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『完璧な脱力からこそ完璧なインパクトは生まれる』 ~睡眠の質を高めてたら異世界で最強になっていた件~  作者: 音無 千秋


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第3話 寝れば、最強ってこと!?

「本当にすみませんでした!」

「謝って直るなら大工はいらん!」

「おっしゃる通りでございます!」

「蝶番までいっとるじゃねえか……」

「そんなに?」

「他人事みたいに言うな!」

「ごめんなさい!」

 もう一回頭を下げる。


 でも、ずっと気になってることがある。


 昨日は洞窟の壁。

 今日はドア。

 どっちも寝起き。

 しかも、どっちもその日最初に触ったもの。

 角犬を殴った時は普通。

 むしろ俺の拳が痛かった。


「…………」


 これ。


「あのぉ……ゴルドンさん?」

「なんだ」

「俺、もしかしたら、すごいことに気づいちゃったかもしれないんですけどぉ……」

「俺は今、お前がうちのドアを壊したことしか気にならん」

「いえ、言わせてください」

「……なんだ」


「たぶん俺、寝起きだけめちゃくちゃ強いです」


「…………」


「…………」


「頭でも打ったか?」

 やっぱそうだよな。

 そうなるよね。

 初めて自分と同じ気持ちの人に会えた気がするぜ。

「昨日もそうだったんですよ。起きてすぐ洞窟の壁に手をついたら、ドカーンって」

「お前、昨日そんな話しとらんかっただろ」

「言ったら変な奴だと思われるかなって」

「もう十分変な奴だ」

「ひどい!」

「うちのドアを見てから言え!」

「ぐうの音も出ません」


 でも、もし本当にそうなら。


「冒険者としてやっていけるかもしれません!」

「その前にドア代を払え」

「だから冒険者になるんです!」

「順番が逆だ!」

「ぐっ……!」

 異世界に来てまで正論で殴られるとは思わなかった。


 結局、登録料まで貸してもらった。


「ゴルドンさぁん……!」

「近寄るな」

「一生ついていきます!」

「ついてくるな!」

 ドア代。


 登録料。


 異世界生活二日目にして借金増加中。

 でも冒険者になれば金が入る。

 金が入れば宿。

 宿に泊まればベッド。

「よし」

 ちゃんと人生つながってきたな。


 かなり睡眠寄りに。


◇◇◇


「おお……」


 冒険者ギルド。

 剣。

 鎧。

 依頼掲示板。

 酒飲んでるでかい人。


「これこれ。異世界っていったらこれだよ」

「何かお探しですか?」

「うわっ!」

 すっげぇ美人。

「異世界最高……」


「はい?」


「あ、すみません。冒険者になりたいんですけど」

「新規登録ですね。では、こちらへどうぞ」

「はい!」

 手続きは思ったより簡単だった。


 名前。


 年齢。


 得意なこと。


「得意なこと……」

「何かありますか?」

「僕、朝が人一倍すごいんです!」


「…………」


 あ。


 笑顔止まった。


「……え?」


 絶対今、変な意味だと思われたぁ!


「ち、違うんですお姉さん!」

「……特になし、と」

「待って! 今の間は絶対大丈夫じゃない!」

「登録は以上になります」

「ち、違うんです! 朝起きた直後だけ力が――」

「はい。分かりましたから」

「分かってない! その顔絶対分かってない!」


 登録証を渡される。


「では、こちらを」

「だから誤解ですってぇーーーー!」

 終わった。

 異世界に来てまで女性に気持ち悪がられた。

 しかも、すっげぇ美人に。

「最悪だ……」

 こうしてわたくし黒瀬玲司、二十八歳。

 無職から冒険者へ転職。


 社会的信用と引き換えに。


「最初はこちらがおすすめです」

「ゴブリン……」

「はい。一体でも討伐すれば報酬が出ます」

「ちなみに、強いですか?」

「新人冒険者の方でも十分倒せますよ」

「なるほど」

 今朝のドア。

 昨日の岩壁。

 あの威力なら余裕。


 問題は。


 今日の一発、もう使ってしまっていること。

「……明日にします」

「登録したばかりですけど?」

「今日はもう力を使い果たしたので」


「…………」


 また笑顔止まった。


「……そうですか」


「違う! 今のもそういう意味じゃない!」


 目逸らされた。


「だから誤解ですってぇーーーー!」


◇◇◇


 ――夜。


「で、なんでここにいる」

「寝かせてください」

「断る」

「即答!?」

「また何か壊されたらたまらん」

「もう壊しませんから!」

「どうやって保証する」

「寝起きに何も触りません!」

「帰れ」

「ゴルドンさぁん!」

「その呼び方をやめろ!」

 ダメだった。


 まあ、そりゃそう。


 飯。


 寝床。


 登録料。


 ここまで世話になってる。

 さすがにこれ以上は。

「仕方ない……」

 町の外れまで歩く。

 「異世界まで来て、野宿かぁ」

「異世界って、もっとこう……夢があるもんじゃないの?」

 横になる。

「硬っ!」

 背中に石がっ。

「ほんで寒っ!」

 丸くなる。


 虫「ぶ~ん(笑)」


「うるさっ!」


「てかいま、笑いやがったなてぇめくそぉ」

 目を閉じる。

 開く。

 閉じる。

 開く。

「寝れねぇ……」


 昨日のベッド。

 あれ、よかったなぁ。

 ちょっと硬かったけど。

 それでも屋根あったし。

 ちゃんと横になれたし。

「ベッドって偉大だったんだな……」

 寝たい。

 めちゃくちゃ寝たい。

 なのに寝られない。

「これ、一番嫌なやつだ……」

 眠いのに寝られない。

 横になってるのに休まらない。

「地面で寝るために異世界来たんじゃないんだけど……」

 そもそも来たくて来たわけじゃないけど。

「…………」

 石。

 どかす。

「…………」

 また石。


「なんでこんなあるの?」


 結局、眠れたのはだいぶ後だった。


◇◇◇


 翌朝。


「……最悪」

 目が覚めた瞬間分かる。

 体重い。首痛い。背中痛い。

「全然寝た気しない……」

 これ睡眠って言っていい?

 地面に横になってただけじゃない?

「…………」


 でも待てよ。

 まだ何も触ってない。


「寝起きの一発……残ってる?」


 昨日の仮説、今なら試せる!

 少し歩くと

 「いた」


 緑色に小さい体。手には木の棒。


「あれ、ゴブリン……だよな?」


「ギャッ?」

 目合った。

「…………」

 こっち来るな。

 いや。

 ちょうどいいか。

 拳を握る。


 昨日のドア。


 洞窟の壁。


 あれくらい出るなら余裕。

「外で寝たから、あんまりよく眠れなかったんだよな……」

「ギャッ!」

「まあ、これならあのゴブリンぐらいか」

 向こうから来る。

「よし」

 拳を振りかぶる。


「寝起きパワー!」


 ダサい。


 ドンッ!


「おおっ!」

 吹っ飛んだ。

「やった!」

 拳を見る。

「俺の能力、これか!」

 洞窟。ドア。ゴブリン。

 全部。

 寝起き最初の一発。


「なるほどね」


 寝る。起きる。強くなる。

「寝れば最強ってことね」

「…………」

 待って。

 寝る。

 強くなる。

 寝る。

 強くなる。

「…………」

 これって。


「最高じゃん!」


 好きなことして強くなる。

 何それ。俺専用じゃん。

「異世界、俺のこと分かってんじゃん」

 さっきまで地面に文句言ってたけど。

 全部許す。

 いや。

 昨日の地面は許さない。


「……あれ?」

 ゴブリンを見る。

「でも、弱くない?」

 昨日のドア。

 蝶番ごと吹っ飛んだ。

 洞窟の壁。

 車でも通れそうな大穴。


 今。

 ゴブリン一匹。


「明らかに威力違くない?」

 何が違う?

 昨日。 ベッド。その前。自宅の布団。

 今日。

「…………」

「地面」

 石。寒い。虫。寝不足。

 まさか。

「寝起きなら何でもいいんじゃなくて……」

 拳を見る。

「どれだけよく眠れたかで、威力変わる?」

 つまり。


 ちゃんと寝る。いいベッド。いい枕。静かな部屋。快適な温度。


 全部整えたら。


「もっと強くなる?」


「…………」


 普通なら面倒くさい能力なのかもしれない。

 毎日ちゃんと寝ないとダメ。

 睡眠環境も整えないとダメ。

 寝不足なら弱くなる。


 でも。


「それ、俺にとってデメリットか?」

 寝るの好き。

 めちゃくちゃ好き。

 むしろ、それを理由に堂々と寝ていい。


「最高じゃん」


 今までただ好きだった睡眠が。強さになる。金になる。生活になる。


「極めるか」


 こうしてわたくし黒瀬玲司、二十八歳。


 異世界で、本気で寝ることにしたのであった。

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