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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの
ヒロイン編

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伏魔殿

「まずは魔力循環です。自分の魔力を相手に流し、それを自分に戻す。これにより、絆を深めることができます」


 ベネディクトの言葉にミューラーが口を挟んだ。


「絆を深めるかどうかはわからない。ただ、そうやると、魔力は練られて、魔法の力が増大する」

「深めるのは確かです」


 ベネディクトが反論した。


「そんな研究をした者はいない。文献にもない。つまり、そんな気がしたという感想なだけだ」


 ミューラーが言い切る。

 信仰に生きるベネディクトと研究第一主義のミューラーの相性は悪いのかもしれない。


「先生、授業を進めてもらえませんか?」


 ジョセフィンの言葉にベネディクトは咳払いした。


「それではまず、従魔に対して、魔力を流すことから始めます。手でもどこでもいいので、従魔と接触し、そこに魔力を流すように意識してください。急に大量の魔力を流すと苦痛を感じることがあります。少しずつ進めてください」


 ブランがヴィオラの腕を止まり木にしたので、そっと、その頭に手を乗せた。

 少しずつ、少しずつ。


「うわっ」


 ブランが大声を上げた。まぶしいほど、ブランの体が光っている。


「ブラン、大丈夫ですか? ヴィオラ、少しずつと言いましたよね」


 ベネディクトにヴィオラは頭を下げた。


「少しのつもりだったんですが」

「ヴィオラの少しはたくさんなんだよ。まあ、俺はそのぐらい、平気だけどな」


 ブランが胸を張った。


「さすが、ヴィオラ様の従魔。きっと、立派な聖獣になられるでしょう」


 ベネディクトはすぐに先生の態度からヴィオラを聖女として仰ぐ神官の態度になってしまう。


「それより、次は従魔から人へ魔力を流すんですね」

「はい、同じように少しずつ、気をつけてください」


 ブランがつぶらな瞳でヴィオラを見上げた。


「準備はいい?」

「ええ、一気に流してもいいよ」


 ヴィオラは唇を噛み締めた。苦痛ではない。だけど、ブランの頭に乗せた手のひらがカッと熱くなった。燃え上がりそうな熱が腕を登っていく。手を離したいのにブランの頭から手が離れない。体中に炎が広がっていくようだ。変な万能感も感じる。

 みんなそうなのだろうか。ただ、ブランから目が離せない。他の人を見る余裕がない。


「魔力の渡し合いを繰り返してください」


 ブランに魔力を渡す。ブランから魔力をもらう。渡す。もらう。ぐるぐるぐるぐる。

 ブランの光は収まってきた。


「そこまでで止めてください」


 止められないと思ったのにベネディクトの言葉に魔力の循環はピタリと止まった。

 ヴィオラがまわりを見渡すと、みんな、目が覚めたら、知らない場所にいたかのようにキョロキョロしている。

 そう、世界がまるで変わって見える。

 低解像度のディスプレイから高解像度のディスプレイに変更した時のようだ。一つ一つの物がはっきりと見える。

 音も高級ステレオのようだ。くっきりと聞こえる。

 そして、体は身体強化をかけているわけではないのに、身体強化をかけたような状態だ。力に満ち溢れているし、感覚が研ぎ澄まされているのがわかる。


「一時的に魔力がアップすることで、世界への感じ方が違うかも知れません」


 ヴィオラは笑いたくなった。ジョージ王太子もジョセフィンも呆然としている。ということは王室や高位貴族も知らない方法だったんだ。


「なぜ、隠していたのか、神殿に確認しなくてはならないな」


 ジョージ王太子がぼそりとつぶやいた。


「これだけの力があれば、騎士団の死者や負傷者も減らせたはずなのに」


 ライルが悔しそうにつぶやいた。

 戦争を悪化させたくなかった? でも、騎士が戦うのは戦争だけじゃない。犯罪者や魔獣とも戦う。それなのに神殿は魔力を上げる方法を秘匿していた。


「ベネディクト、後で話を聞かせてもらうことになる」


 ジョージ王太子の声は冷ややかだった。

 授業はそれで終わりになり、ジョージはベネディクトを連れて、報告のために王宮に向かった。

 そこにヴィオラも一緒に行くことになってしまった。


「だって、ブランと約束しただろう。バルトと話をする時間を取るって」


 だったら、ブランだけで行ってもらいたいところだが、従魔単体で王宮に入るわけにはいかないらしい。


「別に今日でなくても」


 と、ヴィオラは思うのだが、ジョージに首を振られてしまった。


「従魔の望みはできるだけ叶えてあげないと。契約で縛っている者の務めだ」


 新年に泊めてもらった部屋に案内された。


「戻ってくるまで二人の相手を頼むよ」

「はい」


 ジョージが出ていくと、すぐに侍女たちがお茶とお菓子を運んできて、また、すばやく消えていった。


「助かった」


 ヴィオラはソファーにだらしなく伸びた。メイドがいないのなら、許される範囲だろう。まだ、魔力は上がったままで慣れないせいか、頭がクラクラする。


「私、休んでいるから、ブラン、バルトさんに話を聞いたら?」

「いや、あの、ヴィオラのいないところで話をしたくて」


 何だか、ブランが慌てている。


「えー、私に内緒って何? ……あ、気になっただけだから。別に何もかも私に言わなくても大丈夫。えっと、この部屋、続き部屋があったよね。そこで話をしたら? 私が防音魔法をかけようか」

「私が防音魔法をかけることができます」


 バルトが答えた。さすが、ジョージの従魔。


「じゃあ、ちょっと話をしてくる」


 ブランがバルトと続き部屋に入ると、ヴィオラはますます、だらりとソファーに横たわった。

 バルトの魔法は優秀なのか、何も聞こえてこない。

 鍛えれば、ブランも魔法を使えるようになるのかなあ。などと、考えているうちに眠くなってきた。

 ウトウトするのが一番気持ちいいなとヴィオラが思っていると、突然、扉が開いた。


「聖女候補というのはお前か!」


 金髪の見た目はいい男性だ。服装もお金がかかっていて、高位貴族だとわかる。ただ、何というか生活が崩れた人のような感じがする。それは目元に残る隈を化粧で隠しているところや、鍛えていない体のせいだ。

 後ろにゾロゾロと護衛を引き連れている。


「だらしない子どもだな」


 ヴィオラは慌てて立ち上がり、カーテシーを行った。


「ヴィオラ・グラントでございます。申し訳ありません。体調が優れず、休んでおりました」

「は。休むなら、寮に戻ればよかろう」


 それは確かにそうなんだけど、この人は誰なんだろう。

 今まで王宮に来ても嫌な思いをしたことはなかったが、やはり、こういう人がいるんだなとヴィオラは感心した。


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