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私のことを一度も見なかった婚約者様へ─私もあなたを見るのをやめることにしました─  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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38/40

38 不幸は続く

その日、天気は大雨だった。

リディアは一限終わりに、窓から外をじっと眺めていた。



どんよりと暗い曇り空から、雨が降っている。

久しぶりの豪雨だった。最近晴れが続いていたせいか、生徒たちのテンションも自然と下がっている。



リディアはつい先日、ハルクから伝えられた言葉を思い出していた。



『ヘンリーから何か連絡があったら、すぐに君に伝えるから。俺からも一応オルトレーン皇家に書簡を送ってはいるけど……あまり期待はしないでくれ。アイツが本番に間に合わないことを前提として、練習を進めたほうがいいだろう』



ヘンリーと同居していたハルクですら、彼がいつ帰ってくるかはわからないという。

それどころか、二度と帰らない可能性のほうが極めて高いとのことだ。



「私、どうすればいいんだろう……」



リディアはかなり深刻に悩んでいた。

ヨーク令息との仲も上手くいっていないおかげで、このところ彼女の歌やダンスは不調となっていた。

そのせいで令息からは罵倒され続けていた。



――もし、隣にいるのがヘンリーだったら。

公演まで残り数日となった近頃、彼女はそんなどうしようもないことばかりを考えてしまっていた。



エリオットとの婚約破棄の件も、話は全く進んでいない。彼がまともに取り合おうとしないため、彼女はいつまでもエリオットの婚約者という立場だった。



(……何だか最近、上手くいかないことのほうが多いような)



今日も放課後、演劇部の稽古がある。

相手はもちろんヘンリーの代役となったヨーク令息だ。



――そして、新たな問題がまた一つ起きてしまった。



「いくら探してもどこにもないわ……どうしてなの……?」



昼休み、リディアは演劇部の部室でとあるものを探していた。

公演が近いこともあり、部室には劇で使うドレスや装飾品、小道具などが並べられていた。



彼女はお昼を食べるのも後回しに、必死の思いで探し物をしていた。

しかし、引き出しや机の下をどれだけ探しても、一向に見つからない。



「どうして急になくなってしまったんだろう……」



リディアは一人きりの部室で、俯いた。

彼女が探していたのは、王妃リリアーヌが劇内で着用するネックレスだ。

幼い頃に母を亡くしたリリアーヌは、形見であるネックレスをいつも身に着けているという設定がある。



数日前までは、たしかに装飾品を集めたボックスの中に大切にしまわれていた。

しかし、今はどこにもない。もちろんリディアはこっそり持ち出してなどいないし、練習が終わるといつも箱の中に戻していた。



「なくしたことがバレたら……大変なことになってしまうわ……」



自分のせいでなくなってしまったのだから、自分で何とかしなければ。

責任を感じたリディアは、市場で似たような形のものを探した。



しかし、ヴァイオレットオリジナルのネックレスであるせいか、探したところで見つからなかった。

リディアの瞳の色とそっくりなペアシェイプカットの宝石があしらわれたチェーンのネックレスは、すぐに手に入るようなありきたりなものではなかった。



だが、リディアが予期せぬ状況に見舞われたところで、公演の日程は変わらない。

部員全員が忙しくしていることもあり、リディアは正直にネックレスの紛失を打ち明けることができなかった。



何とか代わりを探そうと、彼女は寝る間も惜しんで似たものを探し続けた。

そのせいで寝不足になってしまったものの、他の部員たちに手間をかけさせるよりかはマシだった。



気付けば、リディアは以前のように誰も頼ることのできない性格に戻ってしまったのである――



***



「――アデル、演劇部の部室からネックレスは持ってきた?」

「え、ええ……あんなもの、何に使うのよ……」



リディアが紛失したと思っていたネックレスは、実はエミリーの手元にあった。

彼女は手下も同然のアデルを使い、部室からこっそりネックレスを盗ませたのだ。



アデルは嫌な予感がしながらも、エミリーの命を断ることができなかった。

彼女から見放されてしまえば、エリオットとの関係が自然と切れることになるからだ。

エミリーは、そんなアデルの好意を利用した。



「ご苦労様、アデル。ご褒美として……エリオット様とのデートをセッティングしてあげてもいいわ」

「ほ、本当!?嬉しいわ……!」



アデルもマイラも、望むことのためなら何でもする人間なのだ。

他者を貶めることなど、彼女らにとっては朝飯前だった。



そもそもアデルとマイラは、自分の幸せのためなら何でもやってのけるというエミリーの考えに共感して彼女と関わるようになったのだ。



「フフフ……リディア・フロイト……アンタはもう終わりよ……」



エミリーは不気味な笑みで呟いた。

エリオットとの初デートに浮かれているアデルは、いつもと違う彼女に気付いていない。



「アンタの初舞台を台無しにしてあげる……」



エミリーの企みになど、リディアは当然気付いていなかった。

悪の手は、着々と彼女に伸び始めていた――




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