圧倒的力を“見せつけたいんだ”
後半のジェフティ目線は三人称視点で書いています。紛らわしいですが、どうしても書きたかったんです
「なんで喧嘩売っちゃうんだよぉー」
「俺のカップラーメンを亡きものにしたんだぞ?!」
「マスター、落ち着いてください」
「なんでお前らは俺の部屋に集まるんだ……」
「ううう……、うるさいぞ! 私とロザ氏は最終調整の真っ最中なのだ!」
「ウィリー氏、それより手を動かしてくれ」
“次元フェス”初日を終え、俺達はハヤト・ロザの部屋、202号室に無理やり集まっていた。
ウィリーとロザは、闘技会への最終調整だと、“mal”を部屋に持ち込んで、切羽詰まった表情でいじっていた。アーサーがドアを破壊したせいで、調整の音がもろに聞こえる。
残った俺達、四人はハヤトの部屋に円を書くように鎮座していた。
「どう考えたって、コッチが悪いんだよ。盗賊王さん何もわるくないんだよ?!」
「んなもん分かっとるわい! それでも簡単に頭を下げるような俺じゃないんだよ」
「我だったら速攻で謝るけどな」
隣の部屋からウィリーのヤジが飛んでくる。
「うるさいんじゃい! お前らはロボットの調整してろ」
白熱する俺とミヤビの論争にも成りえない言い合い。そして、たまに飛んでくるウィリーからのヤジ。
ハヤトは何故俺の部屋なんだ……と頭を抱え、ビオラは言い合いを時々制するも、菓子を口に運び続けていた。
「ハア、ハア……。否応でも盗賊王と闘うっていうんだね?」
「ああ……。当然……、だろ」
数分間に及ぶ言い合いは互いのスタミナ切れで幕を閉じた。
息切れを起こしたミヤビが咳払いをして呼吸を整える。
「……よし、じゃあいいよ。元を辿れば盗賊王の上にテレポートした私も悪い……。協力してあげるよ」
「おぉ! やっとその気になってくれたか!」
「でも、“闘技会”は1対1の真剣勝負。私が直接サポートするのは出来ない。だから―――」
次の瞬間、ミヤビが消えたと思えば、数秒後に再度現れる。その手には紙束が握られていた。
「なんだよそれ」
「隣町で流れてる盗賊王の噂とか新聞記事を友達に纏めてもらった」
ミヤビは用紙を俺達に分け渡し、各々がその内容に目を通す。
1枚目には、集団で盗賊王を襲った時の話が書かれていた。
『町の不良集団が術具所持の上、盗賊王を奇襲するも、一瞬のうちに武器を“謎の魔術”で全て奪われ、あっけなく敗北。集団が持っていた武器は、盗賊王が手の平を見せた途端、命を得たように動き出し、彼の手に全て集まった』
「これを見る限り、奴の魔術は“窃盗系”の魔術だね。正式名称が分かれば対策法も有るだろうけど……」
顎に手を当てて捻るミヤビ。それを見かねたハヤトがため息をついた。
「いや、現在流通してる“窃盗系”で最速のモノでも詠唱に20分はかかるはずだ。記事を見るに、ほぼ無詠唱で行使されてる。……コイツ転生者なんだろ? それなら“特典”として貰った独占魔術の可能性が1番濃厚だ」
「やっぱり、私の“特典”みたいなもんか……。だとしたら発動条件も、範囲も、何まで盗めるのかさえ分からないねぇ……。ってヨツバっち聞いてる?」
2人が議論そっちのけで、俺は資料に目を通し続けた。しかし、読めば読むほど盗賊王の恐ろしさがヒシヒシと伝わり、それに比例して自分の顔が青くなっていくのを感じる。
「ミヤビ……」
「なに?」
「これ、無理じゃね?」
「何を今更……。ここまで来たらどうにか恥ずかしくない負け方を探すしかないよ」
既に勝つ想定はされてないんですね……。
「だってこの記事見ろよ!『1人の青年が不意打ちで、盗賊王の心臓部に刃物を刺すことに成功するも、次の瞬間には何故か刺した青年が倒れ、刺されたはずの傷口も一瞬で消えた』ってなんだよこれ! 回復能力まで持ってんのかよアイツ」
ミヤビは神妙な面持ちで記事に目を通すと、しばらくウロウロと部屋中を歩き回り、最後にため息をついて止まった。
「ダメだ訳わかんない。回復魔術を使ったにしても心臓の傷を一瞬で消せるはずもないし……。これは記事の誇張だって信じたいくらいだよ」
「あるいは…………」
ハヤトが発言を躊躇う。
「刺した青年の“生命力”を盗んだ、という可能性もある……」
「「はぁ?」」
俺とミヤビが同時に口を開く。
「なんだよ“生命力”って。んな抽象的なもん盗めるわけないだろ」
「ハヤトっち、遂に頭おかしくなったんじゃないの? そんなほぼ概念みたいなモノまで盗めるならあまりにも強力すぎるよ」
「でも盗めるとしたら? 盗賊王がその抽象的な概念すら盗めるとしたらどうするんだ?」
そんなもの有り得ない。……そう笑い飛ばしてやりたかった。しかし、『あまりにも強力すぎる』ただそれだけの理由で盗賊王を過小評価しておくのは、命取りに思えたのだ。
ハヤトの言う通り、“生命力”を盗まれたとするならば、青年が倒れた辻褄が合わないこともない。しかしその反面、想像が肥大しただけで実際はたいしたことないのではないか、と思う心情にはある。
何にしても情報が曖昧で確信に迫ることが出来ないのだ。
「あー、わっかんねえよー」
「何にしても、ほぼ無詠唱で大半のモノは盗めるんだ。1回の行使だけでもとんでもない量の魔力を消費するだろうね……」
壁にもたれてうなだれる。
概念すら盗める奴にどう立ち向かえば良いというのだ……。
「……元気を出してください。マスターならきっと勝てます」
ビオラが俺の手を包み込む。魔導書である彼女から温もりを直に感じる。
「でもよぉ、相手はなんでも盗むめるんだぜ? 自信ねえよ……」
「マスターが自分を信じられないなら、私がマスターを信じます。……ですから諦めないでください。きっと打開策はあるはずです」
芯のある彼女の声に感化されてか、無謀な挑戦に改めて決心がついた。
たとえ敗北が確定してしようとも、俺を信じてくれる者がいるのだ。それだけで戦う価値があると言えるではないか。
「やってやろうぜビオラ。……気取った黒コート野郎にお灸をすえてやろう」
「もしかしてヨツバっち、名案でも思いついたの?」
「決めゼリフなんだから邪魔するんじゃねえよ……。それを今から考えるんだよ“皆で”」
ハヤトとミヤビが大きく嘆息をついた。
「ちなみに、盗賊王とは1回戦で当たるよ。良かったね、当たる前に負けるっていう最悪のケースだけは免れるよ」
――――――――――――――――――
落ち着いた白を基調とした洋室。
中心には丸テーブルが備えられて、向かい合わせにソファと丸椅子が置かれている。
丸椅子に座る盗賊王―――ジェフティはテーブルに乱れた資料を見つめていると、ふと視線を感じ顔を上げた。
暖炉の上に飾られた、元家主である老人の肖像画と目が合う。互いに無機質な視線を交わせ、ジェフティは鼻で笑うと再度目を落とした。
扉がノックされたのはその時だ。
「なんだ?」
「“お客様”をお連れしました……」
「ご苦労、通せ」
扉が開くと三人の小人が怯えながら、固まって入ってきた。
……正確には小人でもない普通の人間のはずだが、ドワーフやそういう類の種族だと説明されれば納得してしまう小ささである。
「兄貴ィ……やばいっすよやばいっすよ……」
「なんか怖いっす親分……」
「おっ、おっ、落ち着け2人とも。これは昇進のチャンスだ……」
三人組はそんな内容を小声で話していた。
三人がけのソファに座らせたが、縮こまっているせいで一人分の面積しか使用していない。
「そっ、それで何のようでしょう……盗賊王様……」
「―――ジェフティ」
「は、はい?」
小人の声が裏返る。
「盗賊王は周りが勝手に付けた名だ。僕の事はジェフティと呼べ」
「……わかりました」
真ん中の小人が返事をし、横の二人に「わかったな? わかったよな?」と小声で言い聞かせる。
「今日呼んだのは他でもない。君ら、ヴァルーチェの生徒なんだろ?」
「へへ……。そうでございまする……」
緊張のせいか口調のおかしくなった小人に1枚の写真が渡される。
「彼を知っているか?」
写真に映るのは、目が半開きになった少年。ジェフティのコートにラーメンのスープをこぼした者と同一人物である。
「親分、こいつって……」
「この前喧嘩売ってきた……」
「そうだ……、あの卑怯者だ」
小声で話し合う小人達。どうやら心当たりがあるようだ。彼らには見えぬよう、ジェフティの頬が緩む。
「知ってます! 知ってますよジェフティ様。コイツは学園では有名な奴です。一度戦ったこともあります」
期待に応えられて嬉しいのか、小人の声が急に大きくなる。
「……そうか」
「知ってる事なら何でも話しますよ!」
「いや、何も話さなくていい」
「え?」
「―――“ヘルメ”」
ジェフティが手の平を向けると、三人組の瞳の中で、魚が波をうったような波紋を描いた。
揚々としていた三人は電源が切れてしまったかのように脱力し、無機質な表情で空中を見つめている。
「君たちの“記憶”を“盗ませてもらった”」
ジェフティの脳内に、三人組が見てきた光景、経験、あの男に関するあらゆる情報が流れ込んでいく。その中には、三人組ですら覚えていない、小耳に挟んだ程度の、無意識下のものですら含まれていた。
オオバ ヨツバ、卑怯者、男、転生者……。
…………マトモな情報は無いようだ。
しかし、三人組はオオバ ヨツバと一度交戦している。その“記憶”から幾分かの推測はできた。
ジェフティは流れ込む“記憶”を吟味し、オオバのスペックを把握する。
「…………俺と同じ、転生者か。奴の特典は何だ?」
ジェフティは小人に問いかけるが、当の彼らは放心状態である。口は金魚のように動いているが声は発していない。
こうなってしまうと、まともな反応は望めない。
「ルーク」
ジェフティは従者の名を呼んだが、扉を開けたのは別の男である。
「ルーク様はコートを洗濯中ですので……、代わりにわたくしめが……」
そう言えばそんなことも頼んでいた。
その男は冷静を装いながらも、震える声を隠しきれていない。
「そう……。この三人組、帰しといてよ。もう用は済んだからさ」
「招致しました」
開いた扉から3人の大男が飛び出し、1人ひとつずつ小人を抱え、すぐさま退出した。
「ありがと。もういいよ」
適当に返事をすると、ジェフティはきたるオオバ戦の作戦を思考し始めた。
奴の“特典”が何にしても、コチラの“ヘルメの偸盗魔術”より強力である可能性は低い。しかし―――。
扉の閉まる音がしない事に気づいたのはその時だ。ジェフティが振り返ると、未だに男が立っていた。
「あの……、大変無礼である事を承知の上でお尋ねします……。ジェフティ様の“その魔術”、どんなモノまで盗めるのでしょうか……」
ジェフティは真っ黒な瞳で男を眺める。
彼の魔術師に興味を持つ輩は少なくない。他を寄せ付けない圧倒的な力。その全貌を知ってどうするのか、何の特になるのか、そう逆に問いただしてやりたい気持ちになる。
聞こえないように鼻で笑うジェフティ。彼は悠然とこう答えた。
「―――何もかも、かな」
ジェフティ自身、全て試した訳では無い。しかしそれで尚、そう答えられる底なしの自身。
自分でも把握出来ない程に強力すぎる魔術。
一人の少年を全能感に酔わせる程の圧倒的力。
「そうそう、丁度いいから君にお願いしとくよ」
扉を閉めようとした男をジェフティは呼び止める。
ジェフティは近くの棚から出したプレートを男に手渡した。
「何でしょうか……これは」
「僕に喧嘩を売った大馬鹿野郎は、人型魔導書が無いと魔術の詠唱も出来ないらしい。“それ”をその魔導書に貼ってきてくれ」
ジェフティの言う事を把握しきらないままに男は頷く。
「口答えするつもりでは有りませんが……、どう考えてもジェフティ様の方がお強い。ここまでする必要は――」
男の言葉をジェフティは遮る。
「いいかい? 僕は勝ちたいんじゃない。圧倒的力を“見せつけたい”んだ。どう足掻いても勝ちようもない絶望的な局面に陥れて、……僕に抗う大馬鹿野郎が今後現れないように」
不敵に笑うジェフティ。
空に立ち込める雲が、町を照らす月明かりを隠そうとしていた。
友達の部屋に集まって討論をする。こういうのに憧れて前半のシーンを書きました。
概念すら盗める相手にヨツバはどう戦っていくのでしょうか。ジェフティも何か企んでますからね
後半に出てきた三人組は3章序盤で主人公と戦ったカン、ギス、ジンと同一人物です。分かって頂けましたか。
次回は日曜です




