 これだけ聞いたら、ムフフ……な状態だが、外ではいかにも素行の悪そうな生徒達が目くじらを立てて俺達を探しているとなれば、話も変わってくるだろう。

 

 「いたか?!」

 「ダメだ、見つからない」

 「ちくしょう……、また逃げやがったな卑怯者め!」

 

 闘技会での一件以来、盗賊王を倒したという噂が良くも悪くも広まりすぎた。

 その結果、腕試しをしたい者や、副校長からの“リスト”の生徒まで、昼夜問わず向こうから決闘を挑んでくるというアイドル並みの待遇を受けることになった。

 もちろん負けたくない俺は、決闘を拒み、拒み、拒み続け、俺の感情お構い無しに一方攻撃してくる奴も、こうして隠れてやり過ごしているのだ。

 

 「なんで俺ばっかり狙うんだよ。アニーと魔女の方が強いだろ」

 「『こいつなら俺にも勝てそう』というオーラがマスターから漂っているのでは?」

 「おうおう、馬鹿にしてくれるね」

 

 アニーこと、魔女。彼女には闘技会後、何度も謝られた。

 聞くところによると、手に持つ書物を開くことで“魔女―――メイザース”と人格が交代するらしいが、その時は彼女自身でも制御が出来ないらしい。

 俺のうなじに刺さった“糸”もメイザースの魔術らしいが、その概要までは説明してくれ無かった。

 

 用具内の隙間から外を覗き見て、奴らがいなくなったことを確認すると、恐る恐る身体を出す。

 

 「ふう……、なんとかなったか」

 

 狭い場所に押し込んでいた身体を伸ばす。

 また見つかる前に、寮へ戻った方がいいかもしれない。

 ビオラを連れて教室を出ると、ポケットから新聞の切れ端を取り出す。

 

 「どれもこれもコイツのなんだよなぁ……」

 

 俺が高らかに腕を上げる写真が載った新聞。 盗賊王に勝利した時のものだ。

 新聞部であるミヤビが書いたものでは無い、一般のものだ。

 この新聞が夜に出回ったせいで、逃亡生活が始まってしまったのだ。

 

 「そのうち、学園外からも挑戦者が来るかもしれませんね」

 「そうならない事を祈る……」

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 とある街の、路地裏に建つ煉瓦製の民家。

 青色の瞳と、栗色の髪に獣のように大きな耳を付けた少女が、ソファの上で丸まり、小さくイビキをかいていた。

 

 「スカちゃん、ただいまー」

 

 沢山の品物が入った袋を抱えて、一人の女性が玄関を開ける。

 

 「うんにゃあ……、ディテールおかえり……」  

 

 獣耳の少女―――スカリィが眠そうに返事をする。

 

 「あれ、他の皆は?」

 「タチちゃんと、リッティは“お仕事”。アンピは奥で魔術の研究……」

 「そうなんだ……。お菓子買ってきたけど、おやつにでもする?」

 「…………する」

 

 スカリィはそう答えると、再びソファに顔を沈める。

 その間に、ディテールは買ってきた品物を整理すると、お茶の用意を始めた。

 

 「ほら、準備出来たよー」

 

 しばらくした後、ディテールがトレイに紅茶と菓子を乗せ、ソファ横のテーブルまで持ってくる。

 スカリィはムクっと起き上がると、猫のような大きく欠伸をする。すると、懐から一本のダガーナイフを取り出すと、剣先をマグカップに沈めた。

 

 「―――“フロスト(凍れ)”」

 

 その瞬間、マグカップを満たしていた紅茶が一瞬のうちに凍ってしまったのだ。

 ディテールも何度として見た光景だが、毎回驚かされてしまう。

 ドーム状に凍った氷をくり抜くと、スカリィはアイスキャンディーのようにペロペロ舐め始める。

 

 「スカちゃん、“液体恐怖症”なのは知ってるけど、そのダガーっていつも使ってるやつでしょ? 汚くないの?」

 「冷凍除菌してあるから大丈夫だよ」

 

 ディテールの心配をよそに、ビスケットと紅茶のキャンディーを交互に口へ運ぶスカリィ。

 いつか病気になるんじゃないかと、ディテールは不安に思いながら、近くにあった新聞紙を開く。

 ちょうど、“闘技会”の記事が目に止まった。

 

 「あれ、この写真の子って、スカちゃんが前言ってた子じゃない?」

 「あー、そうだね。“グアリー家の仕事”で護衛してた奴だよ」

 

 スカリィが興味無さそうに新聞を覗き込む。


 「盗賊王倒すなんて凄いね……。相当強いんだ」

 「うーん、私と戦った時はそうでも無かったけど……」

 

 たしか、戦闘……というより、一方的な虐待と言えるようなモノだったはず……。スカリィはアイスキャンディーを舐めながら思い出す。

 

 「なかなか美味しそうな匂いがするじゃない……」


 奥の扉がゆっくりと開かれる。

 金髪の長髪に、狐のような細長い耳が付いた高身長の少女―――アンピである。

 テーブルまでズカズカやってくると、お菓子を手の平に載せ始めた。

 

 「どうですか? 魔術の研究は」

 「……行き詰まってる。“タチバナ”の完全な模倣はまだまだ遠いかな」

 

 沈んだ声でアンピは答える。

 1日の大半を奥の部屋で過ごす彼女は、魔術の研究が行き詰まると、こうして菓子を取りに来るのだ。

 

 「じゃあ、気分転換にお出かけなんてどうでしょう。……ちょうど面白い子が新聞に載ってますよ」

 

 アンピは受け取った新聞に目を通す。そして、スカリィに尋ねる。

 

 「強いの? この子」

 「私“に”手も足も出せない程には強いよ」

 「ふむ……、じゃあ見に行ってみようかしら」

  

 スカリィこと、アイスストーカーに完敗した少年が、数週間後には最強と名高い“盗賊王”に勝利した。この事実がアンピの興味を引いたのだ。

 何かしら研究に役立つでしょう……、気分転換にもなる。アンピはそう思いながら、外出の必需品である大きさ帽子を被った。

 

 「この子、うちの非常員の“タクシーさん”と同じ学園みたいですよ? 呼びますか?」

 「あの子の魔術酔うから遠慮するわ……。向こうであったら色々聞いてみるけど」

 「お土産は甘いものでお願いね〜」 

 

 スカリィの言葉には返事をせず、アンピは外に出た。

 強い日差しを感じ、アンピは空を仰ぐ。

 

 「さて、電撃狐レイザーフォックスに化かされぬよう、ご注意ください」

 

 アンピの手の平で、電気の狐が踊る。

始まりました4章。

3章が長かったですからね、今回は短めの話の予定です。

出来れば、アーサーの見せ場を作って、今回でもちょっと触れてますが、ミヤビの話も掘り下げたいですね。

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