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私のことを一度も見なかった婚約者様へ─私もあなたを見るのをやめることにしました─  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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24 切っても切れない関係 エリオット視点

エリオットは冷たい目で、エミリーを見下ろしていた。

その瞳には、彼女への愛情なんて微塵もない。



「……俺たちはそういう関係ではないだろう?」

「どうでしょうか、アカデミーにいるみんなは私たちが恋愛関係にあるって思ってるみたいですよ?」



エミリーはエリオットの腕にそっと触れた。

彼は不快感を隠しきれず、彼女の手を引きはがした。



アカデミーにいるときは絶対にそのような真似はしないが、二人きりともなれば話は違う。

エミリーはそんな彼の対応にショックを受けながらも、抗議することはしなかった。



「エリオット様、あなたは私を見捨てることは絶対にできない。あなた自身もよくわかっているでしょう?」

「……」



エミリーは彼の耳元で囁き、その一言で彼の表情が曇った。

彼女の言う通り、エリオットは彼女に対して強く出ることはできなかった。



彼は何もできずに言いなりになる自分に嫌気が差し、拳を握りしめた。



「今日は一人で帰りますけど……次は送って行ってもらいますから」

「父上に言いつける気か?」



エリオットの問いに、エミリーは口角を上げた。

彼が父親に対して頭が上がらないことを知っていて、否定も肯定もしないのだ。何ともずる賢い女だと、彼は感じた。



エミリーは笑顔で手を振りながら去って行く。

彼女が昔からエリオットを想い、彼の妻の座を狙っていることは誰から見ても明白だった。



しかし、エリオット自身はエミリーに何の感情も抱いていないどころか、嫌悪すらしていた。

ではなぜ、そんな彼が彼女に優しくし、傍に置き続けているのか。

それにはローレンス公爵家の深い事情が関係している。



――エミリーとの関係は、エリオットにとっては切りたくても切れないものだった。



エリオットの生まれたローレンス公爵家は西に広大な領地を持ち、当主である公爵は数々の事業を展開させる敏腕実業家だった。

そんな彼の父親には、常に女性の影が付きまとった。王国内でも有名人である父は、異性からの人気がかなり高かったのだ。

母は父の不倫に悩んでいて、毎日のように泣いていた。



『エリオット……ごめんね……』



母はその一言を最後に、自ら命を絶ってしまった。

優しかった母は精神的に弱く、夫の不貞に耐えることができなかった。



母が亡くなってから数ヵ月後、父はエリオットの前にある母娘を連れてきた。

桃色の髪をした、華奢で庇護欲をそそる愛らしい女性。年齢は父よりも少し年下くらいだろうか。



『初めまして、エリオット公子。イブリンと言います』

『……』



イブリンと名乗った彼女の赤い唇が、弧を描いた。胸元を大胆に開けた低俗な服装と振舞いに、エリオットは嫌悪感を隠すことができなかった。

そして、その横には彼女にそっくりな小さな娘がいた。



『初めまして、エミリーです』

『……』



エリオットはただ、呆然と二人を見つめていた。

後に、イブリンが父の一番お気に入りの愛人であることを知った。



エミリーは二人の間にできた娘……ではなく、どうやらイブリンの連れ子のようだった。

しかし、自ら命を絶った母はエミリーが父の婚外子であると誤解したのだという。



元からあまり家に帰らず、母とは疎遠になっていた父のことだ。母が勘違いしてしまうのも仕方が無かった。



それから、エミリーは何を思ったのかエリオットに執拗に絡んでくるようになった。

母親からエリオットの妻の座を狙い、公爵夫人になれとでも言われているのだろうか。イブリンは公爵夫人の座を狙っていたが、いつまでも正式な妻になることはできなかった。



父は母の死後、愛人たちを誰一人その座には就けなかったからだ。

亡くなった母に配慮しているのか、それともただ色んな女と遊んでいたいだけかはわからない。



しかし、母が死んだのは間違いなく父とその愛人たちのせいだ。

父の一番のお気に入りだったイブリンとその娘のエミリーは、自然と憎悪の対象となった。



だが、エミリー母娘が父の寵愛を今でも受けている以上、エリオットは彼女を蔑ろにすることができなかった。

毎日馬車で送っているのも、昼食を共にしたり、勉強を教えているのも、彼が望んでしていることではない。

しかし、断ってエミリーが父に言いつけでもしたらエリオットが叱られるのは目に見えている。



エミリーは連れ子ではあるものの、父はイブリンにそっくりで美しい彼女のことを実の娘のように可愛がっていた。実の子であるエリオットよりも、ずっと。

王都で彼女が住むアパートの家賃はローレンス家が払い、毎月高価な贈り物までしているほどだった。



母にはプレゼントなんてほとんどしたことないくせに、愛人たちには多額の出費を惜しまない。

エリオットは父に対する反感を抱いてはいながらも、何もすることができなかった。



――そして、リディアに冷たく接しているのにも、実は父親が関係していた。




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