世界を越えた再会
気が付けば俺たちの前に立っていた女。
騎士たちが全員前に出て剣を抜き、シニャさんも杖を取り出して魔法をいつでも撃てるように構えている。
――【悲報】助かったと思ったらもっとヤバそうな奴に目を付けられる
――コイツ何なの?明らかヤバイこと以外なんもわかんなけど
――めっちゃ美人でミステリアスな女性だぞ。大好物だろ?
――噂に聞くオリハルコン級冒険者とか、それを遥かに上回る超級冒険者ってやつなのか?
――『人理』とか『評議会』が何かも気になるゾ
コメントもこの女がただモノではないとわかって警戒の声であふれている。
オリハルコン級に、超級の冒険者説ってのが出てるが…それなのか?
というか、本当に『人理』と『評議会』って何なんだ?
色々謎が多い女。
息を普通に吸う事すらできない緊張感の中で、スレイさんが口を開く。
「重ねて聞く。我々に何の用だ?」
正体もそうだが、俺たちを追いかけてきた理由もわかっていない。
いったい何が目的だ…?
金銭…なんてしょうもない理由じゃないだろう。
他に金を持っていそうな相手はいくらでもいる。
何か恨みを買うようなことをした。…そんな記憶はない。
俺たちが転移者だから。
これが一番有力だな。
なら……
「なあ、多分アンタの用事は俺たちだろ?」
「ヒロト君!?」
俺は少し前に出て女に話しかける。
シニャさんが驚いてこちらを一瞬振り返り、俺の前に移動してきた。
俺を守るつもりなんだろうけど…そんなことお構いなしにシニャさんの横を通って話を続ける。
「俺たちに何か聞きたい事とか、やってほしいことがあるのか?」
歩く俺を騎士たちは止めようとはせず…ただ、何かあった時すぐに守りに入れるように俺に合わせてくれた。
何も聞かず止めるのではなく、俺の意思を尊重してくれて感謝しかない。
おかげで…女の方に反応があった。
「……君。名前は?」
女は俺の名前を訊ねてきた。
答えない理由はない。
…名前を知っている相手ならいつでも呪えるとか、そういう話ではないよな?
「俺は普翔。永松普翔だ」
警戒しながらも、俺の本名を教える。
すると女は顎に手を当て、何か考える素振りを見せた。
…そんなに変な名前だったか?
「そっちのメガネは?」
「え?俺…?」
女は賢也の方に目を向ける。
しかもメガネ呼ばわり。
中々ひどい奴だな…
「君だ。名前は?」
「松田賢也」
「ケンヤ…マツダケンヤ、ね…そっちは?」
「えと…飯沢初奈です」
女はそんな調子で俺たちの名前を1人ずつ聞いていく。
名前なんて聞いてどうするのか?
そう思っていると…
「…そんな名前だった気がする」
なんて、呟いた。
…俺たちの事を知っているのか?
「君たちは高校生?学校の名前は何?」
「私立城陽高校ってところだ」
俺たちが高校生であることを知っていて、学校の名前まで聞いてくる。
何者なんだコイツ。
恐らく俺たちの事を知ってるんだろうけど…いったいどこから知ったんだ?
「城陽、高校……そんな名前だったかも」
……まただ。
コイツは間違いなく俺たちの事や、元の世界の事を知ってる。
なら、こっちからも質問してみよう。
「その反応、俺たちの事を知ってるよな?どこで知ったんだ?」
「旅人から聞いた」
「じゃあなんで高校の名前を知ってんだ?」
「………」
俺たちの事はともかく、高校の名前を知っているのはおかしい。
その事を指摘すると、女は黙った。
なにか隠したいことでもあるのか?
隠したいってことは…敵?
この女が敵であることを疑い、警戒を強める。
すると、後ろから声が聞こえた。
「あなた、他の班に会ったの?ここは飯沢班だけど…あなたが会ったのはどの班?」
委員長だ。
この女が他の班と接触している可能性。
確かにそれなら俺たちの事や、高校の名前を知っているのも納得だ。
だから、どの班と出会ったか聞いてみる。
「………」
しかし、女から返事はない。
…他の班と出会ってないのか?
じゃあなんで俺たちの事を知ってるんだ?
「他の班とは会っていないようね。それなのに私たちの事を知っているということは……あなたも異世界人?」
「!!」
委員長の言葉に俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。
俺たち以外の異世界人。
その可能性を考慮していなかった。
けど、顔つきは日本人のそれじゃない。
この女は恐らく現地人だ。
となると、俺たちと同じ転移者じゃなくて、魂だけこっちに来た転生者か。
…いや、俺たちの事を知ってる転生者って誰だよ!?
俺たちの事を名前を何となく憶えてるくらいに知っていて、俺たちが在籍していた城陽高校のことも知っている転生者。
そんな奴いるのか?
……待てよ?
「見たところ顔つきがこっちの人っぽい。つまり、あなたは転生者よね?それでいて私たちの事を知っている転生者って…多分、1人しかいない」
委員長がそう言いながら俺の横を通り抜け、女に近づく。
不用心かもしれないが…予想が正しければ、いきなり襲ってきたりしないはず。
だって目の前のこの女は…
「あなた、私たちが転移する1週間前に交通事故で亡くなった…三神さん。三神ひなさんね?」
三神ひな。
俺たちが転移する1週間前に交通事故で無くなったクラスメイトだ。
彼女なら俺たちの事や高校の事を知っていてもおかしくない。
ただ一つ問題があるとすれば……なんでこんな大人なんだ?
転移の1週間前に死んだはずなのに、すごく大人になっている三神さん。
その事に違和感を感じて首をかしげていると、彼女はため息をついた。
そしてかぶっていたフードを外して素顔を見せてくれる。
露になった顔は…日本人のそれとはかけ離れていて、耳が長い。
エルフだ。
肌も髪も瞳も異様に真っ白で、そして整った顔のエルフの美女。
間違いなく転移者ではなく、転生者だ。
「私はイルミーナ。交通事故で死んだ三神ひなが生まれ変わった存在。だからイルミーナと呼んで」
白いエルフの彼女の名はイルミーナ。
そして、委員長の予想通りその正体は交通事故で死んだクラスメイトの三神ひなだった。
◆
まさか見破られるとは思わなかった。
かなり時間が経っているから私の事など覚えているはずがない。
そう高をくくって来たせいだろう。
彼らの話を聞けば、私が死んだ1週間後に異世界転移でこっちに来たらしい。
…その間にこっちでは数百年の月日が流れているが、向こうの世界とこっちの世界の時間の流れが違うことはおかしな話ではない。
というか、時間の流れが違うことは他の転移者や転生者からの言葉で知っていた。
それなのに、彼らの間でも相当な時間が流れていると勘違いした私の責任。
私もまだまだ詰めが甘いな。
さて、それはさておき…
「イルミーナさんはどうしてここに?」
「噂を聞いて来たんだ。名前に聞き覚えがあって、『もしかしたら』と…」
「流れてる時間が違うって話だけど、どのくらい生きてるんだ?」
「それは秘密。話す機会が来たら教えてもいい」
「乙女に年齢を聞くなんて、普翔くんデリカシーないな~。それじゃモテないよ?ね?イルミーナさん」
「私は乙女なんて歳じゃない。それはそうと、デリカシーはないな」
「三神さんってこんな感じの人だったのか?それともこっちに来てから?」
「私はイルミーナだ。こっちで色々と経験して、今の性格になった」
「ああその、エルフなんですね。イルミーナさんは」
「そうね…あなた、なんて名前だっけ?」
「自分大竹高です」
とまあ、こんな感じで飯沢班の面々から質問攻めにあっている。
みんなからしてもおよそ半年ぶりの再会。
その上、相手は事故で死んだと思っていた(実際死んだ)相手との再会なのだから、聞きたいことが山のようにあることは当然だ。
けれど、1対5で話さなければならないこちらの気にもなってほしい。
しかも、私にとっては100年以上の時間が空いての再会だ。
彼らがどんな人だったか思い出すこともできず、ほぼ初めましての状態。
居心地はあまり良くない。
――イルミーナさんって結局何者なの?
――前にヒロト君が話してた転移の一週間前に死んだ人の転生した姿。つまり、クラスメイトだ
――マジで転生とかあるんだな。しかも、時間の流れが違う
――実際何歳くらいなんだろうな?エルフだしこう見えて100歳超えとか?
――ハーフエルフのシニャさんがあの見た目で70代だぞ?500歳とか言われても驚かないね!
――エルフならマジでそのくらい生きてそうで草
さらに、私を質問攻めするのはクラスメイトだけじゃない。
私の目的である配信。
それを見ている視聴者からのコメントも私の敵だ。
…なんでこう、揃いも揃って私の年齢の話をするんだ?
どうでもいいだろそんな事…
どいつもこいつも年齢の話ばかりでうんざりしていると、クラスメイトを護衛している騎士が私に話しかけてきた。
「イルミーナ殿。少しお時間をよろしいですか?」
「…構わない。すまないが私は彼と話してくる、そこで視聴者と私の話をしておいてくれ」
確か、スレイとかいうヤツだった。
酒屋での話を聞いてただろうし、恐らくそれ関連の話だろう。
ここでずっと質問攻めを食らうよりは、彼と話したほうがマシだ。
私は彼と共に宿を出て、宿から少し離れたところに移動する。
そこで、ついて来たハーフエルフの魔法使いが音を遮断する魔法を使った。
話を聞かれないための魔法だろうが…これでは不十分だ。
私も話を誰かに盗み聞きされたくはないので、その対策の魔法をいくつか使う。
「なんと…!?」
私の魔法を見てハーフエルフの魔法使い、シニャが目を見開く。
自分に扱えない高度な魔法を見て驚いたんだろう。
まあ、一目見ただけでは私が魔法使いだとは思わないのも仕方ない。
というか、実際魔法使いではない。
魔法が使えるだけだ。
まあそんなことはさておき、私はスレイという騎士に話しかける。
「それで?用件はアレか?」
「…ああ、あの話は―――」
「触れるな。その方がお互いためになる」
私の存在を知ると『人理』や『評議会』に目を付けられる。
その話が本当かどうか、その意味を知っているからこそ気になったのだろう。
だから、触れるなと警告しておく。
「お前たちの方から彼らにも言い聞かせておいてくれ。私の事を深く知ろうとするな、と」
この話はヒロトたちも知るべきではない。
そして、それは私の口から言うよりもスレイの口から言った方がよく効くだろう。
スレイの方から警告するように頼むと、彼は首を縦に振った。
「わかった。だがそれなら一つ聞かせてほしい」
「なんだ?」
私の頼みを引き受ける代わりに、聞きたいことがあるらしい。
一体何が聞きたいのやら…
「なぜ、彼らの元に来た?ただ再会を求めて来ただけではないのだろう?」
私がここに来た理由。
スレイが聞きたいのはそれだった。
理由、ね…
私は少し考え、口を開く。
「多くは語れない。ただ一つ言えることは…彼らを守りに来た」
この世界で前世の人生の何倍もの時間を過ごした私からすれば、ヒロトたちを狙う脅威が多いことは良く知っている。
それらから彼らを守れるように…そう思ったから会いに来た。
もうほとんど覚えていないとはいえ、前世で同じ学び舎で勉学に励んだ仲間だ。
赤の他人ではない。
私にも、そのくらいの情はある。
「…そうか。その言葉、信じさせてもらう」
スレイは私の言葉を信じると言って去っていく。
私が使った情報対策の魔法の解析に夢中なシニャを連れて、ヒロトたちがいる宿に戻るみたいだ。
…私は別の宿に泊まろうか。
「盗聴魔法は仕込んであるし、少し遠くから見守っても問題はないはず…」
私の事を深く知りすぎるなと言った手前、ずっとあそこに居てはいつ重要な情報をこぼしてしまうかわからない。
それに、関わりすぎない方がヒロトたちのためになる。
念のため、ヒロトたちを探知できないよう情報阻害の魔法を宿にかけてから、私は別の宿に泊まった。




