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紅き瞳は夜に溶ける  作者: かな
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18章【嘘吐きの騎士と優しすぎる魔女 ~揺らぐ信頼~】


どれほど血を吐くような努力を重ねようとも、決して届かない境界がある。

それを、アルベールは幼い頃に知ってしまった。


人間が一生を賭して磨き上げる力など、神に愛された“魔女”という存在の気まぐれな指先一つに遠く及ばない。

人の理でどれほど頂点を極めようとも、彼女たちの持つ絶対的な力の前では、すべてが砂の城のように脆く、儚い。


届かないのなら、奪えばいい。


自分のものにできないのなら、あらゆる手段を使ってその身に溶かし込み、己を完成させればいい。


――そうすれば……あの人は僕を認めてくれる




コンコン、と静かなノックの音が執務室に響く。


「失礼します、アルベール様」


姿を現したのは、影のように従う部下だった。


「例の、干上がった水源の村についての報告です」


アルベールは手元に広げていた古びた書物から、ゆっくりと顔を上げた。その端正な顔立ちには、冷徹なまでの知性が宿っている。


「精霊はちゃんと“魔獣”に変化したかな?」


「いえ、それが……

精霊の瘴気は完全に払われ、水源は瑞々しい清流を取り戻したとのことです

さらに、“終焉の白”が自ら正体を明かし、村人たちに強烈な畏怖を植え付けた、と」


部下の言葉に、アルベールは驚く風でもなく、ただ満足そうに口元を歪めた。

あの村の水源が細くなり、精霊が瘴気に呑まれて歪んでいったこと。

それすらも、すべてはアルベールが仕組んだ「実験」の駒に過ぎなかった。


神に見捨てられ、人間に忘れ去られた土地の守護神が、瘴気によってどれほどの魔獣へと変貌するのか。そして、そこへ“魔女”たちが介入した時、一体どのような反応を示すのか。




「“終焉の白“は、精霊を助けたんだね……優しい魔女だ」


アルベールは椅子の背もたれに深く身体を預け、天井の闇を見つめた。


「で、他にはないのかな?――面白い報告は」


「はっ、……あります

エミリア様のことでございます

彼女の祈りによって、精霊に入り込んでいた瘴気が、一瞬にして跡形もなく消滅したとのこと

エミリア様の力は、肉体の治療ではなく、世界の本質を洗い流すほどの……」


「——浄化、か」


アルベールが部下の言葉を遮るように呟く。その瞳に、狂気にも似た昏い歓喜の光が灯った。

帝都で「傷一つ治せない無能」と蔑まれていた彼女。あのまま殺すにはもったいないと思い、捨て駒として放り出した。


“瘴気”そのものを根こそぎ消し去る、規格外の力。



「素晴らしいね……」


エミリアは今頃、自らの力に戸惑っているだろう。

あの力を見た者達も、放ってはおけまい。


そのすべての光景が、まるで目に見えるかのようにアルベールの脳裏に広がっていた。


「ディア……君のその至高の魔女の力と、エミリアのすべてを洗い流す光

それらが交わった時、一体どれほどの奇跡が私の手元に遺るだろうか」



アルベールは静かに立ち上がると、窓の外、ディアたちがいるであろう遥か彼方の地平を見つめて微笑んだ。




ディア――

君はどこまで優しくいられるのだろうね?



■□■□


帝都に到着したディアたちを待ち受けていたのは、歓迎の歓声ではなく、街を包む異様なまでの静寂と、騎士達の怒号だった。


『皇帝陛下が崩御された!』


『犯人は第二皇子、レオニス・ルクシアだ』


『見つけ次第、生死を問わず拘束せよ!』




馬車の窓から外の様子を伺っていたシーナが「検問があるわ」と呟いた。


レオンは、フードを深く被ったまま、きつく拳を握りしめて唇を噛み締めていた。


「……嵌められたな

今動けば一瞬で囲まれる」


「ひとまず、私の屋敷へ

あそこなら一般の民家に偽装してありますし、人目につきにくい裏路地にあります

潜伏するには丁度いい」


テオの冷静な先導により、騎士の目を盗んで、帝都の片隅にあるテオの私邸へ向かうことになった。


「ちょっと待てって!」


屋敷に入ると、セオドールが納得いかないといった風に声を荒らげた。乱暴に頭を掻きむしりながら、フードを被ったままのレオンを睨みつける。


「なんで俺たちまでこんなコソコソ隠れなきゃいけないんだよ?

探されてんのは『レオニス』とかいう第二皇子だろ?

だったら俺たちには関係ねぇじゃねぇか」


「静かにしてください」


テオが冷淡な声でそれを遮り、眼鏡の奥の目をすっと細めた。


「今の帝都は、皇殺しの犯人を捕らえるために過敏になっています

特に、我々のような“余所者”は、真っ先に疑いの目を向けられる」


「それは……そうだけどよ……」


セオドールは渋々といった様子で口を尖らせたが、隣に立つフィオナが「セオドールさん、テオ様の言う通りです、今は慎重になりましょう」と袖を引くと、それ以上は言葉を飲み込んだ。


レオンはそのやり取りを、ただ黙って、フードの陰からじっと見つめていた。

拳を握りしめ、自分が仲間を巻き込んでいるという罪悪感と、正体を明かせないもどかしさに、その奥歯を強く噛み締める。


「……すまない、セオドール

お前の言う通りだが、俺の判断が甘かった

大人しく、ここに潜むのが最善だ」


「なんでレオが謝ってるんだよ?」


セオドールはレオンの肩をガシガシと叩き、早くこの重苦しい空気を振り払いたそうに息を吐いた。




「皆さん、道中泥のように疲れているでしょう?

現時点で無闇に動くのは自殺行為です

今夜はひとまず身体を休め、情報を集めるのは明日の朝にしましょう」


テオはそう言って、シーナたちやレオンにそれぞれ部屋を割り振り、温かいスープを振る舞った。張り詰めていた空気が、屋敷の安全な静けさによって、少しだけ緩む。


「……ディア様」


スープを運ぶ際、テオはレオンやヴァルの目を盗み、ディアの手のひらに小さな紙切れを滑り込ませた。

そこには、丁寧な文字でこう書かれていた。


『今夜、皆が寝静まった頃に部屋へ伺います

レオン様を救うための話をしましょう

誰にも見つからないように』


ディアは小さく息を呑んだが、まっすぐにテオを見つめ、静かに頷いた。

夜が更け、屋敷が完全な闇に包まれる。

ディアに割り振られた部屋の前の廊下には、ヴァルが壁に背を預け、腕を組んで佇んでいた。


――だが。


ベッドの脇の壁が、音もなくスライドした。

驚いて振り返ったディアの前に現れたのは、小さなランタンを手にしたテオだった。


「……テオ」


「静かに

この屋敷は元々、いざという時のために隠し通路が作ってあるんです」


テオは眼鏡の奥の瞳を悪戯っぽく細め、シーッと口元に指を立てた。


「レオン様を嵌めたアルベールの動向を探るには今、動くしかありません

大男たちを引き連れて歩けば一発で露見します」


「……でも、みんなに話さなくていいの?」


「ディア様

これは私と貴方だけの、秘密の作戦です」


ディアは、扉の向こうにいるヴァルや、隣の部屋で苦悩しているであろうレオンのことを想い、きゅっと拳を握りしめた。


「……レオンを、助けられる?」


テオは嘘くさい笑みを消し、冷たい瞳でディアを見つめて告げた。


「助ける為に行くのです」


ディアはテオの手を取り、暗い隠し通路の奥へと、音もなく足を踏み入れた。


■□■□


二人の気配が遠ざかっていく。

部屋の前に立つヴァルは、それを追うこともなく静かに目を閉じた。

隠し通路の存在など、とっくに気付いている。


「……好きにしろ」


吐き捨てるように呟く。

ディアは、一度決めたことを曲げない。

無理に止めれば、今度は自分の目を盗んででも動くだろう。


だから止めない。


ただ――。


赤い瞳が、暗闇の向こうを静かに見据える。


助けを求める声が届けば、いつでも駆けつけられる場所で。

ヴァルは壁に背を預けたまま、再び目を閉じた。



■□■□


深夜の帝都は、昼間の喧騒が嘘のように冷たい静寂に包まれていた。

街灯の光すら届かない細い裏路地を、テオの持つ小さなランタンの薄明かりだけが、二人の足元をぼんやりと照らしている。


ひんやりとした夜風に、ディアは自分のローブを少しきゅっと引き締めた。

前を行くテオの背中は、いつもと変わらず物静かで、どこか掴みどころがない。

しばらく無言で歩いていたテオが、ふと足を止めずに、前を向いたまま静かに口を開いた。


「ディア様

……もしも――私が貴方達を利用していると言ったら、どうしますか?」


その声は、冗談のようでもあり、同時にディアを試すような冷徹な響きを孕んでいた。

いつものテオなら、そんな本音を匂わせるような質問は絶対にしない。


誰もいない、夜の闇がそうさせたのかもしれない。


けれど、テオの発言に、ディアは考える間もなく即座に答えた。


「しないよ」


あまりにも迷いのない小さな声に、テオの足が、ピタリと止まった。

テオはゆっくりと振り返る。

ランタンの逆光で顔はよく見えないが、眼鏡の奥の瞳が、驚きに微かに見開かれているのが分かった。


「……根拠はあるのですか?

私は自分で言うのも何ですが、お世辞にも善人とは言えませんよ」


いつもの嘘くさい微笑を浮かべようとするテオに、ディアはまっすぐな瞳を向けた。


「……だって、テオがレオンを見ている時、ヴァルと同じ瞳をしてるよ?」


「ヴァルディス様と同じ……ですか?」


「うん、大切な人を見つめる視線

……親が、子を想うような、あたたかな視線」


「――っ」


テオの息が、一瞬だけ止まった。


「フィオナちゃんも、シーナちゃんにも……すごく優しい視線向けてるの」


ディアには、魔女の力なんてない。ただの普通の人間だ。

だからこそ、誰よりも“人間の心の温かさ”に敏感だった。


いつも冷たい言葉ばかり口にするテオが、どれだけ不器用に仲間たちを、そしてレオンを見守っているか――ディアは知っている。


「……」



テオは言葉を失い、ただ静かに佇んでいる。


「だから、テオはしないよ

私のことは、まだ信用できないかもしれないけど……

少なくとも、レオンを傷付けることはしないでしょ?」


ディアの、一切の疑いを持たない純粋な信頼。

テオはしばらくの間、何かを深く、深く噛み締めるように黙り込んでいた。



「……どうして、そんなにレオンを守るの?」


不意に問われて、テオは少しだけ目を伏せた。


夜風が静かに吹き抜ける。


「……昔、約束したんです」


「約束?」


ディアが首を傾げる。


テオは小さく息を吐き、どこか懐かしいものを見るように微笑んだ。


「ええ、大切な人との約束です」


その声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


「その人は、もういませんが」


「そうなんだ」


ディアはそれ以上聞かなかった。

聞かなくても、その人がテオにとってどれほど大切なのか分かったからだ。



テオは、小さく、本当に小さくため息をつくと、いつもの貼り付けたような笑みではない――酷く静かで、どこか寂しげな笑みを浮かべた。


「……ディア様」


テオはそっと腰を落とし、ディアの小さな目線に合わせるようにランタンを掲げた。


「これから先、私は『嘘吐き』になります」


それは、『嘘』を吐き散らす前に、目の前の純粋な少女にだけ差し出した、唯一の真実。



「――ですが、これだけは信じてください」


ランタンのオレンジ色の光の中で、テオの瞳が、今までで一番強く、まっすぐな光を宿す。


「私は――レオニス殿下を護ります」


それだけは、何があっても変わらない。

テオの瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


レオンが“レオン”としてディアたちの隣で笑っていられるように、自分が泥を被ってでも、その未来を護り抜くという、彼だけの絶対の誓い。


「うん……知ってるよ、テオ」


ディアが嬉しそうに、ふわりと微笑む。

テオは眩しいものを見るように一度だけ目を細めると、前を歩き出した。

その背中は、先ほどよりも少しだけ、ディアとの距離が近くなったように感じられた。


■□■□


近衛兵の巡回ルートを完全に把握しているテオの案内により、二人は帝都の最奥――厳重に封鎖されているはずの皇家の霊廟へと足を踏み入れていた。


ひんやりとした大理石の床、高くそびえるアーチ型の天井。

香が静かに焚かれ、石壁には歴代皇帝の紋章が刻まれていた。

その最奥には、崩御したばかりの先代皇帝が眠る、巨大な白石の棺が鎮座している。



主を失ったばかりの部屋には、未だ死の気配と、不自然なほどの静寂が満ちていた。

その棺のすぐ傍らに、一人の男が背を向けて立っていた。

月明かりがステンドグラスを透かして、男の美しい金髪を照らし出す。



男はまるで自分の庭を散策するかのような悠然とした態度で、亡き皇帝の棺にそっと触れていた。



カチャ、とテオがわざと小さく足音を立てる。

アルベールは振り返る風でもなく、ただ低く、心地のよい声で闇に向かって語りかけた。


「遅かったね、テオ

近衛の目を掻い潜るのに手間取ったのかな?」


「まさか……彼らの動きなど、私の手にかかればただの時計仕掛けの人形と変わりませんよ」


テオはいつもの、張り付いたような嘘くさい微笑を浮かべながら前へ進み出る。そして、棺の前に佇むアルベールに向けて、恭しく一礼してみせた。


「アルベール様……お望み通りに、“終焉の白”をお連れしました」


テオがそう言って、自分の後ろの影を視線で示す。

そこには、フードを深く被り、息を殺して立っているディアの姿があった。

テオの言葉に、ディアの身体が一瞬だけ強張る。


道中、「レオンを護る」と誓ってくれたテオの横顔は、今は冷酷な『裏切り者』のそれにしか見えない。



アルベールはそこで初めて、ゆっくりと二人の方へと向き直った。

その瞳には、狂気と、歪んだ歓喜の光が昏く揺らめている。


「やはり君は有能だね」


アルベールはディアの姿を値踏みするように見つめ、その口元を邪悪に、美しく歪めた。

そして、静かに歩み寄り、ディアの数歩手前で足を止めた。



「初めまして、優しい魔女様」


その声音は、獲物を優しく撫でるような甘さを孕んでいる。


「――フードを取って、その顔を見せてはくれないかな?」


ディアは喉の奥で小さく息を呑んだ。

震える拳をローブの影で強く握りしめ、精一杯の毅然とした態度で声を絞り出す。


「っ……“魔女”は、その正体を決して他者の前で明かさないという掟が……姿を見せることを禁止されているので、お断りします」


ディアの言葉を聞いたアルベールは、まるで愛らしい子供の駄々をきいたかのように、喉を鳴らして笑った。


「掟、か……興味深い回答だね」


アルベールが楽しげに笑みを深める。

その瞬間、彼の瞳から「対話」の光が消え、絶対的な「支配」の色が宿った。

ふっと、彼が指先を軽く宙に振る。

ただそれだけの動作だった。


けれど、空気が重く澱み、見えない圧力がディアの肩にずしりと重くのしかかる。


「そうだね……言い方を変えようか?」


アルベールがゆっくりと、しかし確実に距離を詰める。その一歩ごとに、逃げ場のない檻の中に閉じ込められていくような感覚に陥る。


「命令だ――顔を見せろ」


ただの要望ではない。

それは、逆らえない強制力に近い支配の言葉だった。


「……っ!」


ディアの身体が強張る。

テオの背中を見るが、アルベールの威圧感に目を伏せ、助け船を出す隙を窺っているようだった。


アルベールの冷たい眼差しが、フードの中のディアを射抜くように凝視する。



圧迫感に満ちた沈黙の中、抗いきれない拒絶の気配を感じながらも、ディアは覚悟を決めた。

ここで抵抗し続ければ、テオの立場まで危うくなる。

ディアは震える手を伸ばし、ゆっくりと頭を覆っていたフードを後ろへと跳ね上げた。




夜の静寂の中に、神秘的な白い髪と、燃えるような赤い瞳が滑り落ちる。


月明かりに照らされたその姿は、この世のものとは思えないほどに美しく、そしてどこか儚かった。


「……噂通りだね」


アルベールはその姿を目に焼き付けるように凝視し、感嘆の息を漏らした。


「これほど純粋な“白”と“赤”を宿しているとは」


恍惚とした表情を浮かべ、アルベールは吸い寄せられるようにディアへと一歩踏み出した。衣服の擦れる音が響き、ディアの頬へと、彼の冷たい指先が伸びる。


「……っ、」


ディアが恐怖に身を硬くした――その瞬間。



すっ、と大きな影がディアの視界を遮った。

テオだった。

彼はいつもの嘘くさい笑みを完全に消し、ディアをその背に隠すようにして、アルベールの手の前に割り込んだのだ。


空気が、一瞬で凍りつく。



アルベールは伸びかけた手を空間に止めたままテオ見つめた。その瞳に、冷徹な不快感が混ざり合う。


「珍しいね、テオ……私に逆らうのかい?」


背中越しでも分かるほど、テオの身体に極限の緊張が走る。

だが、テオは一歩も退かず、静かに、しかし冷徹に声を返した。


「滅相もない……ただ、無闇にその御身で触れれば、“呪われ”てしまう恐れがありますので

魔女の持つ未知の力は、我々人間には毒が強すぎます」


必死に紡がれたテオの言い訳。


「アルベール様に万が一のことがあっては困りますので」


その言葉を聞いたアルベールは、数秒の沈黙の後、ゆっくりと伸ばしていた手を下ろした。そして、ふっといつもの、すべてを見透かしたような笑みをテオに投げかける。


「なるほど、私への配慮というわけか」


「はい」


「……そうだね、テオ

君と同じように“呪われて”しまうのは、私も困る」


アルベールのその言葉に、テオの後ろで息を潜めていたディアが、小さく声を漏らした。


「……呪われてる?」


ディアの不思議そうな、そしてどこか不安げな呟きが、静かな霊廟に響く。

テオの背中が、目に見えてピクリと強張ったのが分かった。


「聞いていなかったのかい? 」


アルベールはテオの動揺を楽しむように、微笑んだ。その目は、完全にテオを玩具(おもちゃ)として弄んでいる。


「この男――テオはね、30歳までしか生きられない呪い(病)にかかっているんだよ

……だから、私に協力する代わりに、“魔女”の力を使って、彼の寿命を無理やり延命させているのさ」


否定も、肯定もしないその沈黙が、かえってアルベールの言葉の生々しさを際立たせていた。


『これから私は、嘘吐きになります』


脳裏に、テオが自分にだけ告げた、あの静かな声が響いた。



――これも、嘘なの?




レオンを救うために自分を連れ出したことも、あの優しく温かい視線も、すべては自分の命を長らえるためにアルベールへ“終焉の白”を献上するための、精巧な『嘘』だったのだろうか。


目の前に立つテオの広い背中が、今は酷く遠く、得体の知れない冷たいものに覆われているのを感じた。


18章を読んでいただき、ありがとうございました!

ここから物語は帝都編へと突入します。

引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです!

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