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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの
ヒロイン編

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浄化方法

「いつまで抱きしめているの」


 ジョセフィンの言葉にジョージは慌ててヴィオラから離れると、声をかけた。


「いや、その、ヴィオラ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」


 赤くなったジョージとヴィオラをトムはジロリと見た。

 ヴィオラは深呼吸して、気持ちを落ち着けた。


「すみません、浄化できないどころか、あっという間に呪いにかかるなんて。情けない。恥ずかし過ぎる」

「いえ、呪いにかかっていたのに後遺症もないようです。さすが、ヴィオラ様。神に選ばれたヴィオラ様だけのことはあります」


 ベネディクト神官のヴィオラ信仰は揺るぎないようだ。


「いえ、先生やアン、ケイトの神聖力のおかげです。ありがとうございます」


 ヴィオラは頭を下げると、次にミューラー先生に向かった。


「先生、ごめんなさい。指輪を壊してしまって」


先生は急に自分の頭を抱えた。


「いや、指輪は気にしなくていい。それより、呪いが解けたのは物理的な力でない可能性があるのか。それなら、確かめるしかない。ちょっと、待っていてください」


ミューラー先生は慌てて教室を飛び出して行った。すぐに大きな箱を抱えて帰ってきた。

 机の上にその箱の中身をひっくり返す。じゃらじゃらと雑多な物が散らばった。

 ベネディクトが顔をしかめる。


「一体、いくつ持っているんですか。呪いの品は厳重に管理すべき物です。こんな簡単に出すような物じゃありません」

「まあ、ベネディクトさんがいらっしゃいますし。危険な呪いは含まれていませんから」

「さっき、使用者を狂気に追い込む物だって言っていませんでしたか? あれが危険じゃないということですか。なるほど」


 ベネディクトの目が笑っていない。

 ミューラー先生は咳払いした。


「まあ、ヴィオラさん、再現してみてください」


 ミューラー先生が手のひらに乗せて差し出したのはベルトのバックルのようだった。銀の細工が美しい。

 ヴィオラは迷った。また、呪われたら、どうしよう。


「私たちがついています」


 アンとケイトが声をかけてきたが、ミューラー先生が首を振った。


「お二人は神聖力を控えてください。もちろん、失敗したときには声をかけますので。まずはヴィオラさん、お一人の力でできますか?」


 不安に思いながら、ヴィオラは手を伸ばした。見ないほうがいいかもしれない。

 目をつぶり、ギュッと握りしめた。


「えいっ」


 気合を入れると、手の中が粉っぽくなるのがわかった。

 手を広げると、白っぽい粉だけが残っている。


「おっと、その粉はこの瓶に入れてください」


 ミューラー先生に言われ、平たい瓶の中に粉を落とし込む。


「ベネディクト神官。問題ありませんね」


 しっかりと蓋をした瓶をミューラーはベネディクトに差し出した。


「ええ。浄化されています。問題ありません。さすが、神に選ばれた……」

「さすがです」


 ベネディクトの感動にライルがのっかる。


「先生、師匠と同じ方法で浄化してみたいのですが、よろしいですか?」


 ライルが目をきらきらさせて尋ねると、ミューラー先生はうなずいた。


「個人の能力なのか、新しい手法が生まれたのかを確認するためにもやってみたほうがいいでしょう」

「師匠、どんなふうにやればいいですか?」


 久しぶりにライルから師匠と呼ばれて、気恥ずかしくなりながら、ヴィオラは考えた。


「身体強化はして、呪いなんて握りつぶしてやるという強い気持ちで。そう、ライルが私なら破壊できるだろうって言ってくれたから、自信を持てたのかも知れない」

「俺の言葉で自信を持ってもらえたのなら、嬉しいです」


 そう言って、ライルは真剣な顔になった。机の上から、いかにも怪しげな剣を手に取ると、鞘の先端と柄を握った。


「えいっ」


 ライルは気合の声までヴィオラを真似したようだった。

 ポキリと軽い音で剣が折れた。


「まだまだですね。師匠のように粉にすることはできませんでした」


 がっかりした様子のライルに対して、ミューラー先生は飛び上がった。


「いや、これ、浄化されてる。ベネディクト神官、私の見間違いじゃないですよね」

「はい、……浄化されています」


 ベネディクトが頷くと、ジョセフィンが手を上げた。


「次は私が」


 ジョセフィンは小さな手鏡を左手に持ち、右手を鏡に合わせた。


「えいっ」


 恥ずかしそうに声を出す。

 鏡の持ち手などはそのままに鏡の部分だけが粉となってサラサラと落ちた。


「うんうん。見事だ」


 ミューラー先生の言葉にみんなやる気になって、結局、全員が物理的に浄化を行った。さすがにアンとケイトは無理じゃないかと思ったが、小さい物を選び、見事に成功していた。


「私たちも身体強化練習してますからねー」


 顔を見合わせるアンとケイトが可愛らしい。


「ただ、私たちは歌う方が効果が高いみたいです」

「ええ、疲れないというか」


 そこでミューラー先生の研究心に火がつき、歌と物理力を同時に行ったらどうなるか、複数の人間ならどうなるかなど、浄化をしまくることになった。

 ベネディクトまで巻き込まれ、物理力で浄化することにチャレンジしていたが、ベネディクトは逆に信心が邪魔するのか、物理力では浄化することができなかった。


 そして、机の上の呪物が全て浄化された時、ミューラー先生はやっと我に返った。


「わ、私のコレクションが!」


 床に崩れ落ちるミューラーを慰めることは誰にもできなかった。


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