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本物が言えるはずないだろ!


 “偽物の館”

 そう書かれたテントは、中ではサーカスでも行われてそうな広さで、黒とオレンジで交互に彩られている。

 

 「へー、面白そうだな」

 「面白そうだなってお前、金持ってるのか?」

 

 ハヤトが猜疑の目を俺に向ける。

 俺は見せつけるように、ポケットから革の財布を取り出してみせた。

 

 「こんなこともあろうかと副校長の財布をくすねてきた」

 「…………バレたら殺されるぞ」

 

 ハヤトはそう言うが、副校長は俺を召喚したにも関わらずチート能力を与えてくれなかったという罪があるのだ。それを被害者である俺から償わせてやってるのだから、むしろ副校長はお礼を言うべきなのである。

 しかし、そうは言っても怒られるのは間違いないだろう……。気づかれる前に返した方が良さそうだ。

 かくして金銭問題を解消した俺は堂々とテントの中へと入っていった。

 

 中は薄暗く、囲むように幾つも備えられたランプが唯一の光源となっている。

 中央に引かれたカーテンがテント内を分断しており、向う側半分は控え室にでもなっているのだろう。

 カーテンの前に起立した大きな棺桶。その横には女性が立っていた。

 褐色の肌にスレンダーな体型で、アラビアの踊り子のような赤い服装。開いてるのか閉じてるのか分からない程細い瞳で、口元はフェイスベールで覆われている。 

 

 「―――ようこそ、“偽物の館”へ。私はここの支配人、ゾーラ ポレットと申します。ここでは、お客様に“偽物”を見破って頂きます」

 

 ゾーラは丁寧にお辞儀をする。

 

 「“偽物”って……何の?」

 

 レイビアが首を傾げる。

 当然の疑問だろう。テントの中には棺桶が1つだけ。比べるものが存在しないのだ。

 

 「はい、それは―――“お客様自身”でございます」

 

 棺桶が破裂するように開いたのはその時だ。

 開く音に肩をビクッかせたのもつかの間、次の瞬間、棺桶が俺の方に迫ってくるのだ。

 …………いや違う……。棺桶が迫ってくるのでは無い、俺が吸い寄せられているのだ!

 

 「え?! ちょっと! ちょと待て―――」

 

 掃除機に吸われる埃の気持ちを味わいながら棺桶に引き寄せられていった。

 棺桶の底に背中を打ち付ける。ひんやりした感触を背中に感じながら、抵抗する間もなく扉か閉められてしまう。

 

 「おい! ちょっと待て待て!? こんなの聞いてないぞ?」

 

 扉を必死に叩き続けるがビクともしない。

 中二真っ盛りの頃は吸血鬼設定のキャラを演じていた時期もあったが、これはあまりにも突然すぎるではないか?!

 暗いし、臭いし、なんかジメッとしてるし、こんな男子運動部の部室みたいな空間速く出たい!!

 

 「出してぇぇ! 俺が何したっていうんだよ!」

 

 赤子のように泣きながら扉を叩き続ける。

 このままでは閉所恐怖症を発症して、挙句には脱水症状で蒸発してしまう。…………なぜ、脱水症状になるのだ? まともに思考が出来てない辺り既にパニックである。

 なおも気にせず叩き続けていると、何度目かで扉が解き放された。

 

 「うわっ?!」

 

 勢いあまって顎から地面に直撃してしまう。


 「「痛ったいなぁ……」」

 

 ハモる声。

 ことの異常性を把握するのに一瞬の沈黙があく。

 勢いよく横を見ると、俺の全く同じ体勢で、不健康そうな顔をした男がいたのだ。…………いや、あれは俺の顔だ。

 

 「すごい、ヨツバくんが二人になってるねー」

 「……多分、棺桶に魔術が仕組まれているのだろうな」

 

 あまりの驚きに二人とも感覚がおかしくなったのか反応が薄い。その反対に、俺……、いや“俺達”は互いに絶句して、睨み合っている。

 しかしこう見るとブッサイクな顔してるなコイツ……。俺だったら恥ずかしくて表を歩けないだろう。


 「さあ皆様、棺桶から蘇りしは全く同じ二人。お客様は“偽物”を見破り、“本物”のご友人をお救い下さい」

 

 ゾーラが声を張り上げる。

 

 「うーん、全然分からないや……。ヨツバくん“達”。どっちが本物?」

 「「イケメンな俺の方が本物に決まってるだろ?!」」

 

 またしてもハモる声。

 

 「どうやら思考は同じのようだな」

 

 ハヤトが解説するように言うが、そんな事とっくに分かっているのだ。

 俺が右手を上げれば、同時に“俺”も手を上げる。

 俺が顎をかけば、もう1人も顎をかく。

 鏡なんてものでは無い。もはや自分が分裂したのではないかと疑ってしまうレベルである。

 

 「おい、お前が偽物だろ? 俺はもっとハンサムなはずだぞ」

 「なわけあるか、偽物はお前だろうが。俺は九等身の高身長キャラなはずだ」

 「二人とも早口だし。二人とも言いそうなこと言ってるんだよね」

 

 レイビアは首を傾げて唸ってしまう。

 しかしハヤトは余裕そうに、メガネをクイッと上げる。

 

 「俺は判別法が分かったぞ」

 「「ホントか?!ハヤト」」 

 「ゾーラ、二人には触って良いのか?」

 

 ゾーラは頷く。

 

 「もちろん構いません。体のパーツも完全に再現されています」


 それを聞いて、ハヤトは見ていて怖いくらい不敵に笑う。

 その笑のまま俺“達”に近づいてくるものだから、今さっきまでいがみ合っていたにも関わらず、互いの肩を持ちあって二人でわなわな震えてしまう。

 

 「悪いなハヤト。こうするしか無いんだ」

 「いや、絶対ある!」

 「何するかわかんないけど絶対ある!」

 

 ハヤトは拳を振り上げると、勢いよく俺達の頭部に振り下ろした。

 

 「痛っ?!」

 「何すんだ馬鹿野郎!」

 

 非道な言われのない暴力を奮ったハヤトは、拳を見ながら首を捻る。

 

 「おかしいな……。 │ヨツバ《あいつ》は脳タリンだから叩けば空洞の音がするはずなんだが……。コイツらどっちも偽物じゃないか?」

 「………………いっ、いえ、片方は本物でございます」

 

 ゾーラが戸惑うように言う。

 そりゃあ、目の前でいきなり殴られたのだ。こんな反応にもなるだろう。

 

 「とりあえずこれ以上の暴力は禁止だ」

 「そうだ“偽物”の言う通りだ。ちゃんと平和的に判断しろ」

 「“偽物”の癖にいい事言うじゃないか」

 「そう言うお前も“偽物”の癖に気が合うではないか」

 

 はっはっはっは。と同じ見た目の二人が肩を組んで笑う、という奇妙な光景である。

 ここまで来ると、友情さえ芽生えてしまいそうだ。

 案外自分が二人いるのも悪く無いかもしれない。面倒な事は“偽物”である彼に任せればいいのだ。

 

 「ヨツバくん、僕の名前わかる?」

 「「レイビアだろ?」」 

 「じゃあ、僕の部屋番号」

 「「203号室。その隣がハヤトとロザ」」

 

 完璧にシンクロするタイミング。

 いっそ双子という設定で売り出していこうかしらん、と考えてしまう。

 

 「全く分からないね…………」

 「同感だな。もっと殴っていいなら確かめようがあるんだが」

 

 ハヤトは、この機会をいいことに日頃の恨み辛みをはろうとしているのではなかろうか?

 

 「ギブアップなさいますか?」

 

 レイビアは、もう一度俺達を上から下へと舐めるように凝視する。

 しばらくしてため息をついた。

 

 「ダメだ、全然わかんないや。……降参します」

 「……俺も降参だ」

 「では、種明かしと致しましょう」


 ゾーラが指を鳴らす。

 すると、今まで肩を組んでいた“俺”が、風船の破裂するような音と共に少女の姿へと変わったのだ。

 

 「あー、右のヨツバくんが“偽物”だったんだねー」

 「ご紹介遅れました。“偽物”を演じたのは私の妹、ポータでございます」

 「皆様騙してごめんなさいね。お楽しみ頂けました?」 

 

 俺の横で笑う少女。

 その姿はゾーラと瓜二つで、次は彼女の偽物が現れたのかと疑ってしまう程である。

 

 「あの……お客様、そろそろ肩を外して頂けますか?」

 「あっ、ごめんなさい。つい見とれていたようだ……」

 

 ポータに言われて、まだ自分が彼女の肩を掴んでいることに気付かされた。

 

 「ふふっ、いいんですよ。私も楽しかったですから」

 

 ポータは可愛らしく笑って見せた。

 

 「あれ〜、ヨツバくんいいの? ビオラちゃんに怒られるよ?」

 「いいか、レイビア。綺麗な女性に会ったら褒めるのが男というものだ」

 

 さっきは二人いるのも悪くない、なんて思っていたが、こんな素晴らしい人間が二人もいてはあまりにも業が深すぎるではないか。やはり俺は一人で十分である。

 ゾーラとポータの姉妹に料金を払い、俺達は“偽物の館”を後にする。

 

 「それではポレット姉妹の“偽物の館”、またのご利用をお待ちしております」

 

 

 

 さて、皆さんはどちらが偽物か気づけただろうか。

 案外、ハヤトが答えを言っているのだ。そう、“どっちも偽物”である。

 混乱するかもしれないが、よくよく考えてみるのだ。“偽物の館”から出る少し前、ポーラと肩を組んでいた時の反応を―――。

 

 『あっ、ごめんなさい。つい見とれていたようだ……』

 

 こんなこと本物が言えるはずないだろ!

 本物の俺なら『あっ……あっ……』と会釈して逃げていくのがオチだ。

 そして、

 

 『いいか、レイビア。綺麗な女性に会ったら褒めるのが男というものだ』

 

 こんなセリフだって、悲しいけど言えるわけないじゃはいか!

 

 真の本物である俺は、テント内を仕切るカーテンの奥、床にへばった状態で足を縛られ、口には猿轡までハメられ拘束されているのだ。このままではマゾに目覚めてしまう……。

 

 「ホント簡単に騙されるわね」

 「あー、ダリィ。客の前で可愛子ぶるの疲れるんだよクソが!」

 「ポータ、汚い言葉使いはやめて」

 

  俺を拘束した姉妹がカーテンをくぐり戻ってきた。

 

 「……っ!…………!!」

 「お姉、コイツなんか言いたがってんぞ」

 「もう騒がれても問題ないわ。外してあげなさい」

 「チッ、私がやんのかよ……。ほら、大声出すんじゃねえぞ」

 

 姉から指示を受けたポータが俺の猿轡を外す。

 

 「テメェら何しやがんだよ! 誰かァァ助けてえぇ!!」

 「大声出すなって言っただろうがよ」

 

 ポータは舌打ちをすると、俺の腹部に蹴りを入れた。

 みぞおちに入った鈍い痛みに悶絶しそうになるが、女の子の蹴りで唸っては男が廃ると妙な意地を張って噛み締める。

 

 「やめて、商品に傷がつくわ」

 「なっ、商品だと? お前ら俺に何する気だ! 言っとくが俺の貞操という城壁は固いぞ?!」

 

 とは言っても、この二人に誘惑されれば一瞬で崩れる自身もあるぞ。

 

 「売られるんだよ、奴隷としてな」

 「どっ、奴隷だと?!」 

 

 まずい、これは不味いぞ。このままでは、俺の“薄い本”が出来てしまうではないか…………! 世の男達の欲望のはけ口にされてしまう!

 

 「“偽物の館”なんて言ってるけど、その存在から“偽物”。実は、私達奴隷商なのよ。こうして、アナタみたいにやってきた人間を売り捌いて生活してるの」

 「顔はイマイチ、いや…………イマサン位だけど転生者ならそれだけでコレクターが飛びついてくるぜ。アンタ高く売れるぜ、よかったな」

 「そりゃあ高く売れた方が嬉しいけど……、いやそういう話じゃねえ。じゃあ、レイビアとハヤト達と出てった“俺”は誰なんだよ!」

 

 二人が本物だと勘違いして連れていった“俺”。俺では無いのに、俺の見た目をかぶった奴は誰なのだ。

 

 「“ポレット姉妹”、なんて名乗ったけど正確には違うのよ」

 「正確には“三”姉妹だぜ」

 「じゃあ…………」

 

 「今は、末っ子のパースがアナタを演じてるはずね」

どちらも偽物ですが、あえて一人称で進めました。分かりにくかったら申し訳ないです


次話は今週中に上げます。多分、土日くらいですかね。

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