神聖力
「姉様」
レイフがヴィオラに抱きついて離れない。
「もう、時間だから離れなさい」
ハイラムが注意する。
「こんな所でいつまでもこうしていたら、迷惑だ」
ヴィオラは城の門のそばでグラント領に帰る家族を見送ろうとしていたのだが、レイフが駄々をこね始めてしまった。
門番や門を通っていく人々の視線が優しいのがかえって辛い。
「レイフ」
マドラの声は小さく低かった。レイフがピクリとする。
「ハーモニー学園に入学するのには親の許可がいることはわかっているかしら。人前で駄々をこねるような子供には入学の資格なんてないと思うの」
マドラの言葉にレイフは慌ててヴィオラを放し、姿勢を正した。ヴィオラと一緒に学園生活を楽しむつもりなのに入学できなくなってはたまらない。
「すみません。姉様、また、遊びにきます」
レイフは急におとなしくなる。
「楽しみにしてる」
ヴィオラはレイフの頭を撫でた。
「ブラン。ヴィオラが無茶しないように守ってよ」
「任せておいて」
ブランは王宮内に召喚されてもいいとの許可が出たので機嫌がいい。
「ミヤ。大変とは思うけど、ヴィオラのことをお願いね」
マドラはミヤに頼む。
「無茶をするなって言うのは無理だとわかったから。ただ、体に気をつけて」
マドラはヴィオラを抱きしめた。ハイラムがその上から抱きしめる。
「母様、父様、レイフも気をつけて」
家族と別れを告げて、冬の休みは終わったんだとヴィオラは寂しくなった。
ハーモニー学園では新たに候補者クラスが設けられた。学年が違うジョージやライルも同じクラスになるので、普通の授業はそれぞれ、元のクラスで受けることになる。
候補者クラスの担任はベネディクト神官だ。
「私は神官ですが、皆さんには通常の神学、神の歴史や祈り方、儀式の方法を教えるつもりはありません。ここでは神殿に残されている魔王との戦いの歴史を学んでいただきます」
「戦いの歴史と言っても、神話ですよね。私たちが習ってきたのはカリーナ神への信仰が敵を打ち破ったというだけだったのですが、今さら、話を聞いて役に立つのでしょうか?」
イアンが尋ねた。
「神殿の作り話と思われるかもしれませんが、実際の戦い、敵の姿などの記録が残っています。これから戦いが起こるのであれば、参考になるはずです」
ベネディクト神官は軽く目をつぶった。
「それから、神聖力の訓練を行います。神聖力はカリーナ神が授けてくださる力であり、魔物や呪いを浄化することが可能です」
神聖力という名前は知っていたが、ヴィオラにとって、それはアリアナだけが使う力だった。それを訓練で身につけることができるということでほっとしていた。
ヒロインが変わったせいで神聖力を扱える聖女がいなくなったら大変だ。頑張ろうとヴィオラは改めて決意した。
しかし、その決意は最初の神聖力の訓練で崩れ落ちた。
「なぜ、なぜ?」
最初に神聖力を出すことができたのはケイトだった。
「カリーナ神を信じ、浄化の力を手に宿してくださいと祈るのです」
ベネディクトのざっくりとした説明では絶対に無理だとヴィオラは思ったのだが、すぐにケイトが手元を見つめて声を上げた。
「これでいいのでしょうか?」
ケイトが合わせた手がかすかに光っている。
「合っています。よくできましたね」
ベネディクトが褒めると、ケイトは答えた。
「カリーナ神を讃える歌を心の中で唱えたら、うまくいきました」
その言葉を聞いて、すぐにアンが声を弾ませた。
「私もできました」
アンの手もほのかに光っている。
「あ、確かに」
「俺もできました」
「はい」
みんな次々と習得していくのにヴィオラだけできない。焦って、何度も試すが、普通の魔法で手を光らせてしまうだけで、神聖力ではないらしい。
「ふだん、お祈りする時のようにすればいい」
ライルのアドバイスはふだん祈らないヴィオラには役に立たない。信仰心の低そうなイアンも成功しているのに。
「なぜ?」
「落ち着いてください。カリーナ神がお声をかけたあなたが神聖力を使えないわけがありません」
ベネディクトに言われても、落ち着いてなんていられない。
自分が音痴なため、カリーナ神を讃える歌を心の中で唱えても、侮辱したことになっているのではないかとヴィオラは不安になった。




