魔術管理局
目の前に現れたのは町並み。
どうやら、“移動魔術”で飛ばされたらしい。
しかし、学園の近くのモノではない。始めてくる場所だ。
「どういうつもりだミヤビ」
「契約魔術が欲しいっていうから契約できる場所に連れてきたんだよ」
契約できる場所?
こんな町中で出来るのだろうか。そもそも、どうやって契約するのか。
俺が眉をひそめていると、ミヤビが笑った。
「あれ? 契約の仕方しらなかいの? ほら、アソコでやるんだよ」
ミヤビが空中を指す。
その先には俺の歯のように真っ白な煉瓦造りの建物。
他の家や建築物より大きく、離れていてもよく見える。
「“魔術管理局”。聞いたことはあるでしょ? あの建物で大体の契約魔術は契約魔術できるよ」
言われてみればレイビアから教えてもらった気もする。
「じゃあ、ヨツバっち先に行っててよ」
「え? 付いてきてくれるんじゃないのか?」
「私もやる事あるからねー。着いた頃にまた来るからさ。
…………そうそう、さっき研究会の連中が言ってた“次元フェス”ってこの町でやるからさ。観光がてら向かうといいよ」
そう言うとミヤビは姿を消してしまった。
「…………置いてかれてしまいましたね」
「みたいだな……。まあいいや、デートがてら歩いていこうぜ」
「デッ……デートですか?! 」
頬を掻きながら恥ずかしそうに俯くビオラ。
冗談のつもりだったが、こう反応されてしまうとやりにくい……。
ビオラと一緒にぶらぶらと町の大通りを歩いていく。
確かにお祭り前のようで、店先に飾り付けがされ、道端には屋台を設置して居る人を見かけた。
しかし、どこか寂しいのだ。
飾り付けは豪華でしっかりしているのだが、祭り前の高揚感は感じない。
どこか皆、作業的に準備をしているという印象を受けた。こうも寂しいと俺も不安になってくる。
人通りは多いが、すれ違う人の顔もやつれてるように見える……。
この雰囲気では、邪智暴虐の王様に短剣一本で乗り込んで捕えられてしまう気さえした。
「マスター、着きましたよ」
ボーっとしていたせいで、到着していた事に気づかなかったようだ。
“魔術管理局”。
近くで見ると、その大きさに圧倒される。
宮殿のような建築と、そこへと続く大蛇のように長い階段。
今からこれを上らされるのかと思うと、足の細胞がボイコットを始めそうだ。
「はいはーい、ちょっとそこのお兄さん!」
明るい声と同時に、肩をチョンチョンっとつつかれる。
振り返ると、青年が笑顔で立っていた。
細身の体に、ヨレヨレのシャツ。髪は後ろでまとめている。
「お兄さん、魔術を契約しにきたんだよね? 」
「そうだが?」
「やっぱりかぁ〜。残念だけど今、管理局が大変混みあってるんですよー」
青年が軽い口調で、笑顔を絶やさずに言う。
こんなデカイ建物の中が混みあっている。
…………想像しただけで行く気が失せる。俺はおしくらまんじゅうをしに来たのではないのだ。
「でもねお兄さん、すぐ近くに仮設の魔術管理局があるんですよ。そこなら空いてるし、なによりこんな長い階段もないんです! そこまで案内しますよ」
なんて親切な人だろう……。
彼に会わなかったら、俺はこの長い階段を上らされるはめになったのだ。
これが神の恵みか……。
足の細胞と脳みそが、「青年について行け!」と命令している。
「じゃあ、お願いしようかな」
本能に従い、青年に付いていくことにした。
しかし、俺の声は耳に届いていないようで、青年は真面目な表情で大通りの方を見つめていた。なるほど、フェレンゲルシュターデン現象は実在したようだ。
「おい、大丈夫か?」
「しっ、お兄さん静かにした方がいいですよ」
青年の視線の先を追うと、そこには黒服で強面の集団が大通りを闊歩していた。
その先頭を歩くのは黒のロングコートと、眠そうな暗い瞳、頭にカラスでも飼ってるかと聞きたくなるくらい真っ黒な髪の少年である。
ぬらりひょんでも無い限り、先頭を歩く彼が一番偉いのだろうが、後ろに控える連中の方が体格が良く、明らかに強そうだ。
その集団が通ると、今まで多少は賑わっていた大通りも蓋を閉じたように静まってしまっている。
何故、皆口を閉じるのか。
ましてや、離れている俺達まで黙るのか。
青年は、集団が見えなくなると、ホッと息をついた。
「誰なんだよアイツら」
「えぇ?!知らないんですか?アレが “盗賊王”の集団ですよ」
盗賊王……?
何処かで聞いたような気もする。たしか、さっき戦った小人三人組が言っていたような……。
「知らないみたいですね……。最近、この町で名を上げてる転生者ですよ。聞いた話だと、“教会”から目をつけられてるらしいですよ」
また転生者か。
俺以外に何人いるのだ。
「なんでみんな黙るんだよ」
「そりゃあ怖いからですよ。アイツに挑んだ奴は何人もいますけど全員返り討ちにされてますからね。ほら、町中も活気が無かったでしょ? みんなアイツを気にしてるんです」
「なんだよ、その盗賊王は圧政でも敷いてるのか?」
「そういう訳じゃないですけど……、目を付けられたくないんですよ。誰が言い始めたわけじゃなく、“目立ちたくないから”黙るんです」
…………大名行列かよ。
これはいよいよ短刀一本で乗り込み、友人を身代わりにして妹の結婚式に行かねばならない雰囲気である。問題は身代わりになってくれる友人に心当たりが無いことだ。
「ま、盗賊王のことなんてほっときましょ。では、仮設魔術管理局までお連れしますねー」
やっとか……、と青年に付いて行こうとした時、俺は何者かに後ろ襟を掴まれた。そのまま引き寄せられ 、肩に細い腕が回る。
「悪いけど、私のツレなんだ。手、出さないでくれる? ―――ほら、ビオラちゃんも行くよ」
「ミヤビ……?!」
ミヤビはそう言い残すと、俺の肩に手を回したまま階段を上り始めた。
っていうか接近しすぎですよ! こんな俺様的な態度取られたら惚れちゃうじゃないのよ!
「ふう、間一髪だったね」
「おい、どういうつもりだよ! 仮設魔術管理局に連れててってもらえたんだぞ?!」
「まだ気づいてないの? あれ、詐欺だよ」
「はぁ?!!」
ミヤビが残った手で頭を抱えた。
「やっぱり気づいてなかったね……。何にも知らない田舎者とかを、仮設魔術管理局があるって連れてくんだよ。そしたら、『まずは契約書にサインしてください』って言われて、“パスパーの収奪魔術”に契約させられる……」
「“パスパーの収奪魔術”って?」
「契約者の魔力を半永久的に奪い続ける魔術。契約したら最後、一生魔術は使えないよ。『将来は立派な魔術師になる!』って意気込んでた子が契約しちゃってお先真っ暗とかよくある話 」
なんという事だ……。
後ちょっとでそんな不味いことになってしまう所だったのか。
タネが分かると、あの青年に憎悪が湧き上がってくる。振り返ったが、彼の姿はもう無い。
「ヨツバっち、ここは元居た世界じゃないんだから、もっと警戒した方がいいよ。ビオラちゃんも、ヨツバっち意外とお馬鹿だからちゃんと守ってあげるんだよ?」
「分かりました。申し訳ございませんマスター。私が付いていながら……」
「いや、俺が警戒してなかったのがいけない…………」
そう言いながら、もしも“パスパーの収奪魔術”に契約したらどうなっていたのかを考える。
俺の魔力量じゃ、あの青年も満足出来なかったろうという結論に落ち着いた。
次話は明日投稿します。




