23 二人の本当の関係は……?
カフェを出る頃には、ちょうど観劇の時間となっていた。
二人で一つの大きなパフェを食べて観劇前に腹ごしらえをしたリディアとヴァイオレット、そしてコーヒーだけを頼んだヘンリー。
結局、エミリーたちは太るのを気にしてか紅茶とクッキー一枚を食べただけだった。
リディアはカフェの前でエミリーたちと向かい合って挨拶をしていた。
「リディア様、他の皆さんも。今日は私の誘いに乗ってくださってありがとうございました。おかげでとっても楽しい時間を過ごせました」
「……いえ、こちらこそありがとうございました。楽しかったですわ」
リディアは貼り付けたような笑みで言葉を返した。
後ろにいるヴァイオレットも外面だけはきちんとしているものの、エミリーたちに対する敵対心を隠せていない。あのようなことを続けて言われたのだから、そうなるのも当然だった。
「では、私たちはこのあと観劇があるので失礼しますね」
「ええ……学園でお会いできるのを楽しみにしています」
本当は二度と会いたくは無かったが、エリオットがいる手前そのようなことを言うわけにもいかず、リディアはただ笑い返した。
そのまま彼女はヘンリーとヴァイオレットと共に、四人の前から立ち去った。
「会うのは二回目だけれど、やっぱりとんでもない女ね。アイツ」
「ええ、そうね……どうしてエリオット様があのような人たちと一緒にいるのか……」
愛しているからと言われればそれまでだが、いくら何でも趣味が悪すぎるのではないか。
いくら平民でも、もっとまともな人間はたくさんいるだろう。
(それに、今日のエリオット様は何だか変だったわ……私の味方をするだなんてらしくないし……)
冷たかったはずのエリオットの些細な変化に、リディアは戸惑いを隠しきれなかった。
急にあのようなことをされると、何か裏で企んでいるのではないかと疑ってしまうほどだ。
「――そろそろ劇場に着くわ、リディア、ヘンリー!」
ヴァイオレットのその一言で、リディアは顔を上げた。
すると、目の前に城のような大きな建物が広がった。敷地内に青と白を基調とした大きな建物が一つ、その横には同じ系統の小さな劇場が併設されていた。それは、煌びやかな王都の中でもかなり目立つ。
「ここが……」
王国内で最も有名な劇団が本拠地とする、王都にある大劇場。国内でも最大の座席数、年間動員数を誇るホールだ。
「さぁ、行きましょう二人とも。お母様が演出を務めているのよ、きっととっても面白いはずよ」
「……ええ、そうね」
リディアは笑顔で頷き、ヴァイオレットの後について行った。
そしてその後を追うように、ヘンリーが劇場内へ足を踏み入れた。
***
その頃、エリオットとエミリーたちは未だにカフェの前にいた。
人気商品のスイーツを一つも頼むことなく、ほとんど紅茶だけで終えたマイラがポツリと呟いた。
「お腹空いた……」
その言葉に、エリオット以外の二人が心の中で同意した。
リディアとヴァイオレットが頼んだパフェは、見るだけで食欲をそそられた。自分も頼めばよかったと、深い後悔に苛まれたのは内緒だ。
あんな風にリディアたちを馬鹿にしたあとで、私もパフェを食べたいなんて言えるはずが無かった。
「……お腹が空いたから、今日はもう帰ることにするわ。エミリー、アデル」
「……そ、そうね……私も」
マイラとアデルはエミリーとエリオットの二人を置き去りにし、そのまま学園へ戻って行った。貴族令嬢である彼女たちは、そこに家からの迎えの馬車が来ているのだ。
愛するエリオットをエミリーと二人きりにするのは不快だったものの、空腹に耐えられなくなったお腹の音を彼に聞かれるのだけは避けたかった。
そのため、二人はそそくさとその場を立ち去った。
「……みんな、行っちゃいましたね」
「……そうだな、よっぽど腹が減っていたのか」
エミリーの呟きに、エリオットが反応した。
今二人の間に流れている空気は、少なくとも相思相愛の恋人同士のものではなかった。
「俺は帰る、お前もさっさと家に戻れ」
エリオットはすぐにそれだけ言うと、彼女の前から立ち去ろうとした。
しかし、去ろうとする彼の腕をエミリーが掴んだ。
「……送って行ってくれないんですか?」
「……」
その問いに、エリオットはピタリと足を止めた。本来ならば、平民が公爵令息に対して言うようなことではない。口にするだけで不敬罪になるような発言だった。これまでは相手がエミリーだから許されてきたことだった。
しかし、今回は違った。
「……」
ゆっくりと振り返って彼女を視界に入れたエリオットの瞳は、異様なほど冷たかった――
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