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―――“神様”じゃ


 昼休みの教室で―――。

 生徒達が雑談混じりに昼食を取っている。

 どうやら、もうすぐ長期休みが始まるらしく、その計画をたてているようだ。


 かく言う俺は、レイビアが昼食を持ってきてくれるのを、教室の天井を眺めながら待っていた。そして、定期的に「ふひひっ……、ふひひっ……」と笑う。

 残念ながら気が狂ったわけではない。

 休み時間、授業中お構い無しに決闘を申し込まれるので、こうして“サイコキャラ”のフリをしているのだ。

 こうするだけでも、生半可な気持ちで挑もうとしてくる愚者は、「やべえ奴じゃん……」と逃げていく………………と思うのだ。

 

 「はきゃ……! はきゃきゃ!」

 

 何度笑い、何度痛い視線を向けられただろうか、廊下から俺に近づいてくる気配を感じた。

 この状態の俺に近づく者は一人しかいない。

 

 「待ちくたびれたぜレイビア」

 

 狂ったふりをやめ、ちゃんと座り直す。

 しかし、そこにいたのはレイビアではなかった。

 小柄な体躯に、膝まで伸びた白髪と、気の強そうなつり目が特徴的な少女。そして、その後ろで落ち着きなくキョロキョロしている地味な少年。その二人組が俺の横にたっていたのだ。

 

 「主が、オオバ ヨツバじゃな?」

 「……どちら様でもしょうか? 先に名乗るのが礼儀かと」

 

 少女の問いかけに、ビオラが強気で返すと、場に一瞬の沈黙が訪れる。

 互いに視線を交わすビオラと少女。

 硬直した空気の後、少年が口を開いた。

 

 「たしかにそれが礼儀じゃの……、ワシは プロメ。―――“神様”じゃ」

 

 盛大に吹き出してしまった。

 ……なるほど、“ヤバいやつ”を演じていると、もっと“ヤバいやつ”が寄ってくるらしい。

 今にも大声で笑いそうな俺を尻目に、プロメは続ける。


 「そして、後ろにおる“地味”なのがハナザワ ミノリ―――ワシが召喚した“転生者”じゃ」

 

 “転生者”、その言葉に俺のこらえ笑いが止まった。

 

 「ぷっ、プロメ様、そん……、そんな地味なんてイワ、言わなくても……」

 「相変わらず吃るやつじゃの……。それでもワシの見込んだ男か! シャッキリしろ!」

 

 プロメに背中を叩かれ、ビクッと肩を震わせるミノリ。女みたいな名前だと思えば、態度も弱々しく、小動物のようである。

 俺の視線に気づいたのか、プロメが鼻先で笑う。

 

 「どうじゃ? ミノリに興味は持ったか?」

 「一応はな……。で、何の用だ?」

 「簡単な事じゃ。ミノリと決闘してくれんか」

 

 「けけ、決闘ですか?!」

 

 何故かミノリが驚く。

 

 「聞いて、ってま、せんよプロメ様! ぼっ、僕は戦えませっ、ません!」

 「いいから黙っておれ。―――どうじゃ? ルールはそちらが決めていい。どんな条件でも受けよう」

 

 口をガクガク震わせるミノリに対し、プロメは挑発的に手招きをしてくる。

 ……舐められたものだ。俺の見た目が弱そうだからって、ルールまで決めさせるとは愚の骨頂である。

 ここで、相手が有利になるように仕向けて、完膚なきまでに叩きのめすというのも良い。非常に良いのだが…………、何事も安全第一。俺が確実に勝てるルールで勝利を収めるのがベストだろう。

 

 「その勝負受けてやるよ」

 「いいのー、いいのー、そう来なくてはな」

 「条件一、術具、及び武器の使用は禁止」

 「よかろう」

 「条件二、使用していいのは“自由魔術”のみ。契約魔術、独占魔術は禁止」

 「よかろう」

 「えっ?! いいのか?」

 

 自分で提案しておいて、自分が驚いてしまう。

 これは勝ったな……。

 

 

 

 ―――旧校舎裏の空き地。

 普段人通りの少ないこの場所も、俺が決闘するとなれば、多少のギャラリーは出来る。

 アーサーの一件で俺を恨む女子生徒達、盗賊王に勝った俺を倒そうとする不良生徒達。

 大半の観客から罵声を浴びせられているが、中には「俺と戦うまで負けるんじゃねえぞ!」と応援(?)してくれる奴もちらほら混じっている。

 

 「良かったのですか……? こんな簡単に受けてしまって」

 

 空き地の中心で準備をする俺に、ビオラが不安そうに尋ねる。

 

 「大丈夫大丈夫。この試合は絶対勝てる」

 「そうでしょうか……?」

 「考えてもみろよ。自由魔術しか使えない時点で、相手のチート級魔術は封じられた。それに術具も禁止。必然的に、攻撃方法は魔術を詠唱するしかない。俺の詠唱は……」

 「……世界でもトップレベルに速いです」

 「その通り。どちらにしろ、吃ってばかりのアイツじゃまともに詠唱もできねえよ。最悪殴り合いになったとしても、あんなビクビクしてる奴には負けない」

 

 殴り合いに発展すれば、“喧嘩最弱王決定戦”みたいな内容になりそうだ。そんなものは誰も見たくないだろう……。

 

 俺達から少し離れた所で、プロメとミノリが待機している。

 ミノリが片膝をついて、プロメと目線を合わせて二人は話している。

 

 「ぼっ、僕出来る、る、気がっ、しませんよ……」

 「落ち着けミノリ。お前は誰よりも強い。自身を持て」

 「でも……」

 

 ウジウジと何時までも内気なミノリ。しかし、プロメは優しく諭す。

 

 「ミノリ、“ワシら”の夢を聞かせてくれぬか?」

 「ぼく、僕達の夢は、プロメ様の、神殿を造ることです」

 「そうじゃな、吃らずによう言えた。ワシはまだ信者もミノリしかおらぬ底辺の神じゃ。名を挙げる為、まずはオオバを倒すのじゃ」

 

 ミノリが、コクコクと頷く。

 そんな様子を見てプロメは微笑むと、彼の額に、自分の額を密着させる。

 

 「安心せい、ミノリはワシの声に応えた存在。唯一の信者サーバントじゃ。お主にはわしの授けた“愚弄者の侮慢”(スレイブテージ)が有る、自身を持つのじゃ」

 「はい!」

 「よし、では行ってこい」

 

 ようやく決意が固まったようで、ミノリは俺に正面切って、仁王立ちをした。

 

 「それじゃあ行ってくるわ」

 「私達もやりましょうか?」 

 

 ビオラが自身の額を指しながら微笑む。

 

 「あんな小っ恥ずかしいことできるかい……。いつでも詠唱を流せる状態にしといてくれ」

 

 戦う前にこんなリラックスできているのは初めてだろう。

 俺は手首を回しながら、ミノリに歩み寄る。

 互いの距離が5メートルくらいの立ち止まり、視線を交わす。

 先程まで彼を纏っていた弱々しい雰囲気は消え去り、目付きも変わったように思える。

 

 「よろしくお願いします、オオバさん」

 

 吃っていた声もハッキリと聞き取れるモノになっていた。さっきまでのリラックスしていた俺の身体はどうしてしまったのか、彼の威圧に冷汗すら掻きそうだ。

 

 「いつでも構いません。お好きなタイミングで始めてください」

 「それならお言葉に甘えて……、gratia Ravutosu 」


 何にしても、俺より詠唱が速い訳では無い。

 落ち着いてやれば負けるはずの無い戦いなん―――。

 

 その瞬間、みぞおちに熱く重い衝撃を受けた。

 目を向ければ、岩石が俺の腹部にめり込んでいる。

 間違いなく、“ラヴトスの溶岩魔術”。でも、なんで……?

 胃液が上がってくるのを抑えながら、岩石が飛んできたであろう方向を見る。

 そこには右手をコチラに向けるミノリの姿。

 

 「―――“愚弄者の侮慢”(スレイブテージ)。全ての詠唱を破棄する能力です」

 

 音がした。

 アイスストーカーの時と同じ音が……。 

少し遅くなりました。

見て通り、ミノリはヨツバの完全上位互換ですね。



次回は日曜日です。

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