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私のことを一度も見なかった婚約者様へ  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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7/18

7 ミュージカル

リディアはヴァイオレットに手を引かれ、学園の中を歩き回っていた。

彼女がどこへ向かう気なのか、一体何をするのか、何の説明もされていない。



「ヴァイオレット、一体どちらへ行くおつもりですか……!?」

「詳しい話はあとで。今はとにかく私について来てください、リディア」



ヴァイオレットは振り返りざまに意地悪な笑みを浮かべながら言った。

彼女はその手を引いたままある場所まで来ると、立ち止まった。



リディアの目の前に広がったのは、学園の敷地内でも一際目立つ、大きな建物。

最後にこの場所へ来たのは、たしか第二学年が始まった始業式の日だったはずだ。



(ここって……パーティーとかが行われるホールよね?)



ヴァイオレットがリディアを連れて来たのは、アカデミー内で行われる式典のときに使うパーティーホールだった。

彼女は迷うことなく、扉を開けて中へ入って行く。



「ヴァイオレット、許可なく入ってもいいのですか……?」

「事前に学園長には許可を取っていますからご心配なく」



リディアはヴァイオレットについてホール内へ入った。

当然、中には誰もおらず、真っ暗だった。元々、式典があるとき以外は使われない場所なので当然である。



今は六月。特に大きな行事も無いため、誰もいないのはおかしなことではなかった。

一体何の用でここまで来たんだろう。リディアは疑問に思いながらも、前を歩くヴァイオレットについて行った。



煌びやかなホール内には、奥の方に舞台装置がセッティングされている。

ヴァイオレットは舞台裏へ続く扉を開き、奥にあった幕をめくり上げた。

真っ暗な中、ようやく明るい光が見えた。



「さぁ、中に入ってください!」

「は、はい……」



リディアは戸惑いながらも、腰を曲げて幕の下を潜った。

そこで、彼女の目の前に広がったのは――



「わぁ……素敵……」



リディアは思わず、感嘆の声を漏らした。

舞台裏に足を踏み入れたリディアの目に入ったのは、マネキンに着せられた華やかなドレスだった。

他にも多くの衣装が飾られている中でも、そのドレスは一際目を引いていた。



スカートがフワッとしたプリンセスラインの真っ白なドレスには、裾の部分に花柄のレースがあしらわれている。

腕の部分にはオフショルダーのビショップスリーブが、透け感のあるチュール素材で加えられている。

全体のレースが上品な印象を与える、大変目を引きつけるドレスだった。



まるで結婚式で着るかのようなその白いドレスに、リディアは思わず見惚れていた。



「どうですか?とっても綺麗でしょう?」

「はい、まるでどこかの国のお姫様みたいです……」



私もいつかあんなドレスを着る日が来るのだろうか。

素敵……と一生に一度の晴れ舞台を想像したリディアに、ヴァイオレットが声をかけた。



「――リディア、一度あのドレスを着てみませんか?」

「……わ、私がですか?」



あんな綺麗なドレスを私が?

リディアは驚いて目を見開いた。



「私、あのドレスがリディアによく似合うと思うんです」

「そ、そうでしょうか……?」

「ええ、きっとよくお似合いになられますよ!ですから是非着てみてください!」



彼女はヴァイオレットの押しに負け、そのドレスを試しに着てみることにした。

一人でドレスを着るのは難しいので、ヴァイオレットの手を借りながら。



(もしかして、最初からそのつもりで私をここへ連れて来たのかしら……?)



彼女はドレスに腕を通しながら、背中の紐を止めるヴァイオレットの顔を見つめていた。口元にいつものような穏やかな笑みを浮かべていて、何を考えているのかわからない。



どうせ似合わない――と思っていたリディアとは対照的に、ヴァイオレットは歓声を上げた。



「――やっぱり、とってもお似合いですわ!」

「…………え?」



リディアは近くにあった姿見の前に立ち、ドレスを着た自身の姿を眺めた。

たしかにいつもより顔色が良く見えるし、気のせいか普段好んで着ている鮮やかな色のドレスよりも華やかに見える。

その姿は、まるで本物のお姫様のようだった。



ヴァイオレットは嬉しそうに声をかけた。



「リディアは肌が真っ白ですもの、白色がよく似合いますわね」

「ほ、本当ですか……?」



今まで、リディアは綺麗だの社交界の華だの数多くの称賛を受けてきた。

しかし、それはあくまでフロイト家の一人娘である彼女にすり寄ろうとする者たちの表向きの言葉に過ぎない。



そのことを知っていてか、リディアは社交界の華という自身の呼び名があまり好きではなかった。彼女はどちらかというと暗く陰鬱な性格で、華という例えは似合わないと、ずっとそう思っていたからだ。



リディアは嘘偽りのない瞳で自身を褒めちぎるヴァイオレットに尋ねた。



「ヴァイオレット、このドレスって一体何に使うものなのですか?」

「ああ、これはですね……」



彼女の質問に答えるため、ヴァイオレットは室内にある机の上に置かれていた一冊の本を手に取った。

その表紙には、リディアが今着ているドレスを着用した美しい女性の肖像画が描かれていた。



そしてその画の上には、『王妃リリアーヌ』という文字が大きく記載されている。

もしかして、あれは――



「――私が作・演出を務めるミュージカルの主人公である王妃が着るドレスですわ!」

「ミュージカル……?」






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