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その場でたたっ斬ってくれる!

いやー、予想より間が空いてしまいました。申し訳ないです


 あたり一辺から溢れる喧騒。

 トロンボーンなのか、ホルンなのかよく分からないが金管楽器の音に、太鼓の音。そして人々の笑い声、騒ぎ声が混じった音の集合体だ。

 先日は寂しい雰囲気だった町も、やはり祭りとなれば騒がずにはいられないようである。

 大通りから、猫が抜けるような道まで人で満たされ、至る所に飲食、雑貨など様々な屋台ができていた。

 

 週末、つまりは“次元フェス”の開催日である。

 二日間の日程の初日。予定通り足を運んだ俺はその迫力に圧倒されてしまう。

 

 「我々は闘技会のエントリーに行くぞよ」

 「私も個人的に行きたい所あるから」

 

 町に着くなり、ウィリーとロザ、ミヤビと別れ、今は俺、ビオラ、レイビア、ハヤトの4人で大広場の前に来ていた。


 「凄い人だな……。歩くのも面倒くさそうだ」

 「毎年こんなもんだよ……」

 

 俺の横で面倒くさそうにしているハヤト、その反面レイビアは少々興奮気味である。

 

 「僕初めてくるけど凄いね! こんなに人が集まるなんてそうそうないことだよ」


 レイビアは俺とビオラの手を取る。

 

 「みんな早く行こうよ。じゃないと品物が無くなっちゃうよ」 

 

 嬉々とした声色で言うと、そのまま混雑の中へと飛び込んでいった。

 その後をハヤトが渋々付いてくるのだった。

 

 

 

 どうやら、広場はフリーマーケットになっているようで、各々が持ち寄った“異世界の品物”を売っているようだ。

 大きな物では、旧式の分厚いテレビや冷蔵庫などの家電製品。他にも、雨風に晒されてゴワゴワになっている雑誌。中には明らかにハンドメイドな本を異世界の書物だ! と言い張って売ってる輩もいた。

 

 「ヨツバくん、これ何に使うの?」

 「それはドライヤーだな。髪乾かすのに使うやつだ」

 

 ドライヤーを手に持ったレイビアが楽しそうに尋ねてくる。全体にカビが生えていて、何か邪悪なものが出てきそうだが……。

 レイビアは目新しいものを見つけたら何でも俺に聞くため、毎回答えるのも一苦労が、そんな、はしゃぐレイビアを俺も見て楽しんでいる。


 「おっ? 誰かと思えばヨツバじゃねえか」

 「あ、グリフォンのおっちゃんじゃん」

 

 男らしい図太い声に呼ばれたと思えば、先日、護衛依頼の時にお世話になったグリフォンである。

 

 「そう言えば、異世界文化が好きなんだよな。まさか来てるとは思わなかった」

 「あったりめえよ……。それよりヨツバちょっといいか?」

 

 そう言うとグリフォンは俺の肩をもってレイビア達から、俺を引き剥がした。

 

 「ちょっと確認したいんだがよ……」

 「なんだよ改まって」

 

 グリフォンの顔はいつになく真剣である。アイスストーカーの時もここまでの表情ではなかった。

 彼をここまで真剣にさせる事とは何だろうか。母親に“肌色面積が多い本”が見つかった学生だってこんな顔はしない。

 

 「実はな……、さっき一目惚れをした」

 「……………………くっだんねー」

 

 期待して損した。

 何故に中年オヤジの一目惚れ報告など聞かないかんのだ。

 

 「そう言わずに聞いてくれよ。今さっきそこの道ですれ違ったんだけどよ。これがべらぼうに美人だったわけだ。そこで確認なんだがよ、お前の世界じゃ『求婚するときは、喉仏を掻きむしりながら求婚の舞を踊る』。そうだよな?」

 「………………」

 

 そう言えばそんな嘘も付いていたっけ……。たしか、夕食会の馬車で話したのだ。

 まさかまに受けているとは…………。天然記念物にしたいくらいピュアな存在である。

 

 「な、そうなんだろ?」

 

 なんて言えばいいのか……。

 真実を話すべきだろうか。

 しかし、少年のようにキラキラした瞳をした中年オヤジにそう言えるだろうか。

 …………大半の人間は言えるだろう。しかし、俺は言えない。なぜなら“嘘吐き”と呼ばれる度胸がないから。

 

 「…………そうだよ。求婚するときは、喉仏を掻きむしりながら求婚の舞を踊る……」

 「だよなぁ! じゃあ次彼女に会ったらその方法でアプローチしてくるぜ。あばよ、ヨツバ。いい結果を祈っててくれよ!」

 

 楽しそうに去っていくグリフォンに背中を見送る。

 ……これでいい。これでよかったのだ。そもそも、こんな広い町で特定の人物と再開するなど、二日連続で足の小指をぶつける確率と同じくらいだ。有り得はしない。……そう、有り得は……。

 肩を落としてビオラ達の元へ戻ると、レイビアが心配そうに俺の顔をのぞき込む。

 

 「大丈夫? 顔色わるいよ?」

 「…………まあ、ぼちぼちって感じ」

 

 気を取りなすように顔を上げると、異変に気づいた。

 

 「あれ、ビオラはどこいった?」

 「アイツならさっき、連行されたぞ」

 

 ハヤトが指した先は洋服屋である。

 そこには、ご婦人に無理やり服を着せられそうになっているビオラの姿があった。

 

 「マスター!? 助けてください!!」

 

 包帯の巻かれていない片目で助けを切望するビオラ。…………これはいったいどういう状況なのか。

 洋服屋に近づくと、ご婦人が俺に気づいた。

 

 「あら、この子の彼氏? 彼女お人形みたいに可愛いわね〜。それなのに服がみそぼらしくって、服屋としてどうしても我慢出来なかったのよ。お代は要らないから、少しの間彼女貸してくれない? 今よりずっと可愛くして返すから」

 「結構です!マスター速く助けてください」

 「そんな事言わないの。アナタだって、彼氏に“可愛い”って褒められたいでしょ?」

 

 今まで抵抗していたビオラがピタッと静止した。

 

 「……“可愛い”、と褒められるんですか?」

 「そりゃあ勿論。ついでにメロメロよ」

 

 ビオラはジッとしばらく考えた後、俺の方を向いた。

 

 「私は一生、マスターに添い遂げる事を誓った身です……。大変失礼である事は重々承知でお願いします。私にお暇を頂けないでしょうか…………」

 

 ビオラもグリフォンに負けず劣らずの真剣な顔である。

 

 「……別に構わないぞ」

 

 俺の返事を聞くと、服屋のご婦人がニカッと笑った。

 

 「良かったわね〜。じゃあ着飾ってあげるわ。彼氏さんは暫くこの辺を回ってなさい」

 「マスター、お気をつけください。間違っても変な人に付いていってはいけませんよ」

 「連行されたお前に言われたかないけどな」

 

 乙女の変身を見るのは野暮というものだ。

 俺はレイビアとハヤトの元へと戻っていった。

 

 「ビオラちゃん、大丈夫だった?」

 「…………多分」

 

 本人も納得しているようだし問題は無いだろう。

 再び、広場を回り始め、レイビアの質問攻めにあう。

 こうしてビオラと離れるのが初めての事だと気づいたのは洋服屋からだいぶ離れた時だった。

 

 

 

 ハヤトは、ロザから頼まれた物を探しに行くと一旦別れることになった。

 大広場も一周した頃だろうか、レイビアはアクセサリー屋の前に座り込み、霞んだ宝石を手で転がしている。

 

 「ヨツバくんの世界じゃ、こんなのをみんな好むの?」

 「元々はもっと綺麗なんだけどな。金持ちが指輪とかしてるな」

 「ふーん、僕には分かんな―――」

 

 その瞬間、レイビアが急に振り返った。

 俺を見た訳では無い、開いた瞳孔で人混みを凝視しているのだ。

 

 「…………どうしたレイビア」

 

 声をかけると、レイビアは我に返るように俺の顔を見た。

 

 「ん…………、なんか最近誰かに見られてるような気がするんだよね」

 「気のせいじゃないのか?」

 「気のせいなんかじゃないよ! “レイくん”も気づいてるもん!」

 

 レイビアの腰に着けた水筒がカタカタと揺れる。

 俺も目を凝らして群衆を見てみるが、コチラに目を向けている人間は見当たらない。

 

 「…………とりあえずはいいじゃないか。また気になったら何とかするからよ」

 「…………うん、そうだね。今はお祭りを楽しもうか」 

 

 ビオラは再び、アクセサリーを眺め始めた。

 その姿を眺めてるのが俺な訳だが、その後から俺を眺めてる視線を背中に感じた。いや、これは視線なんて生易しいものでは無く闘士、または殺意といった類のものである。

 これがレイビアのいう視線の正体だろうか…… 。

 俺は勢いよく振り返る。

 左右へ行き交う人々。今までと変わらない光景。しかし、その中で俊敏に物陰へと隠れた“赤髪”を俺は見逃さなかった。

 野球少年並に短くしたとしても、あの色は目立つのだ。

 

 「レイビア、ちょっと待っててくれ」

 「え? …………うん」

 

 行き交う群衆を掻き分け、赤髪の元へと辿り着く。往生際が悪く、顔を壁に向けてしらを切ろうとしていた。

 

 「おい、何してんだよアーサー」

 

 アーサー ペイジ。俺に不意打ちで負け、それ以降頭が故障してしまったであろうその男の肩に手を置いた。

 その瞬間、アーサーが俺の胸ぐらを掴んで顔を寄せる。

 

 「それはコチラのセリフだオオバ ヨツバ! 何故お前がレイビアと一緒にいるのだ!」

 「なんで切れる…………。それより、最近レイビアに視線を送ってるのはお前か?」

 「視線だと? 何のことだ。俺はハンカチの持ち主が彼女と知って以降、四六時中見守って、ハンカチを返すタイミングを伺ってるだけだ」

 

 やっぱりお前じゃねえかよ…………。

 まさか、ストーカー化するとは予想していなかった。 

 

 「ん? ちょっと待て。お前、前まで女子生徒とあんなにイチャコラしてたのにまだハンカチも返せてないし、話しかけてもないのかよ」


 白昼堂々、廊下の真ん中で戯れていたこともあって、女性の扱いは手馴れすぎてお手玉のようにホイホイと回せるような奴だと思っていたのだが。 

 アーサーは乙女のように頬を赤らめる。

 

 「仕方なかろう……。一世一代の大勝負なのだ。慎重にもなるというものだ」

 「なぜそこでシャイになる……」

 

 レイビアを女にしてしまえばいいではないか! と意気込んでいた彼はどこへ行ってしまったのか。今のアーサーの様子は隣の女子に消しゴムを貸してと言えない男子生徒のそれである。

 

 「しかし、安心しろ。計画はちゃんと建てているのだ。その時が来るまで、良からぬ男が近づかぬよう見張っているというのもある」

 「…………良ならぬ男が近づいたらどうするんだよ」

 「その場でたたっ斬ってくれる!」

 「物騒すぎるわ!」 

 

 

 アーサーは剣の柄に手をかける。

 

 「ヨツバ、お前も例外ではないぞ。少しでも不審な行動をしてみろ……。次の瞬間、首から上は無い」


 アーサーの野心的な瞳を見ると、彼が俺に斬りかかってくるシーンが容易に想像出来てしまう。 

 

 「あれ? お兄さんじゃないっすか〜」

 

 陽気な声が微妙に張り詰めた空気を粉々にぶち壊していく。

 俺とアーサーが同時に声の方を見ると、そこには先日俺を騙そして、仮設魔術管理局に連れていこうとした青年が立っていた。

 

 「げっ、例の詐欺師じゃねえかよ」

 「詐欺師だと……? 斬っておくか?」

 「……冗談でもやめろよ。返り血が飛ぶだろ」

 「なっ、なかなか物騒なお話をしてますね〜」


 青年は顔を引きつらせるも、何とか笑顔を維持しようとしている。

 一度俺を騙そうとしておいて、また顔を出せるとは何たる外道だろうか。そしてどういう精神をしているのか。一周回って尊敬してしまう程である。

 

 「それよりお兄さーん。今からでも遅くありませんよ。仮設魔術管理局に契約しに行きましょう。なあに、お時間は取らせません。お兄さんは契約書に名前を書くだけで済むんですから」

  

 青年は猫なで声で擦り寄ってくる。これが幼馴染や妹ならご褒美なのだが、男、その上詐欺師にやられても不快なだけである。

 

 「シッシ、寄ってくるんじゃねえよ。名前書いた時点で一生魔術は使えなくなるんだろ? もうタネはわかってるんだよ」

 「なーんだもう分かっちゃいましたか。…………それでも、契約したくなったらいつでも呼んでくださいよ。コッチも家族を食わせてかなきゃいけないんですね」

 

 お気楽な調子で青年が言うと、名刺をはんば無理やり押しつけてきた。

 あろう事か名刺には名前まで書いてある。…………ビオラがいないため正確には読めていないのだが、俺の野生の勘はそう言っているのだ。

 

 「おい、こんな物要らね……」

 

 名刺から顔を上げた時には、既に青年の姿は無かった。神出鬼没なやつである。


 「ふむ、“収奪魔術の輩”か。面倒なのに絡まれたな」

 「ホントだよ……。それよりお前、レイビアが気にしてんだ。付きまとってんじゃねえよ」

 「悪いが約束は出来んな。しかし、万が一の場合、彼女は俺が守ってやるから安心しろ」

 

 それが安心できないんだよ……。

 そろそろ戻らないとレイビアが心配する頃だろう。俺は混雑を掻き分けながらアーサーに念を押す。

 

 「いいか? 迷惑になるようなことはするんじゃないぞ」

 「それはこっちのセリフだ馬鹿者」 

 

 アクセサリー屋に戻ると、ロザからのお使いからハヤトも戻ってきていた。

 

 「何処に行ってたんだ」

 「ちょっとまあ……、変な輩がいたもんだからな……」


 ハヤトから聞かれたが、適当にはぐらかしておく。

 

 「ねえ、アソコ入ってみようよ」

 

 レイビアが指さした先には大きめのテントが設営されていた。

 

 「何の店だ?」

 

 看板のようなものがかかっているが今の俺には読めない。

 

 「“偽物の館”だってさ」 

やりたい事詰め込みました!みたいな話が続きます。


一週間で書き溜めたので、あと3話分くらいあります。

次話は明日投稿します

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