マーティスレイの神眼魔術
横一列に並んだカウンター。慌ただしく動く人々。
魔術管理局の中はまるで町の市役所のようになっていた。
空いてるカウンターに呼ばれ、席に座ると右にミヤビ、左にビオラが腰を下ろした。
「本日はどのような魔術をご所望でしょうか?」
気難しい顔の職員が、辞書が薄い本に思える程ぶ厚い書物を机にドンっと置いた。
表紙には“契約魔術全集”と書かれている。
恐る恐るその書物を開くと、これまた米粒みたいな文字が溢れんばかりに押し込まれている。
「どうするの、ヨツバっち。どれと契約する?」
「どうするって言われても、まだ決めてないんだよなぁ……」
「ええー、なんで決めてないんだよー」
そりゃあ急に連れてこられたからな、アンタに。
適当に本の文字を目で追いながら考える。
何かないだろうか? どうせならカッコ良くて強く、それでいて独自性のあるモノがいい。最初の契約魔術なのだ、その位こだわりたい気持ちがあった。
「あっ……。アレがあるじゃん」
“契約魔術全集”のページを捲り、目的の魔術を探し始めた。
「ん? 何なに、決まったの?」
「それでしたらお客様。音声認識機能がございますので魔術名をおっしゃって下さい」
また微妙にハイテクなものがあるなこの世界。
しかしこんな分厚い中から探すのは困難極まりない。お言葉に甘えてその機能を使わせてもらおう。
「えーっとじゃあ……、“マーティスレイの神眼魔術”」
ミヤビと職員が同時に吹き出した。
「何言ってんだよヨツバっち!!」
ミヤビが俺の胸ぐらを掴んだ。
「え……? だから“マーティスレイの神眼魔術”だって。サンチェスが使ってたヤツ」
「それは分かっとるわい大馬鹿野郎! ああ……もう、どこからツッコンでいいのかも分かんないよ……」
ミヤビが項垂れてしまう。カンパチ入れずに職員が口を開いた。
「お客様、残念ですがマーティスレイシリーズは取り扱っておりません……」
「そう! このオジサンの言う通り。マーティスレイの魔術は管理局に登録されてないの。本人と直接交渉しないとダメなんだって」
「なるほど……。じゃあ本人の所まで連れてってくれよ」
「ダメだこりゃ……」
ミヤビはカウンターにつっぷせてしまった。ため息を付いて起き上がる。
「いい? ヨツバっち。たしかに私は連れてくことができるよ? でも圧倒的にお金が足りない!!仮にこのオジサンが一生働いたとしても足りない!」
それは流石に失礼なのでは、と職員のオジサンを見たが、彼も強く頷いていた。
「と言うわけでヨツバっちはどうやっても契約できないの。分かった?」
「痛いほど分かったよ……」
ならば振り出しに戻ってしまった。
どうしたものだろう……。
「ビオラはどうしたらいいと思う?」
「私はマスターの決定に従うまでです。マスターが気に入ったものをお選びください」
ビオラの受け身な性格が裏目に出てしまった。
ここで、「ハーレムが作れる魔術!!」なんて言った日にはさっき以上に怒鳴られるのが目に見えている……。
まだかまだか、と睨んでくる職員さんの視線が痛い。こういう時に限って、午後の授業出てないじゃん……といらん事ばかり考えてしまうのだ。
「あの……、よろしければそちらの“契約魔術全集”差し上げますので、一旦お引き取りになられた方が……」
職員さんが言いづらそうに口を開いた。
「そうだよヨツバっち。急に連れてきた私も悪かったよ。とりあえず今日は帰ろう。どうせ、今週末“次元フェス”で来るんだし」
「そうだな……」
“契約魔術全集”を担いで席を立つ。
外へ出ると昼中の風が刺さるように吹いてくる。
長い階段を上っただけあり、その景色は町全体を一望出来るほどだった。
「“神眼魔術”の件だけどさ。“マーティスレイシリーズ”は触れない方がいいよ。仮にお金があっても……」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんなんだよ……。全部完璧に使いこなせれば簡単に最強になれる。でも、一度使ったらそれ以上の成長は見込めない。ドラッグみたいなもんだよ、一度使ったらその力に依存しちゃうの」
そう囁くミヤビの横顔はどこか寂しそうにも見えた。
「ほら、あれ見てみなよ」
ミヤビが指した先には、円形状のコロッセオのような建物があった。
「あれが、研究会の連中が言ってた闘技会の会場だよ。ヨツバっちも出てみたら?」
「術具に負けるのがオチだよ」
「いやいや分かんないよ。はいコレ、さっき貰ったチラシ」
ミヤビは中で配っていた“次元フェス”のチラシを俺に手渡した。
「じゃあ学園に戻ろうか」
俺とビオラの肩に手を置いたミヤビ。その顔は俺に隠すように笑っていた。
「ま、“魔女”には負けるんだけどね……」
夜、ウルカによる魔術強化特訓のため、自室を後にした。
公園に到着すると、ウルカがベンチに座り、シャルロットさんはその後に立っていた。
「言われた通り倒してきた?」
「んん…………。多分……あれは倒したに入ると思う」
リストの小人三人組のことを聞いているのだろう。決着はついていないが、あれは俺の強さに恐れをなし逃げ出したという事に…………なるだろう。
「特訓の前にちょっと聞きたいんだけどさ……」
ミヤビから貰ったチラシをウルカに渡した。
「…………なにこれ、“次元フェス”?」
「知らないのか? 異世界のモノが売られるお祭りらしいぞ」
「ああ、言われてみればそんなのもあったわね……。行ったことないけど」
ウルカはチラシを上から下へとボーっと眺める。しばらくすると、目ぼしい項目を見つけたようで少し目が開いた。
「この“闘技会”ってのいいじゃない」
「やっぱり出た方がいいと思うか……?」
「あら、珍しく逃げ腰ね」
ウルカの言う通りである。
アイスストーカーやサンチェスとの戦いで分かったが、俺は“術具”に対しての対処方法を持っていない。アイスストーカーの時のように惨敗するのではないかという恐怖から踏み出せずにいるのである。
「とりあえず出場してみれば?」
「勝てると思うのかよ」
「無理ね。十中八九、初戦敗退よ」
そんなハッキリ言わなくても……。
「でも、良い経験にはなると思うわよ。色々な魔術や戦闘方法も見れるし、今後に役立つんじゃない? ―――それに、あんまり言いたかないけど優勝賞金もでるみたいだし」
「優勝賞金だと?!」
なぜその存在に気づけなかったのか。
うじうじと怯えていたのも馬鹿らしい。“術具”など知ったことか。それより速く詠唱すればいいだけではないか。
「よしビオラ、目指すは優勝だ! 全員圧勝してやろうじゃないか」
「素晴らしい目標だと思います……。お力添えさせて頂きます」
「アナタの行動原理が分からんわ……」
呆れ気味のウルカをよそに、俺の口は活発に動き始める。
「なあ、いくら貰えるんだ? “マーティスレイシリーズ”と契約できるくらい貰えたりするのか?」
「えぇ……。そんなに貰えるわけないじゃない。っていうか、“あんなの”と契約したいのね…………キモイ」
「私もオススメしかねますね……」
今まで黙っていたシャルロットさんにすら軽蔑される。そんなに嫌われてるのかマーティスレイ……。
「じょっ、冗談だよ冗談……。ほら、さっさと特訓始めようぜ」
話題をそらすように、俺は“コンテナ”を手に持った。
契約できるならしてみたいものだが……、どうやら一生叶いそうもない。
3章も半分くらいが終わりました。
ここからは色々と詰め込むので、まとめて投稿したいと思います。なので、次話の更新までちょっとあくかもしれません。あくと言っても来週までには何かしらだしますので




