暗躍
「ジョージ。ジョージ」
優しい女性の声がする。知らない女性の声だ。
刺客か、それとも、既成事実を作ろうとする女性か。護衛は何をしているんだ。
「誰だ」
ジョージはパッと跳ね起き、身構えようとして、固まった。
世界は真っ白で目の前には美しい女性がいる。ドレスではなく、神話に出てくる女性のように長い布を体に巻き付けている。
魔法による幻覚なのか?
「魔法じゃない。幻覚じゃない。夢でもないわ。私は運命の神」
カリーナ神以外に神がいる?
ただ、相手が自分より上位の存在であることはひしひしと感じていた。
ジョージは跪き、頭を下げた。
「そんなに固くならないで。顔を上げて。私はあなたを応援するために来たんだから」
「応援とは?」
「ヴィオラのことよ。ヴィオラが好きなんでしょ。それなら、もっと、頑張ってほしいの。聖女と勇者として、二人で力を合わせて、この世界を救ってほしいのよ」
「それはお任せください」
「即答するところがいいわあ。でも、ほら、ヴィオラって、初心でしょ。恋愛で困ったことがあったら、何でも相談に乗ってあげるから」
「ありがとうございます。相談したい時はどうすればいいでしょうか?」
「人がいないところで声に出してシナリオスと呼んでちょうだい。そうすれば、すぐに現れるから。あ、それから、私のことは他の人に内緒ね」
「わかりました」
ジョージは頭を下げた。下げながら、たぶん、シナリオスという名を呼ぶことはないだろうと思っていた。
「トム。トーマス」
女性の声にトムは目を覚ました。
ピーターの気配がない。目を覚ましたのではなく、夢の中だと思った。
「夢じゃない。あなたの心に話しかけているの」
トムは笑った。
「それであなたは誰なんですか?」
「単刀直入に来るわね。私は運命の神、シナリオス」
「もしかして、ヴィオラが調べようとしていた神様ですか」
「鋭いわね」
「その神様が私に何のご用で」
「あなたに勇者となって、ヴィオラの愛を勝ち取ってほしいの。その助力がしたくて」
「助力なんてなくても、ヴィオラは私のものですよ」
「自信家なのね。でも、ライバルが多いでしょ。例えば、ジョージに勝てる?」
トムは鼻で笑った。
「勝てる要素しかないですよ」
「相手が王太子でも?」
「王太子はヴィオラにとってはマイナスポイントでしょう。王妃になる気なんてないんですから。それにもし、王妃になりたいと言うなら、私も王になればいいだけですから」
「七男なのに?」
「ええ」
「本当に自信家ね。まあ、私の助けが必要な時は人がいないところで呼んでちょうだい。あ、他の候補者には内緒ね」
「了解」
「ライル。聖女を守る騎士よ」
目を覚ましたライルは次の瞬間には剣を抜いていた。いや、抜いたつもりだった。
「ここはあなたの部屋ではない。神と対話する部屋に呼んでいる。私はシナリオスという」
白い空間の真ん中、玉座のような椅子に女性が座っていた。
すぐにライルは戦っても勝てない相手だなと感じた。
「勉強不足で申し訳ありません。シナリオス様も神様なのですね」
「そうだ。お前に勇者への道を歩めと告げに来た。ヴィオラを守り、共に歩むのだ」
「もちろん、お守りしますが、共に歩むというのは」
「遠慮するな。ヴィオラの心を得たいと思っているのだろう。それならば、お前に一番、チャンスがある」
「まさか」
「いや、あの鈍感な娘にはお前のようにストレートに気持ちを伝えることができる男が向いているのだ。恐れず、進め。人のいないところで呼んでもらえば、いつでも、お前を助けよう」
「ありがとうございます。ただ、自分の力で守りたいと思っております」
「ああ、そのために励むが良い。私の言う助けは恋愛面のみだ。まずは積極的にヴィオラに近づくがいい。ただ、私と会ったことを他の者に告げてはならぬぞ」
「は、はい」
恋愛に神の力を借りるのは卑怯なことではないのか、ライルは考え込んだ。
「イアン」
優しい女性の声にイアンは目を覚ました。
白い世界に浮かぶ女性を冷静に観察し、尋ねた。
「もしかして、カリーナ神様でしょうか」
「惜しい。よく、神だとわかったわね。私は運命の神、シナリオスよ」
「何の御用でしょう」
「あなたとヴィオラに世界を救って欲しいの」
「私ですか。ヴィオラならともかく」
「自分に自信がないの? 大丈夫。私が手伝ってあげる。ヴィオラの心を得ることができれば、勇者として目覚めることができるから」
「何人目ですか?」
「え?」
「他の候補者にも声をかけてきたんでしょう。私はその何番目かと聞いているんです」
「やだ。細かいことが気になるのね。私は神よ。同時に決まってるじゃない」
「まあ、いいでしょう。それで何を手伝ってくれるんです?」
「切り替えが早いわね。私のおすすめは好感度チェック! ヴィオラがみんなをどう思っているかの好感度がわかる。どう、気にならない?」
イアンはグッと歯を噛み締めた。
「気になりますが、それでヴィオラの心を得られるわけではないでしょう」
「直接的に効果があるものがいいの? ちょっと、それはどうかと思うけど」
「そうじゃありません。それより、手伝ってもらえるなら、ヴィオラの望みが人間の力でかなえられない時、かなえてもらえませんか?」
「それだけ?」
「ええ、人間の力でかなえられることは私がかなえてみせます」
「はー、自信がないわけじゃなかったのね。わかった。一つだけならかなえてあげる」
「ありがとうございます。シナリオス様がみんなに声をかけていることは秘密にさせていただきます」
「よくわかっているわね。じゃあ」
「それにしても、みんな、子どものくせに私の手に飛びつかないなんて。でも、これで少しは面白くなるかしら」
女神は首を傾げた。




