第2話 異世界暮らしも楽じゃない!
「話が違うだろぉ!」
「いくら元運動部とはいえ、もう二十八のサラリーマンだぞ……はぁ、はぁ」
「いつまで走らせる気だよぉ!!」
「グルルルル!」
いる。めちゃくちゃいる。しかもちょっと楽しそうに見えるの何?
「しかし、それそれ限界だぞこれ」
異世界転移。チート能力。さっきまでは夢のある言葉だった。が今はもうどうでもいい。
「出口! 出口どこ!?」
曲がり角を抜ける。
行き止まり。
「あ」
「いや、あきらめるのはまだ早い」
「うわっ!」
横道に飛び込む。
「…………光?」
「あった!」
走る。明るい。眩しい。
「外!」
見たことのない色の木、知らない植物。
いや今はどうでもいい。
「逃げろ逃げろ!」
「はぁはぁ」
「いない」
「助かった……?」
膝に手をつく。心臓痛い。肺痛い。足痛い。全部痛い。
「異世界……厳しすぎない?」
まだ来て一時間も経ってないんだけど。
もう帰りたい。
いや。
「帰って寝たい……」
家の布団。枕。エアコン。カーテン閉めた部屋。
「昨日まで全部あったのに……」
木にもたれる。
異世界に来て最初に恋しくなるのが布団。
普通もっと家族とか友達とかだろ。
いや、それも恋しい。
「……で、どうすんだよこれ」
改めて周りを見る。
「どう見てもこれ異世界だよなぁ」
「あ、スマホ。」
ない。
財布。
ない。
服。
Tシャツ。スウェット。
「詰んでない?」
金なし。食料なし。地図なし。スマホなし。
あるのは寝巻きだけ。
「ここで死ぬのか…」
「そうだ、こっちの世界の人に助けてもらえばいいんだ」
「街を探すんだ街を」
◇◇◇
数時間後
「もう無理……」
腹減った。喉渇いた。足痛い。
「そういえば昨日、飯食ってないな」
寝るの優先した俺を殴りたい
「さっきのパンチは何だったんだ……はぁ」
ガラガラ。
「……ん?」
何か聞こえる。
「これは!」
「道!」
しかも。
「馬車……?」
木の荷台。馬。知らない服。
「マジで異世界じゃん……」
いや、ずっとそうだったけれども、こんなの見せられると一気に実感湧くな。
「すみませーん!」
「……お前、そんな格好で何してる?」
でかいおっちゃんだな。 五十代くらいか?
「それが俺にも分からなくて」
「は?」
「あはは……ですよね」
ことの経緯を伝えた。
「記憶でも失ったのか?」
「たぶん違うと思います」
「じゃあ、どこから来た?」
「日本です」
「ニホン?」
「あはは……ですよね」
通じない。
はい異世界確定。
「まあいい。乗れ」
「え?」
「この辺りは日が暮れると魔物が出る」
「乗ります!」
「ありがとうございます!」
異世界にもこんな優しい人がいて助かったぁ。
なんでこんなことで泣きそうなんだ俺。
彼の名前はゴルドン。
近くの町で雑貨屋やってるらしい。
馬車に揺られる。
これ結構いいな。
揺れ。
暖かさ。
緊張が解けて今日の疲れが一気に押し寄せる。
「…………」
「この辺って魔物多いんですか?」
「森に入ればな」
「もしかして魔法とかあったり?」
「そりゃあるだろ」
「おー、流石異世界」
「何言ってんだお前?」
「それで、お前これからどうするんだ?」
「そこなんですよねぇ……」
金なし。
家なし。
仕事なし。
知り合いなし。
あと。
「寝る場所もない」
「働き口ってあります?」
「その格好でか?」
「そんなに変ですかね?」
「怪しいぞ」
「あはは……ですよね」
「さっき、角の生えた犬を追い払ったといっていたな」
「えへへ、まぁ」
実際は逃げ回っていただけである。
「腕に覚えがあるなら、冒険者にでもなったらどうだ」
「冒険者?」
「冒険者も知らんのか」
「名前くらいなら」
出た。
異世界の定番。
「魔物を狩ったり、護衛したり、採取したり。依頼をこなせば金になる」
「なるほど」
「俺冒険者、やります」
「決めるの早いな」
「寝床がかかってるんで」
「まぁ、当然だな」
しばらく揺られていると
「おお……」
石造りの家。
ランプ。
知らない店。
めっちゃ異世界。
「ほら」
「え?」
「来い」
「どこに?」
「うちだ」
「……いいんですか?」
「今日だけだ。明日からは自分で何とかしろ」
「ゴルドンさぁん……!」
「なんだ、気持ち悪い顔するな」
「ゴルドンさぁん!」
「やめろ」
夕飯まで出てきた。
スープ。
パン。
「生き返る……」
「大げさだな」
「昨日の夜から何も食べてないんですよ」
「よくそれで森を歩けたな」
「魔物に追いかけられたので」
「元気じゃねえか」
「元気ではないです」
飯食ったら一気に眠くなってきた。
洞窟。
角犬。
森。
馬車。
異世界。
今日、情報量多すぎ。
もう寝たい。
「二階の奥が空いてる。そこで寝ろ」
「はい! ありがとうございます!」
「いいから、分かったら寝ろ」
「はい!」
ゴルドンさん。
言い方にはとげあるけど、なんだかんだすごく優しい人だなぁ。
社会人生活で負った心の傷に、優しさがしみるぜぇ……。
二階。
小さい部屋。
でも。
「……ベットだ」
倒れ込む。
ちょっと硬い。
でも今日一日を考えたら。
「こんなの高級ホテルじゃん……」
洞窟じゃない。
森じゃない。
屋根ある。
布団ある。
「この世界にも文明があってよかった……」
「異世界、か……」
明日起きたら自宅に戻ってたりするのかな。
戻ったら会社。
満員電車。
残業。
目覚まし。
「…………」
「こっちはこっちで、案外悪くなかったりして」
少なくとも明日の朝、アラームに叩き起こされなくていい。
眠くなるまで寝て。
起きたい時に起きる。
「……悪くないな」
◇◇◇
翌朝。
「ん……」
目を開ける。
知らない天井。
「夢じゃなかったか」
でも。
「よく寝た……」
体軽い。
頭すっきり。
一階へ降りると。
「おはようございます」
「起きたか」
「昨日は本当にありがとうございました」
「ああ。飯食ったら出てけよ」
「朝飯まで!?」
「食わずに行きたいなら止めん」
「いただきます!」
「じゃあ、本当にありがとうございました」
「ああ」
「この恩はいつか必ず返しますから!」
「いいから行け」
「はい!」
玄関のドアに手をかける。
「ん?」
ドォーーーン!!
「…………」
「…………」
ドアが蝶番ごと吹っ飛んでいた。
手を見る。
「…………昨日のあれ、夢じゃなかった?」
「ゴ、ゴルドンさん」
「…………」
「怒って、ない、ですよね?」
「お、お前……」
顔赤くなってる。
あ。
これダメだ。
「なんてことしてくれとんじゃぁぁぁぁ!!」
「ご、ごめんなさぁぁぁい!!」
異世界生活二日目。
こんな暮らしも悪くないかと思っていた矢先。
わたくし黒瀬玲司は、早くも借金を背負ったのでした。




