プレイボーイな感じ
『』はモニター内の会話になります。
にしても分かりにくいですね……。
「末っ子が演じてるだと? そいつが“俺”を一生演じ続けるのか?!」
「んなわけねえだろ……。適当なタイミングで連れと別れて、ここに戻って来るんだよ」
「それだと俺がいなくなるだろ?!」
「当たり前じゃない。行方不明とでも扱われるわよ」
そんな事態になれば、大葉ヨツバファンクラブの皆が泣いてしまうではないか! まだ会員がいないのが唯一の救いである。
「お姉、パースに連絡しようぜ」
「…………そうね。そろそろ“お友達”とお別れする頃でしょう」
ゾーラは小声で詠唱しながら空間に指を滑らす。
すると、テントの天井付近に大きなモニターが出現した。
画面にはレイビアとハヤトの姿が映っている。
『じゃあ俺はビオラを迎えに行くよ』
モニターから“俺の声”が響くと、画面内の景色が動く。どうやら“偽物”の視界が映し出されてるようである。
「おいハヤト、レイビア、なんで気づかないんだよ……」
「さっき見破れなかったんだ。当たり前だろ?」
「パース、そろそろ戻ってきなさい」
『えー、まだ遊びたいよー。せっかくのお祭りなんだよ?』
今度は俺の声ではない、少女のものがテント内に響く。
「ダメよ。速く戻ってきなさい」
「お姉ちゃんお願ーい! そろそろ休憩にしよ…………?」
彼女は今、俺の姿で懇願のポーズをしているのだろう。画面に組み合わされた手が映っている。
ゾーラは黙ってモニターを睨むが、組んだ手を下げないパースに、ついにはため息を漏らした。
「…………いいわ。少し休憩にしましょ」
『ヤッター! お土産買ってくるね?』
「いいからバレないようにしなさいよ?」
『大丈夫だよ。今まで見破られたことなんてないじゃん』
│偽物は走り出したようで、画面の景色が揺れる。
「あーあ、お姉はパースには甘いんだよ」
「アナタと違ってあの子は可愛げあるからかしらね」
「チェ、もっと甘えとくんだったよ」
二人が会話を終えると、ゾーラはテント内に備えられた引き出しから書類を探し始め、
ポータはロッキングチェアに腰を下ろしてボーっとモニターを見つめている。
まるで、俺がテントの真ん中で拘束されてるのに気づいてないような、落ち着いた雰囲気。
俺を売り飛ばそうとしてる奴らがこんな調子で良いのだろうか。何故か俺の方が心配になってきた。
「おい、末っ子出歩かせておいていいのかよ。誰かにバレるかもしれないんだぞ?」
ロッキングチェアで揺れるポータが鼻で笑う。
「いいか、私達の“変身”は対象の見た目、記憶、癖、その他諸々なんでもコピーする。そりゃあ腕力とか魔術みたいな能力は無理だが絶対にバレることはないんだよ」
「でも―――」
「絶対ないね。もし見破られたらアンタ解放してやるよ」
「勝手なこと言わないでポータ」
「でも実際そうだろお姉。私達の変身―――“ジュビロの変身魔術”は絶対見破れない」
言い返すこと間もなく断言されてしまう。
しかし、実際見破れるようなやつがいるだろうか? レイビアとハヤトは偽物がいると知っていながら見破れなかった。
今歩いてる俺が偽物だと決めつけていないと気づけるはずがない。そして、そんな疑い深い人間と知り合いではないし、むしろそんな奴知り合いにいて欲しくない……。
『あれ〜、ヨツバっちじゃん。お一人なんて珍しいね』
画面からした聞き覚えのある声と、彼女特有の呼び方。映っていたのは案の定ミヤビだ。
「ミヤビィィ。気づけえぇぇ」
「だから無理だって」
ポータの言う通り、ミヤビは俺に対して何の違和感も持っていないようだ。
『色々あってな。そういうお前だって1人だろうが』
『ちょっと買いたいものがあったからね。……さっきまで探し回ってた。―――それよりこうして巡り会ったんだし、ちょっと一緒に回ろうよ。いい店知ってるよ〜』
『じゃあ、お願いするかな……。どうせ暇だし』
いやらしく笑うミヤビの顔が画面にいっぱいに映し出される。
「…………イロツキ?」
書類整理をしていたゾーラが画面を睨む。
「なんだよ、ミヤビの知り合いか?」
「それはこっちのセリフ。彼女“こっち”じゃ有名な運び屋よ……? 何故アナタなんかと…………。それよりパース、イロツキから離れなさい! そいつにバレたら私達破滅よ?!」
さっきまでの落ち着いた雰囲気は何だったのか、ゾーラは頓狂な声を上げ始めた。
『ごめんお姉ちゃん……。でも大丈夫だよ、いつもより用心するから』
パースの声は彼女自身の、少女のモノに戻っている。
「ダメ、今すぐ離れなさい!」
ヒステリックに叫ぶゾーラ。
「おいお姉、落ち着けよ。今さら逃げたって怪しまれるだけだ。普通にしてたらバレないって」
ポータは、脂汗すらかきはじめたゾーラを鎮めた。
ミヤビにそこまで用心する必要が有るのだろうか。
むしろ、抜けてる印象のミヤビだが、ゾーラがそこまでして慌てる理由が分からない。
『何か買ったりした?』
『いや、何も買ってないな』
『バッカだなー。ここなら前の世界の食物だって買えたりするんだよ? 久しぶりに体に悪そ〜なカップラーメンとか食べたくない? スープまでごくごく飲みたくない?』
情けなくも腹の虫が鳴いた。
食べたい……。飲みたい……。こっちでは味わえない化学調味料の味を胃に貯蔵しておきたい。
「よくもまあ……こんな状況で腹を鳴らせるな……」
この際、呆れられてもよい。
手足が自由ならば今すぐにでも探しに行っていただろう。
『うーん、イイなそれ……。 久しぶりに食べたくなってきた』
どうやら“偽物”も俺と同意見のようだ。
パースが自分の腹をさする。
『でしょ? じゃあ探しに行こうか』
二人は群衆を掻き分け、カップラーメンを探すためにあらゆる店をねじ歩く。
『なかなか見つからないねぇ…………。―――痛っ』
ミヤビが通行人の少女にぶつかってしまう。
ミヤビは無事のようだが相手の方が尻もちをついてしまったようで、手に抱えていた袋の中身が四方八方に散乱してしまう。
『すいません、余所見をしていました……。あ、あぁ! 恥ずかしい……恥ずかしいです』
少女は慌てて散らかった品物を集め始めた。よく見れば、ヴァルーチェの制服を着ている。
『ん? なんだ“アニっち”じゃん』
『あれ? ミヤビさんですか?』
顔を上げた少女は“暗色の技師団”の1人、アニーである。前髪で隠れた両目は、テレビから這い出てくる例の幽霊を思わせた。何故か、腰に分厚い本を備えている。いわゆる魔導書というやつだろうか?
『慌てることないよ。私も手伝うから落ち着いて拾おう』
ミヤビは地面に膝をつくと、散乱した品物を集め始めた。
“偽物”も自分の足下に品物が落ちてる事に気づいたようで、地面に落ちたハンカチのような布キレを摘んだ。
布キレを持ち上げた瞬間、パラ……っと畳まれていた布面積が広がる。
『…………っ!?』
“偽物”を含め、モニター越しの俺たちすら唖然としてしまう。
紺色の布地に、白色の紐。言うならば、小学校の夏の思い出。見たくなくても見れたのに、見たくなったら見れなくなる、そんな悲しい男のジレンマの塊。…………つまり、スクール水着である。
何故こんなものがアソコにあるのか……。そして、何故アニーが持っているのか。
その謎が解き明かされるより速く、“偽物”がスク水を持っていることにアニーが気づいてしまった。
『なっ、なっ、えーっとですねそれは、少なくとも私が着て楽しんだり、ポーズを決めてみたりするものではなっ、なくてで、ですね…………? 私はその、異世界の衣装に興味があるので収集して…………ああ、もあダメです殿方に私の秘密がバレてしまいました……。もう自殺しかありません…………』
俺に劣らずの早口で、顔を真っ赤にしなざら混乱するアニーは、腰に携えた分厚い本を開こうとする。しかし、ミヤビがそれを慌てて阻止する。
『落ち着いてアニっち?! 大丈夫、大丈夫だよ? 私だって昔着てたんだし恥ずかしくなんてないよ。だから、だから“その本”を開くのだけはやめてくれないかな?!』
のぼせたように顔を真っ赤にして、口をパクパク動かすアニー。多少は落ち着いたようで先程から右斜め上を眺め続けている。
それを見てミヤビも、残った品物を拾い始めた。
『ゴメンね。アニっち、あんまり男の人とか得意じゃなくてさ。さっき本人が漏らしてたけど、この子、こういう衣装とか好きなんだよ。絶対本人は・着ないんだけどね』
『それは大変だな……』
“偽物”は適当に返事をすると、茫然とするアニーの元へと近づいて行った。
「おいおい、アイツ何する気だ……」
ポータが眉をひそめるなか、画面の中の“俺”は、あろう事かアニーの前髪をかきあげたのだ。
『せっかく可愛い顔してるんだから隠さなくてもいいのに……』
それを見ていた全員が一斉に吹き出した。
そんな事を気にも止めず、“俺”はポケットからヘアゴムを取り出すと、手際よくアニーの髪を纏め始める。
『はい、出来たよ。昔お姉ちゃんから教えて貰ったんだ。こっちの方が全然可愛いよ』
やめろ……。俺の見た目でそんな、めちゃモテ委員長みたいなことをするのはやめろ。
俺は惚れた女性以外むやみに褒めたりしないのだ。
見ているこっちが恥ずかしくなる……。
『あっ……あっ……あっ……』
アニーは壊れたラジオのように単語を漏らし続ける。
『ああああっ! 失礼します! 』
アニーは勢いよくお辞儀をすると、そのままそそくさと何処かへ行ってしまった。
『あれ? 行っちゃった……』
ええ、そりゃ行くでしょうよ。
『いっ、意外とヨツバっちプレイボーイな感じだったんだね……。し、知らなかったよ……』
ええ、僕でも知りませんでしたよ。
少なくとも俺はあんなこと絶対しませんね。
健全ですからね。
断言できますとも。
『そうか? それより、これ返し忘れたからミヤビ返しといてくれよ』
『わ、わかった。じゃあちょっとアニっちの所まで行ってくるよ。あのままだと心配だから……』
ミヤビはスク水を受け取ると、その場から一瞬で消えた。
「ちょっとパース、今のはやりすぎよ?!」
『ごめんごめん、どうしても我慢できなかったの……。でもバレなかったでしょ?』
「…………まあ、いいわ。もう戻ってきなさい」
『はーい。じゃ、後でね〜』
パースは楽しそうにスキップで歩き始めた。
中途半端に終わりましたが、この偽物の件9000字くらいあったので無理やり半分にしたからです。
色々とここに書いときたいこともありますが、次回に回します。
次話は水曜くらいですかね




