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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの
ヒロイン編

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面倒

 教皇が怯んでいる隙にヴィオラは距離を取った。

 冷静に考えると、教皇の手首が折れてもすぐに治せば、バレないだろうから、無理やり振り払えばよかった。

 入れ替わるようにジョージが進むと、カリーナ神の石像に向かい、ゆっくりと頭を下げた。ジョセフィンも優雅に頭を下げる。


「皆さま、王族もみな、カリーナ神を信仰しております。神殿と対立するつもりはありません。私たち候補者はカリーナ神の御心に従い、行動しております。信じるお心があるのなら、どうか、見守ってください。そして、お祈りください。今も、これからも」


 ジョージの言葉に信者たちは頭を下げ、祈り始めた。

この人たちはこんなふらふらしていて、大丈夫なのだろうか。ヴィオラは不安になった。


「では、失礼します。皆さまに神のご加護がありますように」


 そそくさと礼拝堂を出る。

 ベネディクトがオロオロしていたので、ヴィオラは無理やり引っ張った。


「ここにいても、ややこしいだけですよ。行きましょ」


 後で、また、神殿から文句を言われるかも知れないが、王宮に戻ることにした。

 ジョージに呼ばれ、ヴィオラはジョージ、トム、ジョセフィンと同じ馬車になった。


「いつの間に候補者になったの」


 ジョセフィンが尋ねると、トムはにやりと笑った。


「今朝だ」

「大したものだ。聖女や勇者の候補者に加わりたいと国内の貴族だけでなく、外国からも問い合わせが殺到する中、候補者として認められるところまで持っていくとは」


 ジョージが感心したように言った。


「そんな候補者になりたいものなんですか? 魔王と戦う立場になるのに。貴族なら安全な場所に身を置きたいものだと思っていました」


 ヴィオラが尋ねると、ジョセフィンが微笑んだ。


「候補者として送り込まれるのは嫡男を除いた子どもよ。危険はあっても、世界の危機に参加しなかったというと、外聞が悪いし、魔王なんて夢物語と思っている人も多いから、それなら、候補者に選ばれて箔を付けた方が親も子どもも幸せなわけ」


 ジョセフィンの言葉にトムが付け加える。


「それから、カレイド王国以外の国にとっては聖女や勇者がカレイド王国の人間のみになるのは問題なんだ。カリーナ神の信仰は他の国でも一般的だし、魔王の復活は全世界の問題だ。それを解決したのがカレイド王国となると、それ以降、カレイド王国に他の国は逆らえなくなってしまう。その事態を避けるために必死なんだ」


 どんどん話が大きくなっているような気がして、ヴィオラは頭を抱えた。


「だから、普通なら、候補者になりたいと言っても、検討しますで終わりだ。ただ、私の場合はハーモニー学園で同じクラスの上、神託の現場にいたからな。秘密保持のためにも、外交のためにも候補者に入れた方が簡単だと判断したんだろう」


 そう言ってから、トムが自分の顔を指でつついた。


「それより、この顔に対しては何も言わないんだな。驚かれるかと思っていたのだが」


 トムの言葉にジョージとジョセフィンは顔を見合わせた。


「私は肖像画を確認済みだ。レノックス帝国の王子を迎えるんだ。問題が発生しないかは常に把握している」

「王家の影をつけてもらっていたということか?」


 ジョージはトムの問いに軽くうなずいた。


「私はね、父の思惑から、近隣国の王族の顔を覚えさせられているの。この国の王子が駄目なら、他の国の王子を狙えってね。それにトーマスといえば、魔物のように美しいと有名だったから。肖像画を見た時、こんなきれいな顔なんて、美化して描いたに違いないと思っていたんだけど、本物の方がきれいね」


 ジョセフィンの言葉にトムは頭をかいた。


「二人ともわかっていて、普通に接していたということか」

「ああ」「ええ」


 ヴィオラは感心した。


「二人ともすごい。私ならきっと顔に出ていたわ」


 そう言ったとたん、三人が笑いだした。


「私の正体がわかってから、何か変わったか? ずっと、同じ態度だったじゃないか」


 トムに言われてみれば、確かに同じだったかも知れない。なぜ、態度が変わらなかったのか。

 ふと、思いついて、ヴィオラはパンと手を叩いた。


「ジョージやジョセフィンとかと付き合っているから、王族や高位貴族に慣れたのかもしれません」

「そういうことにしておいてあげるわ」


 ジョセフィンがすばやく答えた。


「それから、ヴィオラ。ベネディクト神官を引っ張ってきてくれてありがとう」


 ジョージが話を変えた。


「本人は気にしていないようだが、神殿内ではかなり風当たりが強いらしい」

「え?」

「神の言葉を聞いたことで、いきなり出世したことに嫉妬する者がいる。ハーモニー学園の講師として、聖女候補たちを指導することになったことに王家におもねっていると批判する者がいる」

「全員がそうなわけじゃないですよね」


 ヴィオラが神殿に行ったせいで巻き込まれたようなものなのに。


「ああ、元々、信心深く私利私欲がないため、若い神官や信者からは好かれている。ただ、今日の教皇を見ていたら、わかるだろう。この国の一番の権力者となるために聖女を利用するつもりだ」

「ハーモニー学園ですごせるようにしてくださった陛下に感謝します」


 ヴィオラは心の底から感謝した。


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