追加候補
「可愛い!」
大広間に入っていくと、ヴィオラはいきなり、待っていた王妃に抱きしめられていた。
「髪がピンクだから、やっぱり、可愛いドレスが似合うわ〜」
豊かな胸に顔を埋める形になって、ヴィオラは慌てた。
「いいかげん、お控えください」
ジョージ王太子がひんやりとした声で注意する。
「全員に対して、同じことをするつもりですか?」
「え、駄目?」
王妃の力が緩んだすきにヴィオラは抜け出す。もう、席についているアンとケイトはすでに同じ目に会ったのだろう。
アンとケイトはうんうんとうなずき、イアンとライルは苦笑いをしている。
アンとケイトのドレスも王妃の見立てだろうか。アンは水色のすっきりとしたドレス。ケイトはオレンジ色の小花が散りばめれれた可愛らしいドレス。
どちらも似合っていて、可愛い。
「素晴らしいドレスを選んでいただき、ありがとうございます」
「これからも選ばせてね」
「いえ、恐れ多いことで、遠慮させていただきます」
ヴィオラの言葉に王妃がムッとほほを膨らませた。
そこにジョセフィンがやってきたので、今度はジョセフィンに抱きつく。
ジョセフィンは紺色の裾が広がったドレスだった。
「美しいドレスをありがとうございます」
王妃に抱きつかれたまま、ジョセフィンは落ち着いてお礼を言っている。
王妃に慣れているのかも知れない。
遅れて、王が登場すると、席についていた者もみんな立ち上がって挨拶した。
「座ってくれ。今日から君たちは聖女と勇者候補として王族と同等の身分となる。だから、緊張せず、ハーモニー学園と同じように過ごしてほしい」
そう言われても、緊張するが、美味しい料理が出てくると、みんなの気持ちもほぐれてくる。食後のお茶が出てくる頃にはリラックスした雰囲気になっていた。
その中で王が切り出した。
「さて、今回、君たちが候補者になったことについて、知っておいてほしいことがある。候補者を増やした理由だ」
「あの、私がハーモニー学園にいたいとわがままを言ったからじゃ」
ヴィオラが言いかけると、王は首を振った。
「それもあるが、それだけじゃない。この国と神殿の関係だ」
イアンが口をはさんだ。
「この国ではカリーナ教と王権の勢力が同等ですが、そのことに不満を持っている神官も多いとか」
「そうだ。王権は神が授けたものであるから、奪うことも可能だと主張する者もいる」
「カリーナ神を信仰する者ですが、その主張
は不敬では?」
ライルが尋ねる。
「不敬とまでは思わない。ただ、そう主張するのは神官であって、神ではない。そして、今回、神託が降りたことで、変な動きをしている者たちもいる。だから、ヴィオラが聖女として祭り上げられないように候補者をふやし、ハーモニー学園で守ることにした」
「なるほど、だから、ベネディクト神官も学園の講師とするわけですね」
ヴィオラは感心した。
「そうだ。ただ、たぶん、神殿は家族や友人を通じて、君たち全員を懐柔しようと接触してくるだろう。もちろん、君たちの信仰を否定するつもりはない。ただ、何かあれば、必ず、相談してほしい」
そう、王が締めくくった二日後、ヴィオラたちは神殿に呼ばれていた。
ベネディクト神官をハーモニー学園に派遣する見返りを要求され、断れなかったらしい。
「よく、いらっしゃいました」
入口で待っていたベネディクトは深々と頭を下げた。すると、後ろに控えていた他の神官たちが少し不快そうな表情になった。
礼拝堂に行くと、十人ほどの信者が集まっていた。すべて身なりがよく、貴族か大商人のようだった。
白い髭のいかにも偉そうな神官が説話を行っていたようで、涙を流す人もいた。
「教皇様、候補者様をお連れしました」
ベネディクトが言うと、教皇は両手を挙げた。
「さあ、神に選ばれし若者に祈りを」
信者たちは頭を擦り付けるようにして祈り始めた。
「あの、私たち、祈られるような者じゃないんですけど」
ヴィオラが小声でベネディクトに言うと、ベネディクトは首を振った。
教皇は近づいてくると、いきなり、ヴィオラの手を握った。
驚いたが、さすがに振り払ったら、教皇の骨が折れるかもしれないと思って、ヴィオラはそのままにする。
「よく、お越しくださいました。カリーナ神からお言葉を頂いたとのこと、さぞかし、熱心な信者であったのでしょう」
「い、いえ」
ここで信者じゃないし、グラント領には神殿がなかったというと、ややこしくなりそうで、ヴィオラは言葉を濁した。
「このまま、神殿に滞在いただいて、迷える子羊たちをお救いください」
「「「お願いします」」」
教皇の言葉に信者たちが声を合わせる。
これは王宮から神殿に候補者たちを移そうという作戦なのだろう。
「教皇殿、陛下と決めた話をくつがえすのはいかがなものかと」
ベネディクトが口を挟むと、教皇はベネディクトを睨みつけた。
「なぜ、聖女を守ろうとしない。乱れたこの世において、聖女様が清らかにいられるのはこの神殿のみであろう」
うわっ、ややこしそうだ。
「聖女候補であって、聖女ではない」
ジョージ王太子が言い切った。
「そう、それに私も神の言葉を聞いたが、別に聖人になった気はしないな」
いつの間にか、トムが礼拝堂に入ってきていた。学園での姿ではなく、元の顔でやってきている。
「あの方はどなた?」
「同じクラスのトムよ。魔法で素性がわからないようにしてたんだけど」
とうとう公開する気になったのか。
「何者だ」
「勇者候補に新しく追加されたトーマス・ジェラード・レノックスだ」
トムが名乗った。
「レノックス帝国の王子」
他国の王族にも詳しいジョセフィンが言うと、教皇はどんな態度を取っていいのか、わからなくなったようだった。




