お前は二番目になった……
昼休み。
いつもならレイビアの作ったサンドイッチを食べているのだが今日は違う……。
廊下に立たされた俺とビオラ。俺達の手には何十枚もの紙束があった。
その紙にはハンカチの持ち主について書かれているらしい。
「この少女について知らないか?」
俺達から少し離れた所で、アーサーが女子生徒達にビラを配っている。
『えー、こんな子知らなーい』
『ほんとにここの生徒? それより私に構ってよ』
『それよりアーサー様、短髪でも美しいです!』
「俺の事など、どうでもよいのだ。何か情報があれば教えてくれ」
お分かり頂けただろうか?
アーサーはね、紙を配るだけで女の子とイチャコラ出来るんですよ。
俺がやるとだな……。
「あっ……、どうぞ」
女の子は俺を見るなり眉をひそめて、そのまま通り過ぎちゃうんですよ。
そして少し離れたところで、
『あの人臭くない?』
『だよねっ! 臭うー』
という聞こえる陰口を言うんです。
おかしいと思いませんか?
俺のビラだけ1枚も減ってないんですよっ!
「…………ビオラ、俺の分も配ってくれ」
かくいうビオラはちゃんと受け取って貰えるんですよ。
貰った男子生徒なんてデレデレとニヤけてるし、女子生徒にも「かわいい」って褒められてるんです。
本人も満更でもなさそうな顔してるんです。
おかしいと思いませんか?
この疎外感に耐えられないんですよっ!
「どうだ調子は」
女子生徒に配り終わったアーサーが戻ってきた。
「どうにもこうにも、受け取ってすらもらえねえよ」
「お前は表情が固いのだ。もっと笑うよう心がけろ」
アーサーは自身の頬を横に伸ばしてみせる。
なんだこいつ……、喧嘩売ってんのか?
この状況で笑えとは、俺をサイコキャラにでもする気か?
アーサーに対する憎悪を蓄積させる中、俺は、ふと思い出した。
「前から聞きたかったんだけどよ」
「なんだ?」
ビラを配り続けるアーサーに尋ねる。
「崩剣インバリダスだっけ? なんで“術具”にしないんだ?」
アーサーの体がピタッと止まる。
アイスストーカーやサンチェスとの戦いで気付いたが、詠唱を省略する為に詠唱文の一部を物質に記す“術具”なるものがあるはずだ。
アーサーは俺を一瞥すると口を開いた。
「インバリダスは膨大な詠唱文と魔力を消費する。それに耐えられる物質は少ないのだ……。それこそ聖剣、魔剣、神剣……そういった類のモノでないとな」
「じゃあ、聖剣とかが手に入ったら“術具”にしたのか?」
「昔ならそうしたかもしれない――― 」
アーサーは剣の柄を撫でる。
「でも今は“コイツ”がある」
アーサーは哀愁漂う顔で自身の剣を見つめている。
それほど愛着あるがあるのか、それとも決意の表れか。
「俺は向こうでビラを配ってくる。サボるなよ」
「……へいへいほー」
アーサーの背中を見送る。
俺はビラ配りを再開した。
「私が配らなくてもよいのですか?」
大半を配り終わったビオラが首を傾げる。
「俺の仕事だしな。内容はどうであれ自分の分くらい全うしたい」
柄にもなくちょっと澄ましてみる。
しかし、受け取ってくれる生徒はほぼいなかった。
「何してるの?」
背後から明るい声が聞こえたと思えば、レイビアである。
今日は“トマト”の髪留めを付けている。
「友人が……友人? まあ、人探しの手伝いだな」
「へえ、どんな人?」
レイビアは俺から紙を受け取ると、書いてある内容に目を落とした。
そう言えば俺も何を書いてあるか知らなかった。
“髪は青色の少女”
なるほど。
異世界なら珍しくない髪色である。
丁度目の前にいるレイビアも水色だ。
“制服は着ておらず、パーカーのようなモノを羽織っていた”
これは大分絞られるのではないか?
しかし、目の前にいるレイビアも制服は着ていない。
俺が知らないだけで私服の方が多いのかもしれない。
“野菜の髪留めをしていた”
…………うーん。
確認に近づいてる気がする。
しかし、脳が正解に辿り着かないようにしている気もする。
ちょうど目の前にいるレイビアも野菜の髪留めをしている……。
“…………可愛い”
HAHAHA。それはアーサーさん、君の感想ですよ。
ちょうど目の前にいる(ry
わかったわかった。ぼくぜーんぶわかった。
「うーん、ちょっと僕には分かんないかも」
「そっ、そ、そうだな。分かんないよな……」
これを鈍感というのだろうか?
“髪は水色の少女”の時点で自分を候補から外れてしまったのだろう。
「あっ、そうそう。2人にこれ持ってきたんだ」
レイビアはサンドイッチを二つ取り出すと、俺達に渡した。
「ありがとうございます」
「…………どうもな」
「うん、2人とも頑張ってね」
俺達に手を振りながら去っていくレイビア。
ビオラはさっそくサンドイッチを食べ始めている。
俺はなんともゲンナリした気持ちになっている。
「全く減ってないんではないか?!」
ビラを配り終えたアーサーが戻ってきた。
「……なあ、もうやめにしないか?」
「何が言いたい」
「このまま行っても誰も幸せになれない気がするんだよ」
「幸せになるかどうかは俺が決めるっ! お前の管轄ではない!」
なんと声をかければいいのか……。
昔、明らかにブサイクな子を女子が「かわいいっ! かわいいっ!」と祀っていたのを見た時と同じ気持ちだ。
「しかし、お前が言うのも一理あるかもしれん…………」
アーサーが顎に手を当てる。
「50人以上の生徒に尋ねて、誰も心当たりが無いというのだ。ここまで来ると俺が見たのは幽霊だったのかも知れない……」
……むしろ幽霊の方が良かった気もする。
「何かいい手はないのか? このままでは1勝会えない気がするのだ」
「何かいい手ね…………」
「で、どうしたらいいと思う?」
「何故俺の部屋に来る?」
困り果てた俺はハヤトの部屋を訪れた。
男三人と魔導書一つが狭い部屋に鎮座するという奇妙な空間である。
中央に菓子があるのに、ビオラ以外手をつけないという緊張感ある空間でもある。
「そして何故アーサーがいるんだよ……」
「ここしか頼れる所がなかったの……」
ごめんね……ごめんね……。と捨てられた猫を拾えない時のように謝る。
アーサーは物珍しそうにハヤトの部屋を見渡している。
ハヤトもその威圧に脂汗をかいていた。
「それでなんだ、人探しを手伝えばいいのか?」
俺から事情を聞いたハヤトが眉をひそめる。
「正確に言うと、隣に居る引きこもりの彼なら手がかりを入手出来るんじゃないかと思ってな」
「ロザの事か? 確かにアイツなら何かしら情報を手に入れそうだ」
「なんだ? ソイツは情報を持っているのか?」
ハヤトが立ち上がる。
それに連られて俺とアーサーも立ち上がった。
ロザの部屋は相変わらず固く閉ざされている。
「ロザ、いるか?」
「引きこもりなんだからいるだろ……」
「あいつ、たまに旧校舎へ行くからな」
しばらくしても返事は無い。
これは出かけているのだろう。
「邪魔する、ぞっ!!」
アーサーがドアを蹴破ったのだ。
え……? 何してんだコイツ……。
「お前何してくれてんだ!」
「そうだぞ! 引きこもりの部屋に押し入るってのは殺されても文句が言えないってことだから?!」
「知ったことかっ!(ドンッ)」
なんて横暴な……。
これは元々の性格なのか……。
それとも俺のせいで豹変してしまったのか……。
後者の場合でも一切の責任は取らんからな!
「うわ、うわわわっ……? なっ、なんだ貴様らァ!」
物で溢れた部屋。
中央に座った少年が混迷した声を上げる。
長い髪……、というか長すぎて“妖怪”もしくは、“けものの槍”の持ち主かと疑ってしまうレベルである。
「ロザ、怒りたいのは俺も同じだ。しかし、とりあえず落ち着いてくれ」
「ハヤト氏! これが落ち着ける状況か?! こんな奴追い出すべきだ」
喚くロザを無視して部屋へと入っていくアーサー。
「おっおっ、おい! 勝手に入っ」
言葉を遮るようにアーサーがビラを突きつけた。
「お前なら探せるのだろ? 何か情報をくれ」
ロザは無言でビラを受け取る。
有無を言わさず受け取らせる……。そうか!これが、帝王学か! また一つ詳しくなってしまったな……へへへ……。
「で、どんな奴をさがしてるんだ」
ハヤトはロザを見る紙を覗き込む。
2人は小さな声で音読し始めた。
見ていて二人の顔が暗くなっていくのが分かる……。
遂には途中で読むのをやめた。
「…………アーサー、とりあえず俺の部屋に行っててくれ」
アーサーは首をかしげたが、ハヤトの言う通りにした。
「ヨツバ、お前は残れ」
チッ、逃げ損ねたか……。
三人の男子が首を寄せ合い、声を潜めての会議が行われる。
「どう見たってレイビアの事じゃないか?! お前知ってて連れてきたのか?」
「ごめん……ごめんよ……」
「レイビアがネウト族というのも知っておろう……。どうするつもりだ」
「分かんないから来たんだよ! 一人で抱えるには重すぎたんだ」
「まさか俺達にまで犯罪の片棒を担がせるとは……よくもやってくれたな」
「それより、もういっそ“ここで”あいつを殺してしまわないか」
「何ふざけた事を言っている! ここは俺の部屋だぞ。人が死んだ部屋で引きこもるなど出来るはずがない! ……やるなら屋上から落とすべきだ」
「大分物騒な話をしているが…………、今玄関を開ける音が聞こえたのは俺だけか?」
「この部屋を訪れるのは1人くらいなもんだな……」
「お隣さんか…………」
「凄い音したけど大丈夫……?」
マグカップを持ったレイビアが訪ねてきた。
ここからの一連の動きはスローローションである……。
まず行動したのはアーサー。
レイビアを姿を認識するやいなや、獣じみた雄叫びを上げた。
すぐさま立ち上がると、レイビア目掛けて突進していく。
俺達もすかさず立ち上がる。
アーサーを取り押さえようと部屋から走り出した。
この時、ロザの部屋に散乱した物を何個か踏んだ。しかし、そんな事は気にしていられない。
雄叫びとともに突っ込んでいくアーサーを止めようと三人で飛びかかった。
辛うじてハヤトが右足を掴んだ。
「コイツを抑えろぉぉ!!」
ハヤトが叫ぶと同時に俺とロザが覆い被さた。
ここまで0.24秒……多分2秒位の出来事である。
スローモーション終わり!
「何をするのだァ! 離せ!」
地面に押さえつけてもアーサーは足掻こうとする。
これが火事場の馬鹿力だろうか。
それとも上に乗る3人がひ弱なだけか。
今にも起き上がってしまいそうである。
「レイビア、とりあえず部屋に戻れ」
「そして鍵を閉めろ! 出来れば、ドアを開けたら矢が飛んでくるトラップも設置するんだ!」
「えっ? う、うん分かった」
レイビアはそそくさと自室に戻って言った。
「いい加減に離せェ!」
アーサーは3人の男子を振り払った。
荒れた息で俺を睨む。
「どういう事だ何故止めた?! 念願の少女にやっと会えたのだぞ?」
アーサーの迫力に俺は気圧される。
「もういい。正直に話そう……」
ハヤトがため息混じりに言う。
「あの子―――レイビア アートレイはな」
「ほう、レイビアと言うのか」
「ネウト族なんだよ」
死刑宣告とはこんな感じなんだろうか。
しかし、恋とは概してそんなものだろう。
自分が抱いていた幻想より相手は劣っているのだ。
恋が恋愛に発展したことのない俺だからこそ言えることである。
「なんだ、そんなことか」
意外にもアーサーは落ち込んでいない。
可哀想に、ネウト族の事を知らないのだろう。
「アーサー、ネウト族ってのはな……」
「知っているぞ。性別がないのだろう?」
「じゃあ何で……」
なんで落ち込まない? と聞こうとした瞬間、俺の体に悪寒がはしった。
「性別が無いなら、これから女にすれば良いではないかァァ!!」
本日最大の暴論である。
ここまで来ると、恐怖を超えて敬意すら抱きそうだ。
「ふふ……、夢が広がるな。やっと会えたのだ……。どうアプローチするか …………しかし今日の所は一時退散とした方が……良いかもしれんな」
アーサーは一人でニヤニヤと笑っていると、部屋から出ていった。
「俺はお前が一番ヤバい奴だと思っていた」
ハヤトが顎で俺を指す。
「でも今日、お前は二番目になった……」
レビューが書かれてる……。
嬉しいんですけど、書き溜めてた分が今回で終わりなんですよね。
なので、次回以降は一週間に2回くらいのペースで更新します




