第4話 黒瀬玲司、ショートスリーパーになる?
「寝れば強くなる……」
昨日のゴブリンを倒してから、ずっとそのことばかり考えている。
寝起き最初の一発だけ強い。
だったら問題は簡単だ。
「一日に何回も寝ればいいんじゃない?」
我ながら名案では?
朝の一発を使ったら、少し寝て補充。また使ったら、もう一度寝る。
これができたら一日一発どころじゃない。
「実質リロード式じゃん」
しかも、そのリロード方法が睡眠。
俺向けすぎる。
ただ、一つ問題がある。
「普通に寝たら時間かかるんだよなぁ」
そこで思い出した。
日本にいた頃、ネットで何度も見たあの人。
「堀○輔……」
一日の睡眠時間を極端に短くしてるっていう、あの人。
確か俺がこっちに来る少し前にも、短時間睡眠で一週間生活するみたいな配信を始めるって話題になってた。
「そういや、あれどうなったんだろ」
まぁ異世界にいる俺には知る方法ないけど。
「でも、あれが本当にできるなら話は早いよな」
三十分とか、一時間とか。
それで寝た判定になるなら。
「俺、何回でも強くなれるじゃん」
……いや待て。
普通に最強では?
「来たな、これ」
ついに能力の正しい使い方を見つけてしまったかもしれない。
こうして黒瀬玲司、二十八歳のショートスリーパー生活は始まった。
◇◇◇
とは言ったもののいったいどうやってやるんだ。
※彼は堀○輔のことはネットミームでしか知りません
とりあえず
「三十分だけ寝るか」
昼過ぎ。
昨日のゴブリンで稼いだ金を使って、安い宿を取った。
地面で寝るのはもうこりごりだ。俺は異世界に来てまで野生動物になるつもりはない。
ベッドに横になる。
「よし」
目標、三十分。
堀○輔になって見せるぞ!
たぶん。
「…………」
目を閉じる。
眠くない。
「まあ、そうだよな」
朝起きたばっかだもんな。
でもショートスリーパーってこういうのを乗り越えるんだろ?
「寝ろ、俺」
目を閉じる。
呼吸をゆっくり。
力を抜く。
布団は悪くない。
枕も昨日の地面より百倍いい。
「…………」
寝なきゃ。
三十分しかない。
早く寝ないと、使える睡眠時間が減る。
「…………」
今何分経った?
時計がない。
「気になるな……」
目を開ける。
当然、時間は分からない。
「スマホ欲しいぃ……」
日本では寝る前のスマホはよくないとか言われてたけど、ないならないで不便なんだよ。
もう一度目を閉じる。
今度こそ。
「…………」
寝なきゃ。
寝なきゃ。
うーん。
「寝れるか!」
起き上がった。
そもそも「絶対三十分以内に寝てください」って言われて寝られる人間どれくらいいるんだよ。
睡眠って命令すると逃げるよな。
「堀○輔、恐るべし……」
※繰り返しですが、彼は堀○輔のことはネットミームでしか知りません
初日。
開始三十分。
早くも心が折れそうである。
◇◇◇
夜。
「今度はいける」
昼間は失敗した。
でも今は普通に眠い。
これなら勝てる。
宿のおばちゃんにも頼んだ。
「三十分後に絶対起こしてください」
「また変なこと始めたねぇ」
「大事な実験なんです」
「何の?」
「世界を救うかもしれない実験です」
「へぇ」
信じてないな。
まあいい。
ベッドに入る。
「三十分だけ……」
今度は目を閉じてすぐ、意識が落ちた。
◇◇◇
「…………」
気持ちいい。
めちゃくちゃ寝た。
久しぶりに深く眠れた感じがする。
「んん……」
目を開ける。
窓から光。
「…………」
光?
「朝?」
飛び起きる。
「うそだろ!?」
部屋を飛び出す。
「おばちゃぁぁぁん!」
「何だい朝から」
「三十分!」
「何が?」
「起こしてくださいって言いましたよね!?」
「ああ、起こしたよ」
「え?」
「全然起きなかった」
「もっと頑張ってよ!」
「頬叩いても起きないんだから諦めるよ」
「そこを諦めないで!」
どうやら普通に八時間くらい寝たらしい。
「ショートスリーパーどころか健康優良児じゃん……」
いや。
待て待て。
一日で諦めるのは早い。
堀○輔だって最初から三十分だったわけじゃないかもしれない。
「少しずつ削ればいいんだ」
そうだ。
いきなり三十分なんて極端すぎた。
まずは三時間。
慣れたら二時間。
最終的には三十分。
「完璧な計画だ」
おばちゃんが無言で俺の下半身を見ている
「…………」
なんだ?
自分でも見る。
「…………」
ズボン履いてない。
「…………」
寝ぼけてパンツ一丁で飛び出してきてる。
「失礼しましたぁぁぁぁ!!」
部屋へ戻る。
ドアを閉める。
「何してんだ俺……!」
危なかった。
いや、もう十分アウトか。
あと一枚なかったら完全に終わってたぞ。
「寝ぼけって怖いな……」
なんかこう。
極端に睡眠削ってたら、こういう事故そのうち起こりそうだよな。
「堀○輔さんクラスになるときっとこんなことにはならないんだろうなぁ」
「そう、だよな……」
遠い異世界から謎の心配を送っておいた。
もちろん。
この時の俺は知る由もない。
あの1週間配信でち○こを写してしまいその話題でネットがもちきりになっていた
ことを。
◇◇◇
「今夜は三時間」
さすがに学習した。
三十分は無理。
まず三時間。
おばちゃんに起こしてもらって、そのまま町の外へ出る。
「眠っ……」
当たり前だけど眠い。
頭も重い。
でも起きた。
なら力は補充されてるはず。
「いた」
ゴブリン。
「ギャッ!」
「悪いな。今日は実験台になってくれ」
「ギャアッ!」
向かってくる。
「おらっ!」
ドンッ!
「ギャッ!」
吹き飛んだ。
「おお!」
ちゃんと強い。
でも。
「洞窟の壁ほどじゃないな」
三時間じゃ足りないのか?
まあいい。
ここからが本番。
「もう一回寝ればいい」
宿に戻る。
ベッドへ。
「さあ来い、二発目」
目を閉じる。
「…………」
寝れない。
「…………」
まあ、起きた上に戦闘までしたし、当然では?
「いやでも、そこを何とかするのがショートスリーパーだろ」
寝ろ。
頼む。
寝てくれ。
「能力使いたいんですけど」
体から返事はない。
「三十分でいいから!」
さっきまで三時間って言ってたのに、もう弱気になってきた。
一時間ほど粘ってみた。
「…………」
無理。
目だけ閉じてる。
「これ、休憩してるだけじゃない?」
ようやく重大な事実に気づいた。
一日に何度も寝れば無限に能力を使える。
理屈としては正しい。
ただし。
「一日に何度も寝られれば、の話じゃねーか」
計画は破綻した。
◇◇◇
その夜。
「…………」
寝れない。
「なんで?」
眠い。
眠いはず。
なのに微妙に眠れない。
昼間に三時間寝た。
そこからまた寝ようとして一時間ベッドにいた。
完全に生活のリズムがおかしくなってる。
「ショートスリーパー目指したら、寝るの下手になってない?」
これはまずい。
俺の能力。
睡眠の質で強さ変わるんだぞ。
「自分から弱くなりにいってどうすんの?」
明日の朝。
嫌な予感しかしなかった。
◇◇◇
「…………最悪」
当たった。
眠い。
頭重い。
体だるい。
これ、昨日野宿した時とそんな変わらなくない?
「宿代払って寝不足になるって何?」
町の外へ。
ゴブリンを見つける。
「ギャッ!」
「はいはい、今日はあんまり期待しないでね」
拳を振る。
ドンッ!
「ギャッ!」
倒れた。
でも弱い。
明らかに弱い。
「ほらぁ……」
睡眠時間を削って。変な時間に寝て。夜寝られなくなって。
結果。
能力まで弱くなった。
「何してんの俺?」
そもそも。
俺は寝るのが好きなんだ。
好きなものを削ってまで何を目指してる?
「ショートスリーパーって、俺と一番相性悪い生き方じゃない?」
今さら気づいた。
俺が目指すべきなのは寝ない人間じゃない。
めちゃくちゃ気持ちよく寝る人間だ。
「逆だったかもしんねぇ」
削るんじゃない。
質を上げる。
いっぱい寝る。
気持ちよく起きる。
「そっちの方が俺らしいよな」
こうして黒瀬玲司、二十八歳のショートスリーパー生活は幕を閉じるのであった。




