実践練習だよ……
アーサーの騒動から1日明けた昼休み。
俺とビオラ、ついでにハヤトは旧校舎の裏に来ていた。
「まさかお前から言い出すとはな」
「実践練習だよ。…………実践練習」
何を血迷ったか俺は、副校長から渡された“リスト”の生徒を攻略していくことになったのだ。
あれだけ嫌がっていたリスト攻略を何故今やるのか。
その答えを知るには数時間前まで遡ることになる―――
ウルカによる“魔術強化特訓”も二日目。
今日も地面にへばっていた。
「ふん、今回は6分40秒……。ちょっとずつは伸びてるわね」
「もっと効率の良い方法無いのかよ……。寝てるだけで魔力量が増えるとかさ」
「そんなのある訳ないじゃない。でも、今日から新しい特訓を増やすわ」
ウルカは何かの冊子を俺に投げた。
何かと思えば、副校長から渡された“問題生徒リスト”である。
「先日ストレンジ副校長に貰ったものよ。アナタ、問題の生徒を懲らしめるために呼ばれたんでしょ?」
「そう言えばそうだったな。アーサー倒してから忘れてたけど……」
無くなった設定だと思っていたが健在していたようだ。
「今日から、そのリストの生徒を順番に倒していきなさい。“不意打ち”や“順番を飛ばす”のはダメ。一から正々堂々やりなさい」
「めんどくせえ……(よっしゃぁ! やるぜ!)」
「マスター、心の声と発言が逆になっています……」
ウルカがため息をついた。
「いいからやるの! 星1程度なら今の魔力量でも勝てるわ………………運が良ければ」
「それでも運が良ければなのか……」
―――という訳である。
そして、案内役のハヤトを連れて旧校舎まで来たのだ。
「今日のターゲットは“カン”、“ジン”、“ギス”の3人だな」
「早速3人かよ……」
「戦うのはリーダー格の“ギス”だけでいい。他の二人はヤジを飛ばすくらいだろう」
「その3人は何したんだよ」
「ストレンジ副校長の植木鉢を破壊したらしい」
副校長の個人的な恨みじゃないか……。
しかし、何をしたかはどうでもいいのだ。
俺がやる事は変わらない。
「よし、行くか」
3人組は旧校舎近辺に出没するらしい。
適当に歩いてればそのうち遭遇するはずである。
しばらく旧校舎を回っていると、3人組を見かけた。
ご丁寧にヤンキー座りまでして、3人で何かを見つめている。
「へへっ。洪水だぞ~逃げ惑え〜」
「流石っすね親分! アリ達も混乱してますよ」
「兄貴の怒りに触れた者に逃げ場などないのだァ!」
どうやらアリを虐めてるようだ……。
俺も混ざりたい所だがそういう訳にもいかない。
「お楽しみ中のところ悪いな。ちょっといいか?」
「あァ゛?」
3人が一斉にメンチを切る。
「なんだテメェ。俺達アリ君虐めとるだけやろ」
「そうだぞテメェ。親分に喧嘩売ってんのかァ?」
「やっちゃいやしょうよ兄貴」
一人喋ると他の2人も連られる仕組みらしい。
どしょっぱつからコイツらとは幸先が悪い。そして、非常に面倒臭い。
「あ、コイツどっかで見たと思ったらアレっすよ。アーサーに不意打ちで勝ったやつですよ」
「あの卑怯者かぁ?! イイじゃねえか、卑怯者には俺が鉄槌を下してやろう」
「へへっへへっ……。兄貴が勝ったら実質アーサーより強い……それってつまり最強…………」
“懲らしめる”はずの俺がどうやら鉄槌を下されそうである。
昨日のアーサーもそうだったが、こうも個性的な奴らを前にすると俺は後手に回ってしまうようだ。
やりにくくて仕方ない。
「へっへっへ。覚悟するんだな……」
リーダー格のギスが汚く笑いながら立ち上がる。
しかしどうだろう、彼らは立ち上がっても、俺の腰ほどの身長しかないのだ。
つまりは非常に小さい。
小人なのかと思えてしまう程小さいのだ。
「…………アイツら、ドワーフとか妖精みたいな種族なのか?」
「いや、普通に人間だな」
…………じゃあ、普通に小さいだけなのか。
顔が可愛ければマスコットになれる程のサイズである。
例えるならば、顔の汚いキュー〇ーちゃんだろうか。俺の顔と取り替えれば完璧である。
「兄貴はなぁ、“アキレスの加速魔術”を刻んだ靴を履いてんだぜ~?」
「つまりはちょー速えーんだぞ? お前如きじゃ目でも追えねえな」
「…………じゃあ行くぜ?」
ギスがその場で、牛のように地面を蹴る。
突っ込んで来た瞬間、俺は両手を前に突き出した。
ギスの頭を俺の腕が押さえつける。
「へっ?!……へっへ。俺を抑えるとはやるじゃねえか。力比べってわけだな」
平然を装うようにギスが笑う。
「うおおぉぉおおお!」
男らしい声を上げているが、一切押されてる感覚はない。
「ビオラ、詠唱を頼む」
「……了解しました」
最初突進された時は不味いと思ったが、こうして押さえつけてしまえばこっちのものである。
まさか戦闘で落ち着いて詠唱できる日が来るとは思ってもいなかった。
俺は魔力を込めることを意識しながら、“ラヴトスの溶岩魔術”を詠唱する。
しばらくすると髪の焦げる臭いが漂い始めた。
「熱っ?! 熱い!熱いぞ?!」
怒鳴り声をあげたギスが後ずさりをし、元の場所へと逃げていった。
「兄貴?! 」 「大丈夫ですか?!」
「やってくれたなテメェ……」
「突っ込んできたのはお前だろうが……」
焦げた頭を抑えながらギスが睨む。
「たしかに突っ込んでいったのは俺だ……。あんたの事舐めてたぜ。でもよぉ、これでも俺達、“盗賊王”様の下っ端でなぁ……」
「…………誰だよ“盗賊王”って」
「俺に聞くなよ……。あの小人達に聞いたらどうだ」
ハヤトからも小人扱いされるとは……。
「テメエら如きが知らねえのも無理はねえなぁ? つまりは俺達も負けられねえんだ。………………さっきまでのは、お前へのハンデだ。圧勝しても詰まらねえからな。でもここからは本気で行かせてもらうぜ?」
「最初から本気で―――」
「相手にもチャンスを与える勝負師の鏡っすね!」
「マジカッコイイっすよ兄貴っ!」
俺のセリフすら、取り巻きの2人に邪魔されてしまう。
ずっとこいつらの茶番を見てきたが……そろそろ限界である。
今回はスタイリッシュに戦おうなんて密かに思っていた俺を叩いてやりたい。
「ダアアアアっ! ここまでクールな二枚目キャラで進めてきたがもう堪忍ならん! 本気だとか兄貴だとか親分だとか、そんなもんどうでもいいんだよ! いいからかかってこいや」
「マスター、挑発してはいけません。落ち着きましょう」
いきなり叫んだ俺に、3人は怯えた。………もしくは「なんだこいつ……」と思ってるだけかもしれない。
「こいつを見ろ!」
仕切り直すようにギスが右手を上げた。
その手にはスイッチのようなものが握られている。
「こいつはな、“フィボロスの落雷魔術”が刻まれた術具だ。こいつを一度押せば……」
「空から雷が降ってきて」
「お前なんてお陀仏だ!」
…………それはそれは。
かかって来いなんて言ったはいいが、流石に不味い。
そして雷に打たれたら、強靭な肉体を誇る俺でも死んでしまう。
―――爆発音。
花火の音のようなそれは、旧校舎の3階からしたものだった。
立ち上る煙。
その場の誰もが唖然とした。
「すっ、ずけえっすよ兄貴……。まさかここまでの威力とは……」
「ヤベエっすよ親分。予想以上っすよ」
「…………いや、俺までスイッチ押してない……」
「じゃあ誰が…………」
ギス、ジン、カンの3人が顔を見合わせる。その表情は徐々に恐怖で染まっていった。
「とっ、とりあえず逃げろぉおー」
叫び声を上げながら3人が両手をあげて逃げていく。
結局何だったのか……。
これは勝ちでいいのだろうか?
というかあの爆発は何だ?
ハヤトは顔をこわばらせて、煙の上がる3階を睨んでいた。
「チッ、またあいつらか……」
ハヤトが旧校舎の中へとかけていく。
「おっ、おい、どこ行くんだよ!」
「3階だ。技師団のやつらがまたやらかしたんだ」
ハヤトは焦ったようで行ってしまった。
3階では何が行われているのか……。行ってみるしかないだろう。
俺も走り出した。
何だかんだ投稿出来ちゃいました。
流石に明日はきつそうですね




