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私のことを一度も見なかった婚約者様へ─私もあなたを見るのをやめることにしました─  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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21 ダブルデート?

王都を歩いていたリディアたちに声をかけたのは、エミリーだった。

制服姿の彼女は、リディアやヴァイオレットたちと同じように、学校帰りに王都に遊びに来たのだろう。



エミリーはリディアを見ると、嬉しそうに顔を輝かせた。



「わぁ、やっぱりリディア様だったんですね!こんなところで会うなんて奇遇ですねぇ!」

「……ええ、そうですね」



まるで会いたかった、とでも言いたげな表情だ。

当然、リディアはエミリーに会いたいなどとは思っていない。



彼女の後ろでは、ヘンリーがエミリーを真顔で見つめていた。

彼は一個下の彼女のことを知らないのかもしれない。



「リディア様はどうしてこちらへいらしてるんですか?お一人ですか?」

「……いいえ、二人の友人と一緒に来ています」



毎回思うことだが、エミリーの目は節穴なのか。

どう見ても後ろにヴァイオレットとヘンリーがいるこの状況で、何故リディアが一人などと思えるのだろう。



「あらぁ、リディア様に友人なんていたんですね!私、初めて知りました!」

「……」



平民が高位貴族の令嬢に取るとは思えないような発言である。

エミリーはきっとエリオットの後ろ盾があるからと、調子に乗っているのだろう。



「――エミリー、何をして……って、何故お前がここにいるんだ?」

「……エリオット様?」



そのとき、やって来たのはエリオットだった。そしてその後ろにはいつものメンバー、マイラとアデルもいる。二人はリディアの姿に、眉をひそめた。



「リディア様?人違いじゃないの?」

「エリオット様の婚約者様がどうしてここに……」



「……」



まるでリディアを責めているかのような眼差し。

マイラとアデルはエリオットに惚れているので、婚約者である彼女に対してそのような反応になるのは当然かもしれない。



しかし、彼女たちはあくまでも下位貴族であり、リディアは名門侯爵家の令嬢。いくら学園内では平等とはいえ、最低限の礼儀は守るべきではないのだろうか。



リディアはヴァイオレットとヘンリーを連れてさっさと離れようとした。しかし、エミリーがそれを阻止するかのように口を開いた。



「あっ、そうだぁ!私、良いこと考えたぁ!」

「………オブライトさん?」



エミリーはニヤリと口角を上げてリディアを見つめた。

何だかとても嫌な予感がする。



(何か、何かとんでもないことを言われるような……)



そしてその予感は、的中してしまう。



「――せっかくこうして会えたんですから、みんなで一緒にカフェにでも行きましょうよ!人数は多い方が楽しいし!」



その一言により、場が一瞬で凍り付いた。

エリオットはピクリと眉を上げ、ヴァイオレットやヘンリーも全く笑っていない。当然、エミリーはそんなこと気付きもしないまま浮かれた様子で言葉を続けた。



「リディア様もいるんだし、ダブルデートみたいで楽しそうじゃないですか!」



ダブルデート?彼女は一体何を言っているのか。

リディアだけではなく、ヴァイオレットとヘンリーも呆気に取られていた。



エミリーはエリオットの腕を掴み、ブンブンと揺らした。



「ねぇ、いいでしょう?エリオット様!」

「……あぁ、そうだな。俺はどちらでもかまわないよ」



エリオットは表向きには笑みを浮かべていたが、目は全く笑っていなかった。愛するエミリーの願いなら叶えるが、リディアがいるのは不快という意味だろう。



「エリオット様もそう言ってくれていることだし!リディア様と……えっと、ヴィオレットさんでしたっけ?」

「……ヴァイオレットよ。挨拶がまだだったかしら」

「あ、そうでした!私ったら、ごめんなさぁい」



エミリーは侯爵令嬢の名前を間違えるという失態を犯したにもかかわらず、悪びれる様子も無くエヘヘッと笑った。

ヴァイオレットの額に青筋が浮き出たが、そんなのお構い無しだ。



「カールトンさんも行きましょう!人数が多い方がきっと楽しいですよ!」

「……俺はどうでもいい」



ヘンリーはあくまでも行くか行かないかは二人に任せるという考えのようで、リディアとヴァイオレットの方をチラリと見た。



(ヴァイオレットは知らなかったくせに、ヘンリーはちゃんと知っているのね)



リディアは当然、この無礼者の誘いになど乗るつもりは無かった。周囲の目が気になるものの、ここはきちんと断りを入れよう。そう思って口を開こうとした。

しかし、ヴァイオレットの考えは彼女とは違った。



「――ええ、是非行かせていただきますわ。とっても楽しくなりそうですもの」

「ヴァ、ヴァイオレット……!?」



彼女はリディアの前に出ると、自身より背の低いエミリーを見下ろして笑った。

その笑みは明らかに深い意味が込められているが、元々お花畑な彼女は特に気にすることも無く、純粋に喜んだ。



「やっぱり、ヴィオレ……ヴァイオレット様ならそう言ってくれると思ってました!早く行きましょう、皆さん!」



二度目の間違いに、ヴァイオレットの表情は凍り付いた。



(この女、メンタルが強すぎるわ……!)



リディアは見た目からは想像もできないエミリーの強かさに驚愕した。

それからリディアとヴァイオレットとヘンリーの三人は、エミリーたちについて行って近くのカフェへ向かった。




読んでくださってありがとうございます!


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