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ロストチャイルド 悲劇の連鎖編

登場人物

沢渡拓斗…世界で7人しかいない最強戦士ドラグナイトの一人、しかしドラグナイトから解放される為に旅をしている

マルコ…さらわれた姉を助ける為最強を目指している少年

メリンダ・パルケード…不思議な力を持つ少女”深淵の預言者”と呼ばれた祖母よりも強力な力の持ち主

ガルゾフ・ド・ネルリアス…ガルゾフ帝国の皇帝、父である先代皇帝を暗殺し弟に罪を着せて処刑した程の野心家、部下の意見もほとんど聞かない暴君であり感情の起伏も激しい

ソロンド…ガルゾフ帝国の重鎮で内政のトップ、軍事、外交にも口を出せる立場で以前とは違い皇帝であるネルリアスにも唯一意見できる存在

エマ・ブランカ…森の中で七人の面倒を見ている小柄な老婆

ケンタ…七人兄弟の長男、リーダー格の存在

トミー…七人兄弟の二男、礼儀正しい少年

アニー…七人兄弟の長女、少し気が強い少女

ヒカル…七人兄弟の三男、非常に明るい少年

ジョン…七人兄弟の四男、気がやさしい少年

マリー…七人兄弟の次女、気弱で優しい少女

アレク…七人兄弟の末っ子、無口で感情をあまり出さない少年

ベルゲンバッハ・リミトフ…モデゲルダン聖国の騎士団長で最強の戦士、復讐に燃えている

エマは拓斗との戦闘の後、意識を失ったまま皆に運ばれベッドに横たわっていた、その周りには長男であるケンタを始めとする子供たちが心配そうな目で見守っている、次女のマリーなどはすでに泣いていて姉のアニーにすがりついていた

「ばあちゃんは大丈夫だ!?泣くんじゃねーよマリー‼」

「だって、だって・・・前の時にも死にかけたのに・・・」

マリーの言葉を聞いて末っ子のアレクが無言で拓斗を睨む、そしてケンタも鋭い視線を向け

「もし、もしばあちゃんに何かあったら絶対許さないからな!?」

そんな彼らの会話をよそにエマにはメリンダが回復の呪文を施していた、すると”ふう”という言葉と共にエマにかざしていた手を下げこちらを振り向いた、子供たちの視線が一斉にメリンダに集まる

「どうなんだメリンダ?ばあさんの容体は?」

拓斗の質問にニコリと笑って答えるメリンダ

「命に別状は有りません、一週間もすれば普通に生活できるようになると思います」

メリンダの言葉に子供たち一同が”ワッ”と沸くマリーは泣きながらアニーに抱きついて喜んでいた

「しかしあまりにも消耗が激しかったようでしばらくは安静にしていないと駄目ですね、三日ぐらいは立って歩くのも困難だと思います」

その時二男のトミーがメリンダに深々と礼をした

「この度はありがとうございました、皆に変ってお礼します」

「コラ、トミーそういうのは長男の俺の役目だぞ!?」

「ケンタは口ばっかだからなぁ、単にこの綺麗な姉ちゃんにいいカッコしたかっただけだろ!?それをトミーにとられたから怒ってるんだぜきっと」

「ヒカルてめ~俺がそんな小っちゃい男だと思ってるのか!?」

「実際小さい男じゃないケンタは、夕食の時もいつも自分だけ肉を多めに取ろうとするし・・・この前なんか私の着替えをのぞこうとしてたしね」

「ば、馬鹿な事言ってるなよアニー!?そんな訳ないだろ!?肉を多く取ろうとした事はあったけど・・・いつもじゃねーし、そもそもお前の着替え何か覗く訳ないだろ胸も全然ないくせに‼」

「な、何言ってるのよ‼信じられない、最低ねケンタ・・・マリー今度からはケンタには気をつけなさいよ」

子供たちがそんな会話をしている時

「なんだよ随分と騒がしいね・・・」

エマが目を開けボソリとつぶやく

「ばあちゃん‼気が付いたのか!?」

「よかった・・・本当に良かった」

「泣いてるんじゃねーよマリー」

「マリーは本当に泣虫ね」

「そういうアニーも泣いてるじゃねーかよ!?」

「ばあちゃん・・・気分はどう?」

末っ子アレクはエマにしがみついて震えている、そんなアレクの頭を撫でようと腕を動かそうとした時、エマが自分の体の異変に気が付く

「あれ?腕が・・・体が動かない・・・どうしたっていうんだい!?」

その言葉にそっとエマの手を握り話しかけるメリンダ

「しばらくはまともに体を動かす事も出来ないと思います、三日もすれば立って歩けると思いますし一週間もしたら普通の生活をする分には支障が無くなると思われますから」

エマは軽くため息をつき天井を見上げた

「まぁあの”我烈真亡”を使ってこうして生きているんだから、儲けものと思わなくちゃ駄目だろうね・・・」

そう言いながら首を横に向けケンタを見つめるエマ

「ケンタ、アタシはこの人達と話がある、みんなを連れて部屋の外に出てな」

「でもばあちゃん、俺達は・・・」

「これは命令だよ、大丈夫話をするだけだから・・・いいね!?」

ケンタは渋々ながらも首を縦に振り皆を連れて部屋の外に出た、部屋の中には拓斗とメリンダ、そしてベッドに横たわっているエマの三人だけとなった、そんなエマが拓斗の方に顔を向けると

「事情を話すんだったかえ?あまり話したくない事だし聞いてもあまり気持ちのいい内容じゃないよ、それでもいいのかい?」

「乗りかかった船だ、力になれるかどうかはわからないが話すだけ話してみなばあさん」

エマは再び天井を見上げ静かに話始めるエマ

「さて何から話始めればいいのやら・・・私は”香魔流忍者”13代目頭領でね、代々ワイスプ王国に仕えていた忍びなんだよ・・・」

拓斗は目を細め思わずつぶやく

「ワイスプ王国って確か・・・」

その言葉にエマは静かにうなづく

「あぁ10年前モデゲルダン聖国によって滅ぼされた国だよ・・・主君を失った忍びなんて惨めなもんさ、でもどうしてもモデゲルダン聖国だけは許せない、その為に私は生きているんだからね」

「それは亡き主君への忠誠といいますか復讐ですか?」

メリンダの質問に首を振るエマ

「忠誠とはちょっと違うね・・・こう見えても昔私には娘がいてね・・・」

「へえ~ばあさん結婚してたのかよ!?忍者の結婚ってどんななのか興味はあるけどな!?」

エマは自虐的な笑いを浮かべ静かに話始めた

「結婚なんかしてないよ、我ら”香魔流忍者”は代々頭領の子供が次の頭領になるという世襲制を敷いている、しかもそれは一番目の子供と決まっていて男でも女でも関係なく選ばれるのが掟でね、だから私も次代の頭領を作る為に相手を選んだに過ぎないのさ、当時私の副頭領をやっていた男が相手に選ばれた、優秀な男だったからね、遺伝子をもらうには最適だと判断したんだよ」

「遺伝子をもらうって・・・身も蓋もない言い方だな」

「実際そうなんだからしょうがないよ、”香魔流”の存続の為、一族の為、ワイスプ王国の為・・・それが忍びってもんさ、だからその男との間には愛情も無ければ快楽も無い、ただただ種族維持の為の行為・・・獣となんら変わらない、忍者ってのは徹底的にリアリストだからね」

「じゃあその相手の男の人はどうなったんですか?」

「”香魔流”では次期頭領である子供ができた時、今後の憂いを無くすため相手となった男や女は自害する掟になっている・・・」

メリンダは思わず口に手を当て表情が歪む、拓斗も目を細めた

「でもね、何度も肌を合わせたせいで情が移ってしまったのかね、私は一族の掟に逆らってその男に対して自害では無く追放という命令を下したんだ・・・」

その事を聞いて少しホッとした拓斗とメリンダ、しかし拓斗はふと疑問を感じ質問した

「でも忍びにとって掟って大事な事じゃないのかよ?そんな簡単に変更しても問題ないのか!?」

「私は香魔流の頭領だからね、私の決定に異議を唱える者なんていないよ、その掟にしても歴代頭領が何度も変更したり加えたりしていたと聞いているしね・・・」

「じゃあその男の人はまだ生きているんですね!?」

メリンダが嬉しそうに問いかけた、しかしエマは悲しげに首を振る

「死んだよ、私が追放の命令を下した次の日に自室で自害していた・・・置手紙を残してね」

絶句するメリンダ、重い空気が部屋の中を支配する、堪らず拓斗が質問した

「その置手紙には何と書いてあったんだ?」

エマはしばらく答えなかったが20秒ほどの沈黙の後静かに語り始めた

「その置手紙にはこう書いてあったよ”私が生きているせいで一族に不安を残す訳には参りません、あなたとの間にできた子供への思いで一族に仇名す行動をしてしまう可能性を自分自身否定しきれません、忍びとして生まれ掟に従って生きてきた私にとってそれだけはどうしても許せない事なのです、せっかく寛大な処置をしていただいたのにもかかわらずこんな選択をしてしまった私をお許しください、そして最後に一言だけお伝えさせてください ずっとあなたをお慕いしておりました、私は本当に果報者でありました”とね」

拓斗とメリンダは言葉を発する事ができなかった、エマも天井を見上げながら何かを思い出している様であった、そして沈黙の後独り言のようにつぶやいた

「あの時掟に従って自害を命じてあげた方が良かったのかねぇ・・・逆にあの人を苦しめてしまったのじゃないかと今でも思うよ・・・」

エマはそう言うと目を閉じた、また沈黙が訪れ窓から入ってくる風の音がやけに大きく聞こえたほどだった

「その後その人との間にできた子供はどうしたんだ?」

拓斗が沈黙を破る様に切り出す、再び目を開けたエマは改めて語り始めた

「生まれたのは娘だった、父親に似たんだろうね・・・私の娘の癖に背が高くて忍びにするには勿体無いくらいの容姿だったよ、忍者としても優秀でね母親の私が言うのもなんだけど天才的と言っても過言じゃないくらいの上達ぶりだった、私は自分の全てを教えた”香魔流”の14代目頭領にしても恥ずかしくない程の腕を持つ程になった娘は次期国王である王子のお付きとして働く事となったんだよ、”香魔流頭領”は歴代のワイスプ国王の直属の部下だからね次期頭領である娘を次期国王に付けるのは当然の流れだったし、王子が王に即位した時二人の間がギクシャクしていては命令系統に支障をきたすからね、そうして月日は流れいよいよ王子が王に即位する事が決まってね、そうなったら”香魔流頭領”の座を娘に譲りようやく私も引退して隠居生活に入れるか!?と思っていた時、王子がとんでもない事を言いだしたんだ・・・」

拓斗とメリンダが息を飲む、しかしエマの口から出たのは思わぬ言葉であった

「王子は娘を正式に妃として迎えたいと言いだしたんだ、これには皆驚いた私自身も驚いたが何より娘の驚き方は凄かった、本来王の影として働くはずの忍びが正式な妃になるなんて聞いた事がない私も娘もそれだけは受けられませんと頑なに拒んだ、しかし王子も頑固でねどうしても譲らなかったんだ、両者の妥協案として仕方なく娘は第二夫人として迎えられた、正式な妃には王子の幼馴染で貴族の娘であるエリザベート様という方に決まったんだ、気立てのいい方で元々このお方が妃になるであろうと皆思っていたほどだったからね・・・でもそこからが不幸の始まりだった」

メリンダが思わず問いかける

「一体何があったんですか?」

「王子は王に即位してからも娘の所にばかり入り浸ってしまってね、エリザベート様にはそっけない態度をとってしまっていたんだ・・・王子の頃から頭も良くて優秀な方だったんだがまだ若かったからね、自分の気持ちに素直に動いてしまっていた、エリザベート様にしてみれば公式な場では自分が妃として振る舞っているのに一向に王の寵愛を受けられないでいた、不安や不満もかなりあったと思うがそんな事はおくびにも出さずに気丈に振る舞っておられたんだ、そんな時娘が妊娠して子供を産んだ、生まれたのは男の子だったんだ・・・王は娘との間に生まれた子を自分の跡取り、次期王にしたがっていて益々エリザベート様には近づかなくなっていた、そのころからだよエリザベート様の心がおかしくなり始めたのは・・・そこを奴らに付け込まれた」

拓斗が目を細める

「奴等って一体誰の事なんだ?」

「奴等ってのは“餓狼忍者”の事さ、我々“香魔流忍者”の不倶戴天の敵でね、代々モデゲルダン聖国に仕えている忍び集団さね アイツらはエリザベート様の侍女としてワイスプ王国に忍び混んで来たんだ、私自身娘が王に見初められ孫まで生まれて浮ついていたんだろうね・・・奴等の企みに全く気づかなかった、その侍女として潜り込んで来た女は言葉巧みにエリザベート様の不安を煽りながら信頼を勝ち取っていき、遂に国の重要事項まで聞き出すことに成功した、私を始め“香魔流忍者”と近衛兵の不在を見越して奇襲をかけてきたんだよ・・・その侍女の手引きもあってあっという間に城は火の海になった、娘も王と子供を、守る為に必死で戦ったが所詮は多勢に無勢、三人共討ち取られ最後はさらし首にされたよ・・・」

エマの話にメリンダは震えながら涙を流し

「そんな・・・ヒドイ、なんでそんな事に・・・」

「我々忍びってのは人の弱味につけ込むなんて事は当たり前の事だからね、騙される方、気付かない方が悪いのさ・・・その侍女に騙された事に気づいたエリザベート様は自分の漏らした情報のせいで国が滅びた事を知り崖から身を投げたそうだ・・・」

エマの話に二人は絶句ししばらく言葉を発することが出来なかった、かける言葉もないとはこのことか、という程の絶望的な話にしばらく沈黙が続いた

「でもね、いくら騙される方が悪い、忍びとはそういうものだといっても私の怒りがおさまらなかった、幸せの絶頂から不幸のドン底に叩き落とされたんだからね・・・その時だよ始めてあの“我烈真亡”を使ったのは、私は怒りに任せてモデゲルダン聖国に単身乗り込んで“餓狼忍者”の奴等を皆殺しにしてやった、本当は娘や孫を殺したモデゲルダンの騎士団も全員殺してやろうと思っていたんだけど、体が持たなくてね・・・なんとか逃げて来れたものの一ヶ月は寝たきりになっちまったんだ、だから私は別の復讐を考えた・・・」

その時拓斗が何かに気が付いた

「まさか・・・ばあさん、アンタ・・・」

「そのまさかさ・・モデゲルダン聖国の騎士団の幹部や王族、貴族の子供をさらってきて復讐の為の兵として育てたのさ、それがあのケンタ達だよ・・・」

メリンダが目を細め両手を口に当てて思わずつぶやく

「なんてことを・・・」

「戦災孤児なのに皆同い年ってのは変だなとは思っていたが・・・ばあさんアンタ自分のやった事わかっているのか!?」

エマはふと目線を逸らすと思わずつぶやく

「あの時はそれしか思いつかなかったんだよ・・・あいつらにとって最大の苦しみを与えてやるにはどうしたらいいかってね、あいつらの子供を使ってあいつらを苦しめる・・・死んだ孫と同い年の子供を誘拐したのは私からのメッセージでもあったんだ・・・どうだい、呆れただろ?」

メリンダは目に涙を浮かべ震えていて何も言葉を発する事ができない、しばらくの沈黙の後、拓斗が口を開いた

「人道的に言ったら許されることじゃないし誘拐された子供の親の気持ちを考えたらとてもアンタを擁護する気にはなれないよ、でも怒りや憎しみってのは理屈じゃないってのはわかる、自分の大切な人を殺された

怒りや憎しみはその殺害した対象者を殺すか苦しめる事でしか解消できない・・・俺も大切な人を殺された怒りでガルゾフの皇帝の所に殴り込みに行った事があるからな」

エマは拓斗の方をチラリとみて笑った

「そうかい、ギル・ドレン城に乗り込んで大暴れしていったドラグナイトってのはアンタだったのかい!?そりゃあ私よりもお尋ね者の立場だわな」

「そうだよ、だからアンタに偉そうに説教できる程の立場じゃないしその気持ちは少しはわかるつもりだ、だけどさ・・・憎しみってのは憎しみしか生まないんだ、そうやってドンドン連鎖していく、今のアンタにはあれだけ心配してくれて大切に思ってくれる子供たちがいるんだ、そろそろ娘さんやお孫さんの為じゃなくって、あの子たちの為に生きてやってくれないだろうか?アンタだってあいつらの事は大事なんだろ!?いくら復讐の為だからって七人もの子供を育てるのがどれだけ大変か、このまま行けばアンタは又愛する者を失う事になるかもしれないんだぜ」

拓斗のその言葉にエマは答える事ができなかった、拓斗に指摘されるまでも無く本人もそれは薄々感じていたのであろう、それからエマが言葉を発する事は無かった


夜になりケンタを始めとした子供たちは喜んでエマの世話をしていた、まるでその役目を取り合う様に喧嘩しながら明るく、そして騒がしくエマの周りを取り囲んでいた

「うるさいよお前たち‼こっちは病人みたいなもんなんだ、もっと静かにやれないのかい!?」

「しょうがないだろ!?コイツら長男である俺のいう事全然聞かないんだから!?」

「何言ってるのよ、こんなときばっか兄貴ぶってさ、結局ケンタはいいとこどりしたいだけじゃない、みんなばあちゃんの世話がしたいのよ」

「アニーの言う通りだ、元々ケンタはガサツだし介護とか世話とか向いてないんだから外で蒔でも割ってな」

「トミーいい事言うじゃねーか!?じゃあ満場一致でケンタは蒔割り、ばあちゃんの世話はその他の人間で交代という事で決まりだな」

「てめ~ジョン‼満場一致って事は俺も賛成してるって事じゃねーか‼そんな訳あるか!?それに俺の意見に賛成してくれる奴だっているだろ、なあマリーもそう思うだろ?」

急に振られたマリーは戸惑うがケンタをチラリと見てから申し訳なげに答える

「私もみんなと同意見だよ、ケンタばっかりばあちゃんのそばにいるなんてズルいよ・・・」

マリーからも見捨てられ思わずアレクを見るケンタ

「アレクは俺の味方だよな?そうだと言ってくれよ」

普段無口なアレクはジッとケンタを見つめた後一言言い放った

「ケンタはズルい、だからケンタが一人で蒔割りの意見に賛成」

アレクの一言に皆笑いが起こった、絶望的な表情を浮かべて座り込むケンタに皆おかしくて仕方ないと言った様子だった、そんなやり取りを聞いていたエマは

「みんな馬鹿な事言ってるんじゃないよ‼さっさと夕食の支度しな、食事はアニーとマリーに任せて他は違う仕事しな、いつまでへたり込んでるんだいケンタ‼アンタは一番のお兄ちゃんだろうが」

座り込みながらエマを見つめて訴えるように話しかけるケンタ

「でもようばあちゃん、コイツらみんな俺がズルいって・・・」

「アンタは本当にズルい所があるんだからしょうがないじゃないか!?男だろいつまでもグダグダ言ってないでさっさと蒔割りに行ってきな」

そのエマの言葉を聞いて両腕を組んで得意げにアニーが話始めた

「ほら見なさいよ、ばあちゃんだってアンタがズルいって言ってるじゃない、蒔割りもばあちゃんの命令だからねさっさと行きなさい、全くしょうがないんだからケンタは」

アニーのその言葉にエマが口を挟む

「いい加減におしよアニー、アンタだってズルいところあるだろうが、この前のみんなの服を選ぶときだって・・・」

その言葉に慌ててエマの口を塞ぐアニー

「ばあちゃんストップストップ‼なんでその事知ってるの?お願いだから黙っててばあちゃん‼」

そのアニーの慌てふためく態度にまた皆が笑いに包まれた、そして子供たちが各自仕事に向かいマルコも蒔割りを手伝う事になった、部屋にはベッドで横になるエマと拓斗、そしてメリンダの三人になった

「ばあさん、アンタ本当に愛されているな」

「あの子たちの為にも早く元気になってあげてくださいね」

拓斗とメリンダの言葉に思わずエマの目から思わず涙がこぼれた


次の日、朝と昼にメリンダがエマに治癒の魔法を施し何とか立ち上がれるところまでは回復したエマ、この日の昼過ぎになり三人が出発する為準備をしていた、三人はアニーとマリーが作った握り飯をもらい旅立とうとした時

「ちょっとお待ち‼」

後ろから三人を呼び止める声が聞こえた、その声に三人が振り向くとまだ歩くところまでは回復していないエマがケンタとトミーに肩を借りながら玄関まで出てきて拓斗達に話しかけた

「色々世話になったね、で!?私達を見逃してくれるのかい」

「まあな、それがいい事か悪い事かわからないけど自分の気持ちに従ったらアンタ達を売る気にはなれないよ、俺自身お尋ね者みたいなものだしな」

「私達こそ色々お世話になりました、お体にはお気をつけてくださいね」

「また機会が合ったら寄ってやるぜ、その時はこのマルコ様の武勇伝第二弾を聞かせてやるからよ」

しかし最初の時と違い疑いの目で見つめるケンタ達

「でもマルコの兄ちゃん本当は弱いんだろ!?」

慌てて取り繕うマルコだが言えばいうほどボロが出ると言った具合で滑稽なその態度に皆が笑いに包まれた

「じゃあなばあさん俺達はもう行くわ、それとあの”我烈真亡”っていう鎧だけどな、もう普通の鎧になっちゃったからこれからは付けても大丈夫だからな」

エマを始め驚く皆にメリンダが説明の補足をする

「あの鎧は非常に恐ろしい呪いがかけられていました、でも爆炎龍フォレリオガルンの炎によって浄化されてしまいましたからもう装備しても大丈夫です、もちろんあの力はもう出せませんからただの鎧になってしまったんですけどね」

エマはそれを聞いてフッと笑った

「もうアレを付ける事は無いよ・・・もう戦いはうんざりだからね、この子達と一緒に静かに暮らしていくつもりだよ」

エマのその言葉に子供たちは皆笑顔になった、マリーはまた涙ぐみアレクはエマに抱きついた、そして拓斗達三人は皆に別れを告げ小屋を後にした、その姿を見つめるケンタ

「なあばあちゃん、あの連中が来たのは良かったのかな?悪かったのかな?」

「良かった事なんだよ結果的にはね、もうお前たちには戦いはさせないよ・・・」

「ばあちゃんは俺達が世話してやるからな、もう何もしなくていいぜ!?」

「全くです、ばあちゃんこれからは楽をしてください」

「料理なら私とマリーに任せておいてよ、今度こそばあちゃんのシチューを越えてみせるわ」

「え~でもお前らの料理まずいしなぁ・・・料理だけはまだばあちゃんに作って欲しいぜ」

「私たち頑張るから、料理も頑張るから・・・ばあちゃんにはこれから楽をして欲しいの」

皆のその言葉にアレクはウンウンとうなづくだけだった、そんな子供たちを両手で抱き締めるエマ

「アンタ達は・・・そんなに楽したらさっさとボケちまうよ、まだまだアンタ体には教えてあげたい事が山ほどあるからね・・・」

エマの目には再び光るモノがあった。


拓斗達が小屋を離れて三時間程が経過した、頭上でマップを展開し現在位置を確認する

「今夜中に町まで抜けられるかは微妙だな・・・最悪野宿になるが大丈夫かメリンダ?」

「もちろん大丈夫です、祖母とはよく旅に出て野宿したんですよ!?寒いときなどは一緒に寝て暖をとったり・・・」

その時メリンダは昨夜の拓斗の横で寝た事を思い出して急に赤面し始めた、その態度を見て悟った拓斗も慌てて話題を逸らそうとするが上手く出てこない

「メリンダ・・・その、あの・・え~と明日はいい天気だといいな!?」

「そうですね、明日は一日中快晴でにわか雨が降ると思いますよ・・・何言ってるんでしょう私・・・」

二人の明らかにおかしい態度に思わずマルコがツッコむ

「兄ちゃん達、俺が寝ている昨夜に何かあったのか?」

「えっ⁉︎何言ってるんだよ‼︎何かあるって何だよ、そんなわけ無いだろ馬鹿な事言ってるんじゃねーよ」

「そうですよ、マルコさん変なこと言わないでください‼」

顔を真っ赤にしながら慌てている二人を怪しげな眼で見つめるマルコ

『この二人だからそんな大したことは無かっただろうけど、何かはあったのかな・・・』

マルコの表情を見て何を考えているかわかってしまうメリンダ

「何を考えているんですか!?私と拓斗さんの間には何もないですよ、変な想像しないでください‼」

メリンダは恥ずかしくて死にそうだった、事実何もなかったのだから慌てる必要は無いのだが、焦って弁明すればするほど怪しく見えてしまうという負の連鎖が起きてしまっていた、マルコは無言でそんなメリンダを見つめている、何かを疑っている訳ではないのだがメリンダの過剰ともいえる反応があまりにも面白くてつい疑っているフリを続けてしまっていたマルコ

「コラ、いい加減にしろマルコ、メリンダが困ってるじゃないか!?」

「そうですよ、本当に意地悪なんだから・・・」

メリンダは両手で顔を隠し赤面した顔を見られないようにした、その時メリンダの表情が急に険しいモノへと変わり急にしゃがみこんで頭を抱えだした

「ああああぁぁぁぁ~~~‼」

メリンダの態度の急変に驚く拓斗とマルコ、慌ててメリンダに近づき様子をうかがった

「どうしたんだメリンダ!?」

「メリンダ姉ちゃん、大丈夫か、頭でも痛いのか!?」

メリンダの目の焦点は合っていなかった、何かに怯えているかのような表情を浮かべ独り言のように話始めた

「大きな敵意と殺意を感じます・・・こんなに凄い憎しみは・・・憎悪の塊のような存在が移動しています」

「それは一体何だというんだ!?移動してるって・・・こっちに来てるって事か?」

少しの沈黙の後小さな声でメリンダが答えた

「いえ、こっちには向かっていません・・・エマさん達の小屋の方へ・・・子供たちが危ないです‼」

拓斗は思わず来た方向を振り返り唇をかみしめた

「くそっ!?今からじゃ間に合わないか!?」

「兄ちゃん、行ってくれよ、あいつらを助けてやってくれ‼」

「私達はここで待ちます、拓斗さんだけでも行ってください、アナタ一人だけなら間に合うかもしれません‼」

拓斗はコクリとうなづくとくるりと反転し来た道を全力で走っていく、その姿はあっという間に森の闇に消えて行った。


その頃、エマたちのいる小屋に向かって夜の森を進んでいく集団があった、手に持ったタイマツの明かりを頼りに規律正しく進んでいるその集団はその統制のとれた行動からも明らかに訓練されている事がわかる、その一人一人の姿は全員完全武装されていて、そんな事からもその集団がどこかの国軍であることがわかる、先頭の男は銀のフルプレートの鎧に身を包み左手に持っている盾にはモデゲルダンの国旗が彩られていた

「ベルゲンバッハ騎士団長殿、いよいよ念願のテロリスト征伐ですね、今まであの連中には本当に苦しめられてきましたから、今夜こそ決着を付けましょう‼」

先頭のフルプレート男に近寄り話しかけたのはこの騎士団の副長である、そしてこの騎士団を束ねる先頭の男こそモデゲルダン聖国の騎士団長ベルゲンバッハ・リミトフである、子供の頃から大人顔負けの強さを持っておりその武力の高さから若くして騎士団長にまで昇りつめた程の才能の持ち主である、10年前のワイスプ王国への侵攻作戦の指揮を執ったのもこの男であり、文字通りモデゲルダン聖国最強の戦士という訳である

「ああ、俺はこの時をどれだけ待った事か・・・必ず奴らを皆殺しにしてやる‼」

モデゲルダン聖国はここ数年、エマ達のテロ活動に散々苦しめられてきた、主要道路や施設の破壊、水源の爆破や魔法施設への攻撃・・・数え上げたらキリがないほどの損害を受けてきた、しかしベルゲンバッハがこれほどの怒りを感じているのは別の理由があった、ベルゲンバッハは国一番の戦士であり若いころから数えきれないほどの武勲をあげてきた、モデゲルダン国王はそれに対する褒美と国民的英雄を称える為に自分の娘であるキャサリン王女を嫁にと勧めた、キャサリンは王族でありながら非常につつましい性格でベルゲンバッハの妻となった後も献身的に夫を支え、そんなキャサリンをベルゲンバッハも愛していた、その二人の姿は”理想の夫婦”として国民の間で広く知れ渡る事となり誰もが二人を羨んだ、二人の間には子供も生まれ国王直々に”自分の王の座をの引き継いでくれないか?”とまで言われる程であった、さすがにそれは辞退したもののベルゲンバッハの力と名前がこの国にとってどれほど大きい存在なのか!?という証明でもあった、10年前の宿敵ワイスプ王国への侵攻作戦も当然の様にベルゲンバッハが全面指揮を取り見事敵国を攻め滅ぼした、国王を始め国民すべてがベルゲンバッハを称え”モデゲルダンの救世主”という二つ名まで付き彼にとっては人生で最高潮の時だった、しかしそれからしばらくしての事、国境警備の為の視察に出向いていた時に悲劇は起こった、ベルゲンバッハが家に帰ると妻が半狂乱の状態で暴れまわっていたのだ、メイド達もどうしていいかわからずにオロオロするばかりなので、一体何があったのか?とメイド達に尋ねるとその内の一人が恐る恐る答えた”お子様が誘拐された様なのです・・・”との返事にベルゲンバッハの表情も変わった、すぐさま家を飛び出しありとあらゆる手段を使って捜索した、しかしどれだけ捜索しても全く手掛かりはつかめなかった、身代金の要求も無く打つ手がなくて途方に暮れていた時、王族や貴族そして騎士団の家族関係に次々と誘拐事件が発生したのだ、ベルゲンバッハはそこで初めて気が付いた”これはワイスプ王国の残党が引き起した事件である”と、しかしそれがわかったところでどうする事もできず子供たちの捜索は打ち切られた、それ以来妻のキャサリンは精神に異常をきたしまともな会話すらできなくなっていた、ベルゲンバッハはそんな妻の姿を見ていられなくて家に帰らない事も多くなり仕事に没頭する日々が続いた、そしてある日妻は衝動的に自殺を図り一人ベッドの上で死んでいたのだ、それ以来ベルゲンバッハは人が変った様に嫌な性格へとなり、常にイラつきながら部下に対してもキツく当たる様になった、以前はあれほど慕われていたのだが今では人望も無くなってしまい、ただただ復讐の為に生きている毎日なのである

『一年前、あと一歩まで追い詰めたが逃げられてしまったテロリスト達にに今日こそは引導を渡してやる、妻と息子の仇を必ず‼』

ベルゲンバッハの憎しみを包み込むように夜の森が不気味に揺れていた


エマ達のいる小屋では外に出ていたヒカルが慌てて小屋に入って来た

「大変だ、みんな敵だ‼おそらくモデゲルダンの国軍と思われる集団がこっちに向かってきている」

「マジかよ!?」

「嘘でしょ!?一体どれくらいいそうなの?」

「まさかあの兄ちゃん達が・・・」

「いや、時間的に見てそれは無いだろう・・・しかし今はそんな事言ってる場合じゃない」

皆は一斉にエマとケンタの方を見た

「敵の数とここに来るまでの時間はどのくらいかわかるかい?」

エマの質問にヒカルがうなづきながら

「正確な数はわからないがおそらく3000~5000人、時間はあと30分という所だと思う」

エマは目を閉じ意を決して命令を下す

「お前たちは早くここを逃げなさい、ここは私が食い止める少しでも遠くに逃げるんだよ、お前たちの足ならおそらく逃げられるだろ、みんな達者に暮らすんだよ・・・」

エマは目を細めて優しげに語りかけた

「何言ってるんだよ、ばあちゃんを置いて逃げるなんてできる訳ないだろ!?」

「そうよ、逃げるならばあちゃんも連れて一緒に逃げようよ‼」

アレクがエマの袖をグッと掴む、エマはそのアレクの掴んだ袖を引きはがすと

「お前たちは今まで何を学んできたんだい‼今のアタシは単なる足手まといなんだよ、足手まといは容赦なく切り捨てる、それが忍びの掟じゃないかい‼」

エマが一括する、しかし皆それに従う様子は無かった、二男であるトミーがケンタに問いかけた

「ケンタの意見は?お前は俺達の兄でありリーダーでもある、ケンタの意見を聞きたい」

子供たちの目線がケンタに集まる、ケンタは一同を見回して軽くうなづくと

「よしこれから俺達はばあちゃんを連れて撤退する、各自時間稼ぎの為に戦う事になるが気を引き締めていけよ‼」

「おう‼」

「そうこなくっちゃ‼」

「久々に暴れるか‼」

「そうよ、ばあちゃんは私達が守るのよ‼」

「ケンタもたまにはいい事言うな」

皆表情が明るくなる、逆に茫然とするエマ

「何を言っているんだい・・・お前たちは一体何を言っているんだい‼私の命令を聞け、早くアンタ達だけ逃げなさい‼」

そんなエマの心からの叫びともいえる言葉に対しケンタはチラリと視線を向けただけで皆に次々と指示を出して行った

「アレクはばあちゃんを台車に乗せて”蛇”の方角に逃げろ、アニーとマリーはアレクの逃げた道に罠を仕掛け”鶴”の地点で待ち伏せし敵が来たら攻撃してくれ、無理はするなよ、それと罠に目印を忘れるな、俺達がかかったら馬鹿みたいだからな」

アニーとマリーは微笑みながらうなづいた

「あとジャンとトミーは俺と共にここで時間を稼ぐぞ、ヒカルは敵の後方に回り機を見て敵の背後を強襲してくれタイミングはそちらに任せる」

ケンタの言葉にジャンとトミー、そしてヒカルが力強くうなづいた

「これは俺達の最大にして最後の作戦だ、修行の成果をあいつらに見せてやろうぜ‼」

「おう‼」

皆がケンタの声に呼応する、エマは叫びながら訴えている

「止めろって言ってるんだよ‼お前たち何で私の命令を聞かないんだよ、頼むから止めてくれ‼」

ケンタがエマに向かって静かに答えた

「ばあちゃんいつも言ってたじゃないか、戦というのは敵の大将首を取ればこちらの勝ちだって・・・じゃあ逆に言えばこちらの大将首を取られなければこっちの勝ちって事じゃんか、俺達の大将はばあちゃんだからな、ばあちゃんは必ず俺達が守り抜いてみせるぜ‼」

エマの目からは涙がこぼれ落ちていた、自分の教えが間違っていた事を今気が付いてももう遅かった

「頼むよアンタ達、こんな老い先短いババアなんか置いて逃げておくれよ・・・私はアンタ達に守られる程立派な人間じゃないんだ・・・生き残るべきはあんた達なんだよ・・・」

いくら叫んでも子供たちの行動は止まらなかった、アレクが小屋の裏から台車を持ってくると全員でエマをそこに乗せいち早く移動を始めた、エマはこんな時に全く動かない自分の体を恨んだ、森の中に消えて行ったエマ達の後姿を確認してからケンタ、トミー、ジョンの三人は小屋の近くの茂みに隠れる、そしてケンタが小声でボソリとつぶやく

「なあトミー、ジョン俺の作戦間違っていたか?」

「いや、ケンタにしては珍しく正解だったな」

「俺もそう思うぜ、今出せる最高の指示だった」

フッと笑い再び問いかけるケンタ

「俺達生き残れると思うか?どのくらいのメンバーが生き残れるかな?」

「まあこの状況を考えれば全員生き残れるって事は無さそうだな」

「まあ最悪でもばあちゃんとアニー、マリー、アレクは逃がしてやりたいけどな・・・」

「なんだ俺と同じ意見だな、俺達兄貴の意地を見せてやろうぜ‼」

ケンタの意見に力強くうなづくトミーとジョン、三人がそんな会話をしているうちに森の中からモデゲルダンの騎士団が次々と姿を現した、手にタイマツを持ち小屋を取り囲むように布陣した

「どうするケンタ!?」

「今は夜だ、見た所タイマツを持っているのは10人に一人ぐらいの割合だからそいつらもしくはタイマツ自体を狙って暗闇の中の戦いに引きずり込むぞ、小屋を爆破するからそれを合図にあの集団に飛び込む、いいな‼」

「OK‼」

「わかった‼」

騎士団たちは小屋への包囲網を縮めはじめ火矢を放つ、火のついた矢が次々と小屋に刺さっていきそこからメラメラと燃え上がる炎、あっという間に小屋が火の海に包まれた

「ああ俺達の家が・・・ちくしょう、あいつ等許さねえぞ‼」

「気持ちを抑えろよジョン、じゃあ行くぞ」

ケンタは懐から札を取り出すとそれに念を込めた、すると札に書いてある文字が光り始め”ボッ”という音と共に燃え尽きた、するとそれに呼応するかのように小屋が爆発したのだ

「一体何が起こったんだ!?」

「奴ら中で自爆したのか!?」

「他に爆発するって事は無いよな!?」

突然の爆発に怯む騎士団、その時ケンタ、トミー、ジョンの三人は茂みから一気に騎士団に斬りこんだ

「何だ一体!?えっ、子供???」

ケンタ達はタイマツを持っている兵に狙いを絞って斬りつけた、爆発のショックと相手が子供という事実に戸惑う騎士団、タイマツを持った兵が次々と斬り倒されていくとタイマツの数が減り徐々に視界が悪くなり始めた、そんな相手の狙いに早くも気が付いたベルゲンバッハは

「相手の狙いはタイマツを持っている兵を倒し視界を悪くして乱戦に持ち込むことと思われる、各自タイマツを持っている兵を守れ、そして子供とはいえ相手は凶悪なテロリストだ遠慮はいらない即座に斬り伏せろ‼」

ベルゲンバッハの指示により素早く陣形を整え戦闘態勢をとる騎士団達、そうなると本来圧倒的な数の差がケンタ達にのしかかる、これ以上は無理だと判断したケンタは

「トミー、ジョン撤退だ、一旦退いて”亀”の地点で合流する‼」

それに呼応してトミーとジョンが素早く撤退を始めた、しかし逃げ去ろうとする彼らにベルゲンバッハが弓を引き絞り狙いを付ける、そして放つとその一本の矢は見事に突き刺さった

「ぐはっ!?」

うめき声をあげ倒れ込んだのはジョンだった

「ジョン‼」

ケンタの叫び声が夜の森に響く、ジョンは足を矢で撃ち抜かれ立ち上がる事も出来ないでいた、そんなジョンを見て思わず引き返そうとするトミー

「トミー‼もうジョンはダメだ、お前まで死ぬぞ・・・早く撤退しろ‼」

その容赦の無い言葉にトミーは思わずケンタを睨む、その時ケンタは唇をかみしめ血がにじんでいた、目からは涙が零れ落ちトミーから見ても怒りで震えていることがわかった、ケンタの苦渋の決断に従う事にしたトミーはケンタと共に森に消えて行った、残されたジョンは地面を這いつくばりながら必死に逃げようとするがあっという間に追いつかれ兵に周りを囲まれる、目前に迫る死の恐怖で言葉を発する事ができないジョン、そこにベルゲンバッハが現れた、地面に倒れ込んで恐怖に震えるジョンの顔に近づくようにしゃがむと冷徹にしゃべり始めた

「仲間の情報をしゃべるなら命だけは助けてやろう、でなければこの場で君は死ぬ、どうする?」

ベルゲンバッハの質問に震えながらも答えるジョン

「俺が仲間の情報を売る訳ないだろ、見損なうな‼」

「そうか残念だ・・・」

ベルゲンバッハはスッと立ち上がると副官に小声で命じた

「殺せ、そして首を持ち帰れ」

副官は軽くうなづき命令を下す、ジョンの周りを囲んでいた兵が槍を高々と上げ地面に倒れているジョンに向かって振り下ろした ジョンの断末魔が夜の森に響き渡った。

偶然にもジョンの最後を見届けたのは敵の後方に回り込んでいたヒカルだった、ケンタ達三人が敵をかきまわしているうちに後ろに回り込み後方から仕掛けて敵に打撃を与えるつもりだったのだが敵の立ち直りが予想以上に早く、ヒカルが敵の後方に回り込んだ時にはケンタとトミーはすでに撤退していて逆にジョンは敵に囲まれてしまっていた、ジョンを助けに行きたかったが今出て行っても犬死にすることは明白であり、それは”絶対にやってはいけない事”という教えを叩き込まれていた彼らは目一杯感情を押し殺し状況を冷静に分析した、モデゲルダン騎士団はまだ隠れている者がいないか捜索をしながらも陣形を崩さず決して隙を見せなかった、当初の作戦はもはや実行できず周りを敵に囲まれているヒカルにとってはこのまま隠れていても見つかるのは時間の問題であり、ケンタ達と合流する事も非常に困難な状況であった

『どうしたもんか・・・』

いくら考えても出てくる答えは一つだった、”敵の混乱に乗じて逃げる”それしかないと・・・しかしその混乱を起す事が至難の業でありその方法はたった一つしか無かった

「敵の指揮官を殺害しその混乱に乗じて撤退・・・しかないよな・・・」

無茶な方法とわかっていても選択肢がそれしかない以上ヒカルはすぐさま行動に移った、指揮官であるベルゲンバッハは確認済みでありその指揮官にヒカルの投げクナイが届く位置までは約20mはあった、つまり今隠れている草むらを出て20m接近し指揮官に対して投げクナイを放った後に即時撤退する事である

『ばあちゃん、みんな俺に力を貸してくれ‼』

意を決してヒカルは草むらを飛び出した、そして一直線にベルゲンバッハに向かう、意表を突かれた兵達は少し遅れて指揮官の護衛に回ろうとしたが

「手出し無用、この者の相手は私がする‼」

ベルゲンバッハは味方の護衛を拒否し向かって来るヒカルを睨みつけた

「よし射程距離に届いた、死ね‼」

ヒカルの放った投げクナイは狙った標的に向かって真っ直ぐに飛んで行く

「やった‼」

ヒカルが勝ちを確信した時ベルゲンバッハはその投げクナイを難なく片手で受け止めたのだった

「なっ!?」

驚愕するヒカルに対し一気に距離をつめ腹に一撃食らわせるベルゲンバッハ

「ぐはっ!?」

強烈な一撃を喰らい前のめりに倒れ込むヒカル、騎士団が近づいてきて倒れ込んでいるヒカルをすぐさま縛り上げた、腹に受けたダメージで呼吸もままならないヒカルに対して右手でヒカルの顎を掴み自分の顔に近づけるとジョンと同じ質問をするベルゲンバッハ

「仲間の情報をしゃべるなら命は助けてやる、でなければこの場で死ぬ、どうする?」

ヒカルはまだまともな呼吸ができないので”ヒューヒュー”といったか細い呼吸音を吐き出すので精一杯だったがその目はベルゲンバッハを睨みつけたまま強い意志を感じさせた、その目で察したのか副官に対して同じ指令を下す

「殺せ、首を持ち帰るのを忘れるな」

ヒカルは縛られたまま数人の男に地面に抑えつけられそのまま首を斬りおとされた。


撤退したケンタとトミーはアニーとマリーのいる地点まで来た、隠れていたアニーが思わず顔を出して

「アンタ達もう来たの!?まだほとんど罠を仕掛けられてないわよ!?」

ケンタが苦渋の表情でアニーに答える

「敵の立て直しが予想以上に早かった・・・もうすぐここにやってくるはずだ、それとジョンがやられた・・・ヒカルもどうなるか・・・」

絶句するアニーに思わず涙ぐむマリー、そんな二人の様子を見て一括するケンタ

「泣いてる暇なんてないぞ‼せっかくジョンが貴重な時間を稼いでくれたんだ、何が何でもここで食い止めるぞ、いいな‼」

ケンタの言葉に無言でうなづくアニーとマリー、するとケンタ達の来た方向からいくつかのタイマツがやって来るのが見えた

「もう来ましたか・・・早いですね、優秀な指揮官の様です」

トミーが冷静に分析する、その言葉にケンタが答える

「指揮官が優秀という事はそいつを討ち取ってしまえばこちらがかなり有利って事だよな!?このまま時間稼ぎをしても絶対に追いつかれてしまうし、作戦変更だ標的は敵の指揮官一人、俺たち全員でコイツを倒すぞ、いいな!?」

「OK‼」

ケンタ達が隠れているのは道が急に細くなっている地点だ、ここならば多人数では攻めて来られないため守るには最適なのである、ケンタとトミーは左右の茂みにアニーとマリーは左右の木の上に身をひそめていた、やがて騎士団達の話し声が聞こえ始めた

「こんな夜の山道では視界も悪くて進軍速度を上げられないのが難点ですな、しかしそれでもこの速さで進めるのはベルゲンバッハ様の指揮の効果だと思いますよ」

副官の感想ともお世辞ともいえない言葉に無反応なベルゲンバッハ、そして急に右手を挙げ全軍に停止を命じた、その行為に思わず副官が問いかける

「一体どうなされたのですか?」

ベルゲンバッハは前の道を指さし道の細くなったところを指摘した

「あの道が細くなっている所があるだろう、伏兵による奇襲を仕掛けるならこういう所が最適なんだ」

そう言うと後ろの部下に対して何やら指示をし始めた

「おい、例の物を出せ」

部下はそそくさと袋に入っていたモノを取り出して槍の先に引っかけると高々と掲げた、それはジョンとヒカルの首だった、ケンタとトミーは怒りで気が狂いそうだったがそれを何とか抑え込む、アニーは思わず絶句し言葉も出ない、マリーは涙を抑える事で必死だった、しばらくそのままで静寂が訪れた、夜の森に風で揺れる木々の音がざわざわと聞こえ遠くではかすかに虫の鳴き声が聞こえていた、それを聞いているかのように動かなかったベルゲンバッハが突然一人で歩き出したのだ

『今がチャンスだ‼』

隠れていたケンタを始めとする四人がベルゲンバッハに向かって一斉に投げクナイを放った

『この距離なら誰も外さない、四方向からの同時攻撃なら絶対仕留めただろ!?』

ケンタがそう思った瞬間ベルゲンバッハは右手の剣と左手の盾で全てを防いでしまったのだ

「うそ!?」

「馬鹿な‼」

「なんで!?」

ケンタは即座に指令を下す

「全員撤退‼速やかにこの場を離れろ‼」

その時ベルゲンバッハの表情が鬼の形相に変る

「逃がすと思うか、このテロリスト共‼」

そう言い放つと自分の右側ににある大木に走っていくとそれに向かって蹴りを放った

「あっ!?」

その木の上に隠れていたマリーがその衝撃でバランスを崩し落下する、”ガサッ”という音と共に草むらに落ちたマリーはけがは無かったが立ち上がろうとした時目の前にはベルゲンバッハが剣を突き付けていた

「そちらの木の上にも誰かいる引きずりおろせ‼」

ベルゲンバッハの指示により反対側の木に隠れていたアニーも数名の兵に引きずり降ろされ縛り上げられた、そんな二人をトミーが助けに行こうとした時アニーが叫んだ

「あなた達だけでも逃げなさい、早く‼」

ケンタは目を閉じトミーの肩に手を置いて断腸の思いでその場を去った、捕まったアニーとマリーを冷徹な目で見下ろすベルゲンバッハ、そんな指揮官に対しアニーは睨みつけマリーは怯え震えていた、

アニーが思わず問いかけた

「なんで私達が隠れていることがわかったのよ?」

まるで虫でも見るような目でアニーを見つめるベルゲンバッハ、そして問われた答えを放し始めた

「まず地形、伏兵を置き強襲するにはここは最適の場所だ、それと虫の鳴き声だ」

「虫の鳴き声!?それが一体何だっていうのよ!?」

「ここより離れた場所では多くの虫の鳴き声が聞こえていたのにここではあまりに虫の鳴き声が少なかった、それはつまり人がいるって証拠だ、種明かしをすれば実にくだらん答えだろ、さて」

アニーは縛られながらもまだ睨み続けていた、その様子を見たベルゲンバッハはアニーの顔に近づき話しかけた

「仲間の情報を言え、ならば命だけは助けてやる・・・」

ベルゲンバッハがそう言い終わる前にアニーは相手の顔に唾を吐きかけた

「ふざけないで、殺すならさっさと殺しなさいよ‼」

ベルゲンバッハはそんなアニーの態度を見てニヤリと笑うと剣を抜きマリーの右足太ももに突き刺した

「ぎゃああああぁぁぁ~~‼」

あまりの激痛に叫び声を上げるマリー、それを見て暴れるアニーを騎士団の男達が抑えつける

「何してるのよ、やるなら私にやりなさいよ、この卑怯者‼」

地面に組み伏せられながら罵声を浴びせかけるアニー、しかしそんな事はお構いなしとばかりに今度はマリーの左足の太ももに剣を突き刺すベルゲンバッハ

「ぎゃああ~~いや~~~痛いの、もうやめて~~‼」

再びの激痛に泣き叫ぶマリー、アニーの表情が悲痛なモノへと変わる

「お願い止めて・・・マリーをこれ以上傷つけないで・・お願いよ、今までの事は謝るから・・・」

ベルゲンバッハはアニーの顔を右手で掴むと再び同じ質問をした

「仲間の情報を言え、ならば命は助けてやる」

「・・・何が聞きたいのよ・・・」

アニーのその言葉にマリーが反論する

「ダメよアニーちゃん‼私の為にみんなを・・・ぎゃあああぁぁぁ~‼」

マリーの言葉を遮る様に先程突き刺した太ももを足の裏で思い切り踏みつけるベルゲンバッハ、マリーはあまりの激痛に気を失いかけていた

「止めなさい・・・いや止めてくださいお願いします・・・何でも話しますから・・・」

アニーは額を地面にこすり付けて懇願する、ベルゲンバッハは片膝を地面に付きそんなアニーの髪の毛を掴み思い切り引き上げる

「お前たちの総人数は何人だ?」

「ばあちゃんと私達七人の計八人です・・・」

「じゃあ逃げているのは後四人という事なんだな?」

「はい、そうです・・・」

「お前たちの総大将は誰だ?そして一番強いのは?」

「ばあちゃんです、一番強いのもばあちゃんですが今は事情で動けないんです」

「じゃあ次に強いのは誰だ?先程指示を出していた者か?」

「はい、ケンタと言います、今はばあちゃんの代わりに指揮しています」

「じゃあ他に話すべき重要な情報はあるか?」

「ありません、これで全部です・・・全部喋ったわマリーを助けて、早く治療を・・・」

「そうか、それで全部か・・・」

ベルゲンバッハはそう言って立ち上がるとマリーの元へゆっくり近づいて行く、そして腰の剣を抜くと何のためらいも無くマリーの胸に突き刺したのだ

「グボッ‼」

口から大量の血を吐き出しぐったりとうなだれて動かなくなったマリー、その姿を信じられないという表情で見つめるアニー

「嘘でしょマリー・・・だって私喋ったじゃない、なんで?・・・なんでよ・・・」

振り向きざま今度はアニーの首もはねてしまったベルゲンバッハ、アニーの首が地面に転がる、そのあまりの行為に仲間の騎士団も言葉を失ってしまっていた

「テロリスト共に慈悲などいらぬ、私の受けた苦しみを倍にして返してやる、あと四人か・・・必ず皆殺しにしてやるからな」

独り言のようにそう言うとすぐさま進軍の指示を出すベルゲンバッハだった。


ケンタとトミーが逃げていた時エマをおぶったアレクと遭遇した

「なんでまだこんな所にいるんだよアレク!?」

どうやらアレクはエマを載せた台車が木の溝にはまって動けなくなってしまい仕方なくおぶって運んでいたのだった、体が小さくて戦力としては一番低いアレクだからこそエマを逃がす役目を与えたのだが、小柄なエマでも体が小さなアレクにとってはおぶって運ぶにはかなりの無理が必要だった、そんな汗だくになりながらも必死でエマをおぶっているアレクを責める事は出来なかった

「すまなかったアレク、ばあちゃんをおぶって行くのはトミーに任せて逃げるぞ‼」

その言葉にアレクは涙ぐんでいた、自分が一番戦力にならない事を誰よりも悔しく思っていたのにこんな事さえできない自分が情けなくて悔しくて思わず泣けてきたのだ、無言のまま涙を流すアレクにエマがそっと頭を抱く

「アンタだって男だもんね、悔しく思うのも仕方ないよ・・・でもきっとあんたは強くなる、体さえ大きくなればきっと誰よりも強くなれるよ、ばあちゃんが保障する」

事態が事態なので感傷に浸っている時間はなかったトミーがエマをおぶって四人は再び移動を開始した、もうすぐで森を抜ける道に到達するか!?と思った時、その先に大量のタイマツの火がある事が見えたのだ

「くそっ!?ここはもう封鎖されていやがる別の道を探すぞ‼」

ケンタの命令にうなづくトミーとアレク、しかしどの道を通っても先回りされていたのだった、徐々に包囲網が狭まっていき焦るケンタ達、そんな時エマが不意に問いかけた

「他の子たちはどうしたんだい?ジョンやヒカル、アニーやマリーは?」

その質問にケンタが目を伏せ言いづらそうに報告した

「ジョンとヒカルはあいつらに殺された、アニーとマリーも捕まってしまったからおそらくは・・・」

その時のエマの顔は子供たちが今まで見たことも無い表情だった、怒りとか悲しみとかそんなものが吹き飛んでしまって無の表情、あまりの事に全く何も考えられなくなってしまっていたのだ、うつろな目線で首をカクンとうなだれながら全く動かなくなってしまったエマをおぶりながら脱出路を探すケンタ達、今は仲間の死を悲しんでいる暇など無い、むしろあいつらが稼いでくれた時間を生かすためにも何としても脱出しなければ・・・という思いでいっぱいだった、ようやく敵のいない道を探し当てそこを通過しようとしたとき一人の男が立ちふさがった

「待っていたぞテロリスト共、私の元におびき寄せるために色々努力した甲斐があった」

そこにいたのはベルゲンバッハだった、敵のいない道を探しているつもりが敵の罠にまんまとはまってしまっていたのだ、背後からは騎士団が次々と押し寄せてくる声が聞こえた

「くそっ!?敵の掌で踊らされていたという訳か!?後ろにも敵軍が大勢いるのでは・・・万事休すか・・・」

トミーが思わずつぶやく、ケンタが頭をフル回転させて色々脱出手段を考えてみるがどれもこれも上手くいきそうに無かった、そんな時普段無口なアレクがケンタに話しかけてきた

「僕が後ろを何とかする、ばあちゃんを頼むよ兄貴」

「何とかするって、お前に何とかできる訳が・・・まさか!?」

「僕だって男なんだ、たまには役に立ちたいんだよ」

アレクはそう言ってニコリと笑った、ケンタは思わずアレクの腕を掴もうとするがそれより先にアレクは走り出していた

「止めろアレク‼」

アレクが走り出して十数秒後、背後にいる敵軍の方から大きな爆発音が聞こえると、明らかに混乱している声が聞こえた、

「馬鹿野郎・・・お前は将来一番強くなるって言われてただろうが、その姿をばあちゃんに見てもらわなくてどうするんだよ・・・」

ケンタが吐き捨てるようにつぶやいた、そんな様子を冷徹な目で見守っていたベルゲンバッハが

「ふん、虫けらは所詮虫けらか、余計な損害を出しおって、どうせ死ぬのが早いか遅いかの差でしかないのにな、さあ覚悟はできたかテロリスト共‼」

ケンタは怒りの表情で構えた、トミーも少し離れた所にエマを寝かせるとケンタと同じように構えた、エマはまだ呆けてしまっていて正気に戻っていなかった、そんなエマを見てほくそ笑むベルゲンバッハ

「戦いにおいて弱みを見せるという事がどういう事か・・・思い知るといい」

その一言にケンタが反応した

「いかんトミー、奴の狙いはばあちゃんだ‼」

トミーは慌ててエマの所に走った、しかしベルゲンバッハの投げた剣が猛スピードでエマに向かって行った

「ばあちゃん‼」

思わずケンタが叫ぶとそこにはエマを庇って体で剣を受け止めているトミーがいた

「ぐはっ!?」

口から血を吐き出し膝から崩れ落ちるトミー、その血がエマの顔に降り注ぎその顔を真っ赤に染めた、その時エマがようやく正気を取り戻した

「何だいこれは・・・何が起こっているんだい、トミーしっかりおし‼死ぬんじゃないよ、お前までばあちゃんを残して死ぬんじゃないよ‼」

トミーには叫ぶエマの言葉がどことなく遠くに聞こえていた、それは子供の頃寝起きの悪かったトミーに怒鳴りながらたたき起こされた時の記憶に似ていた

「ゴメンばあちゃん、その約束守れそうにないわ・・・みんなの所に行って来る・・・」

そう言い残しトミーはエマに抱きつくように息を引き取った

「ああああああぁぁぁぁ~~~‼」

トミーの最後に絶叫するエマ、それを面倒臭そうに見つめるベルゲンバッハ

「やかましいババアだな、貴様がテロリスト共の首魁だそうだな、そんなに騒がなくても今すぐそいつらの元に送ってやるから心配するな」

エマがその声の主を見つめると表情が一変した

「お前は・・・お前はベルゲンバッハ・リミトフ‼」

エマの態度に少し驚いた表情で問いかけるベルゲンバッハ

「ほう貴様は俺の事を知っているのか?ならばわかるだろう、貴様によってどれほど俺が苦しめられたか!?今こそ積年の恨み晴らしてくれようぞ‼」

「何を言うか‼貴様が先に私の大事な娘と孫を殺したんじゃないか!?忘れたとは言わせないよ、ワイスプ王国の第二夫人とその息子が私の娘と孫だったんだ‼それを殺してさらし首にまでして・・・だからお前にはありったけの絶望を与えてやると決めたんだ‼苦しかったかい?いい気味だよアンタこそ地獄に落ちな‼」

その言葉に少し納得した様子のベルゲンバッハだった

「なるほどな、そちらにはそちらの思いがあったという訳か、しかし結局は勝者のみが正しいというのがこの世の中の摂理だ、今から死ぬお前には関係ない事であろう、貴様にとって不倶戴天の敵である私に殺されるんだ、さぞかし悔しい思いを抱えて死んでいくがいいわ‼」

その時ケンタがスッと二人の間に割り込んで話始めた

「おっと騎士団長さんよ俺の存在を忘れていないかい?ばあちゃんを殺したかったら俺を倒してからしな」

「小僧、もはやお前などどうでもよい邪魔をするなら本当に斬るぞ」

「俺の兄弟たちをその手で散々殺しておいて今更何言ってるんだよ、こっちだってお前を許さないって気持ちはばあちゃんにも負けてないんだよ‼」

そう言うと懐からクナイを取り出し一気に斬りかかるケンタ

「ダメだよケンタ、アンタは戦っちゃ駄目だ‼」

エマの叫びもケンタの耳には届いていなかった

「チクショウ‼俺の大切な兄弟たちをみんな殺しやがって、許さねえ、絶対許さねえぞ‼」

両手にクナイを持ち次々と連続攻撃を繰り出すケンタ、的確に急所を狙うその攻撃を全て剣で受け流しているベルゲンバッハ

「ほう、他のガキどもよりは使えるな、もう少し大人になればさぞかしいい戦士になったであろうに残念だったなテロリストの小僧、今こそ妻と息子の仇を取らせてもらう邪魔をするな‼」

受け一辺倒だったベルゲンバッハが攻めの姿勢に移る、剣を大きく振りかぶり袈裟切りに振り下ろそうとしたその時ケンタの目が光った

「この時を待っていたぜ”香魔流忍法影移し”‼」

ベルゲンバッハの目の前からケンタの姿が突如消えたのだ、あまりの事に驚愕するベルゲンバッハ、その時今まで味わった事の無い殺気を感じ思わず下を見ると自分の影からケンタが出てきてクナイごと飛び上がる様に突き上げて来たのだ、その攻撃をを体をひねって間一髪でかわすベルゲンバッハ、そして全力で斬りつけたケンタは完全無防備の状態だった、その胴体に思い切り剣を振り下ろすベルゲンバッハ、その時エマが涙ながらに叫んだ

「止めとくれ‼その子はアンタの息子なんだよ‼」

そのあまりの言葉に驚いたベルゲンバッハだったがもう攻撃は止まらなかった、その振り下ろした剣はケンタの肩口から胴体の真ん中程まで達していてケンタはすでに絶命していた、振り下ろした剣を放し思わずケンタを受け止めるベルゲンバッハ

「そんな馬鹿な・・・これが私の息子だと・・・斬ってしまったじゃないか・・・私が自ら斬って・・・すまないキャサリン・・・」

ベルゲンバッハはしばらくケンタの亡骸を抱き締め泣いていたが、フラフラと立ち上がり自らの剣で己の命を絶った。

騎士団長が死亡し混乱したモデゲルダン聖国軍は即座に撤退した、ケンタとベルゲンバッハの死体を前に呆けていたエマの元に遅ればせながら拓斗が到着した

「間に合わなかったか・・・」

拓斗の言葉にも無反応のエマ

「なんてことをしてしまったんだい私は・・・なんてことを・・・ゴメンよみんな・・・」

もはや拓斗にはかける言葉は無かった、それほどまでに絶望的な雰囲気があった、しばらくの沈黙の後拓斗が言葉をかけた

「今更こんな事言ってもしょうがないかもしれないけど、あの子たちはアンタが大好きだったんだ、アンタを守りたくて戦ったんだ、それだけアンタとの生活が幸せだったんだろうよ、それだけは忘れないでやってくれよ・・・」

拓斗の言葉にピクリとも動かなかったエマの目から一筋の涙だけが零れ落ちた。











今回はロストチャイルドの完結編です、凄く重くどこまでも救いの無い話になってしまいました、この話はどうしても書きたかったのですが書いている途中で何度”路線変更してハッピーエンド話にしようかな!?”と考えたかわからないほどでした、読み味最悪で気分を害された方はスイマセン・・・私自身こういう話は好きなものですからつい・・・次話は逆に目一杯明るい話にしたいと思いますのでまた懲りずにおつきあいいただけると嬉しいです、では。

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