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ロストチャイルド 人食いの森編

登場人物

沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている

マルコ…さらわれた姉を助ける為最強を目指している少年

メリンダ・パルケード…不思議な力を持つ少女”深淵の預言者”と呼ばれた祖母よりも強力な力の持ち主

ガルゾフ・ド・ネルリアス…ガルゾフ帝国の皇帝、父である先代皇帝を暗殺し弟に罪を着せて処刑した程の野心家、部下の意見もほとんど聞かない暴君であり感情の起伏も激しい

ソロンド…ガルゾフ帝国の重鎮で内政のトップ、軍事、外交にも口を出せる立場で以前とは違い皇帝であるネルリアスにも唯一意見できる存在

エマ・ブランカ…森の中で七人の面倒を見ている小柄な老婆

ケンタ…七人兄弟の長男、リーダー格の存在

トミー…七人兄弟の二男、礼儀正しい少年

アニー…七人兄弟の長女、少し気が強い少女

ヒカル…七人兄弟の三男、非常に明るい少年

ジョン…七人兄弟の四男、気がやさしい少年

マリー…七人兄弟の次女、気弱で優しい少女

アレク…七人兄弟の末っ子、無口で感情をあまり出さない少年

ここガルゾフ帝国第二の都市サマールは例年にないほど大勢の人で賑わっていた、ここは数日前まで国内情勢の不安から活気が失せ流通も滞り人通りもまばらであった、それがたった数日でこうなったのは理由がある、先日アミステリア公国でおこなわれたスタネール共和国を中心とする通称”三賢者同盟”との会談内容が世間に一気に広まったからである、ガルゾフ帝国の滅亡は時間の問題と思っていた人々にとって、アミステリアとの同盟が破棄されなかった事に加え”三賢者連合”との統合も夢ではないという事実に国民は湧き上がり滞っていた流通も一気に回復し寧ろ以前より活気に満ちたものとなった、その偉業を成し遂げた一員であるロネオラがガルゾフに帰還し首都キメルディードに向かう途中にこのサマールを通るという事がわかると多くのガルゾフ国民が”英雄の帰還を一目見たい‼”と群衆となって集まったのだ、これは皇帝であるネルリアスがおこなった策であり”今回の異業はロネオラの働きかけによるものが大きい‼”と過剰演出気味に国内にふれ回ったのだ、このところのガルゾフには悪い話ばかりで皇帝であるネルリアスはもちろんガルゾフの国民も意気消沈していたので久々の明るい話に湧き上がっていた、ガルゾフ国内に帰還したロネオラが乗る馬車を大勢の人々が祝福し称える

”我が国の救世主ロネオラ”とか”現代の英雄ロネオラ様”といった垂れ幕を掲げている者も少なく無かった

「いやはや何という事じゃ・・・これでは道化ではないか!?」

当の本人であるロネオラは困惑するばかりであった、今回の会談では流れとしてそうなっただけでロネオラは特に何かをしたという訳ではない、生きてこの国の土を踏むことはもうないであろう・・・とまで思っていたのが運よく帰って来られた時には英雄に祭り上げられていたのである

「やれやれ、この歳になってピエロを演じねばならんとは・・・国に貢献できるのであればそれも致し方なしではあるが・・・」

馬車の中で大きくため息をつくロネオラであった

このサマールという都市がガルゾフ帝国第二の都市になったのは理由がある、地理的にお国境付近である事から首都キメルディードよりも他国との流通が盛んで正確な情報がいち早く入って来るのである、そういった町には優秀な商人が集まりやすく自然と物流も盛んになっていくのだ、商魂たくましい商人たちが今回の騒動に便乗し”ロネオラクッキー”や”ロネオラキャンディー”といった物を発売し、中には80歳を超えた文官であるロネオラが龍に跨り剣を高々と掲げている絵画などもあった、しかもそれが飛ぶように売れているのだ、正に文字通りのお祭り騒ぎである、そんな騒ぎを不思議そうに見ながら町を歩く者達がいた、拓斗、マルコ、メリンダの三人組である

「たった数日でスゲー事になっているな!?この町はこの前まで閑古鳥が鳴いてたってのによ」

「それだけ今回の事が凄いってことなんですよ」

「これだけの事件なのに拓斗兄ちゃんは蚊帳の外だったけどな!?別の意味では話題の主役だけどさ!?」

マルコは拓斗の顔を覗き込みいたずらっぽく笑った、痛い所を突かれムスッとしている拓斗

「うるせー、そういう事もあるだろ・・・」

「ダメですよそんな事言っちゃ・・・クスクス」

マルコの事をたしなめながらも笑いを堪え切れないメリンダ、その笑いには訳があった、今回のアミステリア公国とスタネール共和国の騒動についてはステファン・レオというドラグナイトがアミステリア側に与しているという事が世間に一斉に広まったのだ、ガルゾフ帝国では以前ドラグナイトが王宮に乗り込んで来て好き勝手暴れて帰っていったという事を知らない者はいない、国民はその事実に怯え恐怖すら感じていた、それゆえにネルリアスは国家としての体裁を整える為”ドラグナイトは伝説の通りの邪悪な破壊の化身”とふれ回り散々蔑んでいた、しかし今回の騒ぎで自陣営にドラグナイトがいるという事が知れ渡ると手のひらを返す様に”ステファン・レオは正義のドラグナイト、しかしガルゾフに乗り込んできたドラグナイトは悪の化身”と苦しい理屈を展開したのだ、国民もそれを鵜呑みにするほど馬鹿ではないが強大な力を持ちおとぎ話にも出てくる”伝説の戦士ドラグナイトが味方である”という事がガルゾフの国民を高揚させたのだ、ありていに言えば”皇帝の言い分は理屈として苦しいが結果的に喜ばしい事だから乗っかろう‼”といった具合なのである、もちろんドラグナイトを自陣に引き入れた功労者はロネオラという事になっているのは言うまでもない

「で、どうだい兄ちゃん?自分だけ悪の化身にされた気分は!?」

「そんな事言うもんじゃないですよマルコさん、拓斗さんも気になさらない方がいいですよ」

ニヤつきながら質問するマルコにそれをたしなめながらも笑いを堪えるので必死なメリンダ、どうにも納得がいかないがどうする事も出来ない拓斗はスネたような表情を見せる

『なんでレオが正義で俺が悪の化身なんだよ・・・キャラ的には逆だろ普通・・・』

そんなやり取りをしながら三人は町の様子を眺めていた、拓斗達一行はここサマールの町に数日間滞在していた、メリンダの占いによってマルコの姉を探しながらの旅ではあるが捜索の対象者であるマルコの姉が占うたびに大幅に移動しているようで中々追いつけない、だから拓斗達はマルコの姉が一旦どこかに落ち着くのを待ってから移動する事に変更したのだ

「でもよ今回の一件でアミステリア側とスタネール側が連合を組んで世界的に平和になるんじゃないかってみんな言ってるぜ!?本当に戦争が無くなるならみんなが喜ぶ気持ちもわかるけどな」

何気なく言ったマルコの言葉に目を細める拓斗、もちろん拓斗自身もそうなればいいと望んでいるのだが先日メリンダの勘が”そうはならないだろう”と予言していたのが気になっていたのだ

「なあメリンダ、今回の一件があってもこの二つの陣営が連合を組んで仲良くする未来は無さそうなのか?」

さっきまでニコニコしていたメリンダの表情が急に曇る

「えぇ、残念ながら以前感じた時と同じです・・・おそらくうまくいかないと思われます」

「そうか・・・何が起きるんだろうな?」

「すみません、私ではそこまではわからなくて・・・」

「いや、メリンダが謝る事は無いよ、でもこの事を香奈に伝えた方がいいのかな?しかしどう伝えたらいいか・・・」

「そりゃあそうだよな、いくら拓斗の兄ちゃんが良かれと思って伝えたとしても”多分上手くいかないから気をつけろ”って何のアドバイスにもなってないもんな、悪の化身からの不吉な予言って最悪じゃねえのか!?うひひひひ」

といたずらっぽい表情で笑うマルコ、そして拓斗の顔を覗き込む、その発言にメリンダがマルコを睨む

「そんな事言うもんじゃないですよ、拓斗さんは妹さんを心配しての事なんですから」

「ゴメンゴメン、でもさ今からアミステリアに戻る訳にはいかないしその内容を使い魔を使って香奈の姉ちゃんに送るとなるとさらに難しいんじゃないのか兄ちゃん?」

「まぁそうだよな・・・どうしたものか・・・」

拓斗は複雑な表情を浮かべ空を見上げた、そんなやり取りをしながら歩いているとこの町の中央広場にたどり着く三人、この広場は先日みゆきがドラゴンゾンビを使って拓斗と共に飛び去った場所である、あの後しばらくはその話題で持ちきりだったがアミステリア側とスタネール側との会談があってからというものその話題は一切上がらなくなった、実際誰かが被害を受けた訳でもない為、まるでそんな事実は無かったかのように誰も気にしなくなったのである、その事に少しホッとしている拓斗、そして三人は先日首飾りを購入した”巖鉄武器商店”にたどり着き店の中をのぞいてみた、すると先日首飾りを売ってくれた男がこちらに気が付き嬉しそうな表情を浮かべ近寄って来た

「よう兄ちゃん達、まだこの町にいたんだな!?先日は俺の商品をお買い上げ有難う、で、今日はどうしたんだ?まさかあの首飾り返品したいなんて言わないよな?」

軽く笑いながら首を振る拓斗

「まさか、そんな事言いませんよ、この首飾りは本来金を出せば手に入るという代物ではないですからね、逆に”金を返すから首飾り返せ”とか言わないでくださいね」

「嬉しい事言ってくれるじゃないか!?実はな俺来週からまた宮廷ご用達の錬金術師&武器職人に復帰するんだよ、だから俺の作品を一般人に売るのはこれが最初で最後って事になる、だから大事に使ってくれよな!?」

それを聞いてメリンダが首飾りを両手で押え目を閉じる

「ええ、大切にいたします・・・私の宝物です」

「この美人の姉ちゃんもいい事言ってくれるな!?職人冥利に尽きるってもんよ、あんたらみたいな客がいると宮廷職人に戻るの止めようかな?とも思えてくるぜ、はっはっはっは」

そう言って嬉しそうに笑った、拓斗達も思わず微笑むとその男はふと思い出したのように質問する

「ところで兄ちゃん達はいつまでこの町にいるんだい?」

「明日には出発してこの町を出ようと思っているんですが・・・」

「そうかい、でどこに行くんだ?」

「モデゲルダン聖国の方に行きたいと思っているんですが、でもあそこに行くには街道を使って森を迂回しなければいけないんですよね?」

「まあな、本当は森を抜けると早いんだがあそこは色々な面で危険なんだ、悪い事は言わないから街道を通って行く事をお勧めするぜ」

その言葉にマルコが不思議そうな表情で質問した

「色々な面で危険ってなんだ?凶悪なモンスターでもいるのか?」

「それは判らん、あそこを通ろうとして行方不明になった奴が何人もいるって話だからな・・・捜索隊が出ても行方不明者の手掛かりすら見つからないらしい、普通モンスターに襲われたのなら争った跡とか死体とか遺留品とか何らかの痕跡があるモノなんだがそういった物も一切見つからずモンスターに襲われたにしては不自然・・・との事だ、それとも他に原因があるのかも全くわからないらしい、だからあそこは”人食いの森”なんて言われているんだ」

「人食いの森・・・ですか・・・」

その話を聞いて目を細める拓斗、すると奥からもう一人の初老の男が出てきてこちらを睨みつけていた

「おっと!?店主がこっち睨んでやがるそういえば倉庫の整理を頼まれていたんだった、じゃあ俺は仕事に戻るから機会があったらまた会おうな、くれぐれも森は通るなよ、じゃあな‼」

そう言うと男は店の奥に引っ込んでしまった、そんな男の後姿を見送り店を出る三人

「なんか感じのいいおっちゃんだったな・・・で、どうするんだ兄ちゃん?迂回するのか?森を通るのか?」

「迂回すると時間的には一日余分にかかりますね、どういたしますか拓斗さん?」

拓斗は少し考えていたが意を決したように

「時間が惜しい森を通ろう、余計な時間をかけるとマルコのお姉さんが又動き出さないとも限らないからな」

「さすが拓斗兄ちゃん‼まあ何が出てきても兄ちゃんがいれば大丈夫だろうしな、いざとなれば兄ちゃんの邪悪な力で森ごと消し飛ばしてやればいいんだし、うひひひひひ」

どこか楽しそうなマルコを睨みつける拓斗

「マルコ、お前だけ森に置いて来てやろうか?なにせ俺は”邪悪の化身”だからな、お前がいなくなっても何とも思わないぜ!?」

「うげっ!?冗談だよ冗談、頼むからそんな所に置いてかないでくれよ」

「さあどうだろうな、”邪悪”な俺としてはその方が面白そうだからな、どうするか判んないぜ!?」

マルコはすがる様な目でメリンダに助けを求めた

「拓斗さん、もうそのくらいで許してあげてくださいな」

微笑みながら拓斗をさとすメリンダ、そんな姿が少し姉とダブって見えたマルコだった


三人が森の入口に差し掛かると危険を警告する様々な看板や張り紙が目に入った、様々な方法でこの森の危険性を訴えてはいるのだが通行止めにはしていないのが不思議ではあった、一時期この森を完全封鎖した時期があったのだがこの森では色々な薬草が採れるのでそれが目的の業者や住人が猛反対したのだ、その声に国が折れた形になり”この森に入るなら何があっても自己責任で‼”という結果に落ち着いたのである

「へえ~森の中なのに結構広い道なんだな、おっ!?あそこにいるのリスじゃねーの?拓斗兄ちゃん俺本物のリス見るの初めてなんだよ‼可愛いもんだな!?」

森の中では鳥の鳴き声が聞こえ小動物が所々にいるのに人間に対しての警戒心が薄いのか逃げ出す気配は無い、そんな姿を見てマルコが興奮気味に喜んでいた、たまに叫び声の様な不気味な鳥の鳴き声が聞こえるが次第にそれにも慣れてきて三人は当初あった警戒心も薄れ森を堪能し始めた、不意にマルコが小さいリスに近づこうとしたときメリンダがマルコの腕を掴んで制止する

「ダメですよマルコさん、アレはブラッディ―スクウェレルと言ってあんな小さな体ですが凄く獰猛な動物なんです、指ぐらい簡単に食いちぎられるんですから」

さっきまではしゃいでいたマルコの表情から血の気が引く

「マジかよ!?あんな可愛いのに・・・この森が恐いってのが何となくわかる気がしたぜ・・・」

三人が森深く入っていくと段々と薄暗くなっていった、それは高々と生い茂る森の木々が日光を遮り辺りを暗く変えているからである、昼だというのに薄暗く不気味な雰囲気を漂わしているこの森は”人食いの森”の異名にピッタリだと思わざるを得なかった、さらに森深く入っていくといよいよ道も狭くなり獣道の様な所も出始める、足元も凸凹した道が多くなりマルコが二度ほど転びそうになっていた、そんな時メリンダが拓斗に近づき耳元でささやく

「拓斗さん気が付いてますか?」

「ああ、誰かいるな、しかも一人や二人じゃない・・・そこまで大人数でもなさそうだけど」

「はい全部で7人ですね、でも今のところ私達に危害を加えようという殺意は感じません、警戒はしているようですが・・・」

そのメリンダの言葉にギョッとした、拓斗も少人数の人間が隠れてこちらを見ている事はわかったが正確な人の把握と相手に殺意が無いところまで見破るメリンダの能力に驚く

「凄いな・・・メリンダ」

と思わず呟いた

「えっ!?なんですか拓斗さん!?」

「いやなんでもない、このまま気付かないフリを続けるのもどうかと思うし呼びかけてみるか!?」

「答えてくれますかね?」

「それは判らないけどやってみるさ」

拓斗はそう言うと不意に立ち止まった、足元を気にして下ばかり見ていたマルコはそれに気づかず拓斗の背中にぶつかった

「痛て、どうしたんだよ兄ちゃん急に立ち止まって!?」

マルコのその質問には答えず大きな声で呼びかける拓斗

「お~い、そこに誰かいるんだろ!?俺達は怪しい者じゃない、モデゲルダン聖国に向かう為この森を通行している者なんだ、こちらに戦う意思はない、だから出て来てくれないだろうか?」

拓斗のその呼びかけに対し相手はしばらく無反応で静寂がおとずれた、草木が風に揺らいでその静かな音だけが耳に届いていたが、その静寂を破る様に周りの草木がガサガサ動く、そして一人の少年がひょっこり顔を出した、それを皮切りに次々と少年少女が顔を出す、その少年達の年齢はおよそ10歳前後でマルコより少し幼い感じの子供たちが不思議そうな顔でこちらを見つめていた

「何だ何だ!?コイツら一体どこから来たんだ!?」

驚いたマルコが一、二歩後ずさりする、三人を囲むように顔を出しているその子供たちは男の子が5人、女の子が2人の計7人でジッとこちらを見つめている

「君達どこから来たんだい?良かったら俺達の話を聞いてくれないかな?」

少年達はお互いの顔を見つめ合うと軽くうなづき合った

「お兄ちゃん達どうしてこんな所に来たの?」

「俺達はモデゲルダン聖国に行きたいんだ、少し急いでいるから街道じゃなく森を抜けて行こうと思ってね、でも君達はどうしてこんな所にいるんだい?この森は随分危険だと聞いていたけど・・・」

「うん、この森は危険だけどちゃんと場所を選んで危ない所に行かなければ大丈夫なんだよ」

リーダー格っぽい少年が笑いながら答えた、周りの子供たちもそれに合わせる様に大きくうなづく

「そうなんだ、じゃあ俺達にその危険な場所ってのを教えてもらえないだろうか?ちゃんとお礼はするからさ、どうだろうか?」

拓斗の提案に再び顔を見合わせる子供たち、しばらく小声で話し合っていたがリーダー格の少年が大きくうなづくと

「うんわかった、でもばあちゃんに聞いてみて、いいって言ったら案内してあげるよ、俺達が住んでいるのはこの近くなんだ、案内するよ」

少年はそう言い放つとくるりと反転し再び草むらに入っていく、他の子供たちもそれに続く三人はそれについて行く形で草むらに入っていった、もちろん道など無い所でスタスタと歩いて行く子供たちに付いて行くのがやっとの拓斗達、実際マルコは少しずづ遅れ始める

「おいちょっと待ってくれよ、俺こんなとこ歩いた事無いから上手く進めないんだよ‼」

その声を聞いた先頭の少年が後ろを振り向き軽くため息をつく

「しょうがないなぁ、じゃあ少し待っててあげるよ」

年下の少年の上から目線の言葉に少しカチンときたマルコはムキになって早足で歩き始めるが、そんなモノが長く続く訳も無くすぐに息を切らしゼイゼイ言い始めた、その少年を先頭に約20分程草むらの中をかき分けて進むとようやく少し開けた場所に出た、そこには山小屋の様な建物があり立ち止まった少年がくるりと振り向きニコッと笑った

「これが俺達の家だよ、こんな山の中でも中々のモンだろ!?」

マルコはたどり着くや否や大の字に倒れてゼイゼイと息を荒げている、その山小屋は小奇麗な感じの建物で小屋の前には蒔割りの跡や水汲みの為の樽、洗濯物を干す竿などがいくつか置いてあり生活感を感じさせた

「おや、お客さんかい?」

三人は後ろからの声に振り向くとそこには小柄な老婆が立っていた、拓斗とメリンダが思わず頭を下げる

「こんにちわ、初めまして俺は沢渡拓斗と申します」

「私はメリンダと申します」

マルコはバテてしまっていてまだ立ち上がれないでいた、老婆は二人の挨拶にニコリと笑いゆっくりと頭を下げた

「こんな山奥によく来たね、私はエマ・ブランカという見ての通りの田舎ババアじゃ」

その老婆は大きく口を空け目じりをクシャクシャにして笑った

「ところでアンタ達はこんな森の中まで何用で来たのかえ?」

「俺達はモデゲルダン聖国に行く途中なんです、少々急いでいたものですからこの森を抜けて行こうかと思っていまして・・・」

エマと名乗った老婆はにこやかに何度もうなづくと

「そうかいそうかい、でもすぐ暗くなるぞえ、この森を夜間移動するのは危険じゃ良かったらウチに泊まっていくといい」

そのエマの提案にどうしようか迷った拓斗だが完全にバテているマルコを見て

「では遠慮なしにご厚意に甘えさせていただきます、ありがとうございます」

拓斗が頭を下げるとメリンダもそれに続いた、マルコはまだ地面に大の字になっていてお礼どころではない様子だった

「じゃあ今晩は少し腕をふるって夕食を作るとしようかね」

「ばあちゃん今日の夕飯は何?」

「お客様の前ではしたないよケンタ、今日の夕飯はキノコのシチューにしようかね」

エマのその言葉に子供たちは”ワッ”と一斉に盛り上がった

「やったー私キノコシチュー大好き‼」

「俺も大好きだぜ、おかわりするからたくさん作ってくれよばあちゃん‼」

「兄ちゃん達ラッキーだったな、ばあちゃんのシチューは絶品だぜ、町でもこんな美味いシチューは食えないぜ‼」

「なんでお前が得意げなんだよケンタ!?お前は何もしないだろうが」

そのツッコミにみんなが笑った、久しく忘れていたような温かい雰囲気に心が和む三人、そして小屋の中に案内されると子供たちはそれぞれ自己紹介を始めた

「俺はケンタ、一応この兄弟の中の長男だ、と言ってもみんな同い歳で本当の兄弟ではないけどな」

リーダー格の少年がいたずらっぽく笑いながら右手の人差し指を鼻の下に当てて自己紹介をした

「僕が二男のトミーです」

「私が長女のアニーよ」

「俺は三男のヒカルだ」

「四男のジョンだよよろしく」

「私は次女のマリーです」

「俺が末っ子のアレクだよ」

七人の自己紹介が終わり拓斗達も改めて自己紹介をした

「沢渡拓斗と言いますよろしく」

「メリンダ・パルケードと申します」

「俺はマルコ、世界最強を目指す男だ‼」

三人の自己紹介が終わると男の子5人はマルコに駆け寄ってきた

「世界最強って凄いね!?マルコは強いの?」

「ねえ今までどんな敵と戦ってきたの?」

「マルコはどんな武器を使ってるんだ?」

矢継ぎ早に質問の嵐が襲い戸惑うマルコ、対照的に二人の女の子はメリンダの衣装に興味津々だった

「お姉さんキレイ、その衣装は自分で作ったの?」

「メリンダさん凄くスタイルいいね、私もメリンダさんみたいになれるかな?」

ざわついている子供たちを見てエマが二度ほど大きな動作で手を叩く”パンパン‼”という音が小屋に鳴り響いた

「はいはいお前たち、質問は夕食の時にでもしなさい、暗くなる前にお客様のおもてなしの準備をするよ、ケンタとトミーは外で巻き割り、ヒカルとジョンは川に水汲みに行っておいで、アニーとマリーは夕食の下ごしらえを手伝いな、アレクはお客様の部屋の掃除をしなさい」

エマの言葉に全員が一斉に答える

「はーい」

そして子供たちはそれぞれ各場に散っていった、その場にいなくなった子供たちの後姿を見送ってからエマが拓斗に向かってボソリと話しかけた

「あの子たちはみな戦災孤児でね、私が引き取ったんだ・・・町だと戦災孤児とはいえ他人の子供を引き取るのは法律上難しくてね、だからこんな人の来ない森の中にひっそりと住んでいるという訳なのさ」

「そうなんですか、それは大変ですね・・・でも立派だと思います中々できる事じゃないですから」

エマの表情が一瞬曇る、そして独り言のようにボソリとつぶやいた

「やめておくれよ・・・そんな立派な事をしている訳じゃないんだよ私は・・・」

何か事情がありそうなエマの雰囲気にそれ以上は言葉をかけられなかった


夕食の時間になり元気を取り戻したマルコがケンタ達に向かって得意げに話していた

「だからよそのジャンゲルガー兄弟ってのが悪い奴らでな、しかもメチャクチャ強いんだ‼手下も大勢いたしな、それをこの俺様がちぎっては投げちぎっては投げ・・・」

右手に金属製のスプーンを持ちそれを剣に見立てて身振り手振りで説明するマルコの創作話を座りながら興味津々に聞いている子供たちの光景を”ヤレヤレ”とばかりに見守る拓斗、そこに大きな鍋を持ったエマが入って来た

「はいお待たせ、エマばあちゃん特製のキノコシチューだよ」

部屋の中が”ワッ”と沸き皆の視線が一斉にエマに集まる、それに気を取られたマルコが思わず手に持っていたスプーンを落としてしまった、床にスプーンの落ちる”カキーン”という金属音が鳴り響く、その瞬間子供たち全員が立ち上がり鋭い視線でマルコの方を睨むように見つめた、マルコは頭をかきながら床に落ちたスプーンを拾い上げた

「いや~思わずスプーン落としちゃったぜ、これが実戦だったら剣落としてるとこだからな、おっ!?シチュー来たのか、楽しみだなぁ・・・ん!?みんなどうしたんだ?」

一瞬だけ皆の表情に緊張感が走ったがすぐに表情を緩め笑顔に戻る

「もうドジだなあ~マルコの兄ちゃんは」

「そんなんで本当に世界最強になれるのか?」

「さっきの話も何か嘘くさいぞ!?」

慌てて言い訳しようとするマルコの姿が滑稽で皆が笑いに包まれる、そんな笑い声の中でエマは何事も無かったように皆の前の皿にシチューを注ぎ始める、拓斗とメリンダの皿にも注がれるとシチューの湯気といい香りが二人の鼻に届く、その瞬間メリンダの視線が鋭いモノへと変わった、そして拓斗の耳元で小声でささやく

「このシチューには何か入っています、毒では無いようですが・・・」

「えっ!?じゃあ食べるのを止めたほうがいいのか!?」

「ちょっと待っててくださいね」

メリンダは右手を拓斗の分のシチューの上にかざすとメリンダの掌が薄く緑色に光った、そしてそれを5秒ほど続けた後に

「もう食べても大丈夫ですよ、入っていたのは何やら睡眠薬の様なモノだと思われます」

「ありがとうメリンダ、でもどういうつもりだろうな・・・さっきのみんなの反応も少し気になるし・・・」

メリンダはハッと気が付いたように振り向きマルコの方を見たがマルコはすでにシチューを半分は食べてしまっていた、心配そうに見つめるメリンダの肩にポンと手を載せる拓斗

「睡眠薬なら問題ないはずだろ、俺達もマルコに合わせて眠くなったフリをして真意を探ってみよう」

その提案に静かにうなづくメリンダ、そして二人は睡眠薬を排除したシチューを口に運んだ、その味は本当に絶品でケンタの言う通り町で食べた物よりおいしいかった


夕食が終わり30分も立たない内にマルコが大あくびを連発しだした、その様子を見て拓斗は

「すみません、俺達旅の疲れが出たのか少々眠くなってきました、もう休ませていただいてもよろしいでしょうか?」

エマはニコリと笑うと

「ええもちろん、寝床は用意してありますのでそこでお休みください、アレク案内してあげな」

アレクはコクリとうなづくと付いて来いと言わんばかりの目配せをして無言で歩き出す、用意された部屋には床にシーツの様なモノが引いてあり枕が置いてあるだけの質素なモノだったが野宿をすることを思えば非常に有難かった、マルコはそこに倒れ込むように寝転がるとすぐにイビキをかきだした

「ありがとうアレク、おやすみ」

案内してくれたアレクにお礼を言うとアレクは無言でうなづき帰っていった

「さあ俺達も寝たフリでもするか・・・どうしたメリンダ?」

メリンダはマルコを見て硬直していた、マルコが寝ているのは三つ並べてある寝床の右端で大の字になって寝っていたのだ、それはつまり拓斗とメリンダは隣同士で寝るという事を意味していた、ようやくそれに気づいた拓斗が慌てて

「いやそのこれは何というか・・・寝たフリするだけだし、いざとなったらマルコを起して真ん中に寝かせるし、だから・・・」

「ぐっすり寝ているマルコさんを起すのもかわいそうですし・・・私はかまいませんよ、拓斗さんを信じていますし」

目線も合わせられずに顔を赤らめながら下を向いて喋るメリンダ、拓斗は慌てて用意された寝床に寝転がるとメリンダに背中を向けるような格好で固まってしまった、メリンダはしばらく立ち尽くしていたが真相を知るために寝たふりをしなきゃいけないので意を決して拓斗の横に寝転がりお互い背中を向けあうような形で床に入った、当初は寝たふりをしている時に本当に寝てしまわないように気をつけようと思っていたのだがこの状況ではそんな心配は無用であった

『おいコラ、静まれ俺の心臓‼こんなんで寝れる訳ないだろ!?確かにメリンダは可愛いけど俺には唯っていうちゃんとした彼女がいるんだからな‼わかってるな沢渡拓斗‼』

拓斗は自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた、メリンダの方も同じであった

『どうしよう、どうしよう、こんな事考えてなかった、恥ずかしくて死にそう、でも拓斗さんが変な事するとは思えないし・・・でも男の人って急にそんな気になるって聞いた事があるし・・・何考えてるの私は!?』

そんな時二人の背中がわずかに触れた、その瞬間飛び起きる拓斗とメリンダ

「ゴメン そんなつもりはないんだ、ここ狭くって‼」

「こちらこそごめんなさい、私がもっと端に寄れば良かったんですよね」

お互いペコペコしながら謝り合う2人、そんな時向こうの部屋からドアを開ける音が聞こえた、二人は真顔になり静かに床に入る、しばらくするとそっとドアを開ける音がしてケンタとトミーが小声で話す声が聞こえた

「どうだ?みんな寝ているか?」

「うん、三人とも寝てるよ」

そしてそっとドアを閉めると静かに歩き去って行く音が聞こえた、それからしばらくしてから数人が小屋を出て行く音が聞こえた

「メリンダ起きてるよな?一体どこに行くんだろう?」

「そうですね、夜は危険だと言っていたのに・・・ちょっと確認してみましょう」

メリンダは持っていたカバンから緑色の液体が入った小瓶を取り出しそれを床に垂らすと目を閉じ胸の前で両手をかかげた、すると何もない床から細くて小さい草がニョキニョキと何本も生えてきた、それらはお互いすり寄る様に集まっていくと複雑に絡み合い最後には草でできた四体の小人になった

「あなた達、お願いね!?」

草の小人たちはその小さい体からは想像ができないくらい素早い動きで動き出すとあっという間にいなくなった

「メリンダ今のは?」

「アレは私の使い魔です、こんな森の中でしたら飛行型の使い魔よりもずっといい仕事をしてくれるんですよ」

ニコリと笑うメリンダがふと自分の額に右手の人差し指を当てた

「拓斗さん、どうやらこの小屋にはアレク君だけしかいないようです、見張りの為に残ったのでしょうか?他の人たちは全員出はらっている様ですよ」

「こんな夜中にどこに行ったんだろう?」

「待ってください、もうすぐ使い魔たちが追いつくと思います、どうやらモデゲルダン聖国の方に向かっているようですね、それにしても凄い速度で移動しています、とても老婆と子供たちのスピードとは思えないほどですよ・・・あっ!?」

「どうしたメリンダ!?」

「やられました、使い魔達が全て・・・信じられないです、あの子たちが森の中で気配を悟られるなんて、普通であればこんな事は無いんですが、特殊なアイテムでも使ったんでしょうか?」

「いや多分違うよ、これはおそらく・・・」

拓斗は話を続けることなく言葉を飲み込んだ


翌朝になると小屋の前で洗濯をしているエマがいた、鼻歌を歌いながら服を洗っているその姿はどう見ても普通の老婆にしか見えない、拓斗は足元に落ちていた紙屑を拾うとそれを丸めてエマの後頭部を目掛けて軽く投げてみた、フワリと投げられたその紙屑はエマの後頭部に見事命中する、そしてエマが手の動きを止めゆっくりと振り向いた

「おやもう起きたのかい!?昨夜は良く眠れたかね!?」

「ええおかげさまで、朝から忙しそうですね」

「腕白坊主共が7人もいると洗濯一つでも大変なんだよ、この老体には堪えるね」

笑いながらポンポンと腰を叩き、そして再び前を向いて洗濯をし始めた、その後姿を見つめながら今度は懐からナイフを取り出し右手で刃の部分を掴むとそのまま頭上に振りかぶった、そして狙いを定めると殺気を込めて全力で投げつけたのだ”カーン”というナイフが洗濯の桶に突き刺さる音が辺りに響く、しかしそこに今までいたはずのエマの姿は消えていた、エマは老婆とは思えないほどの素早い動きでナイフをかわしていたのだ

「こんなか弱い年寄りに対して酷い事をするねぇ、もし当たっていたらどうするつもりだったんだい?」

「か弱い老婆は後ろから投げたナイフを素早くかわす何て真似できねえよ、殺気を込めて全力で投げたがちゃんと外れるように投げたぜ・・・アンタ一体何者なんだ?」

「ほぅ、私は引っかけられたって訳かい、さっきのは偶然って事にしておいてくれないかえ!?」

「じゃあ昨夜俺達に睡眠薬を飲ませてどこへ行ってたのか教えてくれよ、アレク以外全員一緒だったみたいだが!?」

エマの目つきが鋭くなり声のトーンが低くなった

「なるほど、昨日の使い魔はアンタ達の仕業だったのかい・・・そこまで知られたのなら生かしておく訳にはいかなくなったよ」

エマは懐から二本のクナイを取り出し左右の手に握ると拓斗目掛けて二本同時に投げつけた、拓斗は足元にあった蒔割りの木を咄嗟に蹴り上げ掴むとその蒔でクナイを受け止めた、エマはクナイを投げつけた後再びクナイを両手に持ち一気に距離をつめて来たのだ

「チェンジ装備D‼」

拓斗がそう叫ぶと光に包まれて剣と防具を纏った姿に変る、小柄なエマが素早い動きで連続攻撃を仕掛けてくる、左右のクナイで拓斗の急所を狙って次々と攻撃を繰り出す、それを両手で構えた剣で全て受け止める拓斗、エマは攻撃は鋭いが小柄な体格ゆえ重さは無い、拓斗が攻撃の一つを力強く受けた時その反動でエマの体がわずかにバランスを崩す、拓斗はその隙を逃さず上段からの反撃の一撃を繰り出そうとした、その時エマの体が”ボン‼”という音と共に煙に変ったのだ

「なっ!?」

驚いた拓斗であったがその瞬間背後に殺気を感じ咄嗟に左に転がって避けた、すると両手にクナイを構えたエマが頭上から舞い降りて来て拓斗がいた場所にクナイを突き刺していたのだ、地面に突き刺さった二本のクナイを引き抜き鋭い目線を向けるエマ

「アンタ一体何者だい!?私のこの攻撃を避けたのはアンタが始めてだよ」

「ばあさんこそ何者なんだい!?今の攻撃は普通じゃなかったぞ、忍術か?」

二人は少し距離を開けながら睨み合う、先ほどまでの激しい戦いが嘘のように静寂がおとずれ鳥の声が聞こえてくる、そこに水汲みから帰って来たジョンが現れた

「ばあちゃん、水汲んで来たけどここに置いて・・・」

エマと拓斗が武器を構えながら睨み合っている光景にジョンは思わず水の入った樽を落としてしまう、樽一杯に入っていた水は落ちた反動で地面に全てこぼれ土に吸い込まれていく

「ばあちゃんこれは!?」

「ジョン、みんなを集めな、早く‼」

その言葉を聞いてジョンはすぐに右手の指を口に含み指笛を鳴らすと”ピィ~”という高い音が山の乾いた空に響き渡る、すると10秒もしない内に七人全員集まって来たのだ

「どうした!?何があったんだ!?」

「ばあちゃん無事か!?」

「一体何があったのよ!?」

「敵襲なのか!?あっ、コイツ!?」

全員の目つきが子供のモノから戦士のモノへと変わる、拓斗を睨みつけながら全員懐からクナイを取り出すと腰を落として戦闘態勢をとった

「みんな気をつけな‼こいつは今までの奴とは違う、かなりの強敵だよ‼」

エマの声に冷徹な笑みを見せたケンタ

「こいつが強敵!?今まで俺達とまともに戦えた奴なんていなかったじゃん、この前の奴だって散々自慢話を聞かされたのにいざ戦ったらてんで弱かったし、最後は泣いて命乞いしてたじゃん、どうせこいつも・・・」

ケンタのその言葉に怒鳴りつけるように叫ぶエマ

「黙らんかケンタ、相手を舐めるなといつも言っているだろ‼こいつは本当に強いんだ、おそらく一対一なら私より強いよ‼」

その言葉に驚きを隠せない子供たち

「ばあちゃんより強い!?コイツが?」

「いくら何でもそれは言い過ぎじゃないの!?」

「相手を侮るのはいけない事だけど、相手を恐れすぎるのはいけないといつも言ってるのはばあちゃんじゃないか!?」

エマは再び全員に向かって叫ぶ

「私のいう事が信じられないってのかい!?コイツは本当に強いんだ、過大評価でも何でもない全員気を引き締めて行くよ‼」

エマの言葉に無言でうなづく七人の子供たち、リーダー格のケンタが全員に指令を出す

「お前らターゲットを確実に倒すぞ‼”吹雪の陣”でいく‼」

「OK‼」

ケンタの掛け声に力強く返事をした子供たちは拓斗を囲むように展開すると左回りに走り出した、拓斗を中心に5m位の距離を空けて回転する子供たちとエマ、そして何の合図も無く四人が同時に飛び上がった、前後左右と上空からという全方位からクナイの雨が襲い掛かる

「どうだ!?」

クナイを放った後ケンタが結果を確認する、すると拓斗は右手の剣と左手に持った蒔で全てのクナイを叩き落としていた

「嘘でしょ!?」

「マジかよ!?」

”吹雪の陣”に対し全く無傷の拓斗の姿に驚愕する子供たち、その結果を確認したケンタが叫ぶ

「怯むな、続けて行くぞ”朝霧の陣”‼」

全員が再び回転しだすと懐から小さい玉を取り出し地面に叩きつける、すると白い煙幕がその場を包み込み拓斗の視界を遮る

『参ったな、全く見えない・・・しかしどうやってこちらを攻撃するんだろう?』

そして今度は全員が飛び上がり上空からクナイの一斉攻撃を放った、白い煙の中に数本のクナイが吸い込まれるように飛んでいく

「今度こそやったろ!?」

「これで無傷なら人間じゃねーよ!?」

「”朝霧の陣”にはもう一つ秘密があるしね、さすがに・・・」

アニーがそう言っている途中で煙幕の中から突然拓斗が現れる、そしてアニーを目指して一気に距離をつめた

「嘘でしょ!?」

勝利を確信していた子供たちは心の隙を突かれ動けなかったのだ、ケンタとエマだけはそれに反応して即座に叫んだ

「逃げろアニー‼」

「ジョン、トミー早くアニーを助けに行きな‼」

反応が遅れたアニーはなす術も無く拓斗の一撃を喰らう

「げはっ!?」

腹に一撃を喰らったアニーはその場で跪き腹を押さえて前のめりに倒れ込んだ、額を地面に付け胃液を吐きながら白目をむいているアニーの姿に逆上するジョンとトミー

「コノヤローよくもアニーを‼」

「ぶっ殺してやるからな‼」

二人同時に斬りかかるがあっという間に返り討ちに合うジョンとトミー、三人とも死んではいないもののもう闘える状態では無かった、それを見たヒカルとアレクが信じられないと言ったような表情で後ずさりする

「なんでだよ!?どうやって”朝霧の陣”をかわしたんだよ?それにあの煙幕には催涙作用があったはず、何も無かったように戦えるなんて・・・」

「何だよあいつは・・・何なんだよ!?こんな奴に勝てるわけがないじゃないか!?」

子供たちの三人はすでに戦闘不能であり残るメンバーもケンタを除き戦意を失ってしまっていた、そんな様子を見たエマは

「アンタ達もういいよ下がってな、さて拓斗さんどうやって私達の”朝霧の陣”を破ったのか教えてはくれないかね?”吹雪の陣”はともかく”朝霧の陣”を破られた事は過去一度も無いんだよ」

「別にそんな特別な事をしたわけじゃないぜ、煙幕に催涙薬を使うなんてよくある手だからな煙幕に包まれる時目を閉じ息を止めていたってだけの話だよ、種明かしすれば大したことでもないだろ?」

その言葉にケンタが食い気味に質問した

「じゃあお前は目を閉じたまま俺達のクナイをかわしたのか!?そんな事できるわけないだろ‼」

拓斗はフッと笑い説明を始めた

「煙幕を張られたんだから目を開けていようが閉じていようが視界がゼロに近い事は変らないしな、それに視界の悪い場所での戦いってのは昔散々練習したからな・・・」

その時エマが大きく目を開き拓斗を見つめた

「そうか、お主”創眼流”の使い手じゃな!?あそこの闇稽古で鍛えておったのか!?」

エマの言葉にケンタが問いかける

「”創眼流”?それってどんな剣術なんだ?それに闇稽古ってなんだよ!?」

「”創眼流”とは己の目に頼らず相手の殺気に対応して戦う事を旨としている剣術じゃ、闇稽古というのはその修行の一環でな、視界の効かない真っ暗な所で相手と戦うという”創眼流”独特の修行法なんじゃ」

拓斗はニコリと笑うと

「ばあさん創眼流”なんて良く知ってたな、俺が色々剣術修行した中でもあまりに習得が難しく使い手がほとんどいないから知ってる者も少ないっていうマイナーな流派なんだけど、そんな流派の存在すら知っているアンタは一体何者なんだ、そろそろ教えてくれないか?事と次第によっちゃあアンタ達を国軍に突き出さなきゃいけないからな」

エマは倒れている子供たちを横目でチラリと見ると意を決したようにケンタに話しかけた

「ケンタ、みんなを連れてここから逃げな、ここはばあちゃんが何とかするから」

「何言ってるんだよ!?全員でかかっても勝てない相手にばあちゃん一人で勝てる訳が・・・まさかアレを使うつもりなのか!?」

エマは何も答えず拓斗を睨みつけている、その沈黙こそエマの出した答えだという事がケンタにはわかった

「止めろよ、今あんな物使ったらばあちゃん本当に死んじまうぞ!?一年前に使ったときだって死にかけたのに・・・」

「いいから早く逃げな‼アンタは一番上のお兄ちゃんだろ、私がいなくなってもみんなを支えてあげなきゃいけないんだよ、これは頭領としての命令だ‼全員を無事に避難させ即時撤退、いいね私もすぐに合流するから」

ケンタは渋々うなづくと後ろに下がり倒れているアニーやジョン、トミーを避難させる隙をうかがっていた拓斗は深くため息をつきエマに話しかける

「おいおい俺はアンタ達を皆殺しにしようなんて思ってないぜ!?事情を聞いて事と次第によっては国軍に突き出すってだけの話なのにな何でそんな流れになるんだよ、こんなことになったけど一宿一飯の恩は感じているんだからな」

拓斗のその言葉に呆れたように笑うエマ

「コッチにとっては事情を話して国軍に突き出された時点で死刑は確定なんだ、だったら戦うしかないだろ!?あたしはね今死ぬ訳にはいかないんだよ‼チェンジ装備SS‼」

エマが叫ぶとその小さな体は光に包まれ漆黒の装備を纏った姿で再び姿を現した、それはまるで戦国時代の忍者の服装をアレンジしたようなデザインの物だが、その装備からはまるで煙の様な黒いオーラが全身から立ち上っている、しかしそれを身に付けているエマは苦しそうに顔を歪めていた

「なんだその装備は!?あまり見た事無い物だけど・・・」

「これはね我が”香魔流忍者”に代々伝わる伝説の装備でね・・・己の力を大幅に引き上げてくれる実に有難い代物なんだよ・・・」

「でもその割には苦しそうだなばあさん、さっきケンタも心配してたけどその装備には物凄いデメリットがあるようだな!?一年前も死にかけたんだろ?無理せず止めておけよ」

「なあに一年前はモデゲルダンの国軍8000人を相手に大立ち回りをしたからね・・・今回はアンタ一人だろ?楽勝さね、ついでに教えてあげるよ、この装備”我烈真亡がれつしんぼう”はね能力を凄まじく引き上げてくれるのと同時に使用者の体力、魔力、精神力、生命力をどんどん吸い取っていくという非常に有難き物なんだよ・・・だから早く解除しないと勝手にこっちがくたばっちまうからね、さっさと殺されてくれなよ若いの」

エマはその話が言い終わるか否かのタイミングで腰の刀を抜き猛烈な速度で突撃してきた、あまりのスピードにさすがの拓斗もかわすのがやっとであった、その時エマがニヤリと笑う”我烈真亡”から出ている黒い煙のようなオーラが拓斗の足に絡みついていたのだ、その黒いオーラには全く気配が無かった為、拓斗も気が付かなかったのだ

「捕まえたよ、もう放さないからね」

拓斗の足に絡みついた黒いオーラはまるでゾウの鼻の様に拓斗の足を掴んで軽々と空中に持ち上げた

「はっはっは、これで終わりだよ‼このままアンタの生気を吸い尽くしてやろうか!?それとも一思いに両手両足を引きちぎってやろうか!?」

苦しそうながらも狂気の表情で笑うエマ

「やれやれ、さすがにD装備じゃこれの相手は無理か・・・チェンジ装備ドラゴン‼」

今度は拓斗の体が光に包まれる、そして赤い装備を身に着け現れた拓斗は全身に力を込めた、すると赤い鎧から出ていた炎のオーラが拓斗に絡みついていた黒いオーラを飲み込み焼き尽くした

「なっ!?一体何が起こったんだい!?」

あまりの出来事に呆気に取られるエマ、拓斗は何事も無かったように地面に降り立つ、驚いているエマ自身とは裏腹にそれを待っていたかのように”我烈真亡”からの黒いオーラが何本も発生し拓斗に襲い掛かった、それはまるで何本もの触手が獲物を捕食しようと襲い掛かって来る様にすら見えた、しかしその黒い触手が拓斗に届く事は無かった、次々と襲かかって来る黒き触手は全て拓斗の直前で焼き尽くされたのだ、エマは全身に汗をかきながらその表情はだんだんと苦痛にゆがんでいく、どうやらあの黒き触手は凄まじくエマの力を吸い取って力に変えている様だ、次々と襲い掛かる黒いオーラにそれをどんどん燃やしていく赤いオーラ、当の本人たちは直立したまま動かず装備同士の激しい戦いが繰り広げられているという不思議な現象がしばらく続いた、すると今まで拓斗の直前で迎撃していた赤い炎が一気に燃え上がり数本の黒いオーラを根元まで全て焼き尽くす、そして”我烈真亡”まで炎が到達するとその黒い装備から無数の煙が立ち始め黒い装備が熱により少しづつ赤く変色していった

「熱い‼熱い‼ギャ~‼」

エマが思わず叫び声をあげ地面でのた打ち回った、黒いオーラの触手は全て焼き尽くされ”我烈真亡”からは本当の煙が数本出ていた、すでに立ち上がる気力すらなくなったエマは朦朧とした意識の中でゆっくりと近づいてくる拓斗の姿を見て驚愕する

「その龍の紋章・・・まさかドラグナイトかい!?伝説の化け物相手に戦っていたとは・・・そりゃあたしの全盛期でも勝てないよ・・・」

もう気力も無くなり意識を失う寸前になったエマ、そんな時ケンタの叫び声が耳に飛び込んできた

「ばあちゃんを殺すな‼」

拓斗が振り向くとそこにはアニーとトミー、ジョンを背負った子供たちが戻って来ていたのだ

「何をやっているんだいお前たちは!?早く逃げろと言ったろう‼コイツはね伝説の化け物なんだよ、破壊の化身”ドラグナイト”なんだ、私の事はいいから早く逃げな‼」

もう指一本動かせず顔を向ける事も出来ないエマが地面に倒れながらケンタ達に向かって叫ぶ、本来声を出すのもしんどいほど消耗していたエマだったがドラグナイトの装備によって芯まで焼き尽くされた”我烈真亡”はすでに単なる鎧としてしか機能していない為、エマがこれ以上力を吸われることは無くなっていた

「頼むよばあちゃんを殺さないでくれ、お願いします」

ケンタがその場で土下座して頼み込む、他のメンバーもケンタに続き地面に額をこすり付ける程頭を下げて土下座していた、地面に倒れたまま動けないエマからはその姿は見えなかったが何が起きているのか想像がついてその目から自然と涙がこぼれていた、拓斗はエマの耳元でささやく

「俺もアンタ達と同じで本来は国軍なんかと関わり合いを持ちたくない事はわかるよね?良かったら事情を話してみてはくれないか、もしかしたらだけど力になれるかもしれないぜ!?」

その言葉を聞いて今度こそエマは意識を失った。






なんやかんやで二週間空いてしまいました、今回はどうにもうまく書けなくて遅くなってしまいました

この話は二部構成のつもりなので次回で完結するつもりですがまた変わったらスミマセンと最初に謝っておきます、次話はさらに重い話になりますがどうか懲りずにおつきあいいただけると嬉しいです、では

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